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運動学習の視点からのエクササイズ

アウトカムを考える

 投球障害肩で苦しみ、悩む投手をどのようにしたらその痛み、違和感を解消させることができるか。保存治療を最優先で考えることには間違いない。少年野球からプロ野球の選手までレベルに関係なく発生する。日本の優れたマッサージや鍼灸と言った施術は世界を見渡してもトップであり、投手の投球障害肩にも応用できる。しかし抜本的な解決になるだろうか。ほか何か、別の介入を探しても良いのではないか。本場アメリカで行われている運動療法、専門的なストレッチはどうなのか。よく知られているウエイトトレーニングで投球障害肩の予防になるのか。ここではアウトカムから見た解決方法を話してみたいと思う。
 アウトカムとは評価テストのことで、その結果から解決策を考えることである。投球動作で痛みがあり、何か良い治療、迅速かつ効率良い治療はないかを探す。瞬間的な効果性だけを求めるなら痛み止めの薬を飲めば良い。たとえばイブプロフェン配合の市販薬を飲む。アメリカのスポーツ医療現場なら常時あり、誰しもが医療専門家を通じて得ることができる。しかし根本的な解決にはならない。やはり投球すれば痛みがでるので服用の繰り返しになる。ではどこに根本的な問題があるのかを調べる必要がある。

投球障害肩の評価

 痛みがあれば筋力も下がる。最初の投球障害肩の評価は筋力測定を行うことである。測定には徒手筋力計が必要である。専門的な測定器は高価なものである。筆者が使っているのはLafayette社製のHand-Held Dynamometer (Model 01165A) で定価が1,500ドルである。

Lafayette社製のHand-Held Dynamometer (Model 01165A) $1,500

野球を担当する医療専門家なら用意したいものだ。測定は座って腕を体側に付け、肘を曲げて肩の外旋力を測る。左右を比較するのだが、まずは非利き腕側から測定し、次に投球側を測定する。投球側が少しでも良い値がでるように学習効果を期待するためである。

肩関節外旋力

 次に治療用ベッドにうつ伏せになり腕をベッドから出し、腕を90°外転し、肘を曲げる。この時点で前腕は床に垂らした状態である。この位置で肩の外旋力を測る。腕を体側につけた外旋力よりうつ伏せで腕を90°に外転した外旋力の値が大きい。理由は三角筋がより関与しているからである。また腱板の外旋筋である小円筋の関与も大きいためである。腕を体側に付けた外旋力は別の腱板の筋である棘下筋(きょっかきん)が主な関与のみである。二つの腕の位置の外旋力の差を比較し、うつ伏せで腕を90°外転した外旋力の値が大きいことを確認する。次に左右差を比較する。
 投球動作において三角筋後部線維と小円筋がボールリリース後の減速期に働くため、登板後は肩関節後面に張りが出てくる。一方で棘下筋は減速期には余り働かない。このことから腕を90°外転した外旋力を測ることが大切になってくる。

僧帽筋下部線維

 腱板の外旋力に加えて重要になってくるのが僧帽筋下部線維の筋力である。僧帽筋下部線維は、胸椎後半6つ(第6~第12胸椎)から始まり、肩甲骨後面で隆起している肩甲棘の中心に付いている。腕を上げる際に僧帽筋下部線維、僧帽筋上部線維、前鋸筋の共同収縮で肩甲骨を上方に回旋させる。僧帽筋下部線維が立った時に唯一肩甲骨を後ろに傾かせる筋肉である。投手においてテイクバックから腕を90°に外転させて肩関節の回旋運動を行い、ボールリリース後は肩甲骨が前に傾き、さらに内側に巻く。この習慣性動作を唯一予防できる筋肉が僧帽筋下部線維である。
 僧帽筋下部線維の測定は選手を治療用ベッドの上にうつ伏せになってもらい、腕をベッド端に出して90°外転してもらう。アスレティックトレーナーあるいは医療専門家は、選手に腕がベッドから浮かせるように持ち上げてもらい、徒手筋力計を肘から少し肩よりに当て押し下げる。その際、肘は曲げても伸ばしても良い。大切なことは外転90°で水平外転力を測定していることである。

関節可動域

 次にベッドに仰向けに寝てもらい肩関節の外旋と内旋の可動域を測定する。選手の腕を90°に外転させ、肘を90°に曲げ、腕を後ろに回旋させる。重力があるのでそのまま腕の回旋状態で外旋角度を測る。「他動」ならアスレティックトレーナーあるいは医療専門家が腕を重力に対して外旋した状態よりもう少し押し下げた可動域を測定することも有効である。どちらにせよ統一して測定することが大切である。
 肩関節外旋の後は、内旋角度を測る。外旋同様に仰向けに寝た選手の腕を90°に外転させ、肘を90°に曲げ、腕を前に回旋させる。この時肩がつられて前に傾くことになるので注意が必要である。一つの手で選手の肩の前から後ろに押さえながら、前傾していなか確認する。前傾しているなら後頃になるように押し下げ、逆の手で腕を内旋する。選手によればほとんど内旋がない場合もある。ほぼ前腕が立った状態である。
 肩関節内旋角度を左右比較するのだが、非利き腕に比べ20°以上の差ならば選手に投球障害肩のリスクがあることを認識してもらう。しかし左右比較した場合、投手の利き腕の肩関節外旋角度は非利き腕に比べ大きい。そこで外旋角度と内旋角度の合計で比較する。投球側の外旋と内旋角度の合計が非利き腕側の合計に比べ5°以上の差ならば、先ほどの内旋角度の単独20°以上の差よりも投球障害肩リスクがあることを認識してもらう。
 肩関節内旋角度と相関関係にあるのが肩関節水平内転である。肩関節水平内転は先ほどの外旋と内旋角度測定と同様に仰向けに寝てもらい、腕を90°外転にし、腕を選手の顔の前に交差させるようにして肩関節水平内転の角度を測る。その際に肩甲骨の外側が上がらないように手のひらで抑える必要がある。腕に傾斜角度計を当てて垂直に対しての角度を測る。スマートフォンのアプリに傾斜角度計が付いている。なければ無料でダウンロードできるのでそれを使って腕の角度を測ると良い。
 利き腕側の肩関節内旋角度と水平内転角度の硬さは投手でよく見られ、二つの値に相関関係がある。登板後には肩関節後面の張りが強く、それぞれの角度は減少する。大切なことは肩関節内旋角度が肩甲骨の前傾を生んでいないかである。この確認は選手に床に寝てもらい、床から肩峰突起までの距離を測り、前傾の度合いを左右比較する。

肩甲骨運動異常

 肩甲骨運動異常テストは視覚動的評価法で行われる。簡便な方法である。筆者は約2メール後方からスマートフォンでビデオを撮り、のちの評価に役立たせる。選手には両方の腕を上まで上げてもらい、その後ゆっくり両方同時に下ろしてもらう。腕を下ろす中で肩甲骨の動きを観察することになる。腕の下ろし方には、横から下ろすやり方、肩甲面で下ろすやり方もあるが、私たちはまっすぐに前から下ろしてもらう。なぜなら肩甲骨の内側の突出がでやすいからである。さらに選手には2 kg あるいは3 kgのリストカフを両手に付けてもらう。このことでさらに突出を引き出すことができる。評価は、腕が肩の位置あたりのところつまり屈曲90°あたりで突出の有無を調べる。このやり方だと大学1部でプレーする投手の半数はどこかしらの肩甲骨の突出がある。投球側の肩甲骨は突出しなかったとしても、非利き腕側に突出がある場合もある。この場合、利き腕側は習慣性投球動作に必要な筋肉を発達させていることになる。基本、投球側に突出があるかどうかを調べることになる。

大学4年生右利き投手。投球側の肩甲骨は安定している(右)。一方で非利き腕側の肩甲骨は突出がある(左)

 以上、筋力測定、関節可動域、肩甲骨運動異常テストまでを痛みのある投手の投球障害肩の評価に関するアウトカムである。これらの結果から次にどのような運動をすべきかを考える。アウトカムが改善することができたなら痛みも軽減するあるいは解消することになり、投球練習を行うことができる。アウトカム改善の運動は専門的なものであるが、投球に関係する運動でなければならない。極端に言えば、腕立て伏せやベンチプレスさらに懸垂などではない。投手はマウンドで投げることから「オープンキネティックチェーンエクササイズ」になる。

投球障害肩予防トレーニングメニュー

 エビデンスに基づいた痛みの原因を調べた次は、運動を決める。運動の目的はアウトカムを改善することである。また運動は専門種目の能力スキル、この場合だと投球動作の向上に繋がるものでなければならない。筋力測定で非利き腕あるいは以前の測定値があるならそれらと比較し、運動によって筋力の向上を試みる。肩関節外旋力、うつ伏せに寝た水平外転力もオープンキネティックチェーンによって測定している。つまり腕の先端である遠位部が動いた運動である。したがってオープンキネティックの運動を行う必要がある。

オープンキネティックリンク

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