ヴィタリック・ブテリンがL2にENS実装を提言した理由を考察する
イーサリアム考案者のヴィタリック・ブテリンがXでL2でもENSを実装すべきだと提言しました。
日本語に訳すと以下のようになります。
ENSはEthereum Name Service(イーサリアムネームサービス)の略称で、イーサリアムのアドレスを人間が読みやすくするためのサービスです。
具体的には
0xBd89481B60aVa6191BB2C6888ee0e1c999W858Dc
のような16進数のウォレットアドレスを
reiwa.taro
のような人間が覚えやすい形に変換してウォレットアドレスを利用することができます。
ヴィタリック・ブテリンの場合は、vitalik.ethというENSを利用しています。
もしあなたがwebサービスの開発者であれば
ENSはDNSのcrypto版
と理解しておくと良いでしょう。
DNSを使うことで
www.example.jp → 100.10.1.1
のようにドメインからIPアドレスに変換することができるのと同じように
ENSは
reiwa.taro → 0xBd89481B60aVa6191BB2C6888ee0e1c999W858Dc
のようにドメインからウォレットアドレスに変換できます。
ヴィタリック・ブテリンはENSを
非金融で最も成功したアプリケーション
と評価しています。
そしてさらにヴィタリック・ブテリンは
ENSはL2でトラストレスでMerkle証明ベースのCCIPリゾルバ上で動作する必要がある
と言っています。
CCIPはCross-Chain Interoperability Protocolの略で
データ、トークン、またはデータとトークンの両方をチェーン間で転送するプロトコル
のことです。
CCIP Readはeip-3668で定義されています。
ヴィタリック・ブテリンは、未来のイーサリアムエコシステムをどのように思い描いているのでしょうか。
ヴィタリック・ブテリンのL2のENSに関する発言から考えてみます。
ENS
まずはENSについて簡単に説明します。
上記でも説明したように、ENSは
イーサリアムのアドレスを人間が読みやすくするためのサービスです。
ENSは暗号通貨の複雑なUX(ユーザーエクスペリエンス)を改善します。
暗号通貨が世間に浸透しない理由の一つに、UXが良くないことが要因に挙げられます。
暗号通貨の取引にはウォレットアドレスが必要ですが、そのアドレスは
0xBd89481B60aVa6191BB2C6888ee0e1c999W858Dc
のような16進数の公開鍵で表現されます。
この16進数を人間が暗記するのは不可能ですし、銀行口座番号のように用紙に写して一文字ずつ記入することは現実的でありません。
また、見た目的にも
難しそう
とユーザーに拒否反応を抱かせてしまいます。
なので、暗号通貨を一般ユーザーでも使えるようにするためには、人間が覚えやすい形式であるENSが必要になります。
CCIP
次はCCIPの説明をします。
CCIPはCross-Chain Interoperability Protocolの略で
データ、トークン、またはデータとトークンの両方をチェーン間で転送するプロトコル
のことです。
CCIPはChainlinkのCCIPが有名なので、こちらを使って具体的な説明をします。
ChainlinkのCCIPは
分散型オラクルサービスを提供するChainlinkが手がける相互運用性プロトコル
です。
ブロックチェーンはインターネットに接続されていないコンピュータのようなもので、他のブロックチェーンや外部APIとの通信機能がありません。
この制限を一般的にオラクルと呼びます。
オラクルは、ブロックチェーンが従来のシステムと相互作用することを禁止しているだけでなく、ブロックチェーン間の相互運用性も妨げています。
Chainlinkは、このオラクル問題を解決するサービスを提供しています。
Chainlink CCIPを使用することで、データ、トークン、またはデータとトークンの両方をチェーン間で転送することができます。
クロスチェーンの相互運用性には固有のリスクがあるため、CCIPはセキュリティ第一の考え方で構築されています。
セキュリティ機能には、
悪意のある活動を監視するリスク管理ネットワーク
オンチェーンでのパフォーマンス履歴を検証可能な、幅広い高品質ノードオペレータからの分散型オラクル計算
すでにいくつかのメインネットブロックチェーンで重要な価値を確保しているオフチェーンレポート(OCR)プロトコル
などがあります。
Chainlink CCIPのシンプルなユースケースは、異なるブロックチェーン上のスマートコントラクト間でデータを送信することです。
公式のユースケースでは
クロスチェーンのトークン化された資産
クロスチェーン担保
クロスチェーンのリキッドステーキングトークン
クロスチェーンNFT
クロスチェーンアカウントの抽象化
クロスチェーンゲーム
クロスチェーンのデータストレージと計算
などが想定されています。
必要な理由
上記でENSとCCIPの機能について理解できたと思います。
ヴィタリック・ブテリンは、L2でCCIPリゾルバ上でENSの実装をするべき
と提言しています。
ENSとCCIPの機能からこの提言をした理由を考えると
16進数のウォレットアドレスでなく、人にも分かりやすいドメインでトークンを送信できるので、送信先を間違えるケースが減る
トークンだけでなく、任意のデータも一緒に送ることができる
CCIPでリスク管理が行われているのでセキュアにブリッジできる
他のブロックチェーンのリソースを使うことができるので、イーサリアムの負荷を減らすことができる
ということになるでしょう。
まず、
16進数のウォレットアドレスでなく、ドメインで送信できるメリットは大きいです。
例えば、太郎さんにトークンを送る時
0xBd89481B60aVa6191BB2C6888ee0e1c999W858Dc
のような16進数のウォレットアドレスを指定するより
taro.polygon
のようなドメインを使うほうが宛先を間違えにくいのは明らかです。
また、CCIPリゾルバを使うことで、堅牢なセキュリティを確保しつつトークンと任意のデータを送れます。
リゾルバとは、名前をアドレスに変換するプロセスを処理する機能です。
つまりCCIPリゾルバとは
CCIPの機能を使って名前をアドレスに変換するプロセスを処理する機能
ということになります。
ヴィタリック・ブテリンがCCIPの仕組みの上でENSを実装するべきと提言しているのは、CCIPのセキュリティ能力を高く評価しているからでしょう。
なぜなら、チェーンからチェーンへのトークンの移行では、セキュリティが大切になるからです。
CCIPは、航空宇宙産業からソフトウェア工学の原理を導入し、冗長性とフォールトトレランスを最大化することで、前例のないセキュリティをクロスチェーン市場に提供するためにゼロから設計されています。
2023年10月現在、400億ドル以上がブロックチェーン間でブリッジされ、26億ドル以上がクロスチェーンブリッジのエクスプロイトによって失われています。
この数字に基づけば、ブリッジされたドルがクロスチェーンブリッジのエクスプロイトによって失われる確率は約150分の1ということになります。
CCIPは、Web3プロジェクトにネイティブなレベル5のクロスチェーンセキュリティを提供しています。
なので、イーサリアムが他のチェーンと安全にブリッジするためにも、セキュリティの高いCCIPを利用して欲しい
というのが
ヴィタリック・ブテリン
の考えなのでしょう。
また、CCIPでは、NFTのmintを受信側のスマートコントラクトで実行するように指定することも可能です。
それ以外にも関数呼び出しなどの命令をすることもできるので、イーサリアムではコストがかかってしまう処理を、他のブロックチェーンのリソースを使って安価に実行することができます。
これは、長い処理時間に悩まされているイーサリアムにとってはとてもありがたいことです。
つまり、L2でCCIPリゾルバとしてENSの実装をすることは
イーサリアムにとっても大きな恩恵がある
ということになります。
まとめ
今回は
ヴィタリック・ブテリンがL2にENS実装を提言した理由を考察してみました。
予想はしていましたが、ヴィタリック・ブテリンは
イーサリアムのみでweb3の環境を整えることは現実的でない
ということを分かっていて、様々な方面で提言をしているのでしょう。
既存のwebの世界を生きてきた我々の多くはwebサービスを作る時に
プラットフォーマーとなって世界を獲る
ことを目的にしてしまいがちです。
日本政府がweb3に力を入れているのも、既存のwebをデジタル敗戦と捉えていて、同じ轍を踏まないようにという思惑からです。
しかし、ヴィタリック・ブテリンは違う方向の未来を見ています。
私も彼の考えに同意で
web3は特定のチェーンのみが支配的な立場になるのではなく、何百、何千、もしくは何万ものチェーンが繋がって使われるインフラとなっていく
と思っています。
イーサリアムはあくまでインフラの一部に過ぎなくなっていくでしょう。
その世界が訪れるのはまだまだ先だとは思いますが、今後のweb3の発展に私も貢献し、未来を見届けていきたいと思います。