平成30年予備試験再現答案 商法

商法は、当時、論文試験で出ることなんてまずないだろうと思っていた、監査等委員会設置会社が事案に出てきました。これには非常に仰天したことを、鮮明に覚えています。

あとは、責任限定契約です。これは、条文の使い方、最低責任限度額の概念なども、知識が無に等しかったです。ここも、当時事案をみて狼狽えてしまいそうになりました。

設問1も謎でした。とにかく、事案の前提を一つひとつ確認していくように答案を構成しました。平成18年の判例をうまく下敷きにしながら書けたことが、答案の評価につながったと思います(出題趣旨では、最判平成18年への言及がありませんでしたが)。

第1 設問1について
1.  Dは,監査等委員である取締役選任に係る議題及び公認会計士Fを監査等委員である取締役に選任する議案を提出するべく(会社法(以下,略す)303条2項),要領記載請求をしている(305条1項)。甲社は,公開会社であるため,取締役会設置会社であるところ(327条1項1号),かかる請求が認められるには,Dが,「総株主の議決権の百分の1以上の議決権又は三百個以上の議決権を6ヶ月前から引き続き有する」ことを要する(305条1項但書)。
(1)  本件で,Dは,平成24年から継続して甲社の株式1万株を有する株主であるから,「6ヶ月前から引き続き」甲社株式を有している。
(2)  ここで,甲社は,100株を1単元とする単元株制度を採用しているところ(188条1項),Dが甲社に対して係る要領記載請求をした平成29年4月10日時点では,発行済み株式総数が100万株であった。そして,単元未満株主が存在しないことから,甲社における総株主の議決権数は,1万個であったことになる。他方,Dは,先述の通り,1万株を保有しているから,議決権の数は,100個であった。
 したがって,Dは,総株主の議決権1万個のうち100個を有しており,100分の1の議決権数を有していたといえるから,持株比率の要件を充たす(305条1項但書)。
(3)  しかしながら,その後,甲社は,丙社に対して,募集株式数20万株としてその総数を引き受けさせる第三者割当(205条1項,206条2号)の方法により,取締役会決議等法定の手続を適法に行い(201条1項,199条2項),新株発行を行った。その結果,平成29年6月29日における本件株主総会の時点では,Dは,1パーセント未満の保有比率となるため,305条1項但書の持株要件を充たさないこととなった。
2.  そこで,甲社が,Dの請求にもかかわらず,議題等の要領を記載しなかったことの当否について,Dの持株比率要件の充足が,Dによる請求の時点で足りるのか,株主総会時点において認められる必要があるのかが問題となる。
(1)  判例は,株主による取締役の行為に対する検査役選任請求の事案(358条1項参照)において,3パーセントの持株比率要件(同1号)をその請求時点において充たしていたとしても,新株発行等によりその後持株比率が低下して,かかる持株比率を有するに至らなくなった場合は,特段の事情が無い限り,検査役選任請求の適格を欠くとした。そこで,かかる判例の事案と異なり,本件は株主提案における議題ないし議案要領記載請求であることから,上記判例法理が妥当するかが問題となる。
(2)  いずれの請求権も,持株要件が定められている少数株主権であることは共通する。
 もっとも,検査役選任請求権は,特に株主の取締役の行為に対する監督是正権たる性質を有し,取締役による業務執行に対して株主の統制を認める権限であるといえる。ゆえに,所有と経営の分離の観点から,株主による過剰な業務執行への干渉を制限するべく権限行使を限定する考慮があったと考えられる。
 他方で,株主提案は,すべての株主が共益権として議決権を有するところ(104条1項3号),その延長にある会社の具体的支配権限たる性質を有する。ゆえに,株主提案にかかる要領記載請求は,かかる支配権能を行使する手段であるといえる。そのため,議題ないし議案要領の記載請求権は,株主の会社支配権にかかるものであるため,厳格な制限に置かれるべきものではないと考えられる。
(3)  したがって,本件は,検査役選任請求の事案において持株要件が維持されなければならない根拠となった事案要素と異なり,かかる判例法理は及ばないと解される。そして,上記の観点から,議題ないし議案の要領記載請求は,その請求時点において,持株比率要件を充たしていれば足り,事後の新株発行により制限される結果となるのは不合理である。
3.  以上より,Dは,平成29年4月10日時点では持株比率要件を充たしていたから,甲社がDの議題ないし議案を要領として記載しなかったことは違法不当である。
第2  設問2について
1. Bの損害賠償責任の有無について
(1)  Bは,甲社の監査等委員である「取締役」であることから,の甲社に対する損害賠償責任は,任務懈怠責任(423条1項)に基づくと解される。
(2)  まず,Bが「任務を怠った」といえるかについて検討する。本件で,甲社と丁社との間で行われた本件賃貸借契約が利益相反取引(356条1項2号)にあたる場合,Bの任務懈怠が推定される(423条3項1号)。
 そこで,かかる直接取引該当性についてみると,Bは,甲社の「取締役」であるところ,合同会社である丁社側の持分を有しており,丁社を代表して同社「のために」,「甲社と」の間で本件土地の賃貸借契約を締結し「取引」をしているといえる。
したがって,上記賃貸借契約は,直接取引に該当する(356条1項2号)。そのため,Bは,仮に本件賃貸借契約について甲社において手続を経ているものの,「任務を怠った」と推定される(423条3項1号)。なお,本件でかかる推定を覆す事情もない。
(3)  次に,「損害」の有無について,本件賃貸借契約の約定によれば,賃料が月額300万円とされていた。甲社は,平成29年7月1日から,平成30年6月30日までの間の12ヶ月,賃料3600万円分を支払っている。そして,かかる賃料は,相場の2倍もの値段であり,かなり高額であったことから,かかる倍額の部分については,本件賃貸借契約の約定でなければ発生しなかったものであるといえる。
 したがって,1800万円分について,甲社の損害が認められる。
(4)  そして,かかる損害は,まさしくBが,甲社としてはBの意向を尊重せざるを得なかった点,一方的に有利な取引として上記のような賃料額を設定した結果生じたものであるといえ,因果関係が認められる。なお,本件は356条1項2号の直接取引であるため,Bは無過失責任を負う(428条1項)。
(5)  よって,Bは,甲社に対して,任務懈怠に基づき損害賠償責任を負う(423条1項)。
2. 賠償額について
(1)  賠償額について,本件ではBが甲社の取締役に就任するにあたり,任務懈怠責任について,責任限定契約(427条1項)を締結しているため,Bの賠償すべき額が問題となる。
(2)  責任限定契約において,当該取締役が賠償するべき額は,本来賠償責任を負うべき額から最低責任限度額を控除した額が免除された上(425条1項柱書),その控除された額についてである。
 本件では,甲社は監査等委員会設置会社であるところ,Bは,監査等委員であるから,通常の取締役の区分となる。そのため,Bは,1年間あたり金銭報酬として600万円を受けているところ(361条3項,1項1号参照),平成28年から30年までの2年間在職していることから,1200万円が最低責任限度額となる(425条1項1号ハ)。
 したがって,Bは,善意かつ無重過失であれば,1200万円について,甲社に対する損害賠償責任を負う(427条1項,425条1項柱書)。
(3)  本件で,Bは,本件賃貸借契約に際して,先述の通り,周辺の賃料相場の倍額の設定で,甲社に対して丁社の土地を賃貸している。周辺の賃料相場などは,専門家に照会すること等により容易に知ることができると考えられるため,安易に倍額を設定した点については重過失があるというべきである。
(4)  よって,Bは,責任限定契約に基づき1200万円の限度での責任とはならず,1800万円の損害全体について賠償責任を負う。
                            以上

【順位ランク】A

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