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人的資本経営の実現に向けた検討会 経産省

日本の産業界にも人的資本経営の声が高まる中、経産省では一橋大学の伊藤氏を座長とし、「人的資本経営実現に向けた検討会」が発足しています。

要旨

 昨年公表した「人材版伊藤レポート」は、多方面でインパクトを与えた。


 他方、インパクトが大きかったということと、実務に浸透するということは必ずしも同義ではない。人的資本経営を広く深く浸透させるような施策を議論していきたい。

 取締役会の構成をスリム化したことで、従業員報酬は適切か、会社の未来はどうあるべきか等の議論が加速している。社外取締役の外からの知見が内部の執行の議論を加速させていることを実感。


 議論すべきポイントとして、2つのポイントに言及したい。1点目は、関係性への投資が大切だということ。上司・部下や同僚間の仲が悪いと、改革のスピードが上がらないという日本企業の声を聞くことが多い。自社では社員交流のために一定額の予算を配布して、関係構築を促している。

 2点目は、実力主義、抜擢の強化。日本企業は、未だ年齢ベースでの配置が多いが、若い人にどんどん任せていくことで才能が開花する。いかに優秀な人を抜擢するかという課題に取り組んでいくべき。自社では、全社的に重要なポストを役員で議論し、社内全体から人選して決議する仕組みで流動性を高めている。

外部からの情報開示の期待が内部改革を進めると実感している。人的資本経営の推進には非常に意義を感じており、今回はそれを議論する良い契機。

 自社でも、HPにおいて、競争力の源泉である人材とテクノロジーについてまとまった掲載を始めた。人材に対するメッセージをしっかりと盛り込んでいきたい。

人材は、経営層が経営に一番重要な軸として取り組むべきというのが本質。人材理念を再定義し、必要な人材を確保できているのか、育成できているのか、活用できているのかという観点から人的資源の価値創造を最大化しようとしている

 個性・制約の解放による人材と企業価値との関係でマルチプルの倍率を高めていくことがまだまだできる。人材のスキルの把握、DX 等の推進に向けた人材の見える化が重要である。

 どの企業に行っても問題意識や課題は常に一緒であり、グローバルタレントの課題、ハイパフォーマンスカルチャーの醸成、HR 自身の能力といった大きく3つの話に集約される。

 まず、グローバルタレントの課題について。人材獲得競争もグローバルになっている中で、グローバル展開している企業が何も対策を講じないままでは、上位ポジションの多くは海外人材で占められる。英語等も海外人材にとってアドバンテージになりやすい。このままでは日本人が劣後するため、日本においても外国人と同様に、早期に人材へ投資していくべきだが、他方で、社内の公平性も大事なのでジレンマを抱えている。

また、HR のポジションが下がっていることに危機感を持っている。データに基づいた人事運営ができていないので価値を出しにくい。また、データに依存しないで HR のケイパビリティを経営に対して提示できるかというと、それは難しく、HR にいる人自身のケイパビリティをつけることが課題。これがないと、タレントやカルチャーへのインパクトも出せない。

 日本と海外でのエンゲージメントを比較した際に、海外では新陳代謝があり辞めたい人は辞めてしまうので、結果的にエンゲージメントスコアが高く出やすい。また、人材の流動性が高いことから、リーダーには、人材を丁寧にケアしてリテインしなければいけないという意識が高まりやすい側面がある。

 一方、日本では多くの人材が辞めないという前提があり、意識してケアしないのでエンゲージメントスコアが低くなりやすい。

エンゲージメントサーベイは、結果をトラッキングしてその後のアクションに如何に繋げるかが重要だが、日本では積極的なアクションに繋がらないことが多く、スコアの向上にも繋がらないことが多いと認識している。

 「人材版伊藤レポート」の内容を実装する際、変革を難しくしているのは図体の大きさであり、“岩盤”である。

 この岩盤の理由は、人数が多いことだけでなく、組織の意志決定を握っていることで、その岩盤には今バブル入社組がいる。トップ層はパーパスの実現に燃えており、若手は自己実現に燃えているが、この2層の間に大きな岩盤がある。若い世代も、今はキャリアアップを企図しているが、マネジャークラスになると地位に安住するといった形で、このままでは岩盤が強固になっていく。

人材集団の高度化もこの岩盤を崩さないとできないと考えており、上からの外圧(社外取締役からのガバナンス)、下からの変革(現場による 1on1 での文化変革)、トップによるパーパス浸透(Town Hall Meeting)、特区の活用(人事施策のスモールスタートからの浸透)の4点に取り組んでいる。

 経営戦略と人材戦略の関係には双方向性がある。経営戦略から人材戦略のロジックは比較的わかりやすいが、人材戦略から経営戦略の流れを意識したい。人材や人材戦略の質が経営戦略の選択肢を規定している側面もある。

 人材版伊藤レポートの主旨を実装していくのはまさにこれから。KPI の議論も深めていく必要があり、ステークホルダーとの対話も強化したい。

 企業において新しい価値を作り続けることは非常に重要。従業員の学ぶ意欲が弱い、エンゲージメントが低迷している、というのは日本の深刻な課題。

人材戦略と経営戦略の連動という意味では、経営理念、ビジョンの実現に向けた人材戦略について、ステークホルダーにストーリーとして語れるか。そのために何を KPIとして見える化していくかを考え、取締役会・資本市場・労働市場等と対話をしていくことが重要。

 人材戦略から経営戦略への流れでは、多様性と受容、人材育成、キャリア形成もキーワードになるが、仕事の体験価値をいかに高めていくかが鍵ではないかと感じる。

 投資家としては、企業の経営戦略と人材戦略が整合しているかが大事。必要な人材が整っているか、パーパス・存在価値、価値観までを含め、トップが目指す方向性に向けて動いているか、社内に考え方が浸透しているか、に注目している。

 企業側には、経営改革を断行する際に、社外からの圧力という意味で、社外取締役だけでなく投資家の声もうまく活用いただきたい。

 従業員のエンゲージメントスコアが世界最低という状況については、非常に問題で、経営トップと従業員との意識差が大きいと考えている。その状況の解消に向けて、なぜこのスコアが低いのか、どういう施策が有効か、理解を深めたい。

 「ジョブ型人事」の取組は進んできたが、実践という意味でまだ道半ばではないか。特に、ミドルマネジャーが会社全体の変化の必要性を自分事として咀嚼して理解し、下の人たちに伝えきれていないのではないか。その意味で、ミドル層の意識改革、スキル向上は重要なテーマ。ジョブ型の実践においては、ミドルマネジャーに、個人のニーズに寄り添って仕組み・実務を作り込んでいく高度なマネジメントスキルが求められている。

 海外に投資するよりもなぜ日本に投資しないといけないのかと聞かれることが多い。国勢調査でも人口減が明らかで、努力は必要だが限界がある。労働生産性をいかに高めるか、そこで価値を訴えられないといけない。労働生産性の比較では、日本は OECDで 26 位と、経年比較で 1970 年以降最も低く、主要先進国で最下位というデータもあり、深刻な課題。

 人的資本経営について本格的に調査をする上で、日本の人的資本が他国よりどうすれば大きなアウトカムが出せるのか、という問いに対して、国内/海外の生産性を業種・規模別に見ると、課題が浮き彫りになるかもしれない。

 あるいは、海外で開示されている情報を基に、人的資本経営に関して国内企業と比較するアプローチで、国内外で大きなギャップがある課題が見つかれば、それが優先課題であるとも考えられる。

人事制度は多くの場合、例外を嫌う。例外を選択肢から外さないこと、これなら成り立つ、と考えることが重要。一度仕組みを作ったら頑なに変えない、ということにならないようにすべき。

 人を育てるというが、むしろ育つ環境を作るということだと思っている。そこでは、会社と人材の間、あるいは世代間・地域間の共感と信頼の共有が重要になる。

 日本企業が抱える課題の例として、最も優先順位が高いのは、経営戦略と人材戦略の紐付け。投資家間で人材がなぜ重要かを議論すると、それは成長のためということになる。例えば、海外企業の M&A は成長のためだが、その後にその企業の人材が流出しては、経営戦略と人材戦略が紐付いていないということ。この事例は、人材流出とリテンションのバランスという側面からも捉えられる。

 続いて、人材のリスキルが重要である。効率を追い求めるとその時に必要なスキルしか育たないが、複数のスキルが連結したときにクリエイティブになるという側面もある。社員側の「こんなことをやってみたい」というものも必要なリスキルの範囲として捉えるべきではないか。

 また、論点例の1番目に「開示」が挙げられているが、大事ではあるものの、最優先ではないのではないか。中身、内容がなくて形式的な開示では無意味だからである。
また、一度きりの開示に意味は無く、トレーサブルで変化が見えるものであるとよい。

 今回の調査対象には、従業員も含めるべきではないかと考える。

 人的資本については、英国において、Brexit 後の社会分断・格差の是正に向けた政策の中で「人」に着目をし、例えば、Employee、Worker と言っていたものがWorkforce、そして今や人的なキャピタルに昇華した。その後、人材版伊藤レポートで日本にもこの考え方が紹介され、この中では中長期のサステナブルな価値創造、社会全体の価値を意識したパーパスや企業文化といった点に着目されていたと認識している。

 ただし、中小企業・小さい上場会社も含めると、未だ、「経営戦略と人材戦略の結びつきとは何か」「それを進める目的は何か」と悩んでいるようである。多くの企業の人事部はいまだ管理的な機能に終始していて、ヒューマンキャピタルという視点は持ち得ていない。

 下手をするとプライム市場にもそのような会社がたくさん入ってくることも予想され、進捗の度合いの格差は見逃せない。上場企業は常に競争にさらされているため、底上げに繋がるような取組にしたい。

 人的資本経営に関する調査も、先進的な取組を進める企業だけでなく、まだ取組が進んでいない企業にも手が届くような成果物になるとよい。

 今回の検討会のテーマについて、重要なポイントが3つと+1あると考える。1点目は、企業が人的投資の考え方をしっかりと持ち、経営戦略と紐付けるということ。2点目は、戦略を実行するための仕組みを工夫することで、これは進捗を測る KPI とセットになることが望ましい。そして3点目は、仕組みをうまく回して、得た成果をステークホルダーに還元すること。+1は、そういった考え方や仕組みを発信する経営トップや対話する投資家が意思を持つことだと考えている。

 この観点から現状を見ると、統合報告書で考え方を発信する企業が増えてきてはいるが、全体に浸透しているとはいいにくい。定量的に仕組みを語ることも難しく、また企業と投資家との間で求める情報のギャップが大きいこともある。

 例えば、有休取得率や従業員エンゲージメント等のデータを提示する一方で、離職率が高い場合、そのデータを開示していないこともある。

 一方で、残業を減らして給与を上乗せする取組について、コストを懸念する投資家に対して、経年での営業利益率の上昇をもって理解を得るという好事例もあった。このように、投資家と対話をしながら、仕組みや、開示の KPI について工夫をしていくことが大切。

 3点目のステークホルダーへの配分については、“岩盤層”がいる中では非常に難しいのが現実。個々人のライフスタイルや人生の価値観も変容している中で、もう少し幅広に考えていくことを“岩盤”の人たちにも伝えていけると変わってくるのではないか。

 過去の様々な組織で働いた経験に基づいても、人材戦略・経営戦略が互いを規定することを実感してきた。

 企業が大きく方向転換をする、あるいはパーパスを掲げた際に、現場に浸透しないという課題がある。その際に、経営は「もっと伝えなければ」「何を働きかけたらいいのか」というところに意識が向きがちだが、これはいわばアクセルを踏んでいるのだが、実は現場ではハンドブレーキがあがっている、というような状態。このハンドブレーキを緩める打ち手が課題だが、なかなか目が向かない。

自分がなぜ会社にいるのか、パーパスを自分のなかでどう咀嚼しているのか、ということを聞いてもらうことで、これが浸透していく。もう1つは、対話力、価値観を共有していない人の話も含めて聞く力が重要。

 自分が話を聞いてもらう経験から聞く力も高まる。これによって、社内であれば世代の違い、社外であればステークホルダー毎の違いといった、新しい価値観・経験を共有できる人材が組織全体で増えていく。これにより人的資本経営の社会実装にも繋がるのではないか。

 人材版伊藤レポートで問題提起・喚起が行われたことは良かった。各企業では、パーパスの浸透等に取り組んでいる。一方で、具体的なアクションに踏み出せていない企業も多いのではないか。

 例えば、女性の活用と言われて久しいものの、取締役レベルでは徐々に増えてきたが、執行レベルの女性比率はきわめて低い。執行段階で多様な視点を取り入れる意識・努力がどれくらいできているか、というと怪しいところであり、具体的な行動を促すことが重要。

 リスキリングをはじめとして、人を実際に動かすためには何をすべきか。コロナ禍でDX 化が前倒しされる中、労働需給のミスマッチは加速することが予測される。また、日本の人的ポートフォリオを分析すると、ルーティン領域のタスクに従事している人が全体の8割で、多くの企業ではデジタル社会に向けて準備ができている状況ではなく、リスキリングが大いに必要。

 従業員に学び直せと言うだけではダメで、学び直すための給付金の仕組みはあるが、まだ学び直す人は明確に増えてきていない。学びに向けた気づきをどう与えるのかということに加え、学び直した後に、活躍の場や適切な報酬・評価に結びつかなければ、全体の行動には繋がらない。

 ミドルマネジメント層に問題があるという意見もあったが、彼らを育ててきたのは今の経営者層。出る杭を打つ慣習、失敗を許さない風土等のマネジメントが継続してきた。また、本当に活躍した人を評価してきたのかというと疑問である。ミドルマネジメント層を含めてパーパスを浸透させ、エンゲージメントを高めるためには、経営者自らが過去のマネジメントや行動を振り返って、変革していくという意思表明が必要ではないか。

 この研究会のポイントは、企業が人材を生かしていかにイノベーションを起こし、競争優位を作り出そうと切磋琢磨することで、持続可能な社会が実現していくか、これをより実践的に行うということだと理解。

 そこで、D&Iについて重要なポイントとして、第一に、インクルージョンというのが何を指すのか、どのような状態になっていればインクルージョンされたといえるのか、ということが共有されていないと、実装にはつながらない。CEO や CHRO がインクルージョンしていると言ったとしても、受け手側がどう認識するか大事。仲間と認められているか、個人のアイデンティティを生かして組織の成果に貢献できているかの個々人の実感が重要。

 第二に、インクルージョンは、ボトム(従業員)だけの話ではない。ボード(取締役)、トップマネジメントチーム(執行役)を含むすべての階層で、多様性とともにインクルージョンが大事。外部の視点を生かして、成果に結びつけているか。それを見ていくうえで、“格差”がどれくらい解消されているか、“距離”がどれくらい解消されているかという視点が重要だと考えている。

 3点目として、日本全体として人的資本を生かしていくという意味では、必ずしも1つの企業でインクルージョンできなくても良いのではと考えている。ある会社でフィットしていない人も別の会社で貢献できるということがある。それぞれの会社において、パーパスにあった人たちをより一層生かしていきながら、フィットしないのであれば次の場で生かせるというような日本経済全体のインフラが必要ではないか。

 学生を見ていると、彼らはダイバーシティを受け入れる能力はあるが、多様な人を統合してリーダーシップを取ることができていない。日本において、「まとめて束ねて生かせる人」を作らないといけないし、また、それができるポテンシャルを持つ人材が企業で生かされる仕組みも必要。

 人的資本経営に関する調査に関して、従業員も、CEO や CHO 以外のボードの他のメンバーやトップマネジメントチームのメンバーも対象として聞くべきではないか。CHO、CHRO といったインクルージョンする側だけでなく、インクルージョンされる側の声にも耳を傾けるべき。また、分析を精緻にするためには、「平均」だけに着目せず、色々な分析手法を活用した方が、どんな特徴を持つ企業が人的資本の実装ができているのか、具体的に何をすべきかの納得感が出ると思う。

 ダイバーシティをどのように進めるか、女性を採用するのか、登用とは具体的にどういうことか、総論ではなく各論の議論を進めている。

 組織文化にも着目している。これまでは会社側からの一方的な周知に留まっていたが、双方向の議論、動画等も用いた発信が中心になりつつある。

 中間層には経営陣の考えが伝わっていない、どうやって浸透させれば良いのかという議論が今までは中心であったが、立ち返って経営者の方が何かを変えるべきではないか、と考えるようになった。当然、現場の心理的安全性も必要だが、経営として取り組むべき事についても議論を進めていきたい。

 人材版伊藤レポートにおける議論が改訂コーポレートガバナンス・コードに反映されたことは非常に意義深い。早速具体的なアクションについても問い合わせをいただいているところで、改めて本検討会は社会的インパクトが大きいものだと感じている。

 まず、人的資本を活用するに際して、会社視点では事業ポートフォリオの見直しが待ったなしとなっている。そのポートフォリオ転換を担う人材を如何に確保するかが非常に重要な課題。何がミスマッチなのかという認識、そして外部採用や内部登用といったギャップを埋める施策のスピード、学び直しをどういう中身で入れていくのか、タレントプールの分厚さをどう構築していくのか、といったことの難しさを強く感じる。

 また、ジョブ型の制度設計を進めるにあたって、ジョブを作り出せる人材・企業風土がないと成り立たないと感じた。新規事業をどう作るか、それに耐えうる人材をどう作っていくかということで、自社でも社内の起業家を作ることを促しているが、風土作りがポイントになっている。

 社員目線でも、「社会価値・企業価値への真剣さ」がないと、若手の優秀層が入ってこない、ということも最近強く感じる。

 「70 歳までキャリアを継続しなければいけない」という発想のもと、自分に必要な経験をどこで取れるのかといった視点を、若い世代ほど真剣に持っている。

 多様性の問題についても、例えば女性の幹部への登用が遅れていることで、経営に多様な視点が取り込まれない。女性だけでなく国籍の問題も同様。

 重要な人事施策を外部にどう発信していくのかは重要な課題だと思っている。今回の研究会には投資家の皆様もいるので、HR ブランディング、人的資産の活用のストーリーを企業価値にどのように繋げて発信していくかについても議論していきたい


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