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【訪問看護の人材育成】管理者(職)が身につけておきたい「判断の軸」と「複眼思考」の話。

訪問看護の現場において、管理者(職)に求められるスキルや知識は多岐にわたります。

日々の業務を円滑に進めるだけでなく、チームのマネジメント、会社の方針に基づいた判断、利用者の満足度と事業の存続を両立させるための戦略的な思考が必要不可欠です。

その中でも、今回は「判断の軸」と「複眼思考」に焦点を当てます。

どちらも抽象的でイメージしにくいかもしれませんが、管理者として働くのであれば絶対に押さえておいて損はないスキルです。

私はえん訪問看護ステーショングループという訪問看護ステーションを経営していますが、私自身も非常に大切にしている考え方です。

訪問看護で働く人、特にマネジメントをする立場にある人は、ぜひ参考にしてみてください。

(*本記事は管理者で統一表記していますが、管理職に属する人(所長・主任・リーダーなど)も含んだ内容となっております。)


「判断の軸」について

訪問看護の管理者において、最も重要な要素の一つが「判断の軸」です。

現場での業務は、日々多様な問題に直面しますが、すべての判断が一貫性を持たなければ、組織全体の方向性がぶれてしまいます。

とはいえ、どのように判断の軸を持ったら良いか分からない人も多いことでしょう。

ここで意識して欲しいのは、『質×量×会社方針』です。

  • :訪問看護のサービスの質、利用者満足度

  • :提供するサービスの件数や売上

  • 会社方針:経営方針や長期的なビジョン


質と量

質(必要性・利用者満足度)と量(件数・売上)は、短期的には相反する場面もありますが、なるべく同じ方向性にベクトルを向けて、両側面同時に追求していく必要があります。

この二つのバランスが非常に重要です。

確かに質は高いに越したことはありませんが、質だけを求め続けてしまうと、スタッフが疲弊して離職率が高くなり、管理者自身も疲弊して潰れてしまいます。

また、質を求めた結果、量(数ヶ月単位の訪問件数)が減ってしまえば元も子もありません。

当たり前ですが、「量」は事業存続する上で超重要です。

例えば、給与アップや次の採用(投資)をするためには、一定量以上の量(予算)が必要になってきます。

スタッフ(量)が増えると様々な効率性も上がり、より予算もかけれるため、質も上げやすい環境が作れます。

このように、量と質のバランスを考えた判断軸が重要になってきます。

目先だけではなく、1〜2年後を想像しながら判断していくことをオススメします。


会社方針

意外と見落としがちなのが、「会社方針」を判断軸に入れることです。

会社方針は非常に大事です。

会社の方向性を無視した判断軸はただの自分勝手であり、どれだけ現場の仕事が出来ていたとしても、評価は上がりづらいです。

半年〜5年くらい先の事業展望を考え、今のフェーズはどこなのかで求められてることも変わってきます。

経営者は会社の将来を抽象的な視点で判断していることも多いため、現場により近い管理者が具体化して日々のToDoに落とし込んでいく必要も出てきます。

上記を総合的に判断して、日々の業務における『判断の軸』を作り混んで行くと良いでしょう。


「複眼思考」について

もう一つ重要な考え方として「複眼思考」が挙げられます。

複眼思考も、訪問看護の管理者や経営者は絶対に身につけておいた方が良い考え方です。

これは、問題を多角的な視点から捉え、全体像を把握し、解決策を見出す能力です。

我々は、医療者という立場から見える視点ばかりを取りやすい傾向にあります。

今まで育ってきた環境を優先した視点を取りやすいのは当たり前なのですが、訪問看護は利用者本人の課題や家庭の問題、サービスの内容など複合的課題が多く、単一視点から見ても納得解は得られにくいです。

時には、単一視点から見てしまうことで『医療者側の押し付け』ということにすらなってしまうこともあります。

この点、『利用者の立場に立つ』という理解が生まれるかもしれませんが、それはまた違います。

もちろん、最終決定者である利用者本人の立場から考えることも必要ではありますが、それは複眼ではなく単一視点が2つになっただけです。

複眼(俯瞰)とは、今関わっているケアマネジャーや医師、その他関係者や利用者家族や友達、利用者が生まれてからの経歴、これから予想されることなど、総合的に考えて介入していくことが大事なのです。

この複眼視点が身につくと、クレームやトラブルシューティングに対してもかなりスムーズに対応出来るようになります。

まさに『事象の落とし所』を見つけることが出来るようになるからです。

この複眼視点は、訪問看護の歴が長い人にあるというわけではありません。

訪問看護の内容理解の違いがあるため若干の差は生じますが、訪問看護歴2年だとしても、20年だとしても、身につけた人だけが持てる能力だと考えています。

訪問看護の管理者や経営者の方は、日頃から複眼思考を意識して物事を捉えたり、俯瞰・分析して納得解を出す訓練をオススメします。


プロジェクトにおいても複眼思考は重要

複眼思考はプロジェクトにおいても重要な視点になります。

結果の出せないほとんどの管理者は、1パターンの方法しか考えていません。

1パターンが頓挫、もしくは結果が出てから別パターンを思考していきます。

たまたま1パターンがハマれば結果は出ますが、次がまたハマるとは限らないため、再現性にも欠けてしまいます。

これでは結果を出し続けることはできませんし、何しろ圧倒的にスピードが遅くなってしまいます。

結果を出し続けるほとんどの管理者は、プロジェクトの初期に複数パターンを思考してシミュレーションを行います。

そして、日々の変化や途中経過をモニタリングしながらマネジメントをしていきます。

具体的には以下のようなパターンが挙げられます。

  • Aパターン:目標値の120%を達成するが、チームの疲労度が高くなる

  • Bパターン:目標値の100%を目指すが、人材配置を変更するために不安定

  • Cパターン:半年後に80%の達成率だが、長期的に見てチームが育ち、1年後には110%以上の成果が期待できる


私もプロジェクトに対して最低3〜5パターンくらいは考えておき、必要に応じて1パターンを3パターンに分解したりします。

そのため、最終的にはトータル10パターンくらいになり、その中で良さそうなものを2〜3パターン選出していくという流れです。

このように、プロジェクトが上手くいくか否かはスタートしてからが勝負ではなく、実はスタートする前が超重要なのです(7〜8割は決まってるという印象)。

確かに、管理者になったばかりの人や、これから結果を出して行きたい人にとっては、いきなりこの域にはなれないと思いますが、日々思考を繰り返して精度を上げていきましょう。


訪問看護における数値目標【7つの流れ】

プロジェクトや目標の話が出てきたので、最後に訪問看護における数値目標の話をしておこうかと思います。

訪問看護の管理者は、目標訪問件数や売上目標が欠損してしまうケースが非常に多いです。

月の上旬に依頼数が一時的に増えたため安心して営業のPDCAを緩めてしまうなど、気の緩みによるケースも多いです。

今日営業したとしても、結果反映されるのは1〜2ヶ月後といったタイムラグがあるため、数ヶ月〜半年くらいのスパンをイメージしながら目標管理していくと良いでしょう。

具体的には、以下の7つの流れに分けられます。

  1. 経営者と3-5年計画をイメージする

  2. 月次PLまで落とし込む

  3. 現状分析を行う

  4. 解決策を練る

  5. 日々のToDoに分解する

  6. スタッフに伝える

  7. 結果を分析し、PDCAサイクルを回す


1. 経営者と3-5年計画をイメージする

まずは、経営者と一緒に会社の長期的なビジョンを考えます。

3~5年後に会社がどうなっているべきか、その方向性を理解することが大切です。

ここでは、具体的な数字や目標だけでなく、会社全体の成長のイメージを共有します。


2. 月次PLまで落とし込む

経営者が5年くらいのビジョンを描き、そのうちの1年を月次のPLに落とし込んでいきます。

売上や訪問件数、スタッフの稼働率などを月次PL(損益計算書)に落とし込み、現場で達成すべき具体的な数値目標を設定します。

これにより、毎月の業務に対する方向性が明確になります。


3. 現状分析を行う

現在の訪問件数や売上、新規依頼の状況などをデータで分析し、どの部分に改善が必要かを把握します。

この現状分析により、目標と現実のギャップを明らかにし、具体的な対応策を考える土台を作ります。


4. 解決策を練る

現状分析の結果を踏まえ、目標達成に向けた具体的な解決策を立てます。

例えば、新しい営業方法を導入する、スタッフのシフトを見直すなど、実行可能な対策を考えます。

ここでの解決策が、今後の行動計画に直結します。


5. 日々のToDoに分解する

立てた解決策を、日々の業務に落とし込みます。

大きな目標を達成するためには、毎日の小さな行動の積み重ねが必要です。

具体的なToDoリストを作成し、スタッフが取り組むべき業務を細かく分けて実行します。


6. スタッフに伝える

計画をスタッフ全員に共有し、各自の役割を明確に伝えます。

複雑な説明ではなく、シンプルでわかりやすく伝えることが大切です。

全員が同じ方向に向かって行動できるよう、指示や目標をしっかりと伝えることが重要です。

ただ、ここは一番難しいとも考えており、理想的には経営者100→管理職95→スタッフ90くらいで伝わっていく組織にしたいところですが、このように実行出来ているステーションは少なく、弊社においても目標浸透度は40%くらいの肌感です。まだまだ精進が必要です。


7. 結果を分析し、PDCAサイクルを回す

実行した結果を振り返り、達成できたかどうかを確認します。

その結果に基づいて次の行動を修正し、改善を続けるためにPDCAサイクル(計画→実行→評価→改善)を繰り返します。

このサイクルを回すことで、継続的に成果を上げていきます。


目先だけの数字や忙しさに囚われず、数ヶ月先〜年単位で管理・運営をしていくことが重要です。


まとめ

訪問看護の管理職に求められる役割は多岐にわたりますが、その中でも「判断の軸」と「複眼思考」、この2つのスキルは特に重要です。

つまり、訪問看護の管理者は、一貫した判断基準を持ち、多角的な視点から問題を捉え、複数のシナリオを考えながら進めていくことが必要になってきます。

今日明日でできることではないと思いますが、少しでも明日からの業務にご活用いただけると幸いです。


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記事編集・監修:和田祥平
理学療法士。作家。Webライター。病院・訪問看護ステーションで勤務をする傍ら、介護・リハビリに関する記事の執筆・監修、書籍の出版等を行なっている。最新著書:介護のお世話にならない リハビリの専門家が教える 足腰の教科書(メディカルパブリッシャー)

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