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その進め方で本当に大丈夫?ITツールの社内展開には組織変革の定石を使おう!

このnoteは私が主催しているツキイチAsana勉強会で共有したり、参加者の皆さんから共有された内容をもとにしています。

これまでの開催履歴
第1回:定例会議を運営する
第2回:チームの進捗を確認する
第3回:案件を管理する(SFAや問い合わせ受付)
第4回:Asanaを社内に説明する LT大会
第5回:Asanaを社内で拡げる(このnote)

今回のテーマは「社内展開」

第5回となる今回のテーマは「Asana(などのITツール)を社内で拡げる」です。

Asanaに限らずITツールの導入や社内展開での悩みを見聞きしたり、相談されたりする機会は多いのですが、だいたい皆さん、同じところでつまづきがちです。

ボトムアップ的に進めるにせよ、導入推進担当として進めるにせよ、ココを押さえておけば、もっとうまく進められますよ、というポイントをお伝えします。

場合によっては、いや、きっと多くの人は、会社や上司に言われたやり方じゃ全然ダメで、アプローチそのものを変えるよう逆提案しなきゃいけないことに気づくでしょう。


Asana(というかITツール)の導入でよくある失敗

私は、コンサルタントとして、または中の人として変革系のプロジェクトに携わったり、ITシステム・ツールの導入に関わる仕事をこれまでたくさんしてきました。おかげで、変革とIT、どちらか一方の経験だけだったらわからなかったことが、この2つの経験を組み合わせることで、とても理解が深まりました。

そんな私の視点からは、多くの「社内展開・導入推進」はスタートで間違えてます。ありがちな進め方は、

  • ツールの導入・展開をゴールにしたプロジェクトとして進める

  • 期間と規模を中心としたゴール設定や役員承認からスタートする

  • (そうじゃない場合は逆に)少人数の現場レベルで、できるところまで進める

といった形ですが、これじゃダメなんです。

そもそもITツールの導入とは〇〇である

そもそも、Asana、というかITツールの導入とは「組織変革」であるという認識がない人が多い。普通の企業に組織変革のプロなんてめったにいませんから、仕方ないですが。

「組織変革」として研究者が捉えている例を挙げると、

  • 新しい経営戦略の導入

  • M&A

  • 組織再編

こういったプロジェクトが例として挙げられています。そして実は、ITツールの導入もこれらと並んでいるのです。

まずこの時点で、多くの人は「いやいや、そんな大袈裟な話じゃないでしょ」と思う。だから、無手勝流で始めちゃう。そして、失敗する。社内展開したい、導入推進したいという強い思いがあったとしても、それだけじゃうまくいきません。

なにせ、研究者たちによれば、組織変革プロジェクトの9割は失敗している(当事者たちが「うまくいってない」と認識している)と言われています。いや、7割だ!という説もありますが、大差ありませんね。要は、大多数がうまくいかないんです。

なぜか?

それは、組織変革の進め方には「定石」があるのに、それを無視している例が多いからです。


これが定石! 「8段階の変革プロセス」

名和高司さんという方がいます。泣く子も黙るハーバード・ビジネス・スクールでベーカー・スカラーという成績優秀賞を授与され、マッキンゼーで約20年のキャリアを積み、その後ボストン・コンサルティング・グループのシニアアドバイザーに就任、現在は一橋大学大学院(ICS)の客員教授、京都先端技術大学教授を務める、見るからにとんでもない方です。

その方の著作『企業変革の教科書』で、さもあたり前のように参照されている変革フレームワークがあります。


それが、この8段階の変革プロセス と呼ばれるものです。

1.危機意識切迫感 を高める
2. 推進チームをつくる
3. ビジョンと戦略を立てる
4. ビジョンを周知する
5. メンバーの自発的行動を促す
6. 短期的成果を生む
7. さらに変革を進める
8. 新しいやり方を文化として根づかせる

この「8段階の変革プロセス」は、ジョン・P・コッターという、これまたとんでもないキャリアな方が長年の研究を経てつくり上げたフレームワークです。

変革系の仕事に携わる人であれば、必ず一度は目にするこの8ステップですが、残念ながらITツールの社内展開で参照されることは少ないようです。

そりゃそうですよね。だって、そもそも「組織変革」をするつもりで取り組んでないんですから。

でも、これを知ってるのと知らないのでは、進め方にめちゃくちゃ差が出ます。ただでさえむずかしい仕事なんですから、先人の知恵を存分に借りて少しでも成功確率を高めるのが、凡人のあるべき姿勢でしょう。


1972年(25歳)からHBSで教えはじめ、33歳で教授(Tenure獲得、80年当時最年少)という、もう意味不明なキャリア


さすがに8ステップすべてを網羅するワケにはいきませんが、多くのケースでだいたい失敗してるのがStep1とStep2なので、この2点を中心に解説していきます。

Step1. 切迫感を高める

いきなりですが、一番むずかしくて、一番失敗しがちなのがこのStep 1です。あまりにもむずかしくて、コッター先生もStep 1だけで1冊、新たに書籍を書いちゃってる。それくらいむずかしい。

失敗してるケースはもちろん、失敗とまではいかずとも推進担当者が悩んでるケースは、だいたいこのStepを完全にすっ飛ばしてます



なぜ「切迫感を高める」必要があるのか?

コッター先生は、こう言ってます。

  • 役員承認を取ったとしても、変革はうまく進まない。総論賛成、各論反対になるだけだから

  • ゴール設定やビジョン策定をしようにも意識もやる気も揃わないから

  • トップダウンなら進めやすい、は幻想だから(海外でも)

  • 自己満足や、偽の危機感(実行重視で精力的、みんなが多忙)は変革の敵だから


皆さんにも思い当たる点があるんじゃないでしょうか。


「切迫感を高める」とは?

切迫感を高める必要があるのはわかったとして、「それってつまり、どういうこと?」「何をすればいいの?」と思いますよね。

定石によると
今のままではマズいことを示す「問題の絵」を描き、突きつける
基本戦略:心と頭に訴える

これが基本です。とにもかくにも「今のままではマズい」という共通認識をつくるのが変革の出発点です。そのためには、論理的に滔々とうとうと説明しても、腹落ちしません。人は感情で動くいきものですから、感情・心に訴える必要があります。


Asanaを社内で拡げるときには
「社内の何が問題だと思っているのか、なぜ今それに対処すべきなのか」=課題認識の確認・共有・醸成からスタートする

DX推進なんて、もう社内で何回話したかわからないよ!という皆さんにとっては「え、それ必要?」と思うかも知れませんが、必要なんです。だいたい、どんなに社内でDXだー!と喧伝けんでんされてても、ほとんどの人は「今のままではマズい」と思ってませんからね。「今のままではマズい」という共通認識をつくるのが、AsanaやITツールの社内展開でも出発点になります。

実はこれ、以前のnoteでもお伝えしたポイントと同じでして、要は


課題のない顧客に売ってはならない


という話なんです。例えるなら、

課題Aには解決策Xがうまくハマった。
だったら、課題Bにも解決策Xがいいよね!

おかしいやろ

課題なんか聞いてないけど、解決策Xが最高だよ!Youも使いなよ!

頭湧いてんのか?

わかりますよね?

こんなアプローチ、絶対にうまくいくワケがないですよね?

なのに、社内だと無意識にやりがちなんです。怖いですねー


では、具体的にはどうすればいいの?

課題認識の確認・共有・醸成からはじめると言っても、それって具体的にどうすればいいの?

聞いてみました、うまく進めてる方々に。すると、見えてきました、共通項が。

うまく進めてる方々は、だいたい以下のようなアプローチを取ってます。

  • 困ってそうな人に「それ大変じゃない?それ困ってない?」と聞いて回る

  • 「いや困ってない」と言われたら、困ってないんだから無理に勧めたところで無駄なので、一旦引く。

  • 「そうなんだよ、大変なんだよ!」と返ってきたら、その現場の声をベースに「こんな課題あるみたいですね」「大変ですね」と、その上司に伝え、課題意識を共有する。

  • なんとかしたいのであれば手を差し伸べる。そこまででもないようなら、無理に押し付けない。


表面的に見えてるマズいことは、仕事の進め方だったり、チームのコミュニケーションだったりするでしょう。でも、それでは切迫感は高まりません。

本当にマズいのはさらにその先ですよね。予算オーバーで赤字プロジェクトが多発している、いつも納期が遅れる、顧客からの信頼を損ねている、コンペの勝率が落ちている、休職・離職率が高まっている、次世代マネージャーが育たない、、、

組織変革では、こういう触れたくないような話とちゃんと向き合わないといけないんです。


Step2. 推進チームをつくる

なぜ「推進チームをつくる」必要があるのか?

コッター先生は、こう言ってます。

  • 優秀だから組織変革ができるわけでもないし、経営幹部だから組織変革ができるわけでもないから

  • マネジメントとリーダーシップの両方の要素が必要だから(ひとりで両方できる人は少ない)

  • 組織変革とは「多くの多様な人の力を引き出す」ことだから

  • 人を動かすには、あの手この手で、違う角度からアプローチする必要があるから

どれひとつ取っても、示唆深いですよね。

ITツール推進もチームで取り組んだ方がいいんです。特にボトムアップ型で進めようとしてたり、トップダウンだとしても部署内の「推進担当」になった人は、ついひとりで頑張りがち。

そういう方々は、たぶん「会社・部署としての公式の役割」が必要だと思い込んでるんですよね。そこで私はいつも「仲間を見つけましょう・つくりましょう」とお伝えしてます。


「推進チームづくり」のポイントは?

定石によると
強い切迫感を持つ個人が仲間を集める。
チームに必要なのは、外の世界を知っている人、信頼され社内人脈がある人、社内の仕組みについて詳しい人、マネジメント能力がある人、ビジョンづくりやモチベーションアップが得意な人

Asanaを社内で拡げるときには
Asanaのアクティブな利用者、理解者だけで固めない。
解決策(Asana)ありきの人選ではなく、同じ課題認識を持つ人を募る(必ずしも、同じ課題に直面してる必要はない)

変革推進には仲間が必須です。公式にプロジェクトチームを組成できなくても、バーチャルに「推進チーム」をつくることはできるはず。そのときのポイントは、スキル・経験の組み合わせです。

ツールのアクティブな利用者や、ポジティブな理解者だけで固めても意味はありません。会社のこと(組織、業務、歴史、人)を知っている人、あちこちで『あの人のお願いなら仕方ない』と言わせる裏ネットワークを持つ人影響力のある人人たらし。そういう人たちを仲間に入れるのがポイントです。


Step3. ビジョンと戦略を立てる

ここまで来て(ようやく)ビジョンと戦略の話です。皆さんが真っ先につくるであろう「導入計画」とか「展開プラン」は、本来はこのステップまで来ないと進められない話なんです。


定石では
ビジネスモデルの話、業務の話、組織の話、働き方の話、人材の話、事業計画やコストの話、いろいろ出てきます。

千差万別すぎるので

Asanaを社内で拡げるときには
推進チームで理想像(ビジョン)を作る。Asanaが全社に展開され、そのポテンシャルがフルに発揮されたと仮定すると、どんな良いことが起きるのか?を粗くても良いので描く。

先行導入したチームの話(成功体験)だけでなく、多くの人が「それは良さそう」と思ってもらえる大きさのビジョンにするのが大事です。会社の戦略に沿ったビジョンにすることで、社内の協力・共感を得られるようになります。

ビジョンと戦略は、Step 1で共有した「このままじゃマズい」に対する答えであり、解決への道のりです。

導入しようとしているITツールは、どんなマズいことを解決しようとしてるんでしたっけ?

予算オーバーで赤字プロジェクトが多発している
いつも納期が遅れる
顧客からの信頼を損ねている
コンペの勝率が落ちている
休職・離職率が高まっている
次世代マネージャーが育たない

再掲

ここまで来れば、「〇〇年○月までにユーザー数を〇〇人まで増やす」とか「〇〇部でのアクティブユーザーを〇〇人に増やす」といった内容は、ビジョンや戦略にはなり得ないことがわかりますよね?


もう20年ほど前のことですが、すごく印象的な先輩がいました。その方は常に定例会議の冒頭で同じスライドを出すんです。そしてあえて音読するんです。「このプロジェクトの目的は〇〇ということで進めてます」と。

定例会議はほぼ毎週やってましたので、そこにいる全員が何度も何度も同じスライドを見せられ、聞かされてるわけです。若造だった私は(いや、もう、それ要らなくない?)と思ってました。

でも違うんです。必要なんですよ、この儀式が。放っておくと多くの仕事は、「手段の目的化」という道に進んでしまいます。

『いやいや、目の前のこの仕事はこの目的のためにやってるんだよね』

毎回、目的を目にして耳で聞くことで、うっかり目先の仕事に流されそうになるところを食い止められるんです。


まとめとおさらい

もう一度、8段階の変革プロセス をおさらいしておきましょう。

1. 切迫感を高める
2. 推進チームをつくる
3. ビジョンと戦略を立てる
4. ビジョンを周知する
5. メンバーの自発的行動を促す
6. 短期的成果を生む
7. さらに変革を進める
8. 新しいやり方を文化として根づかせる

変革プロセスはStep 8までありますが、コッター先生もStep1が最重要にして最難関と言ってますし、私の経験的にもだいたいStep 1とStep 2でつまづいてるというか、知らずにスッ飛ばしてうまくいってないケースが大半なので、ひとまずココを押さえるだけでもきっと道が開けると思います。

勉強会では、ほかにも「変革否定論者にはどう対応したらいいの?」という話や、意外と無意識のうちに「定石」に近いことやってたという話なども出て、参加者の皆さんからのアウトプットもたくさん投稿され、充実した会となりました。

皆さんの感想やアウトプットは以下リンク先の投稿をご覧ください。Asanaユーザーの方は本noteの感想もぜひこちらへお寄せください(Asanaユーザーでない方はコメント欄やSNSで!)


また、もっと詳しく聞きたい、社内で同じ内容を説明してほしい、ウチの地域で再演してほしいなど、リクエストがありましたらご連絡ください。


ツキイチ勉強会👩‍🎓🧑‍🎓についてのお知らせ

おかげさまで参加者も増え、懇親会でのオフライントークで貴重な話が聞けたりと、毎回盛り上がって楽しいのですが、ふと気づきました…

この楽しさをひとり占めしてる場合じゃない!

というわけで、今後も継続していくためにも、

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企画〜準備〜当日運営〜アフターフォロー、得意なところだけでもOKですし、運営の経験よりも興味とやる気の方が大事です。運営チームでの情報共有やプロジェクト管理はもちろんAsanaでやりますよ🦄

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次回のテーマ(ユースケース)は「目標を管理する」

です。

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以下、参考資料を載せておきます。

参考資料

(注:Amazonアフィリエイトを利用しています。利用したくない方はご自身で検索してください。コピペできるようタイトルを併記してあります)


SaaSを社内で広げるなら「横展開」してはいけない


ジョン・P・コッター御大の変革代表作

『企業変革力』


『ジョン・コッターの企業変革ノート』

変革8ステップを学ぶには、これが最適。でも、もう中古しか売ってないぽい…


わりとサラッと読めるのに示唆深い1冊

『カモメになったペンギン』 Our Iceberg is Melting

分厚い本を読む暇なんてないよ!という方にはこれが最適。序文と訳者あとがきを含めても、わずか101ページです。読み通すだけならあっという間だけど、噛めば噛むほど味わい深い1冊。


「Step 1. 切迫感を高める」ための手法にフォーカスした1冊

『企業変革の核心』


最新の脳科学研究・脳のメカニズムからメンバーの行動へ働きかけるためのヒントを提示する最新刊

『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』


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ケースはだいぶ古くなりましたが、それでも何度読んでも学びが深い。

『戦略プロフェッショナル』

『経営パワーの危機』

『V字回復の経営』

ストーリーよりも解説を知りたい人には

『「日本の経営」を創る』

個人的には隠れた名著だと思ってます。


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萩原 雅裕|Prodotto代表
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