コンサルスキルを日常づかい。3ステップで描く『ゆる業務フロー』が仕事のムダを減らす
みなさん、タスク管理してますか?
タスク管理がうまくなり、しっかりとタスクを書き出せるようになると、パッと見、仕事が増えたように見えるんですよね。
すると
「やることいっぱい!」
「あれもこれも終わってない!」
「もうやだ!タスク管理なんてやめる!」
となってしまいがち。
仕事が見える化されただけであって、実際に増えたワケではありません。でも、ズラーっと並ぶタスクの一覧を見ると、ウッ…となりますよね。
実際にそれだけのタスクをやってるわけですから、ここで考えなきゃいけないことは「良いタスク管理の方法」ではなく、「そもそもの仕事のやり方」です。
タスク管理の穴を埋める「業務フロー的思考」
そこで、仕事のやり方を見直すためのスキルとして「業務フロー的思考」をご紹介したいと思います。
ITコンサルや業務コンサルといわれる人たちは、業務を効率化するときにほぼ間違いなく業務フローを描いてます。普通のビジネスパーソンは、業務フローをきっちり描けるようになる必要はありませんが、知っておくと自分やチームの仕事を見直せるようになります。
むずかしい話きた…と思ったかもしれませんが、そんなことはありません。
例えば、家のインテリアを考えるとして、自分が建築士やインテリアコーディネーターになる必要はないけれど、それらの知識が少しでもあると専門家との会話の質が上がり、自分の理想のインテリアが実現しやすくなる。そんなイメージです。
業務フローの知識があると、仕事のムダを減らしやすいんです。
業務フローとは
さっそくですが、業務フローというのは、こんなもの。言葉のとおり業務の流れ、仕事の流れをあらわす図です。私はたいてい、ホワイトボードや裏紙にササっとこんな感じで手書きします。
言葉で書くとめちゃくちゃシンプルなのに、フローにすると意外と長くなりました。こんな風に、単純なように見える仕事もいくつかのステップから成り立っています。ステップ1のあとにステップ2があり、ステップ3を経て、ステップ4までいったら完了。そんな流れを表すのが業務フローです。
業務フローに登場するのは、
人や部署(上の例では、私とパーソナルトレーナー)
作業や判断(プロセス)(問い合わせる、家トレを調べる、レシピを調べる、空き枠を調べる、返信する)
システム(ジムの予定、トレーナーの予定、自分の予定)
データ(問い合わせのメッセージ、空いてる時間)
の4つです。
業務フロー的思考で使うのは「ゆる業務フロー」
ちゃんとした業務フローの書き方はもっといろいろと決まりごとがあったりしますが、この記事の趣旨はあくまでも、仕事のムダを減らすために「業務フロー的思考」を使ってみよう、ということです。
ですから、先ほどの例のような「ゆる業務フロー」が書ければ十分。
そこで、「ゆる業務フロー」の描き方をご紹介し、そのあとで、実際にゆる業務フローを使って仕事のムダを減らしてみたいと思います。
3ステップで描く「ゆる業務フロー」
ゆる業務フローなので、キレイに描く必要はない
業務フローの例を手書きにしたのは、決してキレイに描くのがめんどくさかったからではありません。そもそも業務フローをキレイに描く必要がないからです。
ふつうのビジネスパーソンにとって、業務フローを「キレイに描く」ことは目的ではありません。あくまでも、自分やチームの仕事をうまく回したい、ムダを減らしたいのであって、業務フローをうまくキレイに描きたいわけではありません。
仕事の流れを見える化して、ムダな動きがわかればいいわけですから、ノートやホワイトボードにラフに手書きするだけで全然OKです。
もっと言うと、業務フローを描く必要すらなくて、業務フロー的思考でムダが発見できれば、それで十分です。と言っても、頭の中だけで考えるのはさすがにむずかしいので、「ゆる業務フロー」を描いてみましょう。
ステップ1. 登場人物(人や部署)を並べる
まずは、登場人物(人や部署)を並べます。縦でも横でもどっちでも大丈夫です。ホワイトボードに手書きするときは時間軸(ステップ2)を横にする方が書きやすいので、登場人物は縦に並べます。パソコン上のツールで描くときなど時間軸を縦にする場合は、登場人物は横に並べます。
このとき、一番下に「システム」という欄をつくっておくと、あとあと便利です。システムは、ITツールとはかぎらず、壁に貼ってある行動予定表やカレンダーかもしれませんし、キャビネットの資料かもしれませんし、段ボール山積みの在庫(を目で数えること)かもしれません。
ステップ2. 登場人物がやることを時間軸で並べる
次に、登場人物が「やること」を、順番に書いていきます。
「やること」を書くときはアクション動詞の出番です。実際に手を動かす作業は何なのか、具体的に書いていきます。
ツールを使うと書き直しや追加・入れ替えも簡単ですが、手書きだとめんどうですね。手書きの場合は、付箋に書いてやると追加・入れ替えが楽になります。ちなみに、今回はiPad+Apple Pencilで描いてみました。手書きの手軽さと、修正の容易さのいいとこ取りができて、よかったです。
ステップ3. 人と人、人とシステム、システムとシステムの間で流れるデータを書いていく
矢印でデータを書いていきます。ここは、ちょっとむずかしいかもしれません。複数の登場人物がいたり、システム(紙の資料を含む)を使ってる場合は、必ずなんらかのデータが流れてるんです。
例えば、あなたがキャビネットの資料を見たのは「顧客A向けの前年の販売価格」を確認したかったから、という場合、「顧客A向けの前年の販売価格」というデータがシステム(資料)からあなたへ流れた、ということになります。
さっきのトレーニングの予約を取る業務フローで、何回も「空いてる時間」というデータが流れてたのに気づいたでしょうか?この「空いてる時間」というのが、人と人、人とシステムの間を流れているデータです。
パッと見ただけで、同じデータが何度も流れてるので、「なんとかできないかな?」「工夫したら、もっとうまくできるんじゃないか」という気がしてきますよね(きますよね?)
人と人、人とシステム、システムとシステムの間で流れるデータが明らかになると、あとあと業務改善がやりやすくなったり、どんなシステムが必要かを考えるとき(いわゆる要件定義)がやりやすくなります。
よくわからなければ、いったん置いといてOKです。
記号の使い分けを知ってるとプロっぽいけど、使わなくても大丈夫
プロセス、分岐(判断)、帳票、データベースなどは専用の記法(図形)があるんですが、使わなくても大丈夫です。
このフローを基にプログラムを書くとき、しかもフローを描く人とプログラムを書く人が別のときは、このフロー自体が設計書の役割を果たすので大事ですが、この記事を読んでる人はそうじゃないと思いますので。
タスクの一覧だけでは抜け漏れが見つけづらく、そもそも良いやり方なのかも分からない
ところで、なぜタスクの一覧だけではダメなのか、なぜ業務フローが必要なんでしょうか?
さっきの例では、私のタスクの一覧には
◻️予約する
としか書いてないかもしれません。簡単そうに見えるのに、実際にはやけに時間が掛かる仕事、ありますよねー
タスクの一覧は抜け漏れが見つけづらいんです。タスクを書き出すときは「予約するだけだよね」と思っちゃう。
いやいや、私は「アクション動詞でタスクを書く」をマスターしたから大丈夫!抜け漏れなく書き出せるよ、という方。すばらしいです。
先ほどの「予約する」をアクション動詞(実際の行動をあらわす言葉)で書き出してみましょう。
◻️パーソナルトレーナーに空き時間を問い合わせる
◻️返ってきた空き時間をもとに自分の予定を確認する
◻️予約日を決めて、トレーナーに返信する
◻️カレンダーに入れる
となります。
たしかに、やることは明確になったものの、残念ながら実はこのやり取りそのものにムダがあることは分かりません。
タスクが並んでいるだけでは、仕事の全体像が把握しにくいんです。
抜け漏れを見つけやすくしたり、全体像を把握してムダな仕事を減らすには、タスクリストよりも、業務フローを描いた方がわかりやすくなります。
ゆる業務フローを使って、ムダな仕事を減らす
お待たせしました。それでは、実際に「ゆる業務フロー」を使って、ムダな仕事を減らしてみましょう。
ダメな業務フロー① 登場人物がやけに多い
1つ目の例は、登場人物がやけに多いコーヒーショップです。
ショップ内に受付係、バリスタ、レジ係、ドリンク渡し係と登場人物が4人もいます。ひとりのお客さん、1回の注文に対して、こんなにたくさんのスタッフが関わってたら大変ですね。コストも掛かるし、受け渡しの間違いも起こりやすそうだし、お店の中でスタッフ同士がぶつかってドリンクこぼしたり、お金落としたりしそうです。
受付係は最初の仕事以降ヒマそうですし、ドリンク渡し係もしばらくヒマそうですね。
ムダな仕事の減らし方① 登場人物を減らす
まずは登場人物を減らせないか考えてみましょう。
登場人物が減れば、やり取りは減り、やり取りにともなうコスト(コミュニケーションコスト)が減ります。待ち時間という隠れたコストも減るので、仕事が早く終わります(業務フローが短くなります)。
ダメな業務フロー② 似たような作業が重複している
次の例は、夕飯を何にするか決めて、買い物に行く家族の例です。これまた、わかりやすくするための極端な例ですよ。
事前に相談してないので、親Aは残り物でなんとかしようと考え、親Bは今ある材料で何かをつくろうとしたんでしょうね。「メニューを考える」という同じ箱が2回あり、さらに「メニューを相談して決める」の箱があります。
また、親AとBがそれぞれ冷蔵庫(というシステム)にアクセスしてますね。その後、メニューを決めた上で、あらためて冷蔵庫を確認してるので、合計3回冷蔵庫を開け閉めしてます。
さらに、買い物リストをつくった上で、子A用のリストと子B用のリストをつくってますね。買い物リストづくりが3回あります。
ムダな仕事の減らし方② 同じ作業(箱)をまとめる、減らす
同じような作業(メニューを考える、冷蔵庫の中身を確認する)を違う人が何度もやっていたり、似たような書類(買い物リスト)を違う人が別々につくっていたら、そこをまとめたり、ひとりに集中させてみましょう。
たくさんの人がやる方が負荷分散になりそうですが、ゆる業務フローを見れば一目瞭然。まとめたり、ひとりでやった方が効率が良くなることは多々あります。
ダメな業務フロー③ やたら矢印(データのやり取り)が多い
最後は、図書館で本を借りる例です。
登場人物は少ないものの、「本を探して借りる」というシンプルな話のわりに、利用者と図書館員の間でのやり取りが多いですね。
蔵書の確認と、在庫の確認と、貸出手続きがすべてバラバラになってるので、やり取りが多いんだな、ということがわかります。
ムダな仕事の減らし方③ 矢印(データのやり取り)を減らす
矢印を減らそうと思うと、自然と登場人物や箱(タスク)を減らすか、データのやり取りをまとめることになります。データのやり取りが減らせると、間違いも減りますし、確認作業も差し戻しも減ります。
具体的な改善案までつくるのは、ちょっとむずかしいかもしれませんが、「業務フロー的思考」では、減らせる箱はないかな、矢印を減らせないかなと考えてみる、と思ってください。
解決策がわからなくても、ゆる業務フローがあれば助けてもらえる
ゆる業務フローを眺めながら、「アレを使えば、ここのムダを減らせるな」と解決案をつくるためには、「アレ」についての知識が必要です。
実は、さきほど図書館の例の、間に人をはさまず、利用者に直接システムを使ってもらうのは、解決策としては定番だったりします。
また、問い合わせや依頼がEメールやチャットのような自由記述形式で届くので、不明点の確認で何度も往復があってムダだなと思うとき。フォームという手段を知っていれば、Eメールやチャットではなく、フォームで受け付けよう。そうすれば、入力項目が固定できる上に、エラーチェックや選択式にできるので、情報漏れによる確認作業(とデータのやり取り)を減らせるぞ、と分かります。
仕事のやり方を見直して、作業を減らしたり、システムへのアクセス回数を減らしたり、流れるデータを整えたりするためには、実現手段を知っておく必要があります。
でも、自分ひとりでいろいろな解決手段や、世の中のソリューションを知り尽くすのはむずかしいですよね。
そこで、ゆる業務フローの出番です。現状のゆる業務フロー(As-isと呼んだりします)があれば質問しやすくなります。
「いまこんな感じなんですけど、どうにかならないですかねー」
と現状のゆる業務フローを見せれば、業務コンサルやITコンサルのようなプロはもちろんのこと、業務改善が得意なセミプロのような人や、社内事情に詳しい人などから、多様な観点で改善案をアドバイスしてもらいやすくなります。
ゆる業務フローを描いて、ムダな仕事を減らそう
おさらいします。ゆる業務フローを描いたら見るべきポイントは
登場人物がやけに多くないか?
似たような作業を何回もやってないか?箱を減らせないか?
データ(矢印)があちこち飛び交ってないか?
の3点です。
複雑な仕事はたいてい登場人物が多かったり、データ(矢印)がいろんな人の間を行ったり来たりしています。問い合わせ内容だったり、指示だったり、書類だったり、Excelだったり。
それらをタスクの一覧にしておき、順番にこなしていけば、たしかに仕事は終わりますが、効率的なやり方かどうかは分かりません。
あなたのチームに改善したい仕事があったら、ぜひ「ゆる業務フロー」を描いてみてください。そして、3つのポイントで眺めてみて、ムダな仕事を減らしてみましょう。
ふだんは、スタートアップ・ベンチャー企業の経営伴走、新規事業立ち上げの伴走、中小企業のDX推進・仕事の見える化支援をやってます。
会社のWebサイトでもコラムを書いてるので、よかったら見てみてください!