採用面接では「考え」ではなく、「行動」を聞く
スタートアップのような会社が「これからドンドン事業を伸ばしていこう」と思うと、必ずぶつかる壁が採用だ。
今の会社に入ってから、ものすごくたくさんの面接をしてきた。4年間、ずーっと採用してる。今も絶賛採用中。いま数えてみたら、これまで軽く100人以上と面接している。自分でもビックリ。
最初はとにかく自分で面接するのだが、チームができてくると、徐々にメンバーにも面接に入ってもらうようになってくる。そこでふと気づくのが「みんな、採用面接やるの初めて」ということ。こりゃイカンと、慌ててトレーニング資料を作ったものだ。
スタートアップに限らず、採用は超重要!とはよく言われるものの、じゃあ「どう採用面接すればいいの?」については、意外と共有されていない気がする。
面接関連の記事や知見は、たいてい面接を受ける側に向けた話だ。検索すればいくらでも出てくる。良記事もたくさんある(実は読んでないけどw)。
一方で面接官側について検索すると、「こんな質問をしましょう」「こんな質問はNGです」とか「相手をリラックスさせましょう」とか、ソウジャナイ感あふれる内容ばかり。
そんなワケで3年以上前にチャチャっと作った社内用のトレーニング資料をいまだに使い回していて、つい先日も初めて採用面接に入るメンバーに説明した。
骨子はこんな感じ。
Hire for Company, not hire for Role.
Behavior-based Questions で深掘っていくべし
面接で見るべきポイント ー スキルはほんの一部
第一印象という名のバイアスに注意せよ
で、ふと思いついた。これを公開してみようと。
そうしたら、もっと詳しい人がさらに良い話を公開してくれるんじゃないかと。面接を受けるときはこういう準備をしてきて欲しい、という記事をいつか書こうと思っていたけど、むしろ面接する側の話を書いたら面接を受ける人にも役立つんじゃないかと。
というわけで、上記をベースにしつつ、加筆・編集してみた。
「はじめて採用面接をする側になったけど、どう面接すればいいの?何に気をつければいいの?」という人の参考になるはず。
1. 職種に採用するのではない。会社に採用するのだ|Hire for Company, not hire for Role.
外資系本社のトレーニングで最初に掲げられていた点がこれ。
終身雇用ではないアメリカ企業ですらこう言っているのだ。いわんや簡単に解雇できず、転職もそう頻繁ではない日本において、これは本当に大事で、私も常に心に留めている。
人が足りない!即戦力が欲しい!経験者大歓迎!
スタートアップは、常にこういう状態なわけだが、そこでつい魔が差して「スキル採用」をしてしまうと、あとで後悔する。多くの会社が「カルチャーフィットを重視してます」と言ってるのも同じような話だと思う。
ぶっちゃけ「カルチャーフィット」なんてキレイな言葉で表現しているが、単純な「ウチの会社に合う・合わない」という観点に加えて、採用側が見ているのは「この人は、どこでもいいからこの手の仕事がしたいのか、それともに加えて、採用側が見ているのは「この人は、どこでもいいからこの手の仕事がしたいのか、それとも「ウチの会社でそれをやりたいのか」という点。
つまり、半分は本当にフィットを見ているが、もう半分は実はパッションを見ている。
弊社もそうだが、たいていの急成長企業は半年ほどで会社や事業にとっての重要アジェンダが変わる。やってもらおうと思っていた仕事の優先度が変わったり、下がったりする。逆に、全然想定してなかった仕事が生まれたりもする。
つまり、この職種にピッタリ!と採用しても、そもそもその仕事をやり続けてもらうかどうか、採用側もわからないわけだ。
「どこでもいいからこの仕事」と思っていた人は、そんな状況を乗り越えられない。でも「この会社でこの仕事を」と思っていた人は、別の仕事をアサインされても頑張れる。会社の中でキャリアを作れる。なぜなら、「この会社で」には何らかの思いがあるはずで、その思いが実現できるなら、別の仕事でも頑張れるものだから。
昨今は専門スキル重視の傾向が強いし、そういう採用もあるとは思うけど、基本的な考え方は、会社で活躍できる人=会社で career develop できる人=事業環境や職責が変わっても活躍できる人、だと思っている。
なぜなら、スキルは後からdevelopできるが、仕事への姿勢や会社への情熱を後からdevelopすることはできない、から。(なんかもっとうまい言い回しがあった気がする...)
2. 面接で見るべきポイントは Behavior-based Questions で深掘っていくべし
このnoteで一番大事なポイント。この話だけでもいいんだけど、せっかくなので1〜5までまとめたのがホントのところ。
面接という限られた時間でその人の特性を知り、自社に合った人材かを判断するには、面接する側に準備とスキルが必要だ。
日本語訳を知らないので、英語のままで恐縮だが、その中心となるスキルがこの Behavior-based questions (behavioral questions)。
非常に効果的なので、面接する人は全員マスターすべきだと思っている。
基本的な考え方は、こうだ。
過去にある行動を取った人は、将来も似たような行動を取る可能性が高い。自社にありがちな状況や難しい問題にぶつかったとき、どういう行動をする人なのか、どういう軸で判断する人なのかを知れば、1の「ウチの会社に合う人なのか」が判断しやすくなる。
つまり、言葉や考えじゃなく、行動や姿勢(≒判断基準)を聞く。
面接ではいい感じのこと言ってたけど、実際に仕事してみたら期待と違った、は避けたいもの。ミスマッチで入社した人自身も活躍できず、双方にとって良くない結果になってしまう。
Behavior-based questions を繰り返すことで、相手の「考え」(場合によってはその場しのぎの発言)ではなく「過去の行動」やそのときの「判断基準」を理解していく。その人がどういう行動を取る傾向があるのか、どういう軸で判断する傾向があるのか。
具体的には、過去の経験を聞き、そのときに何をしたのか、どう考えたのか、といったことを聞いていく。
逆に面接を受ける前に、こういう観点で自分のキャリアを振り返っておくと、自分は働く上で何を重視しているのか、どんな状況でストレスを感じるのか、どういうときに情熱が湧くのかがわかると思う。
3. 面接で見るべきポイントはハードスキルだけじゃない
上の例でもわかるように、XXをやったことがあるか、XXができるか、といったスキルや実績を問うような質問ばかりしていてはミスマッチが起きやすい。
1 で書いたように候補者の方のパッションを知りたいし、未経験の状況でも対応できるような地力があるのかも知りたいし、チームメンバーと一緒に働けそうかという点も知りたいし、これまでどんな風に仕事の幅や深さを増してきたのかも知りたい。
それらを知るためには、面接官として準備が必要だ。どの質問で何を得るのか、予定どおり聞けなかったらどうするのか、優先順位は、などなど。
ちなみに、私の場合ざっと以下のような内容を知りたいと思っている。候補者の方の職歴や採用職種によって、優先順位や強弱は調整するが、大きくは変わらない。
弊社はまだ中途採用だけなので、当然 Achievement(実績)は重視するが、同時に2のようなBehavior-based Questions を質問をすることで、これらを知ろうとしている。
見ての通り、Functional/industrial knowledge(業界知識・専門スキル)は、面接で知りたいことのほんの一部でしかない。
4. 第一印象という名のバイアスに注意せよ。
アメリカだと履歴書に写真も貼らないので、本当に面接で会ってはじめて『こういう人なのか...』という第一印象のインパクトが強いのだが、これも注意したい点。
少し長いが、説得力のある説明があるので、こちらを参照してほしい。
けっして書くのに疲れてきたわけではない。
まとめると、とにかく最初の30分では判断しない。2の質問(Behavior-based Questions)を重ねて、候補者の方を知ることにフォーカスする。
実際、時間が経つにつれてジワジワ来るタイプの方がいて、最初の印象と面接後の印象が大きく変わったことがあった。採用後、すぐに活躍しているのを見て嬉しくなった。
5. 評価は Hire / No Hire の2択。迷ったら No。
人が足りない!即戦力が欲しい!経験者大歓迎!な状況が続くと、採用側も心が折れてくる。つい「んー、ちょっと微妙な気もするけど、採っちゃおうかな...」と思ったりもする。そういうときは念のため、別の人との面接を組んで見てもらったりするんだが、たいていそこで「なんか違うよね?」となる。あぁ、ゴメンナサイ、やっぱそうだよね。こういう無駄な判断保留は、候補者の方の貴重な時間を費やすことにもなるので、良くない。
これを避けるひとつの方法が、中途半端な評価を排除すること。
「自分では判断つかないけど、XXさんがいいならいいんじゃない?」「XXさんがOKと言うなら、たぶん大丈夫なんだろう」といった逃げの余地を残すのは良くない。
面接するからには、2択でハッキリ判断しないとダメ。
こういうところ、外資はかなりハッキリしている。
「面接官は事前決定、この5名。全員が Hire の評価なら採用。ひとりでも No Hire がついたら不採用。例外対応してほしければ Hiring Manager によるエスカレーションが承認される必要あり」という明解なルールで運用されていた(日本法人は違ったかも)。
迷ったら No 。
過去の経験から言えるけど、あ、この人はきっとこの会社で活躍できそう!という人はすぐわかる。だから、迷うことなく Hire をつけられる。
そうでない場合はたいてい、入ってからお互いに苦労することになる。
会社や仕事は本当に星の数ほどあるわけで、わざわざお互いにアンハッピーになる道を選ぶ必要はない。そう思って、迷ったら No と判断するのは、会社のためだけじゃなく、候補者の方へのリスペクトだと思っている。
もうひとつ大事なこと
ここまで書いてみてあらためて気づいたのは、面接って「見抜く」とか「見極める」とかじゃなく、候補者の方をよく知るためのものだということ。
とにかくよく知りたい。よく知ることで、自社で活躍してもらえそうかを判断する助けになる。逆に、採用側も候補者から見られているわけで、そういう意味ではお互いによく知ることが大事。
いきなり突っ込んだ質問から始めたらお互い固くなっちゃうので、ラポールの形成から始めようとか、自己紹介は自分からやろうとか、候補者の方のお名前はちゃんと確認しようとか、候補者の方がリラックスして話せる雰囲気にしようとか、沈黙が続いても待とうとか、話がズレてきたらちゃんと戻そうとか、Google検索でよく出てくる話もすべて、お互いを良く知るため。
十分に準備をして臨んだ面接の結果、No Hire の判断に至ることも、もちろんある。そのときに、候補者の方に「あそこはいい会社だったな」と思ってもらえるようにするのが、理想の面接だ。
世間は狭い。いつ、どこで、どんな風に関わるかわからないし、そもそも採用なんてタイミングが大いに影響する。今回はたまたま合わなかっただけで、違うフェーズならぜひ欲しかった!というケースなんていくらでもある。そういう人には自社に好意的でいてもらった方がいいに決まってる。だから、最初から最後まで、きちんと敬意をもって接するのがとても大事。
その人が友だちから転職相談を受けたら「あの会社、自分は落ちたんだけど、いい会社だと思うよ」と言ってもらえたら最高でしょ。
面接を通じて、社外にファンを作るつもりで面接しよう。
あとがき
ここでまとめている内容に、私オリジナルな内容はほとんどない。これまでに受けてきた面接官トレーニングの内容から、自分にとって重要と思う部分を抽出して編集しただけ。
幸運にも、過去に面接官としての基礎をしっかり学べる機会が2回あった。
ビジネススクール(いわゆるMBA)の面接官をやったときと、外資系の本社(アメリカ)で自分の同僚を採用するとき。
私が卒業したビジネススクール(ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院)は面接必須、かつ必ず一次面接は卒業生が実施する。学校に合う人材は卒業生が一番わかっているはずという考え方だ。
そして非常に明確に「こういう観点で見てほしい」「面接はこういう風に進めてほしい」という点をガイドブックにまとめて、面接官となる卒業生に伝えている。このガイドブックはホントに「はぁ〜、よくできてるね〜」と感心する出来映えで、読み込むだけでものすごく役立った。
そして実際、それにしたがって面接をすると、たしかにわかったのだ。相手の言っているが面接用の話なのか、そうじゃないのかが。それ以来、もう10年以上この考え方をベースに、微調整を加えながら面接をしている。
逆に言うとベースの部分は10年以上アップデートしていない。大企業で働いていると、きちんとした理論的バックグラウンドに基づいた知見を研修で得られるのが、すごく良かったんだよねぇ。もしかしたら、いまは新しい理論やメソッドが開発されているかもしれない。冒頭にも書いたとおり、詳しい人が知見を公開してくれるといいなぁ。
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