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破滅の代償

「破滅の代償」

土砂降りの夜、雨が冷たい針のように降り注ぐ裏路地で、男は手に重い鉄砲を握りしめていた。黒いスーツは雨に濡れ、しっとりと体に張り付く。闇の中で彼の呼吸だけが響き、心臓が胸の内でドクンドクンと鳴り響いていた。

「これで、全てが変わる――」
彼はそう信じていた。長い間、自分の昇進のためならどんな命令にも従ってきた。組長から「今回の仕事を成功させれば、将来を約束する」と言われたとき、男は躊躇なく決断したのだ。ターゲットは敵対組織のボス、標的はもうすぐそこにいる。男は自分がその夜を境に新たな人生を始めると信じ込んでいた。しかし、現実は無情だった。

彼がボスの胸を撃ち抜き、その命が途絶える瞬間を見届けたとき、裏切りが待っていた。背後から突然の気配、次の瞬間、男の手首は冷たい手錠に締め付けられていた。振り向いた彼が見たのは警察官たちの無数の影だった。男は一瞬の抵抗もできず、言葉を失った。組織に切り捨てられた――それを悟るまでに時間はかからなかった。

警察署の鉄格子の向こうで彼に言い渡されたのは、8年という長い懲役刑だった。男は静かに瞼を閉じ、その暗闇の中でただ組織への復讐心を育てていった。檻の中での8年は永遠に続くかのように思えたが、その心には怒りと失ったものの重さが積もり積もり、彼を更なる暗闇へと沈めていった。

そして、8年後の出所の日。誰も彼を迎えには来なかった。ただ、彼の胸に残されたのは、冷たく燃え続ける復讐心だけだった。かつて自分を裏切り、すべてを奪った組織を地獄の底まで引きずり落とすことを男は心に誓った。

暗闇の街を彷徨いながら、彼は新たな仲間を探し始めた。最初に出会ったのは、肥満体のハッカーだった。男が潜む地下室で、パソコンに囲まれているその男は、かつて組織に追い詰められた過去を語り、同じく復讐を誓っていることを明かした。次に現れたのは、冷たい瞳をした謎めいた少女。彼女は組織との因縁については語らなかったが、無言のまま男の傍に立ち続けた。そして、かつては正義を信じていた元警察官も彼らの仲間に加わった。組織に家族を奪われた彼は、怒りを胸に自ら復讐の道を選んだのだ。

計画は少しずつ進み、彼らは組織のアジトを襲撃する夜を待った。だが、襲撃の決行が迫る夜、突然アジトに催涙弾が投げ込まれる。彼らは混乱の中を必死に逃げ出そうとするが、少女が敵に捕らえられてしまった。彼女を助けるため、男たちは命をかけた最後の戦いに臨む決意を固める。

負傷しながらも敵を一掃し、男はついに裏切った組織の元組長と対峙する。その冷たい瞳の奥には、復讐の業火が燃えていた。組長を冷酷に撃ち倒したとき、彼の長い戦いに終止符が打たれた。だが、復讐を果たしたはずの男の心には、虚しさがぽっかりと残っていた。

復讐がすべて終わり、空虚な時間の中で男は静かに考えた。そして、いつか失った何かを取り戻すように、人生を変えることを決意する。彼は穏やかな微笑みと共に人を迎え入れ、温かいおにぎりを差し出す小さな「おにぎり屋」を開いた。地元の人々に笑顔を届ける日々の中で、彼は少しずつ、心の平穏を取り戻していった。彼にとって、それが本当の救いだった。

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