第1章:ライバルたち
フランス・パリの名門バレエ団「オペラ座」。そこには、二人のバレリーナがいた。一人は生粋のパリジャンであるリリー・デュポン、もう一人は、日本からの留学生である桐谷玲奈(きりや れな)だった。二人は同期でありながら、見た目もスタイルも踊りのスタイルも正反対。リリーはクラシックを愛する正統派、玲奈はそのしなやかな身体を活かしモダンな表現に長けていた。
バレエ団のエースの座を狙うため、二人は密かに激しい競争心を抱いていた。ある夜、玲奈がリハーサルを終えた後、ステージ上でたたずむリリーの姿が目に入った。薄暗い照明の中で、一人踊り続けるリリー。その姿は神々しいまでに美しかったが、玲奈の中には微かな嫉妬が渦巻いていた。
「あなた、本当に才能に恵まれているわね」
リリーの背後から声をかける玲奈。リリーは少しも驚くことなく振り返り、微笑んだ。その微笑みはどこか嘲りを含んでいるように玲奈には感じられた。
「もちろん、そうでなければこの舞台に立つ資格はないでしょう?それに、日本人のあなたがいくら努力しても、このパリでは私には勝てないわよ」
リリーの挑発的な言葉に、玲奈の胸には激しい怒りがこみ上げてきた。だが彼女はそれをぐっと飲み込み、言葉を返さずステージを後にした。その背中には、彼女の決意が色濃く宿っていた。
第2章:影を落とす愛
そんな中、二人の前に一人の男性が現れた。名はルカ・ベルナール。彼はバレエ団のスポンサーの一人であり、裕福な実業家であった。ルカは若くして大成功を収め、バレエ団のパトロンとして頻繁に劇場に訪れていた。端正な顔立ちと洗練された物腰に、バレエ団の女性たちは誰もが一目置いていたが、リリーと玲奈の目には違った意味で彼が映っていた。
ルカは、バレエ団に目をかけると同時に、その中のバレリーナたちとも親密な関係を築いていた。リリーにとって、ルカはステージでの地位を築くための「手段」に他ならなかった。彼は自分を魅力的に見せてくれる道具であり、彼女はそのつもりでルカに近づいていたのだ。ルカもまた、リリーの持つ魅力と野心に惹かれて、彼女に熱を上げていた。
一方で、玲奈もまたルカの目に留まっていた。玲奈は純粋にバレエに情熱を傾けていたが、ルカは彼女の無垢さと情熱に興味を持ち、彼女に近づくようになった。玲奈は最初、ルカの意図を疑わなかった。彼が自分の踊りを応援してくれる「友人」だと信じていたからだ。しかし、次第に彼の言葉には裏があることを感じ始めるようになった。
「君には才能がある。パリでも一流になれる資質を持っている」
ルカの甘い囁きに、玲奈は揺れた。日本で期待され、パリで夢を追い続ける玲奈にとって、彼の言葉は甘美で心地よかった。だが、次第に彼の手が自分の肩や腰に触れるたびに、玲奈の心はざわつきを覚えるようになっていった。
第3章:嫉妬の炎
ルカを通じて、リリーと玲奈の間の溝は次第に深まっていった。リリーはルカが玲奈に興味を持っていることを察し、彼女に対して一層の敵意を抱くようになる。バレエ団内での練習やリハーサルの際、リリーは玲奈の動きに辛辣な批判を加えるようになった。
「あなた、そんなふわふわした踊りで舞台に立つつもり?」
リリーの冷たい言葉に、玲奈は悔しさを滲ませたが、感情を表に出さないよう努めた。だが、その一方で彼女の心の中には怒りが燻っていた。そして、そんな彼女の姿を見ていたルカは、玲奈に密かに支えの言葉をかけては、彼女をリリーに対抗させようとしていた。
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