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組織フェーズの変化に対応できないと”無価値”になる話

マネーフォワード取締役 グループ執行役員、ビジネスカンパニー COOの竹田です。

1年ほど前のnoteで、組織フェーズの転換点について書きました。

その後、社内外のマネジャーや経営者の方々から、この「組織フェーズの変化点」についてよく質問をされるので、今回のnoteでは「従業員数による組織フェーズの変化」について整理してみました。


はじめに

これは、私自身のこれまでの体験から整理した図になりますので、あくまで一例としてご覧いただければと思います。

組織に変化を与える要素はもちろん従業員数以外にも様々ありますが、ここでは、従業員数に応じた変化をまとめています。

ご覧のとおり、マネジャーや経営者は、従業員規模に応じて、異なるアクションやスタンス、考え方をする必要があると思っています。もっと言えば、マネジメントは、組織のフェーズの変化を捉えて自らを変革し続けないと、たとえどんなに伝説的な成果を残した人でも”無価値”になってしまうのではないかと思うのです。

そのくらい、フェーズごとに大きな隔たりがあるということです。かくいう私も実際、過去に、このフェーズの変化を捉えられていなかったり、対応することができずに、たびたび”無価値”になったことがあります。

ということで、ここからは各フェーズについて、ときに私の無価値な様をまじえながら振り返ってみましょう。

組織フェーズごとに必要なマネジメント

(1) 50名までのフェーズ:プレイングマネジャー最強

このフェーズは「想いドリブンな普及活動家による強い個の集まり」をいかにつくり上げられるかだと思います。そして、マネジメントがやるべきは「最強にして率先垂範のプレイヤー」です。

このフェーズは、サービスもプロダクトも未熟ですし、提供価値も機能も足りないものばかりです。そしてもちろん、人もお金もとても少ない。

だから戦略を研ぎ澄ませて、クレバーで効率的なアクションを無駄なくやることが大事・・とか思ったりするわけですが、実はそうではないと思います。

このフェーズは綺麗な戦略を考え続けるよりも、とにかく現実の一歩を進めた方が、体験の価値も、得られる情報も、未来への可能性のタネを得られる確率も大きいと思います。考えるよりも、アクションしてそれらを積み上げた方が、結果的に実効性の高い戦略も紡げるのです。

2017年にマネーフォワードにグループジョインした株式会社クラビスが私の出身母体ですが、この会社の創業者の菅藤さんも私も、誤解を恐れずに言うと戦略家タイプだと思います。

得た情報を熟考し、あらゆる角度からPros、Consを考え、チャンスとリスクを網羅的に羅列して議論をし続ける。そうやって戦略を研ぎ澄ませて「はじめから勝てる戦(いくさ)をする」。どちらかと言うとそんなタイプではないかと思います。

事実、クラビスは、当時誰も目をつけていなかった会計事務所の記帳代行という領域にビジネスチャンスを見出し、特段強い競合もいないその領域で、唯一無二のポジションを得ることができました。

ただ、その後マネーフォワードにグループジョインし、さまざまな経験をした今、当時を振り返ってみると、私には「もっとこうしていればよかったのかもしれない」と思うことがいくつかあります。

その大きなひとつが、もっと圧倒的に、がむしゃらに、なりふり構わず「アクション」をするべきだったのではないかということです。その「アクション」とはプロダクトの普及活動もそうですし、人の採用、資金の調達、そしてTAMの拡大もそのひとつです。

想いと夢を、圧倒的な行動によって実現するアクションを徹底的にしていたらどうなっていたのだろう。特に、当時のクラビスで資金調達とセールスを担当していた私は、責任を感じるところがあります。もっと力を入れるべきこと、もっとこだわるべきことがあったのではないか。

このことは特に、マネーフォワードに入ったときに感じさせられました。マネーフォワードは失敗を厭わず、およそ無茶にしか思えないタイミングで無謀に見えるアクションをし、どんどんTAMを広げて、そして同時にたくさんの人の器を借りに行くアクションを圧倒的に行っていました。

どこからこの自信が出てくるのか。もしかして大事なものが見えていないんじゃないか・・というのは冗談ですが(笑)、なにしろそのくらい「燃えるもの」を心に持った人々の集団でした。

強い想いとそれを信じ切る力、そして集まった人たち全員の高いコミットメント。「遠くにいくために、初期のフェーズですべきことはこういうことなのかもしれない」と思わずにはいられなかった経験です。

(2) 100名のフェーズ:チームをつくる

そんなすごいマネーフォワードでしたが、私がジョインした当時のフェーズはまさにここ。そして、ちょっと苦しんでいました。一方の私はこのフェーズは多少自信を持っていました。というのも、過去に2回ほど経験したことがあったからです。

このフェーズは、これまで創業者とほぼ同じマインドセットで走ってきた初期メンバーとはちょっと異なるメンバーが、一定規模存在するようになったフェーズと言い換えられると思います。創業者による「人治国家」から一定のルールや制度による「法治国家」に切り替えたほうがうまく行くのがこのタイミングです。

100名規模になると、まず、トップが自らの熱量を直接全体に伝えることが普通に難しくなります。また、給与や評価についても、ある程度までは社長が全員分をちゃんと見て、知って、決定することができると思いますが、100名ともなるとさすがにその難易度が上がるわけです。

なので、大抵の場合はマネジメントを配置して、権限委譲をしていくことになります。そうすると必然的に、複数の決定権を持った者が同じ物差しで判断するためのルールや制度が必要になってくるというわけです。

しかし、このマネジメントへの権限委譲、しているようで実態的にはまったく権限を委譲していないケースをよく見ます。

こういう場合、症状としては、現場の実態が経営まで届かず、過去に正解だった手法を組織も事業もフェーズが変わったのにそのまま続けてしまっておかしくなっていたり、あるいは、間に入ったマネジャーが無駄な経由点になっているだけで全体のスピードを落としているだけ、みたいなことが見られたりします。あるいは渡す権限に関する基準や活用の仕方を擦り合わせていないことから、単に組織のあちこちで自由勝手な無法地帯になっているケースも見られるように思います。

ですので、ここで重要なポイントは社員にとっての公平性です。現場の本音をきちんと収集し、正しく情報を扱い、目標そのものを見直したり、評価の仕方を制度やルールに落とし込んで基準をすり合わせることが求められるフェーズと言えます。

(3) 300名のフェーズ:チームが階層構造に

さらに難易度が増すのが、300名のフェーズです。

このフェーズになると、組織が複数の階層構造をとるケースが出てくると思います。

それまでせいぜい多くても10人〜20人程度のメンバーを直接まとめていたマネジャーが、同様の規模のチームを複数同時に抱える必要が出てきます。そうなると当然、一次情報が遠くなるわけです。

これまで力強く組織を牽引してきた優秀なプレイングマネジャーが、突然いまいちなパフォーマンスになったりするのもこのフェーズに多く見られるように思います。マネジャーが明確に「他人を介して業績に貢献する」という技を身につける必要が出てくるフェーズとも言えるのかもしれません。

ちなみにこのときに経営(=この規模の組織を下位のマネジメントに任せる側)が必ず行わなければならないのは、サクセッションプランの策定です。自分の仕事を任せる後継者にどんな役割と責任を引き渡すのか。言い換えれば、自分自身のジョブディスクリプションを言語化するということです。

そういう意味で、このフェーズのキーワードは再現性を考えるということだと思います。ちなみに、このフェーズに関係する私自身の失敗体験はこちらです。

この失敗と学びは、まさに「他人を介して業績に貢献する」というマネジャーとしての技を身につけられた機会だったように思います。

(4) 600名のフェーズ:マネジメントの仕事はアジェンダセッティングに

600名規模のマネジメントの仕事は課題を解決することではなく、何が課題なのかを定義することに変革させる必要があります。 

かく言う私は、このフェーズで10年ほど前に大きなつまづきを経験しています。それまで現場の第一線から徐々に大きな仕事を任せていただき、少しずつできるようになってきた私は、いよいよそれまで自分がやってきた課題解決の業務を後進に渡す日がやってきました。

信頼できる後進の役員は、私にはない大胆さも持って、大禍なく業務を遂行してゆきます。私がこれまでやってきた、私のできることのすべてを彼がやるようになって、自分が何をすべきなのかわからなくなりました。

気づけば毎日、会食と、大きな金額の値引き決済と、誰も畳むことができないトラブルやクレームの対応ばかりです。まさに自分の”無価値感”を感じ、どんどん自信と気力を失ってしまった私は、配置転換を願い出て、逃げるように別のミッションへ。逃げの判断の先に成功はありません。結果は推して知るべしです。
今なら、このときに私が何をすべきだったのかがわかります。それがまさにアジェンダセッティングなのです。

ビジネスを進めていくと、日々、大小様々な課題が出てきます。もちろんすべての課題がクリアできればいいのですが、それはまず無理です。そんな中、みんなで場当たり的に課題解決にあたっていると、全部中途半端になってしまったり、めちゃくちゃ忙しいのに特になにも改善されない、みたいな状態になります。もっと悩ましいのは、基本的に現場は短期視点で個別最適で、そしてスマートかアナログかにかかわらず、オペレーティブになっていく特性があり、そして現状維持バイアスがかかっていくということです。

まじめできちんとしている組織ほど、そうなる気がしますので、要はこれまでうまくいっている組織ほどそうなるのだと思います。緩やかに、しかし確実にその症状は進展し、気付かぬうちに組織がサイロ化したりして、みんなで一丸になって大きな変革に立ち向かうといったことがとても苦手な組織になっていくのです。

このフェーズのマネジメントもそうなのですが、そもそも経営に常に求められる役割が、先々の理想のビジョンから逆算した、今着手すべきテーマの設定、アジェンダセッティングなのだと思います。

一見、多くの課題に対処できているようで、その実、緊急度の高いものには対処しているが、重要度の高いものには手を出せていないといったようなことはないでしょうか。もしそうであれば優先順位を変える必要があると思います。

あるいは、誰も拾うことができない大きな課題がそのまま放置されていたりはしないでしょうか。もしそうであれば、誰も拾うことのできない重要度の高いものこそ、あなたが拾って率先するべきあなたの仕事なのかもしれません。

会社が掲げているミッションの実現や理想の未来に、今のやり方、今の速さで果たして辿り着けるでしょうか?もしそうではないのであれば、今、変化点をつくらなければならないということが一番のアジェンダになるでしょう。

(5) 1,000名以上のフェーズ:会社OSの入れ替え

このフェーズは、まさに今私自身が初めて経験しているフェーズですので、他のフェーズのように語れることはあまりありません。ただ、なんとなく感じているのは、会社のオペレーションシステムを入れ替えるくらいの変革を乗り越えなければいけないのではないかということです。

たとえばプロダクトを作ろうと考えた時、創業期であればトップの一声をきっかけに、少人数のチームでとにかくスピード重視の開発をすることが大事でした。誤解を恐れずに言えば、一人でもいいので建てられる人が「小屋」を早く建てることが大事だった。しかし、多くのユーザーがいる今の状況で小屋をつくったらどうなるか。すぐにいっぱいになってしまったり、すぐに壊れてしまったり、何よりすぐに建て直しをしなければならなくなってしまいます。

今やらなければならないのは、要求をきちんと精査し、要件を定義し、設計を持って計画的に「ビル」をはじめからつくりに行くことです。当然入念な検査も必要ですし、拡張性の計画も視野に入れた対応を行う必要もあります。できる人がひとりでやれる状態ではありません。チームで立ち向かわなければできない仕事をしなければなりません。

さまざまな関係者や部署と調整をする必要も出てきます。リソースの調整も優先順位の変更も必要になります。全体としては以前よりスピードが遅くなります。そして、個人は、チームやプロジェクトのために、ときに自由を犠牲にする必要も出てきたりします。

さまざまな摩擦や変化を乗り越えなけれならないフェーズだと、心してかかる必要があると思っています。

おわりに

1980年代から1990年代にかけて活躍した、セルゲイ・ブブカというウクライナ出身の棒高跳びの選手をご存じでしょうか。彼は、自分の世界記録を大会ごとに1cmずつ更新していき、引退するまでに世界記録を35回も更新して「鳥人」と呼ばれました。

タイトルに書いた「組織フェーズの変化に対応できないと“無価値“になる」というのは、実は私が自分の経験から痛感し、そして、自身に言い聞かせている言葉です。

フェーズの変化に対応できる人間であり続けるのはとても難しいことだと思います。それに、ひとそれぞれ好きなフェーズ、そうじゃないフェーズもありますので、苦しいものでもあったりします。

ただ、登って初めて見える景色もきっとあるのだとも思います。

私もブブカ選手を見習って、自己ベスト更新のチャレンジをし続けようと思っています。年にたったの1mmでもいいので。

Work illustrations by Storyset


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