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『出張先の背徳めし』
出張先ではホテルで朝食を食べることが多い。大抵はビュッフェスタイルで、その土地の郷土料理を盛り込んだものもある。日常はわりと、食事には気を使いながら、なるべく偏らないように、カロリーを気にしながらの食生活を送っている。
しかし、いざ出張に出かけると、普段の節制気味な生活のタガが外れてしまうようだ。
先日も群馬県で朝から仕事があり、前橋駅前のビジネスホテルに宿泊した。朝4時に起きて仕事の準備をした後、最上階にある露天風呂に入り、眼下の街並みを一望した。その日はとても晴れていて眺めも良く、清々しい日だった。
風呂から上がり、部屋に戻ると6時半を回っていたので、身支度をして朝食会場へと向かった。
ゴールデンウィーク前の平日のためか、さして混んでいる様子もなく、木漏れ日が差し込む窓際に席をとり、まずはぐるりと会場を眺めた。
最初に目に入ったのが、上州豚のトンカツだ。その隣には、エビフライと唐揚げが山盛りになっている。ウェルカムボードには「群馬の自慢の上州豚でカツカレーはいかがですか?」と朝から垂涎のご提案。
その次のテーブルには、和物の小皿がたくさん並んでいた。ほうれん草のお浸し、しらすと大根おろし、きんぴら、ナスの揚げびたし等々。その次は玉子焼き、お漬物、納豆、とろろ。そしてサラダコーナーには、レタスやプチトマト、マカロニサラダ、ヤングコーンなど色とりどりの食材が並んでいる。
朝の露天風呂からの開放的な気分も後押ししたのだろう。私は早速、お盆と皿を手にとり、欲望のまま、次から次へと目ぼしい品々を皿の上に放り込んだ。
オススメのカツカレーをはじめ、数々の食材で一杯になったお盆からは、小皿がはみ出でしまって、落ちないように身体を傾けながら、なんとか溢さずに席まで運ぶことができた。
その後、みそ汁とお茶をとりに行って、改めて目の前の料理を眺めると「おまえ、朝からそんなに食べて大丈夫か?」と内なる声が。確かになぁ。こりゃとり過ぎだ。
しかしここで戻すわけにはいかない。さらに飯を残すと目が潰れるというのが親の教育方針だった。覚悟を決めて、いさみ朝食をスタートさせた。
まずは熱々のごはんに上州豚をのせて、たっぷりとルーのかかったカレーにめがけてスプーンをどぼん。サクサクのカツと共にそのまま口元に運んでガブリッ。
「やっばっ。うっまっ」
その後はゾーンに突入して馬食い状態。バクバク、サクサク、ゴクゴクと息つく間もなく平らげてしまった。
気づくとテーブルの上には、たくさんの皿が積まれていた。私はその皿をしばし見つめた。
「なんか恥ずかしいなぁ。。。」
気分を入れ替えて食後のコーヒーでも飲もうと立ち上がると「私もいかがですか」とけなげな表情を浮かべた「できたての目玉焼き」が目に飛び込んできた。
私は自分の意志ではないかのように、ふたたび白飯を茶碗に盛り、目玉焼をその上にのせた。
そのまま何食わぬ顔で席まで戻り、目玉焼きを箸で崩してごはんに混ぜ、その上に少し多めのしょうゆを垂らした。
準備が整うと、そのまま口元に茶碗を近づけて、手首をテコにしゃかしゃかと箸を動かして、その作品を口の中にかき込んだ。
そして、最期の米粒を拾い上げて、ゆっくりと箸を置いた。いや〜満足、満足。
その後は、コーヒーをテイクアウトし、部屋に戻ってソファーでしばしくつろいだ。
しかしこれから仕事だというのに、このでっぷりとした腹はどうなんだ。
今日も羽目を外し過ぎたかなと思ってはみるものの、これは最近の出張の度に繰り返されるお馴染みの風景だ。
日常の禁欲生活と対比するかのような出張先の背徳めし。はたしてこのシーソーゲームに終わりはあるのだろうか。