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第7回テーマ「VUCAの時代の戦略論」

バブル崩壊後30年、デフレ経済が続き、もはや日本は諸外国に比べて極めて物価が安い国となってしまった。諸外国からするとメイドインジャパンのブランド品質を保持しながら物が安いというとても魅力的な国に映っている。その結果として、コロナ禍前は「爆買い」に象徴されるインバウンド需要が拡大し、観光立国としての国策が軌道にのるかと思われた。しかし現在はこの国策もコロナ・パンデミックにより大きく後退している。コロナ収束後には再びインバウンド需要が日本の消費を刺激することを期待したい。更にはインバウンドの再興が、適度なインフレへと発展し、国民所得の向上に寄与することを望む。

しかし一方で、ここ数ヶ月輸入原材料、素材関連など様々なものが高騰し始めた。今後は1970年代のオイルショックで勃発したスタグフレーションが危惧される。これは景気が後退しているにも関わらず物価が上昇するというリスクの高い経済現象だ。なぜならスタグフレーションが進むと所得が上がらず物価だけ上昇し、買いたくても物が買えないという状況になる。今回はこのように先行き不透明なVUCAの時代における戦略論、OODA(ウーダ)ループの有効性を検証してみたい。

OODAループとは元アメリカ合衆国の戦闘機操縦士であり、航空戦術家でもあるジョン・ボイド氏が発明した意思決定理論だ。先行き不透明な時代の新たな戦い方を示した戦略論のひとつとして注目されている。転じて昨今のビジネスにおける競争戦略にも実践的に応用されている考え方である。これは「観察(Observe)」「仮説構築(Orient)」「意思決定(Decide)」「実行(Act)」の4つのワードの頭文字で表表現されている。

PDCAサイクルと似ているが、これとの違いはじっくりと調査し、計画し、実行するという考え方ではないということ。不透明で正解が見えない状況では、全体を俯瞰して(Observe)当たりを付けて(Orient)やることを決めて(Decide)行動に移す(Act)というサイクルをアジャイル(迅速)に回せということだ。一つの打ち手に固執するのはなく、ダメなら次、次と矢継ぎ早に矢を放つ中で、可能性が高そうな的が現れたなら、そこに資源を集中して突破口を拓くという戦い方。何が正解かわからない時は机上で考えるよりは行動から可能性を見出した方がはるかに実践的だ。

しかしこの戦略論の有効性は理解できたとしても、この考え方に沿って組織を動かすのは簡単ではない。特に食品は私達の生活に欠かせないものであるが故に、ルーティンに商品が生産され、川下へと流れていくシステムが出来上がっている。他業界と比較しても新たなチャレンジに抵抗を感じ易い業界である。

日本は先進国中、最速で人口減少、少子高齢化が進んでいる国でもある。胃袋の減少は食品マーケット需要を直撃する。「売上=(a)平均単価×(b)客数」。この方程式の(a)(b)どちらを引き上げるのか。これを真剣に考えねばならない。今までのやり方を変えなければこのVUCAの時代を乗り切ることはできない。今こそOODAループを戦略的に試みるときではないだろうか。
(日本食糧新聞掲載 令和3年9月28日)

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