映画『MOTHERマザー』を観て
秋子(長澤まさみ)が遼(阿部サダヲ)と旅行にいくため、周平(見た感じ小学1年生位)を近所の市役所職員の男に無理矢理預ける。市役所の男は周平を家に連れていくつもりはない。「ひとりで大丈夫だよね?」有無を言わせない言葉をかける。
ガスが止まり、カップラーメンに入れるお湯がない。周平はカップラーメンをそのままバリバリと食べている‥。
母親が帰ってくるまでテレビゲームばかりして一人でじっと待っている。すると夜中に電気が止まる。
どんなに心細いだろう‥。
コツコツとハイヒールの音が聞こえてくる。『お母さんが帰ってきたのでは?』と期待が膨らむが、隣の家のドアが開く音がする‥。
秋子は自分や子供を保護しようとアプローチしてくる職員に対して、いつも反抗的だ。
「自分の子供は自分で好きにしていいんだよ!」と言う。
働くことを嫌い、男をその気にさせることが得意だと思っている秋子は、たびたび男を部屋に引っ張りこむ。そのとき周平は、ただ静かにその場から逃げる。
貧困のあまり家がなくなり、路上生活を余儀なくされ、お金がなくなると秋子は「ババアに金借りてきて」と周平に金をせがみに行かせる‥。
いつもキレイな役が多い長澤まさみが、世間を諦めきった空虚な目をしている。
母親(木野 花)との関係が悪かったことについて暴言を吐くシーンがある。
「いつも妹ばかりかわいがって」「私のことは嫌いなんでしょ!!」
親との関係性が自己肯定感に結びつくと聞いたことがある。
秋子は言う「周平は私の分身なんだよ。絶対に私を捨てられない」と。
自分の都合の悪いこと、やりたくないことはすべて周平にやらせる。
カップラーメンのお湯入れ、買い出し、元夫に金を借りに行かせる、母親や妹に金を借りに行かせる。
周平が大きくなり、住み込みで働き始めると雇い主のデスク回りの金目のものを盗ませる。金庫から金を捕ってこいと命令する。そして最終的には殺人を計画する‥。
周平役で新人の奥平大兼がいい。端正な顔立ちだ。母親のために、母親の求めることすべてに応じていく。
1度だけ母親に言い返すシーンがある。
「ふたりで(秋子と遼)行けばいいじゃない。僕はここに残ってもいいでしょ?」秋子「何で?」「勉強したいから」「そんなことしてなんになるの?あんたあの女のこといっちょまえにイヤらしい目で見てたでしょ。気持ち悪いって言ってたよ。あんたのこと臭いって。」
あのときの悲しそうな目‥。
自信を失う言葉だけをかけ続けられる。
母親のだらしなさ、セックス、怒鳴られる毎日、貧困にあえぐ周平。
それでも、どんなにひどいことをされても、周平は「お母さんは僕がいないと生きていけないんだ」と信じている。
「お母さんが好きだ」と‥。
母親は確かに自分が産んだ子供のことを「分身」だと思う。
だから「かわいい」と私は思ってきた。自分のようになってほしい、または自分のようになって苦労をさせないために、いろんな手立てを考え、愛を伝えるのだと。
けれどそうではない親もいる。自分さえ良ければいい、子供は都合のいい存在。自分の心の捌け口。うまくいかないことも、面倒なことも、全部押しつけ、背負わせる。
この映画を観ている間、「何で反抗しないのか」とも思ったが、生まれたときから共依存しているとそれが当たり前になり、考えることをやめてしまうのかもしれないと感じた。
観ているのが辛くなる映画だったが、実話に基づいている作品だと後で知った。
子供を放置して遊びに行き、何週間後かに戻ってみたら赤ちゃんが死んでいたとか、悪いことをしたから『罰』だといって閉じ込めてご飯をあげずに亡くなっていく子供もいる。
世間にはたくさんの毒親がいる。
本気で関わり、救える人や組織が日本社会の仕組みに必要だと思った。
俳優陣がとてもリアルな演技をしている。
ぜひ劇場で観てほしい。