【読書録78】管理職は陳腐化リスクを乗り越えよ!~藤井薫「人事ガチャの秘密」を読んで~
ちょうど、人事異動についてモヤモヤしていたところにキャッチーなタイトルの本書が目に飛び込んで来た。
読んで見ると、配属・異動・昇格などの人事の仕組みや人事異動における人事部と事業部の役割などが分かる非常に有益で全うな本である。
私自身、管理職になって10年近くなり、人事異動のプロセスなどの一端に関わることになった。
本書を読みながら「そうそう」と肯いたり、自社の仕組みを俯瞰的・相対的に見ることができた。
著者は、本書について、若手・中堅ビジネスマンをメインの対象にしているというが、一般職社員が、人事異動の仕組みを知り、会社の中でどう戦略的に振る舞うかを考えるのに適した本であることは間違い無い。
また私自身の状況と重ね、専門能力が問われる中での、管理職のあり方についての指摘(「課長の20年」のキャリア開発論)に大いに刺激を受けた。
キーパーソンは直属上司
著者は、「人事部は、人事異動案を作らない」とし、調査結果として、31社の調査で、「各部門が人事異動案を作りほぼ各部門で完結する」とした会社の数を21社68%であったというデータを挙げる。
私の勤務先も、各部門で人事異動案を作っている会社であり、本書で記載されている内容には、ほぼ違和感なく読むことができた。また色々な会社のケースが書かれており、参考にもなった。
そして各部門で実際に異動案を作っているキーパーソンは直属上司である会社が多いと言っているが、確かに直属上司による部分は大きい。
これは、本当に若いころに知っておきたかったところである。直属上司に必要以上に反発してきたところがあり、損してきたなあと大反省である。若いころ昇格が遅れてたのもそれが一因かと改めて思い返した。
人事部は中長期視点
では、人事部の役割とは何か。
P/L責任を負う事業部は、短期目線になりがちなので、「女性活躍推進」などのサステナビリティの観点から中長期に取り組む課題は、人事部主導で取り組むべきと指摘する。
そして、役員候補者選びについても、「人材プール」などの仕組みつくりを人事部で取り組んでいるケースが多いという。しかも人事部内でも極めて限られた人だけが知る、「人事部内でもヒミツの世界」であるという。
役員などの経営職は「経営の専門職」として捉え、こう言う。
経営人財のプールに入るとタフアサインメントや研修などで、これまで以上に仕事がらみの負荷が大きくなるので、本人のコミットメントや覚悟が必要なため、経営職に向けての本人の意志を確認する方向になっていくという。
役員という上位の職を一つの専門職としてとらえ、様々な専門職の中の一つとするのは確かにその通りだし、今後の方向性であろうと思う。
課長の20年
著者の指摘で、興味深かったのは、この課長のあり方のパートである。
著者は、会社員人生のリアルは、標準より優れた人であっても「一般社員20年、課長20年、ポストオフ後3年」であると言う。
そして、この課長20年のあり方こそ、人事部で今後ケアする領域であると言う。
そして、本書で言う「課長職」となり、はや10年近く経つ私に取って、この指摘は非常に重かった。
マネジメントを雑務とするのではなく、どう戦略的業務やリーダーシップの発揮などを通じて成長できるようにするか。とても重要な点である。
では、どう人事部としてケアしていくのか?
著者は、課長20年時代のキャリア開発の観点から、「役職任期制」にすべきだと言う。
任期制を機能させるために任期満了時による退任を原則して、2~3年の任期で、管理職と専門職を双方向運用にすべきという。(もちろん、再任もあるが、再任回数にも限度を設けるべきという。)
専門能力重視という方向性は、肯くことができる。自分を磨き続けなければ会社ひいては、社会に貢献できない。
とはいえ「人事ガチャ」
会社から与えられるポジションは、特に上位職に行けばいくほど、人と人との関係性であり、好きか嫌いか、あるいはご縁としか言いようが無いことが多い。
自分の思い通りになどなると考えない方が良いだろう。
あまり一喜一憂せず、与えられたポジションで全力を尽くし、地力をつけること。それに尽きるのではないだろうか。
またあまり会社に依存しすぎず、自分を大切にして、自分がどうありたいかを起点に考えて、自分の立ち位置をしっかりと固めていくことが必要であると痛感している。
自燈明なのである。
先日、若いころにお世話になった先輩方とご一緒した。
会社から離れてもその自力で活躍を続ける姿には、考えさせられた。
そろそろ自分の軸を固め、会社に頼らなくても生きていけるようになることからはじめようか。