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【読書録73】致知 2023年1月号 「遂げずばやまじ」感想

 東京オリンピック金メダリストの阿部詩選手の表紙が印象的な2023年1月号。
 新年最初の【読書録】は、致知から始めることにしたい。


総リード 遂げずばやまじ


 遂げずばやまじ 「目標を持ったら成功するまで絶対に止めない」こと

「執念の極地を示した言葉」と紹介し、こういう。

古来、世に偉業を成した人は皆、この言葉を体現した人である。

 そして、松下幸之助さんと稲盛和夫さんの言葉などを紹介する。
成功するまで諦めない精神。なかなか真似をできるものではないが、少しでも近づいて生きたい。

 本号でも、その精神を体現する方々が多く登場する。その中から、2本の記事を紹介したい。

人生死ぬまで通過点


 本号の表紙にもなっている、東京オリンピック・女子柔道の金メダリストの阿部詩さんと、日本体育大学柔道部女子監督の小嶋新太さんの対談記事である。

 二人と致知との縁は、元々、致知の読者だった小嶋監督が、オリンピック前に阿部選手に致知出版社の「1日1話 読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書」(「仕事の教科書」)をプレゼントしたことにある。
 阿部選手は、オリンピック前に、1日1話ずつ読み進めたという。

 オリンピックに挑む際のエピソードが印象的である。
日頃プレッシャーを感じない阿部選手も、選手村に入った時に強い緊張感を感じたという。
そんな中、試合の2~3日前に、こういう心境になったという。

こんなに緊張しても仕方がない。これまで準備してきたことに自信を持って、普段通り一戦一戦集中して勝つことだけに意識を向けていこうと心を切り替えることができました。

「オリンピックの魔物は自分の心がつくりだすものかもしれない」としてこう言う。

すべては自分次第であり、どれだけ万全の準備ができるかで決まる。

 「仕事の教科書」には、阿部選手が一番心に響いたという、山下泰裕さんのシドニー五輪の際の、篠原選手のエピソードをはじめ、失敗や挫折を他人のせいにせず、すべて自分に原因があるとする方々が多く登場する。

 この心構えは、成功の法則と言っても良いだろう。阿部選手について、小嶋監督は、「努力のできる天才」と言う。そして、「そういう選ばれた人間しか柔道の神様は声を掛けてくれない」という。

 そして一流の選手の特徴として、努力のできる天才であることに加え、素直であることと、感謝の心を持って人に接していることを挙げる。

人としての基本であり、その基本をきちんとできることが強さにつながるのではないか。

 そんな小嶋監督の話を受けて、阿部選手は、部屋の壁に貼ってある言葉として次の言葉を紹介する。「菜根譚」に出てくる言葉の現代訳であるという。

思い通りにならないからといって心を痛めてはならない。思い通りになったからといって有頂天になってもいけない。平安無事が続いてもそれを頼りにしてはならないし、最初に困難にぶつかっても挫けてはならない。

素晴らしい心意気である。やはり一流の選手は違う。

そんな阿部選手、高校三年生の冬から肩に違和感を抱えており、オリンピック後に手術、リハビリを続けてきて、2022年10月の世界選手権で復活の優勝を遂げる。

パリ五輪を見据え、無理せず来年から復帰する道も、あったのではと問われ、こう答える。

この大会は出なくてもパリ五輪には出場できるだろうっていう打算とか、ちょっとした気持ちの緩み、傲慢さが原因で、一気に崩れ落ちてしまうかもしれない。だから常に期を緩めず、挑戦しようと。

 単にオリンピックというゴールのみ見つめるのではなく、そこまでのプロセスでどうあるか、そこまで考えられる人にかなう人はなかなかいない。

「人生死ぬまで通過点」を座右の銘として挙げる阿部選手ならではである。意識の高さが違う。

 小嶋監督の最後の言葉も素晴らしいので、最後に紹介したい。そろそろ50代が近づく私も大切にしたい。

 私は事あるごとに、人間は死ぬまで学び続けなきゃいけないということを自らに言い聞かせているんです。人生いろいろなことが起こりますが、常に向上心を持って明るく前向きに生きることが大事だと感じています。

やはり致知の読者は違う。私もかくありたいと思う。

勝ち続けるチームのつくり方

 
 サブタイトルは、「帝京大学ラグビー部V10への軌跡」。
昨年まで帝京大学ラグビー部の監督を勤めた岩出雅之さんの記事である。

岩出さんの本は、V9後に書かれた「常勝軍団のプリンシプル」について以前に読書録で書いた。

 本記事は、その後、4年ぶりに10回目の学生日本一に返り咲くまでの軌跡であり、興味深く拝読した。

岩出さん自身、こう言う。

なぜ、”常勝軍団”と言われた帝京大学ラグビー部はトップの座から陥落したのか。またそこからいかにチームを立て直し、再び日本一を掴むことができたのか。
 そのプロセスには、スポーツのみならず、ビジネスや様々な組織づくり、人材育成に生かせる教訓が数多くあると感じています。

「脱・体育会系」「逆ピラミッド化」で常勝軍団を作ってきたが、成功の中で2つの失敗が起こったという。

1つは、エイミー・エドモンドソンの「恐れのない組織」でいう「心理的安全性」についてである。
 岩出さんは、帝京ラグビー部が、真の「心理的安全性」ある組織ではなく、目標達成への責任感がない、「快適ゾーン」に陥っていたことであるという。

 「恐れのない組織」については、以前読書録で取り上げた。心理的安全性という言葉のニュアンスからくる誤解については本書でも強調している。「ぬるい組織」にならず、目標に向かって「学習する組織」になるのが、心理的安全性のベースである。

 帝京ラグビー部なので、目標達成志向がないわけではなかったと思うが、やはり日本一を続けるには、相当な高いレベルで目標達成への意識が必要なのだろう。まさに「遂げずばやまじ」の精神である。

そして、もう一つとして「Z世代への対応」を挙げる。これは正直意外だった。

全員がそうではないとしつつも、Z世代の特徴である、「言われたことしかしない」「失敗を恐れる」「強く指導すると心が折れる」「何を考えているか分からない」「相談せずに(会社を)突然やめる」という点が、部員にも見られたという。

その様な特徴を持つ世代への対応として岩出さんはこう言う。

Z世代にはその言動の背景を理解してうまく介入していく、適切な寄り添い方で伴走していくことが求められます。

 具体的な取り組みとして、「フィード・バック」ではなく「フィード・フォワード」が必要とあるという。

何かに取り組む際に、「なぜそれをやるのか」、目的を事前にきちんと説明し、行動の価値に納得してもらう。

 このような再度の改革により4年ぶりの王座奪還を成し遂げる事になるのだが、振り返って実感したこととしてこう言う。

この四年間で改めて実感したことは、何より指導者自身が「無知の知」に徹し、常に変化・成長する努力と学習を怠らないことの大切さです。

 先ほどの、阿部選手の話でもそうだが、「すべては自分次第だとして、自分に何ができるか考え実行すること」これこそ、「遂げずばやまじ」の要諦であろう。

 そして、最後に、この記事に関連して、2つほど嬉しかったことに触れたい。

 1つは、昨日(2023年1月8日)、帝京大学が、11度目の大学日本一を成し遂げたことである。早稲田大学に対して、73対20の圧勝である(得点数、得点差ともに決勝史上最多)。岩出さんの後を継いだ相馬監督のプレッシャーの重さは想像に難くない。そして、試合後のインタビューで周囲に感謝への感謝を表明するキャプテンも印象的であった。

 そしてもう1つは、円覚寺の横田南嶺老師が、この記事について管長日記で取り上げたことであり、これが一番の驚きであった。

 修行僧の世界でも同じようなことが起こっているというのは驚きでもあるし、伝統と格式の世界で状況を踏まえて、拘らず囚われず、本質を見つめ変革していく姿に感銘を受ける。
 

 そして、何よりも致知のご縁、つながりの素晴らしさを感じた。
私ももっと、致知の内容を自分のものにしていきたいものである。




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