【読書録59】ループしなけりゃ意味ないね~尾原和啓・堀田創「ダブルハーベスト」を読んで~
本書を読んだきっかけ
安宅和人さんがシン・ニホンで言う、「AIxデータ時代」の潮流を俯瞰的に理解したいために手に取る。以前に「アフター・デジタル」について書いたが、また異なった視点で今、企業に求められるAI活用の戦略が、豊富な事例とともに丁寧に説明され、頭の整理になった。
Data is Kingの時代からLoop is Kingの時代へ
副題は、「勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン」。
AIがコモディティ化し、ゲームの焦点が「技術」ではなくなり、直線的なAI活用は、他社にも容易にマネができるため、企業の本質的な競争力向上には寄与しない。今、求められているのはAI活用の「戦略デザイン」であると言う。
著者は、今、問われるべき問いとして、以下3点を挙げる。
単にAIを導入することは、誰にでもできる。またAI導入によって実現する「最終価値」として、売上増大、コスト削減など以下の5つの価値を挙げるが、単に「AI導入⇒最終価値向上」では、逃げきれないという。
では、どうするか?
上記の5つの「最終価値」の増大を顧客に還元する=UX向上という視点が欠かせないという。
「AI導入⇒最終価値向上⇒UX向上」
さらに、上記を通じて蓄積されたデータをAI強化につなげ、直線的に価値を向上させていくのみならずループ化して、UX向上のサイクルを回していく。
その収益化のサイクル、顧客への提供価値向上のサイクルを通じた持続的競争優位を確立するビジネスモデルを称して「ハーベストループ」と言っていると理解した。
そして、その際の留意点として、最初からAIの精度を求めず、いち早くデータを収穫するループを回す事が重要であるという。
Google翻訳の精度向上のプロセスを見ていると確かに、最初から完璧を求めずループを回す事の重要性は理解できると思う。
また戦略立案の目的は、「UVP」(unique value Proposition)を維持し続けることであり、その他社にはない唯一無二の価値とは、「自分たちが決めた軸で一位になること」という整理は非常にわかりやすかった。
そして、「時間」が経てばたつほど、UVPが大きくなるような仕組みを作ることができれば、ライバルたちは永遠に追いつけない。 それを実現するのが半永久的に回り続けるハーベストループであるという。
どんなデータを貯めるのか?
ではどんなデータを貯めれば良いか?
現在のAI技術の主流であるディープラーニングには、自然言語、画像、音声、ビデオなど型にはめられる前の生データである、非構造化データが向いているという。
また人間に関わることはすべてデータになるといい、以下の3つに分類する。
従来のイメージであるデータよりもかなり広範囲のものが、「非構造化データ」というくくりで貯めるべきデータと考えられている。
そして上記のような今まで構造化できなかった領域(データとして扱われなかった領域)にこそ、人間にしかできないと考えられていた仕事の領域があると言う。
そのような「職人芸」の世界にこそ、AIによるメスをいれることでの効果は大きいのではとの主張は、なるほどと考えさせられる。
少子化による人手不足で、技術承継の困難さが叫ばれる中、完璧ではなくとも、少しでも自動化できればその効果は大きいであろう。
UX x ハーベストループ = パーパス実現
著者は、ダブルハーベストの正体として、こう言う。
そして別のループを回す必要がある理由として、持続した競争優位のため、1つのハーベストループだと、競合が追い付きやすい。より複雑で、より模倣されにくいループ構造を築くことで、優位性をゆるぎないものにするためであるという。
モービルアイ社やフェイブ社のダブルハーベストの例を挙げて、ダブルハーベストループとはどういうものかを解説していて、非常にわかりやすかった。
最後に、UXとハーベストループの目的は、「パーパス実現」にあると結論付け、この三位一体の構造を念頭に置いて、構想されているかどうかが、これからのビジネスの勝敗を分けると結論付ける。
「何を志すのか?」AI活用においても重要な出発点であろう。