見出し画像

太ったサラリーマンがダイエットを始めたら猟師になった話

それは35歳を過ぎたころ、仕事終わりの晩酌の酒量がどんどん増えていった。500mlのビール缶を6缶飲み干しその後ハイボール、酎ハイと続く。挙句最後にはラーメンの大盛りか白飯2合を平らげ気絶するように寝ることが日課になっていた。
気づけば鏡に映る自分の顔は丸く、スーツのボタンが悲鳴を上げていた。
日々体はダルく健康診断のたびに「要再検査」の札をいただくことが当たり前になった。
そんな生活が2年ほど続いたのち、僕はまごうことなきデブに成り果て最早自分の体の重さに耐えられなくなってしまい一大決心をした。ダイエットだ。いや、人生のリセットだ。

腕立て伏せを試みるも、あまりの体重の重さに一回も上がらない。屈辱と恥辱にまみれながらも火がついた。まずは暴飲暴食をやめた。夜中のラーメンも、一人揚げ物パーティーも卒業だ。食べた物のカロリーを計算し一日の摂取カロリーを1500キロカロリーに抑えた。24時間のジムにも入会した。初のジム通いが始まる。スクワット、ベンチプレスを中心に大きな筋肉を鍛える。徐々に体重は減り始め筋肉の存在を感じられるようになってきた。脂肪が減っていくことに対し体が無言の抵抗を示し蕁麻疹が出た。しかし半年間の奮闘の末、体重は17キロ減。スーツのボタンも息を吹き返し、顔の輪郭も復活した。だが、代償もあった。ダイエットの主力として食べ続けた鶏のささ身や胸肉を、体が拒絶し全く喉を通らなくなってしまったのだ。

それからというもの、高タンパク低カロリー食材の探求が僕のライフワークになった。様々なプロテインの味を試し、いくつものゆで卵を食べ、豆腐の違いも分かるようになった。牛の赤身にも豚のひれにも赤身のマグロにも飽き、更なる未知の高たんぱく低カロリー食材を求める中である日「鹿肉」という文字に触れた。高たんぱくでカロリーも低く栄養価も高いという。まさに理想の食材だ!
だが問題があった。鹿肉がどこにも売っていないのだ。スーパーにはもちろん、近所の肉屋にもなし。鹿肉を食べるためにフレンチやイタリアンの高級レストランに通っては、ダイエットどころか財布まで軽くなりそうだ。

「自分で獲るしかないか」
そう思った僕は、なぜかその瞬間、狩猟免許を取る未来の自分が見えた。当時流行っていた狩猟マンガを読むとなんか簡単そうに鹿やイノシシを獲っている。「なんとかなりそうだな」という根拠のない自信とともに、僕は狩猟免許の勉強を始めた。

そして、わな猟の免許を手にしたとき、なぜか人生の新たな扉が開かれた気がした。わな猟師としての生活は想像以上に奥深く、楽しく、時に過酷だが、鹿肉を手にする喜びとともに、体も心もますます健やかになっていく。気がつけば「太ったサラリーマン」だった僕は、今日も次の獲物を得るべくわなを仕掛けている。

いいなと思ったら応援しよう!