そのとき主審は何を見てそう判断したのか? #11
皆さんこんにちは。家本です。
こちらも当初は note で取り扱う予定はなかったのですが、神戸 v G大阪戦に続いて皆さんからの要望があまりにも多いので、9月18日に行われたJ2リーグ 仙台 v 徳島戦の「なぜ得点は認められなかったのか」と、9月20日に行われたJ2リーグ 熊本 v 岩手戦の「なぜ得点は認められたのか」の2つのシーンについてお話します。
【ケース1】 仙台 v 徳島 95分35秒のシーンについて
9月18日のJ2リーグ「仙台 v 徳島」戦の95分35秒に起きたシーンです。徳島のFKで再開された流れから、白井選手(徳島)が左サイドから仙台ペナルティエリア内にクロスボールを入れ、エウシーニョ選手(徳島)がヘディングで折り返したところを藤尾選手(徳島)が右足でゴールを決めました。ところが即座に主審の笛が鳴り、オフサイドの反則があったとして得点は認められませんでした。このシーンに対して多くの方が「どこがオフサイドなんだよ!」「得点だろ!」と反応されたのではないでしょうか。まずはこのシーンについて解説します。
論点は何か?
1.オフサイドの反則はあったのか
2.誰がオフサイドの反則を犯したのか
3.視野を広く確保していたのか
4.二列目から飛び込む選手を意識していたのか
判定の難易度はどれくらいか?
難易度 ★★(5段階評価)
なぜ副審はオフサイドの反則があったと判定したのか?
白井選手が右足でボールを蹴る瞬間、徳島の選手が複数人オフサイドポジションにいました。そして最終ライン(後方から2人目の相手競技者)には石原選手(仙台)が、その石原選手のすぐ後ろには西谷選手(徳島)がいました。ボールは西谷選手のはるか頭上を超えていき、オンサイドポジションから飛び出したエウシーニョ選手がヘディングで中へ折り返し、藤尾選手がゴールを決めたかに見えたのですがオフサイドの反則があったと判断されました。
この状況でオフサイドの反則が考えられるのは次の3つです。
①は、オフサイドポジションにいる選手が相手選手を妨害した場合はオフサイドの反則が成立します。②は、オフサイドポジションにいる選手が味方選手がパスしたもしくは触れたボールをプレーした場合はオフサイドの反則が成立します。③は、②と同様です。
西谷選手は石原選手と接触したり邪魔したような形跡が映像上ないので、①は理由になっていないと考えます。また、エウシーニョ選手は明らかにオンサイドポジションから飛び出してボールに触れているので、②も理由にはなっていないと考えます。ということは、③がオフサイドの反則となった理由と推測しますが、副審はオフサイドがあった位置を手前(95:39秒の映像では、斜め下に旗を示している *1)としています。ということは③ではなく、理由として映像上打ち消された①、もしくは②でオフサイドの反則があったと判断したのだと推測します。
家本はこのシーンをどう判断するのか?
僕の結論は、「オフサイドは成立しておらず、得点は認められる」というものです。その根拠はなにか、そしてなぜ現場ではそう判断されなかったのか、その原因は何か、についてお話します。
僕の結論の根拠はとてもシンプルで、上であげた①〜③のいずれもオフサイドの反則が成立していないからです。それはこのシーンを映像で確認していただければすぐに分かることなので、これ以上は言及しません。
次に、なぜ現場ではそう判断されなかったのか、その原因は何かですが、今回のオフサイドの判断を「正確に見極められなかった」ポイントは、
といったことがあげられます。副審がオフサイドか否かの判断を "誤認識" する場合に陥りがちになるのがこれらです。
もう一度状況を整理したいと思います。
まず、白井選手がボールをキープして蹴るまでの間、徳島の選手は3人ほどオフサイドポジションにいました。キッカーとラスト・セカンド・ディフェンダー(オフサイド成立ライン)、そしてオフサイドポジションにいる複数の選手たちは割と近い位置にいるので、大きく首を振らなくてもこれらの状況を容易に視野内に入れることができます。そしてこれらを正しい位置から認識していたことで、副審の方は自信をもって(安心して)いたと考えます。
このとき、副審が "一番注意しなければいけないこと" は、今回のシーンのように "オンサイド" ポジションから攻撃側の選手が "飛び出してくる可能性" を認識しているかどうかです。この認識があれば、その可能性がある選手を把握することができますし、今回のようにたとえオンサイドポジションから勢いよくオフサイドエリアに飛び出されても「この選手はオンサイドポジションから来た選手なので問題ない」と "情報を正しく認識" することができます。今回はここがうまくいかなかったために "誤認識" してしまい、妥当な判断ができなかったと推測します。"ケアレスミス" と言えるものなので、とても残念に思います。
ただし、皆さんにご理解いただきたいのは、僕は簡単に言っていますが、これはとても難しい認知動作ということです。なぜなら、人間の目は "カメレオン" のように動かすことができないからです。実際にやっていただければその難しさがわかるのですが、今回の判断が "言うほど簡単なものではない" ことだけはご理解いただけるとありがたいです。
【ケース2】 熊本 v 岩手 10分20秒のシーンについて
9月20日のJ2リーグ「熊本 v 岩手」戦の10分20秒に起きたシーンです。杉山選手(熊本)が右サイドから岩手ペナルティエリア内にシュート性のボールを入れたところ、そのボールに対して竹本選手(熊本)が岩手ゴールキーパーの近くでジャンプしたのち、ボールは岩手ゴールに吸い込まれていきました。岩手の選手はオフサイドの反則があったとして審判団に抗議しますが主張は認められず、熊本の得点は認められました。このシーンに対して多くの方が「GKの邪魔してるだろ!」「オフサイドだろ!」と反応されたのではないでしょうか。次はこのシーンについて解説します。
論点は何か?
1.誰がオフサイドポジションにいたのか
2.オフサイドの反則は成立するのか
3.相手競技者を妨害したといえるのか
判定の難易度はどれくらいか?
難易度 ★★★(5段階評価)
なぜ副審はオフサイドの反則があったと判断しなかったのか?
杉山選手がボールを蹴った瞬間に岩手の選手が3人中央で横並びにいて、そのラインと同列に竹本選手がいます。戸根選手(岩手)の前を通過した鋭いボールは戸根選手の後ろから移動してきた竹本選手と重なったため、竹本選手はそのボールに当たらないようジャンプして避けました。竹本選手の足元を通過したボールはそのまま岩手ゴールに吸い込まれ、審判団は得点を認めました。
真横からの映像がないのではっきりとこうだとは言えませんが、牟田選手(岩手)もしくは甲斐選手(岩手)の足あるいは肩と竹本選手の足あるいは肩が "同一ライン上" と判断したのだと推測します。竹本選手は "オンサイドポジション" から飛び出して、その後ゴールキーパーの前でボールに当たらないようにジャンプしてボールを避けますが "オフサイドポジションにいた選手ではない" と判断されているので、ジャンプによるゴールキーパーへの影響は考慮されないため得点は認められたと推測します。
家本はこのシーンをどう判断するのか?
僕の結論は、「得点は認められる可能性が高い(ただし、条件付き *1)」というものです。
これは非常に際どく、判断が難しいシーンです。
DAZNの画面をスクショして仮想のオフサイドラインを引いてみたものの、センチ単位の出ている / 出ていないというレベルのものです。正直、人間の目で正確に判別するのは不可能なレベルのものです。
とはいえ、僕の結論は(副審を擁護するつもりは全くありません)、最終ラインの選手と竹本選手は同一ライン上にいると見ているので "オンサイド" と判断します。
「いやいや家本、違うだろ!なに見とんねん!」という声も聞こえてきますが、僕は映像上そう判断するだけであって、正解でも公式見解でもないのでご安心下さい。「竹本選手はオフサイドポジションにいた」と判断される方の意見を全く否定するつもりはありません。なぜなら、正確に判断を下せる映像が存在しないので、どちらの意見もその可能性も否定されるものではないからです。
話を進めます。
竹本選手がオンサイドポジションにいたと判断する場合、そのあとのジャンプが全く問題ないことは皆さんご理解いただけると思います。問題は、竹本選手が「オフサイドポジションにいた」と判断される場合、あのジャンプは "認められるのか" が争点になります。
競技規則にはこうあります。
オフサイドの反則は簡単にいうと、オフサイドポジションにいる選手が
という3つのうちのいずれかが行われたと判断された時に成立します。
今回の竹本選手のジャンプは(オフサイドポジションにいたということが前提)、②の「相手を妨害する」に当たります。
もう少し詳しくみていきます。
杉山選手がボールを蹴った瞬間、GKの野澤選手(岩手)の視野は妨げられていません。ですので、ここは問題ありません。次に、ジャンプした時の竹本選手とボールの距離ですが、ボールを "またいでジャンプ" (自らの意思で行動を起こしている)しているので数十センチといったところでしょうか。かなり近いですよね。恐らくジャンプしていなければボールに当たっていたと考えられますし、ボールに当たればオフサイドが成立します。それから、竹本選手と野澤選手の距離はどうでしょうか。こちらはおおよそ5mくらいですね。十分に近い(相手に影響を強く与える)距離にいると言えます。
この2つのことは、上の競技規則に示されたオフサイドの成立条件の「自分の近くにあるボールを明らかにプレーしようと試みており、この行動が相手競技者に影響を与える。または、相手競技者がボールをプレーする可能性に影響を与えるような明らかな行動をとる」に該当すると考えられるので、竹本選手がオフサイドポジションにいたのであれば得点は認められず、オフサイドが成立した地点から岩手の間接FK(フリーキック)で競技再開となったでしょう。
映像で見ればオフサイドの判断は簡単に思えたりしますが、最初のシーンでも言いましたが実際にはそう簡単なものではありませんし、この岩手のシーンのように攻撃側の選手がオフサイドラインよりも前に出ているかどうかが非常にタイトで厳しいものを判断することも多いというのが事実です。
副審の方も「うまくいった、いかなかった」「正しく判定できた、できなかった」と毎回毎試合喜んだり落ち込んだりしながら、何とか自分のパフォーマンスを高めようと、試合をより良いものにしようと日々トレーニングに励んでいます。受け入れられないこともたくさんあるかと思いますが、どうか彼らの努力や難しさもわかっていただけたら嬉しいです。
それではまた。
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