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そのとき主審は何を見てそう判断したのか? #19

皆さんこんにちは。家本です。

今回は先日行われたJ1リーグ 第2節の中から、「これってどうなの?」「なんで主審はそう判断したの?」と僕が気になった2つのシーンについて解説しようと思います。

【ケース1】 横浜FM v 浦和戦 43分39秒のシーンについて

2月25日に行われたJ1リーグ 横浜FM v 浦和戦の43分39秒に起きたシーンです。水沼選手(横浜FM)が浦和ペナルティエリア内の右サイドから、強く速いボールを中へ入れます。そのボールにロペス選手(横浜FM)と西川選手(浦和)が反応した後、酒井選手(浦和)の右足に当たってボールは浦和ゴールへ吸い込まれました。誰もがオウンゴールと思ったその時、副審1はオフサイドの反則があったとして旗をあげ、主審はその合図を採用して得点を認めませんでした。このシーンに対して多くの方が「なんでオフサイドなんだよ!」「どこがオフサイドなんだよ!」と反応されたのではないでしょうか。まずはこのシーンについて解説します。

論点は何か?

1.オフサイドの反則は成立しているのか
2.なぜVARは介入しなかったのか

判定の難易度はどれくらいか?

難易度 ☆☆(5段階評価)

なぜ主審は「オフサイド」と判断したのか?

水沼選手がボールを蹴った瞬間、ロペス選手は明らかにオフサイドポジション(ボールの位置よりもゴール方向にいる)にいました。そのボールを西川選手がかろうじて触れたもののゴール方向へ戻っている酒井選手の右足に当たり、ゴールに入りました。このとき、ロペス選手は明らかにボールにプレーしようと行動を起こし、西川選手がいる方向へ左足を出しました。加えて西川選手がボールに触れた時の両者の距離は1mほどでした。副審はロペス選手はボールにプレーしていないものの、ボールにプレーしようとする行動と西川選手との距離がオフサイドの反則の成立条件を満たしていると判断して旗をあげ、主審はその判断を採用したのだと推測します。

家本はこのシーンをどう判断するのか?

僕の結論は、「オフサイドの反則は成立しており、得点は認められない」というものです。

その根拠は、以下のとおりです。

1.ロペス選手は明らかにオフサイドポジションにいる
2.ロペス選手はボールをプレーしようと明らかな行動をとっている
3.ボールにプレーしようとしている西川選手とロペス選手の距離は1mほど

まず、水沼選手がボールを蹴った瞬間は、下の図のような位置関係でした。守備側(浦和)の選手たちは水沼選手が蹴ったボールの位置よりもセンターライン方向(図の下方向)にいるので、ボールの位置が「オフサイドライン(点線)」になります。よって、そのラインよりもゴールラインに近い位置(上方向)にいるロペス選手は、明らかに「オフサイドポジションにいる」と言えます。

その後ロペス選手は蹴られたボールにプレーしようと、明らかにゴール方向へ移動し左足を出しました。そのときの西川選手との距離は1mほどでした(下の図)。

このときのロペス選手の行動や西川選手との距離がオフサイドの判断基準となっている「相手競技者に影響を与えた」として、オフサイドの反則が成立したと判断されました。僕も副審の判断は妥当だと考えます。

ちなみに、競技規則には次のように明記してあります。

競技規則第11条 オフサイド
2. オフサイドの反則
ボールが味方競技者によってプレーされたか触れられた瞬間(ボールを「プレーした」か「触れた」最初のコンタクトポイントを用いるべきである)にオフサイドポジションにいる競技者は、次のいずれかによってそのときのプレーにかかわっている場合にのみ罰せられる。
・味方競技者がパスした、もしくは触れたボールをプレーする、または触れることによってプレーを妨害する。または、
・次のいずれかによって相手競技者を妨害する。
・明らかに相手競技者の視線をさえぎることによって、相手競技者がボールをプレーする、もしくは、プレーする可能性を妨げる。または、
・ボールに向かう相手競技者にチャレンジする。または、
・自分の近くにあるボールを明らかにプレーしようと試みており、この行動が相手競技者に影響を与える。または、
・相手競技者がボールをプレーする可能性に影響を与えるような明らかな行動をと る。
または、
・その位置にいることによって、次の場合に、ボールをプレーして利益を得る、または相手競技者を妨害する。
・ボールが、ゴールポスト、クロスバー、審判員もしくは相手競技者からはね返った、またはそれらに当たって方向が変わってきた。
・相手競技者によって意図的にセーブされた。
オフサイドポジションにいる競技者は、相手競技者が意図的にプレーしたボールを受けたとき、意図的なハンドの反則を行った場合も含め、利益を得ているとはみなされない。 ただし、意図的なセーブからのボールを除く。
「セーブ」とは、ゴールに入りそうな、またはゴールに近づいたボールを競技者が手や腕(自分のペナルティーエリア内でゴールキーパーが触れた場合を除く)以外の体のいずれかの部分を用いて止める、または止めようとすることである。

日本サッカー協会 競技規則より抜粋

一方、「西川選手はロペス選手の影響を受けていない」と解釈する方もおられると思います。もちろん、その考え方は尊重されるものです。このシーンで審判が「相手に影響を与えた」と解釈する考え方をお伝えすると、

1.対象となる相手選手の「視野内」にいる
2.対象となる相手選手がいる方向に「明らかな行動」を起こしている
3.選手間の「距離が近ければ近いほど」相手に影響を与えていると解釈する

というものです。今回のシーンは1〜3の条件を全て満たしていると言えるので、「オフサイドの反則は成立している」と解釈した現場の判断は妥当なものだと考えます。

「なぜVARは介入しなかったのか」に関しては、ロペス選手の行為と位置が西川選手に影響を与えていないと言い切れる映像がなかったため、現場の判断をフォローしたと推測します。


【ケース2】 G大阪 v 鳥栖戦 96分08秒のシーンについて

2月25日に行われたJ1リーグ G大阪 v 鳥栖戦の96分08秒に起きたシーンです。追加時間が5分と表示されたアディショナルタイム(AT)中の95分15秒、G大阪が左サイドから攻撃を仕掛け、宇佐美選手(G大阪)のシュートを山崎選手(鳥栖)が頭でクリアしました。95分41秒に左サイドからのコーナーキック(CK)を宇佐美選手が蹴り、その後のこぼれ球を食野選手(G大阪)が拾い、中へ折り返そうとしたものの鳥栖の選手にカットされ、そのボールはゴールラインを割りました。このときの時間は95分51秒でした。G大阪の選手がもう一度CKを蹴ろうとするところへ主審は走り寄り、VARと交信した後、G大阪にCKを蹴らせずに試合終了の笛を吹きました。このときの時間は96分07秒でした。このシーンに対して多くの方が「なんで試合終了するんだよ!」「CKを蹴らせろよ!」と反応されたのではないでしょうか。次はこのシーンについて解説します。

論点は何か?

1.競技規則上何か問題があったのか
2.なぜ主審はCKを認めなかったのか
3.主審の対応は望ましいものだったのか

判定の難易度はどれくらいか?

難易度 ☆☆☆(5段階評価)

なぜ主審はコーナーキックを「認めなかった」のか?

主審が「空費された時間」を5分としていること、その時間を優に超えていること、AT中に追加するような事象は何もなかったこと、これらの理由によって、主審はG大阪のCKを認めずに試合終了の笛を吹いたのだと推測します。

家本はこのシーンをどう判断するのか?

僕の結論は、「競技規則上問題はないが、選手やお客さんへの配慮や納得感という点で望ましい対応ではなかった(他にやり方があった)」というものです。

追加時間に関して、競技規則には次のように明記されています。

競技規則第7条 試合時間
3. 空費された時間の追加
主審は、以下のように前半、後半に空費されたすべてのプレーイングタイムを追加する。
・競技者の交代
・負傷した競技者の負傷の程度の判断や競技のフィールドからの退出
・時間の浪費
・懲戒の罰則
・「飲水」タイム(1分間を超えるべきではない)や「クーリング」ブレーク(90秒間から3分間で)など、競技会規定で認められる医療上の理由による停止
・VARのチェックやレビューに関わる遅延
・プレーの再開を著しく遅らせる行為(例えば、得点の喜び)を含む、その他の理由

日本サッカー協会 競技規則より抜粋

まず、事実関係を確認しておきます。後半のAT中、オフサイドやフリーキック(FK)となる事象は数回ありましたが、交代や負傷といった事象はありませんでした。フットボールにおいて、スローインやゴールキック、オフサイドやフリーキックにかかる時間は通常「空費された時間」とは考えません(ただし、プレーの停止時間があまりに長い場合にのみ時間を追加)。このことは、競技規則の「審判員のための実践的ガイドライン」のところに明記されています。ですので、この試合は原則(何もなかったので)、95:00のタイミングで終わることが基本的な考え方となります。

宇佐美選手がシュートを放ち、CKを得た時点が95分15秒でした。時間はすでに超過しているので、この時点で試合を終了させるのが原則ですが、この試合のこの状況を考えると、ここで終えるのは "フットボールをわかっていない" と言える流れや雰囲気だったので、主審がCKを認めたことは良い判断だと言えます。

ただし、追加時間を含めてすでに規定の時間を超えていること、AT中に時間を追加するような事象がなかったことを考えると、主審はこのときに少なくとも両チームの選手たちに「このコーナーキックがラストプレーになります」という主審としての明確な意思表現を選手たちと共有しておけば、その後のCKで「もうワンチャンス!」という空気感を選手たち(ゴール裏のサポーターたちにも)に作らせずに試合を終わらせることができたと考えます。しかし、残念ながら映像を見る限り、主審が両チームの選手たちにそういったメッセージを発している様子はありませんでした。

これは、主審の任務として必須なことだと競技規則に明記してあるわけではないので "絶対的なもの" ではありませんが、「試合を円滑に運営する」あるいは「皆の納得感を得ながら試合を運営する」という意味においては "主審の対応は不十分" と言わざるを得ません。もし、この試合を担当された主審にそういう "ちょっとした "配慮や気遣いがあれば、ああいう「嫌な(スッキリしない)終わり方」にはならなかったと考えます。

主審がいかに多忙で大変な役割を担っているかは、経験者として嫌というほどわかっています。それでも選手の喜びのために、サポーター・ファンの喜びのために、フットボールの魅力向上のために自分(審判)は存在していることを忘れないでほしいですし、審判のちょっとした気遣いでそれらが実現できることを忘れないでほしいです。

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