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【第7回】再生医療の現場で何が起きたのか② ~がんを予防する再生医療を受けた2人が重大な感染症で入院 医療提供の一時停止を命じる 厚労省

10/25(金)報道。
再生医療を受けた患者2人が重大な感染症により入院したため、厚労省は、クリニックと培養施設に対して医療の提供と細胞の加工を一時停止するよう命じました。

がんなどの悪性腫瘍の予防目的でNK細胞を投与した患者2人が、敗血症となって入院し、細胞加工物製品から敗血症の原因となる微生物が確認されたと、報道されている。

当機構へは、患者の都合で投与が2日延期となって細胞加工物製品が凍結保存されており、その凍結保存されていた細胞加工物製品から微生物の混入が確認された、との情報もある。

場合によっては死に至る可能性もあった今回のケース。
なぜ、このような危険な事態が生じたのだろうか。

細胞培養歴30年の培養士からの話と経験談に基づき、その原因となる可能性を考えてみた。

通常は凍結していた細胞を培養していたら、その培養過程で微生物が確認されるため今回のような事は起きないのだが、凍結していた細胞をそのまま溶かして生理食塩水に浮遊させた場合は、このような事が起こりえる可能性がある。

細胞を凍結するには-196℃の液体窒素に入れて保管をすると、細胞の品質が保たれる事はよく知られているが、ただここに落とし穴がある。

細胞を、気層中に保管をせずに、液体窒素中に保管をするとその中の細菌、カビ、酵母、ウイルスが細胞の凍結容器のスクリューキャップの隙間から入り込み、微生物入り細胞が保管されてしまう事になる。この微生物入り細胞を何日か培養したら、感染した事が無菌検査でわかるためヒトに投与される事は防げる。

しかし、培養を行わず細胞を溶かして生理食塩水に浮遊させた場合は、無菌検査をしても微生物が微量のため確認できる前にヒトに投与されてしまい、微生物が体の中で繁殖して敗血症を引き起こす可能性が高くなる。

液相保存とは
タンク内の液体窒素に直接保存したいものを漬け込む方法です。
気相保存より低温なー196℃で保存することができますが、液体窒素内で細菌、カビ、酵母、ウイルス、マイコプラズマなどが保存物に侵入し汚染される「コンタミネーション」のリスクがあります。

それなら、気相中に細胞を保管すれば防げるのだが、通常の充填式液体窒素タンクは1週間に1回の頻度で液体窒素を補充しないと、液体窒素がなくなり凍結細胞が溶けてしまう。
1週間に1回の充填頻度のわずらわしさから、月に1回に頻度を下げると細胞が液相で保存され、敗血症の原因となる微生物入りの細胞が保存される事となる。

また、リンパ球を細胞凍結する場合、その凍結本数が20本、30本になる場合もある。本数が多いと溶かす際、手技が乱雑となりその時に微生物が混入する可能性もある。

今回医療事故が発生した、「医療法人輝鳳会 THE K CLINIC」と「医療法人輝鳳会 池袋クリニック 培養センター」は、埼玉県に本社を置く、組織培養用培地の開発や、特定細胞加工物を製造する再生医療細胞加工事業を行っているという再生医療業界では老舗の企業が培養技術を提供している。
その企業では最近人手不足による技術低下が心配されていた、という話を聞いた。

命に別状がなかったことが不幸中の幸いとも言える今回の重大事態報告。
正しい知識が不足している事による人為的なミスが、ヒトに重大な被害を与えてしまったのではないか。
管理者の知識不足、経験不足が引き起こした結果ではないかと推測している。

一般社団法人再生医療安全推進機構(以下、当機構)は本年8月2日、再生医療に関する政策の早急な見直しを求める陳情書を厚生労働省に提出しました。この陳情書は、現行の再生医療政策と法制度における重大な問題点を指摘し、早急な改善を要請するものです。

今回の事案は、当機構として看過できない重大事案であるが、陳情書の提出を機に、再生医療政策の抜本的な見直しが進むことを期待し、今後も安全かつ革新的な再生医療の開発と提供が促進される世界を目指し今後も活動してまいります。

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