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【第5回】 再生医療安全推進機構セミナー『再生医療における政策立案の落とし穴・現場の声の不在とその影響』レポート ~中編~

皆さんこんにちは。マサニャンです。

前回に引き続き、2024年5月31日(金)~6月2日(日)に熊本城ホールで開催された第24回日本抗加齢医学会総会において、再生医療安全推進機構に所属する【劉 懐旭】が行ったイブニングセミナーのレポート~中編~をお届けします。


③ 再生医療のアジア市場と日本市場の状況について

アジア市場

再生医療に関してアジア市場全体の状況を見ると、各国で急速な成長が進んでおり、中国をはじめ、ベトナム、タイ、インド、台湾、韓国など多くの地域で拡大しています。新しい再生医療技術や治療法の導入が進んでおり、今後も各国で市場の成長が期待されています。

日本市場

一方、日本では、一部の再生医療製品が保険診療として承認されています。たとえば、血液がん治療に使用される「キムリア点滴静注」や脊髄損傷の治療に用いられる「ステミラック注」などです。しかし、これらの治療法は保険適用により患者の経済的負担が軽減されているように見えますが、実際には適用される疾患が限られており、保険診療として再生医療を受けられる患者が非常に少ないという現実があります。

また、日本国内での自由診療による再生医療は医師の責任下で提供され、特に幹細胞治療やPRP療法で関節症や美容分野での利用が一定の拡がりを見せていますが、市場的にはまだまだ認知度が限定的であり、安定した成長とは言えません。

その反面、インバウンド観光客の増加による医療ツーリズムなどの影響で、再生医療(幹細胞治療)を受けるために訪日する外国人患者が増加し、自由診療の医療機関では国際的な患者対応の強化や医療機関のM&Aが増加しているという状況にあります。

日本再生医療業界の課題

このような現状の日本の再生医療業界では、まだいくつかの課題が残されています。

  1. 現場の声の反映不足

  2. 承認プロセスのアンバランス
    迅速な再生医療製品の承認プロセスが導入された一方で、長期的な安全性や有効性の評価が不十分であるとの懸念があります。

  3. 医療機関や企業の負担増加
    提供計画の作成や施設許可・認定の手続きが増えたことで、医療機関や企業にとって事務的・経済的な負担が増加しています。特にリソースが限られている中小規模の医療機関や中小企業には大きな負担となっており、新しい技術や製品の開発を妨げる要因となっています。

  4. 患者への情報提供の課題
    患者に十分な情報提供がなされていないケースがあります。

  5. 市販後監視の強化不足
    市販後の製品監視体制の強化が必要です。

現場の声の反映不足

その中で今回は、現場の声の反映不足について少し掘り下げます。

まず、患者視点から見た現状です。
多くの患者は完全な治癒を望むというよりも、生活の質(QOL)を少しでも向上させる現実的な改善を求めていますが、その声が医療機関や研究者にしっかりと届いていないケースが見受けられます。

次に、法規制外の治療法の問題です。
近年、安全性や法律よりもビジネスを優先する医療機関や企業が増えており、特に禁止されていない上清液やエクソソームを用いた治療が法律の枠外で行われているため、規制が不十分な状態です。これにより、患者の安全が脅かされるリスクがあります。

研究者の視点では、患者の本当の声を聴かずに研究を進める傾向があります。
再生医療の研究は高度な技術を要するため、研究者は技術的な側面に注力しがちです。しかし、患者のニーズや期待を無視した研究は、治療現場での有用性が乏しくなると共に再生医療自体の信用を失う事にもなり兼ねません。

最後に、審査機関の課題についてです。
特定認定再生医療等委員会の審査ガイドラインが不十分であるため、技術的に不可能な提供計画書が受理されるケースが存在し、再生医療を患者へ提供する医療機関からすると細胞培養を委託する培養施設から、患者からすると治療する医療機関から、それぞれが欺かれたと言ってもおかしくない行為や現象が発生しています。

たとえば、クリニックから培養機関へ発注した細胞が、規定の細胞数に達していない状態で納品されたり、クリニックで保存された細胞が、実際に患者へ投与する時点において死細胞が多く、品質の悪い細胞が投与されていたりすることがあります。
また、必要な手続きを経てようやく再生医療を行えるようになったクリニックが、いざ患者へ治療を提供しようとしたら、培養委託する細胞培養施設の都合で何か月も受託不可の状態であったりするケースもあります。

このように、提供計画を審査する審査機関にも「質」が問われています。(この点については、次回のレポートで具体的な数字を挙げて説明したいと思います。)

このような「偽」の再生医療を行う医療機関や企業が増えると、日本の再生医療は信頼を失い、崩壊の危機に瀕する可能性があります。法律に則った上で、安全な治療が患者に届けられてこそ再生医療の未来を守ることにつながり、この再生医療業界の産業化が進む1番の近道となります。

提案された解決策

上記のような問題に対して、いくつかの解決策が提案されました。

  1. ステークホルダーの多様性の拡大
    再生医療の発展には、臨床現場からの参加を強化し、患者やその家族の意見やニーズを積極的に聴取すると同時に、その声を治療方針や研究の方向性に反映させることが重要です。そして、定期的な情報交換会や報告書の作成を通じて透明性を高めます。全ての関係者が意見を表明できる場を設け、意見のフィードバックを積極的に取り入れます。

  2. 継続的なモニタリングと評価
    治療の効果や副作用を定期的に評価し、科学的データに基づいて、治療方針や研究方向を決定することがとても重要です。症例数が多く模範となる医療機関を選定し、聞き取り調査を行ってガイドラインを策定していきます。

  3. 専門家チームの横断的な連携
    医学、工学、倫理学など異なる専門分野の協力を促進し、委員会間で協議会を設置することで各委員会の知見を共有し、アカデミア論文投稿にあたって査読のような体制を備える。国際的な連携も強化し、グローバルな視点からの知見を取り入れます。

  4. 教育と啓発の強化
    再生医療に関する講演会やセミナーを開催し、最新の知見を提供することで、専門家や一般市民に対する教育を強化し、再生医療の理解と認識を深めます。

中編はここまでです。

次回の後編では、可能と思われる解決策の中において、二つのケーススタディを介しながら詳しく説明していこうと思います。

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