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【第2回】再生医療の現場で何が起きたのか

2024年6月1日、一般社団法人共同通信社から以下の報道が出ました。

『再生医療後に一時視力障害 ロート製造細胞、注意喚起』

細胞を投与する自由診療の再生医療で一時的な視力障害が報告されたとして、細胞を製造したロート製薬(大阪市)が、関係する医療機関に、同様の症状が観察された場合は適切な処置をし、同社に連絡するよう求める注意喚起の文書を配布したことが分かりました。細胞の保存のために使われた有機溶剤が原因となった可能性が高いです。

問題を調査した「特定認定再生医療等委員会」の議事録などによると、東京のクリニックで、更年期障害や卵巣の機能低下に伴う症状の改善を目的に、自由診療で同社製造の「脂肪由来の間葉系幹細胞」が点滴で投与されました。

昨年11月、患者に視力障害が出たとクリニックが認定委員会に報告。今年3~4月にも、このクリニックで似た症状が2件相次ぎました。いずれも回復したということです。

認定委員会では、細胞に含まれていた有機溶剤「ジメチルスルホキシド(DMSO)」が血管の収縮を引き起こした可能性があるという意見が出ました。ロート製薬によると、DMSOは細胞の品質を維持するための保存液として使用されました。

一般社団法人共同通信社

再生医療の現場で何が起きているのか

自分の幹細胞を培養して増やし、自身の身体に戻す治療(幹細胞治療)が再生医療として行われています。幹細胞治療を行うには、医療機関が糖尿病や脳血管障害など、各疾患別に「再生医療提供計画」を第三者機関である「特定認定再生医療等委員会」に提出→承認→厚生局へ提出→受理という経緯を経ての治療となります。
 
今回の記事は、ロート製薬が東京のクリニックから細胞培養を委託され製造した細胞にDMSOが入っており、それが患者さんへそのまま投与されたことによって起きた一時的な視力障害に対する注意喚起です。記事にもあるように、有機溶剤「ジメチルスルホキシド(DMSO)」は細胞を凍結して保存する際に使われる薬品です。

疑問点と課題

以下の疑問点が生じました。

  • DMSOによる有害事例は今までになかったのか。

  • 「再生医療提供計画」にDMSOという有機溶剤が凍結保存液として使用されることが承認されていたのか。

  • 承認されていたのであれば、ロート製薬での細胞製造行程、もしくは投与するクリニックでの手順や処理に誤りが生じたのか。

  • DMSOを使わなければ細胞の品質は維持できないのか。

DMSOは「細胞の凍結保存剤」や「細胞に対する薬剤添加時の溶媒」として永らく用いられ、ゴールデンスタンダードとして認識されています。しかしDMSOは“あくまで有機溶媒の中では低毒性”であり、例えば1~2%程度の添加でも細胞を殺してしまいます。さらに、0.1%などの低濃度であっても、細胞の機能へ悪影響を及ぼすことが知られています。凍結保存液として使用される場合、人体への投与前に除去されるべきであると考えるのが普通ではないか。

A社の熟練した培養士に確認したところ、以下の回答を得ました。
 
「今回の件は凍結保存剤のDMSOが少量残っていても、100倍以上の希釈があれば人体に有害ではないという判断で用いられたのではないか(そのような通説があるとのこと)。例えば患者への点滴のため生理食塩水パックにDMSO入りの凍結細胞が解凍後そのまま注入され、それがよく攪拌されずに静脈注射されたとすれば、今回のように血管の収縮などにより視力障害を引き起こす可能性はある。」

上記はあくまで仮説ですが、事実として再生医療の臨床現場で「一時的な視力障害やそれと似た症状」が起きたのです。しかも同じクリニックで3件続けて発生しています。
これは「特定認定再生医療委員会」で承認された「再生医療提供計画」の内容が、医療にとって最も重要な「安全性」に基づいて作成されていたのか、徹底的な検証が必要です。
同じクリニック、同じ細胞培養加工施設(ロート製薬)、同じ「再生医療提供計画」において、「一時的な視覚障害、それと似た症状」、が何度も繰り返されているからである。

当機構の考え

凍結細胞は本当に安全と言えるのか。
凍結せずに幹細胞を投与すればより安全なのではないか。
「再生医療提供計画」は委員会において適切に審理されているのか。

当再生医療安全推進機構でもこの問題について特に注目しており、ねこドクターのコラムでもいち早く情報発信されていますので、ぜひそちらも読んで頂きたい。

しかし最後に思うのは、
一時的とはいえ視力障害になった患者さんは、どれほど恐ろしい思いをしただろうかということです。
真剣に早急な対応を国に求めます。

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