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崇K学園物語 プロローグ
俺が生まれるずっとずっと前、日本はK国と戦争して多大な被害を及ぼしたらしい。
それから数十年以上が経過し、大国となったK国に日本は依存しなければ経済が立ち行かなくなった。
かつての立場は完全に逆転し、日本は事実上K国の支配下になった。
しかし俺たち日本人の生活が、劇的に変わったということはない。
ただ国や企業のトップが全てK国人に変わっただけだ。
それ以外にも色々変わってしまったことはあるらしいが、生まれて14年しか経過していない俺にとっては、それが当たり前のことだった。
だが一般市民の俺にも、人生を左右する出来事が一つだけあった。
かつての戦争犯罪の償うために、義務教育を終えた日本人をランダムに選んでK国人の奴隷とする制度、『チョッパリ奴隷システム』
この制度に選ばれた日本人は全ての人権を剥奪され、奴隷としてK国人の元へ派遣される。
そして奴隷としての教育を受けるために『崇K学園』という教育機関に強制的に編入させられるのだ。
奴隷になった日本人は過酷な労働に従事させられ、生涯奴隷として過ごすのである。
俺はもう中学校を卒業して、義務教育を終える。
出来ることなら奴隷に選ばれることなく、普通の人間として天寿を全うしたい。
そう考えていた。
「大丈夫よ、学区内で選ばれるのは数人でしょ? 選ばれる可能性は低いわよ」
幼馴染の飛鳥が言った。
彼女は隣に住んでおり、昔からよく一緒に遊んでいた。
短めのツインテールのよく似合う、健康的な女の子で、どちらかというと内向的な俺を引っ張ってくれている少女だった。
「でも可能性はあるわけだろ? 俺も飛鳥も」
俺たちは今年で卒業し、指定された企業へ就職することになっていた。
日本人で高等学校に進学できるのはごく一部の優秀な人間だけで、ほとんどの者は国が指定した企業で一生働くことになる。
それがごく普通の日本人の一生だった。
「それに奴隷になったって殺されるわけじゃないんだし、あんたは気にし過ぎなのよ」
そう言って飛鳥は楽しげに笑った。
学校も終わり、二人で帰路についている最中だった。
「ま、でも考えようによってはK国人の奴隷になる方がいい暮らしできるかもよ? 美味しい食べ物食べさせてくれるかも」
「あははは、そうだといいな」
こんな感じで俺と飛鳥は変わらない日常を謳歌する。
代わり映えしないが、満たされた時間。
ささやかな幸せ。
これがずっと続くと思っていた。
『チョッパリ奴隷内定通知書
以下の者を○月○日を以てチョッパリ奴隷候補生とし、崇K学園への入学を命じる。
●山城 祐一
●藤宮 飛鳥
……』
家に届いた通知に目を通し、俺は崩れ落ちた。
しかも俺だけではなく、飛鳥も奴隷に選ばれてしまったのだ。
飛鳥はこのことをもう知っているのだろうか?
それを聞きにいく余裕すら俺には無かった。
この通知が出された瞬間から、俺達はK国当局の迎えが来るまで自宅で待機し、その間一切外部と連絡を取ることを禁じられるのだ。
スマホを取り出すと、圏外になっておりもう当局は動いているようだった。
両親はこのことを知って、どんな顔をするだろうか。
俺は涙を浮かべながら床へ突っ伏し、迎えが来るまで待つのであった。
通知書が届いた次の日に、K国当局の迎えはやってきた。
昨日は俺も両親もあまりのことに声も出ず、顔を見ることすら出来なかった。
だからせめて分かれる前に、今まで育ててれたお礼言いたい。
そう考えていたのに、やってきた役人の人はそれすら許さなかった。
「逃亡防止のためにこれを装着する」
そう言って俺は手錠をかけられた。
さらに目隠しと耳栓まで着けられ、そのまま罪人のように車へと連行されたのだ。
どうやらかなり大きな車らしい。
座席らしきものに座ると、横から人間の気配を感じた。
もしかしたら飛鳥だろうか?
そんなことを考えていると、不思議な香りが鼻孔をくすぐった。
何かの薬を嗅がされた。
それを理解した直後、俺は深い眠りに落ちたのであった。