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【LIPHLICH】2024年に夭折した稀代の天才・久我新悟の描いた世界

ロックバンドLIPHLICHリーダーでありボーカルである久我新悟さんが2024年8月4日に急逝したと発表がありました。

このことにより、私が2012年から信じて見続けていたバンドLIPHLICHが、急に過去の存在になってしまったことに驚き、戸惑い、どう受け止めていいのかわからず、悲しむこともできていなかったのですが、
私は彼らの描いたものを愛したファンの一人として、彼らの残した作品や価値、私の信じた才能と存在を、
今はまだ出会っていない人へ残せる形にしようと思い、ささやかながらおすすめまとめ記事を作ろうと思います。

悲しんだところで、亡くなった人が帰ってくるわけではないけれど、
久我さんの存在ありきだったLIPHLICHの未来と可能性が閉ざされて、完了形になってしまったことが何より悲しいけれど、
これから彼らの作品や存在を知った人に届いて、愛されることの一助になれれば本望です。

◆LIPHLICHとは
LIPHLICH(リフリッチ)は、日本のヴィジュアル系ロックバンド。
「多重に重ねたコーラスと世界中の楽器を使い、様々な情景と共にメッセージを発信するバンド」をコンセプトに本格的にバンド活動を開始する。
物語のような曲を演劇のように表現するライブが特徴で、一瞬にして場の空気を変え聞き手を曲の中の登場人物になったかのような世界観に引き込むエンターテイメント力に長けている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/LIPHLICH

◆初期・後期の代表曲

MANIC PIXIE(2013)

LIPHLICH=MANIC PIXIEとファン以外に認知されるほどの人気を博したオールタイム代表曲を選ぶなら、これだと思います。
フロアがヘドバンの海になるライブでの盛り上がりと、観客の理性を飛ばす忘我の作用が随一でした。
初期の頃らしく、物語性を強く含めた世界観の曲です。

墜落艶歌(2022)

最新の代表曲はこれになると思います。
「現在のLIPHLICHが一番格好いい」と本人たちが言っていたことも印象深い。
最終期には、現実を描き、内心の弱さを吐露するようになった面が強く出ています。

◆リリースごとの曲紹介

◆SOMETHING WICKED COMES HERE 2010年6月21日

このアルバム1曲目の「リフリッチがやってくる」が
ライブの1曲目に配置されることが多く、
客席がその前奏に合わせて、息を呑みながら
彼らの登場を待っていたことが懐かしく思い出されます。

サーカスがやってくる 退屈さらいに
また一人捕まった あなたは逃げ遅れないでね

猫目の伯爵ウェンディに恋をする

猫目の伯爵は 其の目から好奇の舌を出す
東の街から 人間どもの見世物小屋が来る
麗しいウェンディ 羽根つき帽子を取ってくれないか
本日の目玉は「IT社長 火の輪をくぐる」さ

CIRCUS IS GOING ON
COME WITH ME

CATMAN WASLKS ON THE STREET
ウェンディどこに行くのだね?
どうしてそんな目で僕を見る?
何も言わずに出て行くのかい?
しょうがないか、だって君も人間だから

LIPHLICHが客席のことを、「ウェンディ」と呼んでいたのはこの曲が起源です。
シニカルに人間社会を面白がって、サーカスだと言い見物している伯爵と、
彼のもとを去った少女ウェンディの話。
この二人の冒険譚がLIPHLICH初期の世界に通底するテーマでした。

淫火

淫ら過ぎて分からない ここは地の果て 闇の果て
溢れかえる紳士淑女 見慣れぬ姿は幻
かくも素晴らしき異世界 頭の中は万華鏡
愚にもつかぬ何処ぞの人 不思議と美しく見える

あちらとこちらの間で 蝶になりたいなれない哀れな人々 列となる
外見で選ぶこちらの人々 黒と思っていた僕は白だった

今にもしゃぶりつきたい 香りに侵されて 
淫火に飲み込まれた play you play me
境目の上に立っている偉そうな門番がこうほざく
「何度でも味わいたいならまたおいで」

この曲が演奏されるときは、ステージが真っ赤なライトに染まっていて
曲に合わせて客席が右手を掲げ、列を作るように綺麗に揃っていたのを
懐かしく思い出します。
個人的にはダンテの神曲の地獄の門のイメージがありました。
(上野公園のロダン作の彫刻、あれ見る度にこの曲思い出します)


◆ミズルミナス

My Name Was

ライブで一番好きなのはMy Name Wasでした。
私にとってのLIPHLICHはこの曲。お洒落。

名前も顔も知らない人の 指先が問う「君の名は?」

Oh My Name Was Nameless For you Dearest
覚えておいで 灰色になる 痺れが回る ごきげんよう

◆MANIC PIXIE 2013年3月27日

just see the given meaning everybody’s singing yesterday
平衡な沈黙に馳せ参じた どこかしらへ連れてってくれる夢の馬車
ドグラでマグラな感性が代金 夢の先へ行きたくてのめり込んだ

とてもじゃないが全てを認める度量など持ち合わせていないから
Unfair night nasty night my must function impression

NO SIGN Let’s RUSH Let’s RUSH
吐いた毒で咳き込んだ時も 弱さを認め懲りずまた言う やっぱり嫌だと
NO TIME Let’s RUSH Let’s RUSH
夜道を照らす街灯はずっと 曲がりもせずに先も見せずに
どこまでも続く マニマニアックな マニマニマニックピクシー

MANIC PIXIE は久我さんの造語なのかと長らく思っていたら
MANIC PIXIE DREAM GIRLという、概念があるそうですね。

マニック・ピクシー・ドリーム・ガール (英語: Manic Pixie Dream Girl、略称MPDG) は映画のストックキャラクターの一種である。「悩める男性の前に現れ、そのエキセントリックさで彼を翻弄しながらも、人生を楽しむことを教える“夢の女の子”[1]」と定義される。英語で"manic"は「躁病的な」、"pixie"は「小妖精」、"dream"は「夢」、"girl"は「若い女性」を意味する。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%94%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%AB

作詞者である久我さん目線では、
「MPDGに翻弄され、風景をすっ飛ばしながら先の見えない夜道を馬車で駆け抜けていく男性目線」のイメージなのかもしれないですが、
この曲を何百回も聴いた客席の視野としては、
馬車はLIPHLICHというバンドそのものでした。

次々と新しい、想像もしたことのない景色の場所へ連れ出してくれて、聴いたこともない飛び切り格好良く新しい音楽を見せてくれる馬車に乗って、次の景色なんて予想もつかないまま、降車する気なんてないまま馬車の行く未来を信じて、自身の人生を賭けて旅を続けているという認識でした。
信じさせてくれてありがとう。
他人から見れば、妄信に見えるかもしれないけれど、信じた私たちからすれば、人生の指針をくれたとも言える経験でした。私たちの信じたものは、嘘とも幻とも思わない、確かな経験と旅路だったと思います。


◆マズロウマンション 2013年7月24日

マズローの欲望五段階説をマンションになぞらえた3曲入りシングル。傑作。


◆フルコースは逆さから 2013年10月2日

これは本当に傑作。捨て曲がない大傑作。
「100年残る価値のある名盤」だと思います。残ってほしい。

飽聴のデリカテッセン 飽調のレトロエッセンス
予期できる君の範疇 もはや千切りにして
飽聴のデリカテッセン 飽調のレトロエッセンス
美味しい思いがしたいなら 他当たれ

この曲聴いたら、如何に天才か全員理解すると思ってます。

VESSEL

宛がう愛が 蜂の巣のような 君という容れ物から
流れていくのを ふせぐにはこの手じゃ足りない
だから流れてしまうものでも ずっと注いでいるよ
渇かないように

言葉は君にとってシガーの先につけた火で
ほんの少し時がたてば 消えて後は灰になるだけだから

皮肉ではなくて、人生訓。これらの言葉を信じて生きています。私は。


◆HURRAH HURRAY 2014年2月5日

永久に願え 永久に狂え いつの日にもWonderland.inc
永久に回れ 永久に続け 終わるのは君だけでいい

この曲、この歌詞、個人的には好きではありませんでした。
「終わるのは君だけでいい」と馬車から降ろされて取り残されて行く実感。
永遠に繁栄を続ける楽園と、疎外される自己というイメージが
2024年になって、久我さん自身にブーメランが刺さると思わないじゃないですか。

Piropo

正直、LIPHLICHで一番好きな曲これです。大好き。可愛い。
昭和のアニメのエンディングテーマかと思った。
感情移入をさせてくれないLIPHLICH曲で唯一感情移入できました。
切実にカラオケに入れてください。

その目で満ちない私の 純真を見抜いて
暴利のカウンター 受け取らないわ
勝手にその気になったの とりあえずは気付いて
赤いハンカチを落としたの It‘s piropo for you

その目で満ちない私の 純真を見抜いて
暴利のアタック 受けて立つわ
中身にメイクはできない だから分かるはずでしょ
赤いハンカチを落としたの It‘s piropo for you

今はまだ待つ時 いつかくる潮時


◆GRATEFUL NONSENSE 2014年6月4日

個人的にはユマニテが大好き。

走れ 逃げ惑え そしてまた踊ろう 森の中のワルツを
空の頭につんざく銃声 僕らのリズムにして
戻せ 巻き戻せ 初めて世界を吸い込んだその日まで
全てが意味を持っていない世界 ただ鮮やかさだけがあった世界

GREAT NONSENSE

唯一のシャングリラ 君のシャングリラ 必死に探そうとしているものは
落としたら割れるティーカップ くらいなものかもしれない

唯一のシャングリラ 君のシャングリラ そのうち知れたならいいよね
今僕の確かなものだけ 歌うよ 吹く風のように

唯一のシャングリラ 君のシャングリラ 愛しているとかいないとか
くだらないことをただ君へ 耳がない君へ歌うよ


◆SKAM LIFE  2015年6月24日

LALALA LADY SKAM MY LIFE 巻いてまかれて SKAM MY LIFE
信じたい者 惑わし 揺さぶる 悪い役柄なのさ
READY SKAM MY LIFE かけてかけられ SKAM MY LIFE
うやむやになる 愛とか夢とか時々人生とか

SKAM MY LIFE 一世一代の大ペテン
君はかけられ 僕こそかけられ 煙に巻かれてるのさ
これまた失敬 どうぞよろしくね FOOL?

SKAMは「詐欺師、ペテン師」という意味で、彼ら自身のことを皮肉り
LIPHLICHの描く世界を信じる人は騙されて煙に巻かれているとする歌です。

メンバー脱退のタイミングも重なり、当時の各メンバーの頭文字を重ねたSKAMだからこそ
このメンバー=LIPHLICHなのだという、久我さんの自負も見て取れる曲です。
なのでメンバー変わってからはほぼ演奏されていないはず。格好良くて大好きでした。


◆7 Die Deo 2015年10月28日

このあたりは、曲が問答無用に格好良かったです。
各パートの演奏がどんどんフェティッシュになって行った時期。

LADY NANA


◆蛇であれ 尾を喰らえ 2016年2月10日

ウロボロス

いま君が左へ行くのならば右へ行こう 必ずある合流地点
もう方向は違えど ここならば 巡るたび顔を合わせてすれ違えるから

蛇であれ尾を食らえ ウロボロス廻りて
開いた目で観ろ 永遠うねり 僕柄
喰らっているのが過去か現在か未来でもいい
全て飲み込め be a snake

個人的に、LIPHLICHのMVある曲の中で、一番の傑作これだと思います。
別れを一時的なものとして、縁があれば巡り巡って交差していくとして
絶望を絶望で終わらせない希望と、救いを示した曲。
あとライブで問答無用に楽しい曲でした。構成と説得力がすごく良かった。
この時期、川崎クラブチッタでワンマンをやったり、バンドとして勢いがある時期でしたね。
懐かしい。

不条理、痛快、蛇の歌意

「ああもうやってらんねえ」というセリフにどれだけ救われたかわかりません。
この曲を聴いてやり過ごしていなかったら、私は多分この時期鬱になっていました。


◆DOUBLE FEATURE 2016年6月29日

見世物小屋で生きるシャム双生児それぞれと観客の視点を歌にしている3曲です。

サイドリブラの場合

さあいつもの上演時間だ 奴らが舐めずり回してる
二人の苦悩が見世物で 二つで一つの価値になる夜

もう共存の理想も覚えた 別れの矛盾も覚えた
昔のスターみたくなるには このまま終わりを待てばいい

ショウリブラの場合

あなたは肉体で 私は体温みたい
喪失を厭わなければあなたはきっとアニメになれる

このまま永く保たないってことは二人の些細な問題で
ふざけたことにガベルマンの目には一人にしか見えていないんだ

ガベルマンの真相

アニメのような実写がいいな 木槌はどいつが振るのかな
たまには別の何かをうまく用意しろ 遂行せよ
どちらも好きな二本立て

どうでもいいが仲よくしろ つまらない選択はするな
利害が常に一致してるとは思うなよ 3分待とう
はき違えるな二本立て

見世物小屋の無責任でわがままな客からの言葉が、
ショウリブラとサイドリブラを襲います。
この言葉の生々しさは、久我さんがショーマンとして人前に立つ時に
受け取っている印象なのかもしれないなと思ったことが印象深いです。


◆発明 2016年10月19日

発明家A

Good Night Actor Trickstar Catman Chef Owner Lover
See You Master Cultstar Coachman Gambler And Tamer

冒頭に読み上げられる人物像は、これまでLIPHLICHの歌に登場してきた人たちでした。
「おやすみ」「さようなら」と宣言し、人物を用いた物語からの逸脱を宣言しているのかもと改めてハッとします。

Ah 君が見た世界 もしも幾多の人格でできたものならば
ねえ どれがお好み ちょっと教えてくれるかな
Uh 皆の代わり やってきたのはインベンター(発明家)でインベーダー(侵略者)
そう 新たに発明 された人間ということ

Ah ペテン師も蛇も ナンセンスもフルコースもおとぎの国も
Uh ごちゃ混ぜにした 見世物は眠りに落ちていく

Baby Baby I‘m Inventor Baby Baby I’m Invader
Hey Girl おいで ここで 発明への秒読みしよう 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10
Hey Boy 今は 好きな 小屋の 中には誰もいない 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10
Hey Girl 俺は 今は この中で もっとも適任さ 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10
Hey Boy ごらん 君も 順応して 思い通りにすればいいから 

「俺」「君」というのは、発明家A=久我さんと観客になるということなのかと思いますが
こんな過去を客観視するメタ認知な歌だったんですね、これ、改めて。
物語期はここで終わりと宣言されていたんだなと


◆VLACK APRIL 2017年4月19日

アルトラブラック

これは、ド直球に「時計仕掛けのオレンジ」をやりたかったんだなって思います。
曲がバチバチに格好いい。緊張感がすごい。


◆陽気なノワール 2017年7月26日

昭和レトロな探偵もののような変わり種。
物語がありそうでない。人物と世界観の歌。


◆CLUB FLEURET 2017年10月11日

JACK THE LIPPER/CLUB F

言葉は縋りたくなるものでも それだけは信用しちゃいけない
ふざけた輪廻 UP AND DOWN UP AND DOWN
薙ぎ払いたい そんな思考 扉 暴徒 躁 美徳 未来 矜持 奏
THE TIME HAS COME TO DONE FOR YOU(君の番だよ)

FLEURET

NO ONE KNOWS 僕だけの小さな世界へと
NO ONE DOES 君だけを連れ込んで見せる

極彩色の中 認識はおぼろげ 一番鮮やかで 小さい灰色の花になる

NO ONE KNOWS 綺麗でも窓もない部屋から
NO ONE DOES 君だけを連れ去ってみせる
BECAUSE YOURS NEVER DIE とらわれてなんていないよ TAKE THIS HAND

これは初めてくらいの、ポーズを付けず正々堂々とした
LIPHLICHから差し伸べられた手ということで、当時すごく驚いた覚えがあります。

この曲について書いた記事を貼っておきます。


===ここで進藤渉さんが脱退し、現ベースの竹田さんが加入します。


◆近年のバチバチに格好良かったLIPHLICH

近年は、ロックバンドというよりも、シンフォニーみたいでした。
このまま進んでいたらどこに到達していたんだろう。

魔旋律

サキュベイダー

オディセイ

瓦礫喜劇

Aim At Apple

◆EPILOGUE 0

楽園

女神の秘宝かき集め 染まった灰の空開く 予感がしてる
ばら撒かれた君を集め たとえ自滅したとしても もう戻れないのさ

楽園には炎があって 楽園には氷があって
楽園には命があって 楽園には全てがあって


◆コンセプトワンマンのライブレポート

個人的に記憶に残したくてメモを書いたライブレポートですが、書いておいてよかったと思うようになるなんて思っていませんでした。


◆LIPHLICHを知らない人へ読んで欲しい紹介記事

◆LIPHLICHとしての最終ライブのライブレポート


◆一度しかワンマンで演奏されなかった久我さんのソロアルバム

フルで上がってることに今気づきました。本当にありがとうございます。
多くの人に届いて愛されますように。
何回も、何十回も、ライブで聴けると思っていたのに、心から残念です。


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