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【提出エッセイ】アブラ菜は炒め物で

2020/01

アラサーのわたしでも大層物忘れが激しいので安心してほしい。若いころから、なんでこんな男と付き合ってしまったのだろうと、別れた後にその相手のどこが好きだったのかを全く思い出せなくなっているし、云十年経った今では彼らの顔もすっかり忘れ去っている。昨夜の夕飯も昔の男も、忘れてなんら支障はない。
 
冬日が戻った雨の土曜日に両親と出かけた。その道中父の電話が鳴り、BlueToothで接続されたカーステレオから元気の良い父の従姉妹の声が聞こえてきた。我が家の近所で「興梠」という名字の人を知っているかという内容だった。農家の興梠さんという人が、アブラ菜の美味しい食べ方を知っているらしく、訪ねたいとのこと。父は、興梠なんて家は知らないと言い電話を切った。
 暫くして再び電話がきて、無事に興梠さんが見つかりレシピを聞き、ついでに家の前にアブラ菜を置いたからどうぞ食べて。との連絡。帰宅すると玄関の前にアブラ菜がどっさり置いてあった。母はちょっと嫌な顔をしながら大鍋でアブラ菜を茹でた。菜っ葉系はお浸しにしておけば容量も減るしという考えだが、茹でる匂いがとてもとても臭い。こんな物をわざわざ持ってきやがって!わたしは悪態を吐く。夕食では皿にアブラ菜のお浸しが並べられた。わたしは勧められたが断固拒否した。父も拒否をし、母もこのまま食べるのは苦いと言い蓋をした。
 
電話が鳴った。また従姉妹だ。
「あぁ、うん、食べた。茹でた。うん、わかんない」
 父の声が聞こえる。食べたけど味は美味いんだか不味いんだかわかんないという感想を述べている。箸もつけていないのに。わたしが笑っていると母が目配せをして、
「そういえばこの従姉妹のお姉さんを覚えてる?あの詐欺師の」
 詐欺師?聞いたこともない。昔祖母が生きていた頃に、この従姉妹の姉が祖母のお金を増やすからなどと話を持ってきて、結構なお金を取られたという話だった。わたしは全く記憶になかった。
「その詐欺のお姉さんが更なる詐欺を働きに来た時、あんたが、帰れー!って怒鳴ったんだよ、覚えてないの?」
 母は誰の話をしているのかな?本当に、ひとかけらも記憶がなかった。詐欺師は金を返すことはなく、祖母の葬儀にも顔を出さず、一切の縁が切れているという。妹よ、呑気にアブラ菜なぞ持ってくるのではなく、姉の首根っこつかんで我が家に連れてきなさい。
 
アブラ菜は炒めると美味しく食べられるらしい。詐欺師に大金持っていかれた話もアブラ菜の美味しい食べ方も、忘れないように記すとしよう。自分でお金を出してコレを買うことはないだろうけど。



3年前エッセイ教室に提出した文章たちを久々に読み返していました。
タイトルを見ても冒頭読み進めても、この話は一切覚えておらず…🫠🫠わたしの脳内のキャパは如何ほどか。


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