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Rejoice/Official髭男dism 全曲レビュー

2020年、世界はパンデミックに襲われヒゲダンもその影響を受けツアーが開催できない状況となりました。翌年2021年に延期されたツアーは2022年まで開催され、さらにその年の後半にはホールツアーも行われました。世間的にもライブ時のマスク着用や声出しのルールが緩和され、いよいよ以前までのヒゲダンのライブが観れると感じていた時、悲しいニュースが届きました。ボーカルの藤原さんが声帯ポリープを患っており、療養のためライブ出演を見合わせるというニュースです。「Rejoice」はそんな苦悩を乗り越えた末に出された、ここ3年間、いやヒゲダンのこれまでの歴史が詰まった傑作アルバムです。それでは全曲レビューをどうぞ。

全曲レビュー

M1 Finder

前アルバムの最終曲「Lost In My Room」のアウトロ、そして藤原さんの優しい声とピアノから始まる1曲。「孤独と我慢の日々は終わった 僕らの未来がまたここから始まる」という歌詞にこれまでの苦悩とこれからの期待を想像せざるを得ません。この歌詞の直後、バンドがイン。ボーカルの加工も含め、とてもヒゲダンらしいサウンド。ゆっくりとしかし確実に足を進めるようなバスドラの音とともに世界が広がっていくような感覚を覚えます。

そして「It's time to "Rejoice"」という言葉で口火が切られ次の曲が始まります。

M2 Get Back To 人生

「Finder」で徐々に高まった熱量が一気に解放される名イントロ。個人的にアルバムは最初の3曲が重要だと思っているのですが、この時点で名盤の匂いが濃く漂っています。小気味良いギターカッティングとファンク色の強いリズム体はブルーノマーズの影響を強く感じます。

前半の歌詞では制限が多い社会の様子を、藤原さんらしい言葉遣いで書いていて、その鬱憤がラスサビの「ドーパミンが嬉し泣く 全俺が君と踊りたがる」というポジティヴィティ全開の歌詞で晴らされるのも面白いです。そして綺麗なファルセットで歌われる、タイトルにもなっている「get back to 人生」。ここから「人生」に戻って音楽活動を続けていくという宣言のように感じられて、戻ってきてくれてありがとうという気持ちが溢れます。

アウトロでは音が下がっていき、故障音のようなギターが鳴り次曲へ、、

M3 ミックスナッツ

ここで聴き馴染みのある既発曲が来る流れもとても良いですね。
リリースされて2年ほど経ち大分慣れましたが、やはりこの曲はとても変です(褒め言葉)。メロディはとてもポップですが、裏では高速ウォーキングベースとアーミングを駆使したギターなど、これまでのJ-POPにはほとんどないほどアバンギャルドな演奏です。このような曲を大人気アニメ「SPY×FAMILY」の主題歌にぶつけてくるのは、さすがと言わざるを得ません。

「SPY×FAMILY」で描かれる擬似家族を、正確にはナッツではないピーナッツが入っている、ミックスナッツに見立てたアンテナの張り方も見事だと思います。

M4 SOULSOUP

続けてこちらも劇場版「SPY×FAMILY」の主題歌になっている「SOULSOUP」。

同作品のタイアップを担当する際、それぞれで違うテイストの曲にするアーティストが多い気もするのですが、この曲は割と「ミックスナッツ」に近いなとリリース時思いました。似たテイストの曲でもしっかりインパクトのある楽曲を生み出せるのはお見事です。

全編サビのような強いメロディが続くのが、ラーメン屋の熱血さを連想させる部分があって、思わず笑ってしまうくらいの過剰さが大好きです。

M5 キャッチボール

ここにきて一呼吸置くような1曲。印象的な音色の音から始まるイントロやしれっと行われるサビでの転調が心地良い。

Rejoiceは喜びが爆発するほど嬉しい時だけじゃなく、日常とも非日常とも言い難いキャッチボールをしている時のような瞬間にもあるんだよ、と言われているように感じます。アルバムの懐の深さがグッと深まるような曲です。

M6 日常

M2~4は非日常のRejoice、M5は日常と非日常の狭間のRejoiceと考えると、ここで「日常」が置かれるのはアルバムとしてとても綺麗な流れですね。

「ホメオスタシス」という言葉が出てくるように、何かを変えたいけど現状維持に流されてしまう主人公。死ぬほど辛いわけじゃないけど幸せでもない、きっと多くの人が抱えているそんな感情を書けるのは、サラリーマンをしながら音楽活動も続けていた藤原さんだからこそだと思います。最後は悩みながらも「日常を今日も生きる」と静かな覚悟を決めている部分に勇気をもらえます。

サビの絶妙な音色のギターが好きです。

M7 I'm home (Interlude)

足跡とドアの音が印象的なInterlude。題名から分かるように帰宅の様子を描いているようです。まだ日常の続き。

ドアの開閉の音がどこか遠慮しているように聞こえる理由は次曲の歌詞冒頭で分かります。

M8 Sharon

これぞヒゲダンと言いたくなるようなグッドメロディの1曲。

シンプルなように見えて、サビ頭でスケール外の音をぶつけていたり、ドラマチックなサビから転調して2Aに入っていたり(歌詞も曲の雰囲気とともにトーンダウンしているのが素晴らしい)する部分はテクニカルでさすがです。

歌詞を素直に見ると、家で待っているパートナーを思う人の心情が書かれているように感じますが、このタイミングでリリースされると、復活を待っていたファンを思う藤原さんの気持ちだと読むこともできて胸が熱くなります。

M9 濁点

恋人ではない相手と、深夜通話している様子を書いた楽曲だと思います。アルバムの中でもかなり個人的なRejoice。そんな少し変態的とも取れる歌詞なのに開放感のある曲調で鳴らされているのが面白いです。

「濁点」というタイトルは「時間を溶かして濁す声」→深夜まで話して声が枯れることで言葉に濁点がついたような声になってしまうことからなのでしょうか。

M10 Subtitle

こちらはドラマ「silent」の主題歌としても話題となった1曲。シンプルながらも寒さを感じさせる歌い出しが素晴らしい楽曲です。

自分はドラマ未視聴なので、歌詞の考察などは他の方に譲るとして、楽曲としては各パートが寒さの中の熱い思いを表現しているように感じます。Bメロのリバーブが効いたギターやドラムは分厚い氷を感じさせ、サビでのシンセベースは基本的に単調ながらもサビの最後で大きくうねることで感情の動きを表しているように感じました。

サウンドメイクのこだわりが感じられるところもヒゲダンの大きな魅力です。

M11 Anarchy (Rejoice ver.)

ここからアルバム後半戦、一気にギアを上げていく楽曲です。

オリジナルバージョンはベースリフが楽曲を引っ張る、ダークな雰囲気漂う楽曲だったのですが、Rejoice ver.ではライブを意識したであろうホーンセクションを大胆に導入したアレンジになっているので、ぜひ動画のオリジナルと聴き比べて違いを堪能していただきたいです。

個人的には初聴時に一番テンションが上がった楽曲でした。2サビ後にはオリジナルになかった展開で、とても爽やかなギターリフのパートが追加され、かなりダウナーな展開だったその後の歌メロがすっかりライブで合唱したくなるものに変わっています。その後の叫び声?とともに繰り出されるドラムフィルもかなりやばいです笑

ラストは残響音が大きくなってそれを切り裂くようなギターとともに次の曲へ。

M12 ホワイトノイズ

アニメ「東京リベンジャーズ」の主題歌となった1曲。ヒゲダンにしてはかなりシンプルな楽曲だなとリリース当時から思っていました。しかしシンプルだからこそメロディとコード進行の美しさが映える曲だなと思います。

ずっとエンジン全開のような楽曲ですが、サビが二重になっていて、ラストのサビではさらに楽曲の勢いや解放感をブーストする仕掛けになっていて面白いです。イントロやギターソロでは大輔さんのハードロック好きが惜しみなく発揮されていて最高です!

M13 うらみつらみきわみ

前アルバム「ペンディング・マシーン」に通じる要素を感じる1曲。軽やかなサウンドに乗せて歌われる不安や怒りが痛快です。この路線の楽曲はヒゲダンのパブリックイメージとは離れている曲だと思うのですが、歌詞の面白さが際立っていて、ヒゲダンの大事な側面の1つだと思っています。

ラスサビではポジティブに着地してめでたしめでたしかと思いきや、急に曲調が変わり「許さず許されず 笑みを映し合う瞳 それでいい」と不穏な空気を残し楽曲が終了。このバンドは一筋縄ではいかないなぁと改めて思いました。

M14 Chessboard

Nコンの課題曲になった、この世界をチェスボードに喩えた1曲。「幸せと悲しみの市松模様」という歌詞がとても好きです。ラストに向けて徐々に熱量が上がっていくアレンジもお見事ですね。

そんな教科書に載っておかしくない楽曲でも、「クイーン」と歌詞が出てくるところで、イギリスのロックバンドQueen風のアレンジが盛り込まれているなど遊び心を忘れない精神も彼らの魅力だと思います。

M15 TATTOO

休符を活かしたベースが印象的な1曲。映画で例えるとここからエンドロールが始まるような印象を持ちました。

アルバムのこの位置に置かれることで、大化けした曲だと思います。言語化が難しいのですが不思議と泣けてくるんですよね。「そっけないくらいで僕らは丁度良いんじゃない?」と言いつつも確かな繋がり(TATTOO)がそこにはある。友達でも恋人でもそんな関係性が理想的だと思います。

M16 B-Side Blues

ヒゲダンが昔から使っていたBunkamura Studioがなくなったことに影響を受けて生み出された1曲。過去を懐かしみ、少し羨みながらも、未来へと次の1歩を踏み出そうとしている温かい歌詞が印象的です。

ラストのフレーズ、「失くしちゃなんないものはただ「続き」だけなんだ」という歌詞で、自分の人生において未来に目を向けるようそっと背中を押されるのと同時に、ヒゲダンもこれまでの過去を背負いつつまた楽曲やライブを届けてくださるのだろうな、と楽しみな気持ちも芽生えました。

終わりに

全16曲という大ボリュームながらも既存曲のアレンジ・配置、そして新曲のクオリティが素晴らしくて、アルバムとしての完成度がとても高いなと感じました。昨今は、アルバムを通しで聴くことも少なくなっていると思うのですが、ぜひこのアルバムは1曲目から16曲目まで通しで聴いていただきたいです。ヒゲダンは来年2025年でデビュー10周年、本文執筆時点では既にスタジアムライブも発表されていますが、これからどのような活動を行っていくのか楽しみでなりません!

ここまで読んでくださりありがとうございました。また他の記事でお会いしましょう。

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