米国最速のユニコーン企業: 別荘共有所有プラットフォームのPacasoを調べてみた
i-nest capitalの濱吉と申します。
今回は、米国で最速ユニコーンになった別荘共有所有プラットフォームのPacasoを調べてみました。
国内ではNOT A HOTELが類似企業にあたる領域の企業となります。
では、早速本題のPacasoについて触れていきたいと思います。
創業経緯
・アリソンが会社を設立するきっかけとなったのは、妻と一緒に自分たちのセカンドハウスを購入した際に、多くの人が別荘を持つことを夢見ているのではと思うようになり、そうした推測からこれまで富裕層にしか買うことの出来なかった別荘を誰でも簡単に所有できる仕組みを作り、世界の上位20パーセントの人々にセカンドハウスの所有権を実現することを目指し創業。
セカンドハウスを所有することのリスクと複雑さを軽減すると同時に、年間を通じてほとんど使用されていないことが多いバケーション不動産の利用率を高めることで、Airbnbがバケーションという新しいカテゴリーを作ったように、アリソンらはセカンドハウスの所有という新しいカテゴリーを作ろうとビジョンを掲げています。
初期は、Zillow社の共同設立者であるスペンサー・ラスコフと、スターバックスの元CEOハワード・シュルツをはじめとする投資家の支援を受け、事業を開始。社名は、スペインの画家パブロ・ピカソを参考に決めているそうです。"ピカソは、個々の要素を組み合わせて新しく革新的な全体像を作り出すキュビズムを共同で創造した人物として知られています "と、同社のウェブサイトでも説明し、「私たちは、ピカソが残した革新的な遺産に敬意を表して、Pacasoに決めました」とウェブサイトで説明していたりします。
チーム
・創業者兼CEO:Austin Allison
2008年にシンシナティ大学の学部、2010年にシンシナティ大学のロースクールを卒業後、住宅用不動産企業のSibcy Cline Realtorsで5年半年ほど勤務、同期間に商業用不動産開発企業のDuke Realty Corporationでも勤務。2009年6月に両社を辞め、不動産取引プラットフォームのdotloopを2009年7月に設立し、ファウンダー兼CEOに就任し、2015年にZillowに売却。Zillow Groupと手を組んだ後、dotloopはAustinの経営のもと、3倍に成長。現在、dotloopは米国の全不動産取引の半分以上をサポートするまでに成長を遂げている。そしてZillowの創業者兼CEO(途中でCEO交代)とPacasoを創業しCEOに就任。
・創業者:Spencer Rascoff
1997年にハーバード大学を卒業後、新卒はGSでインベストメントバンカーとして2年間勤務。その後、PEファンドのTPGに転職し1年ほど勤務。さらにその後、旅行会社のExpedia Groupにて創業者兼VPコーポレートデベロップメントとして4年間勤務+Expediaにて1年ちょっと、ホテルパートナーリレーションズグループの一員として活動し、150人以上のチームを管理。Expediaを離れ、Zillowを設立し、創業者兼CEO(途中でCEO交代)として約15年間経営。また、2010年頃から様々な企業のBoard Memberとしても活躍。2020年9月にZillowの元幹部であるAustin Allison(オースティン・アリソン)氏と共にPacasoを創業。
・CFO:Nina Tran
1991年に、カリフォルニア州立大学イーストベイ校を卒業後、PwCにて金融機関、ミューチュアル・ファンド、不動産会社、非営利団体などの監査業務やBDD業務を3年半年ほど行い、物流施設開発のPrologisにて米国証券取引委員会(SEC)への提出書類、SOX404コンプライアンス、ポリシー&プロシージャ、ファンドレポーティング、グローバル・プロセス・オーガニゼーション(GPO)業務を行い、最終的にSenior Vice President, Chief Global Process Officerに就任。また、Prologisに在籍しながら不動産ファンドのStarwood Waypoint Residential Trust(一戸建ての賃貸不動産投資信託)にてCFO、同じく不動産ファンドのVeritas InvestmentsにてCFOを得て、2021年3月にPacasoのCFOに就任。
概要
・Pacasoのサービスは、複数人で別荘を購入し、複数人所有できる別荘プラットフォームを提供している。基本的に売っている不動産は200万ドル以上の不動産に限定されていて、1所有権あたりの価格は25万ドルから100万ドルでの範囲(一部高級な地域では100万ドル以上の価格)で取引されている。また、シェア率に関わらず、常に会社の経営はPacasoが担うため、インテリアデザイン、専門性の高い不動産管理(清掃、メンテナンス、税務、法務処理などの面倒な作業はPacasoが地元の管理会社と提携して代行)、スケジューリングなどの面倒な作業を顧客が考える必要はない
・基本的に所有者は年間44泊分(一部シェアによって異なる)の滞在が可能で、事前予約が必要となる。予約は宿泊日の8日前-24ヶ月前までの予約が必要で、部屋が空いており、直前に決める場合でも2日前から7日前の予約が必要となる。それぞれ2泊から14泊までの滞在が可能
・不動産に特化したLLC(有限責任会社)を設立し、独自の共同所有モデルを可能にしている(セカンドハウスのコストと手間を削減)
・Pacasoは、ゲストに対して宿泊レンタルとしての提供ではなく、家の中での時間をゲストに「プレゼント」するという形で運営しており、タイムシェアやバケーションレンタルの制限を回避する方法を見出したと言っており、同様の商業施設とは異なり、TOT(一時占有税)は徴収されない形になっている
・オーナー同士、あるいはオーナーと住宅がある市や郡との問題が起きた場合、Pacasoが対応してくれる仕組み。訴訟費用はオーナーに転嫁される可能性があり、各住宅は最高200万ドルの住宅賠償責任保険に加入してある
・購入1年後以降は再販をすることも可能で、売却する場合、オーナーは売却価格を自由に設定でき、不動産業者も自分で選ぶことができますが、他のオーナーが一番最初に購入する権利を得られる仕組み
・Pacasoのマネタイズは、購入時にオーナーからサービス料として購入額の12%を徴収し、さらに年間運営費用として月額99ドルをオーナー全員から徴収することで収益を得ている
・現在は、ユタ州パークシティ; コロラド州アスペンなどの25の地域で展開しており、ナパ、レイクタホ、パームスプリングス、マリブ、パークシティなどの人気セカンドハウス市場で仲介ライセンスを保有
・オーナーの審査はPacasoが行うため、オーナー同士で決めることはできない仕組み
・各オーナーには、個人的なアイテムのための指定された収納スペースが付いている
・オーナーが宿泊した際に、物が壊れたり、傷付いたりした場合は宿泊していたオーナーが全ての責任を追うことになる
・Kocomo( メキシコ)、Vacasa(アメリカ)などが競合にあたる
数字情報
・現在の評価額は15億ドル
・平均90-95%以上の占有率
・パカソの購入者の60%は初めての別荘所有者
・現在、約300家族が所有しており、現在合計で2億ドル近くの価値があるとのこと
・今年の第2四半期、Pacasoのウェブサイトとモバイルアプリへのアクセス数は180万件(前四半期から約200%増加)
・ローンチ以来50万人以上がサイトを訪れ、これまでに6万人の購入希望者がセカンドハウスの共有について詳しく知るためにPacasoに問い合わせ・世界には約1億戸のセカンドハウスが存在(米国には約3,000万戸の別荘が存在)し、その大半は1年のうち10カ月から11カ月ほど空室になっている
・現在の年間収益は、3億3000万ドル
ファイナンス状況
成長要因
・セカンドハウスの需要増加
a)多くの人がセカンドハウスを自分のステータスとして保有したい、ホテルや人の家を借りるのではなく、自分の別荘を所有し泊まりに行きたいといった需要が所得上位20%のアメリカ人の需要として存在しており、そういった背景もありユーザーの多くがPacasoのコンセプト(はるかに安価な価格でセカンドハウスを所有)に魅力を感じ、購入や問い合わせが殺到
b)更に別荘物件の供給不足も、成長要因の一つ
c)全米不動産協会によると、2020年の別荘売上は、前年同期比で16.4%、今年の1-4月の期間では57.2%増加
・新築・中古住宅の供給量は、記録的な低水準で、住宅ローン金利はアメリカの多くの地域で上昇し、別荘購入の参入障壁が高い
a)供給コストは上昇を続けており、特に重要な木材のコストは、グローバルなサプライチェーンが混乱しているため、COVID導入前に比べて4倍に上昇しており、供給量は限られた状態が続き、価格はさらに上昇傾向
b)これに住宅ローン金利の上昇が加わると、初めて購入する人からすると別荘購入のハードルが高い
c)上位50都市のうち49都市では、夏季に2桁の価格上昇が見られ、最も上昇したのはハワイのカウアイ郡で、セカンドハウスの販売価格の中央値は前年同期比83.3%増となっている
リスクや重要なポイント
・他のオーナーとの相性の悪さや、いざこざがあった場合に、所有権を誰かに渡したいと思っても、簡単に売れない可能性が高い
・モンタナ州セントヘレナ市からの標的
a)展開している地域の1つであるモンタナ州のセントヘレナ市に起訴されており、Registerの報道によると、訴状では、市がPacasoの経済的利益を妨害することを禁じる差し止めを要求(宿泊違反の警告など)しており、4月にはPacasoがセントヘレナ市のタイムシェア禁止令がPacasoに適用されないことを宣言する判決を求めている(起訴情報によると、Pacasoはセント・ヘレナに5軒の住宅を所有または管理している)。この訴訟は、7月に判事が市に一部有利な判決を下したものの、現在も係争中。 多くの都市がセントヘレナ市と同様のタイムシェア条例を制定していることから、両者ともこの訴訟が大一番となっており、負けた場合、Pacasoのビジネスモデル全体が吹っ飛んでしまう可能性もある
・住民からの批判
a)アリソンが住んでいるナパでは、3ベッドルームの家を113万ドルで購入した後、激しい反発を受けた例が存在。同社の広報担当者がWall Street Journalに語った文によると、Pacasoのオンラインリストに「ナパで買った家を燃やす」と書き込んだ者がいたため、Pacasoの幹部が警察に通報した例も存在
b)マリブでは、AhernとLaBongeはすでにPacasoの家の隣での生活に不満を感じており、ゴミはたまにしか出さない、家は何日もセキュリティゲートを開けたまま放置されている、作業員が家の敷地内に車を停め、機材も置いていく(ある朝、ガレージを開けた時に、車道の真ん中に梯子が置いてあったりも)などがあり、一人でもそういったことをする人がいることで住民からの批判があるとのこと
c)解決策として、近隣住民の問題に対処するため、Pacasoは最近、Pacaso社の住宅周辺住民の「専用窓口」となる「ローカル・リエゾン」の設置を決定。Pacaso社によると、Pacasoは、7~10年のサービス業務経験を持つ地元のフルタイム従業員を採用し、自宅の管理や近隣住民の窓口になってもらっているとのことで、これらの従業員は毎日、住宅所有者や幅広いコミュニティに対応しているそう。LaBongeは長い間、Pacasoが連絡してこないので、誰に連絡すればいいのかわからなかったとのこと
今回の事業領域だったり、コンシューマー事業で事業展開をされている方などディスカッションさせて頂きたいので、お気軽にご連絡ください。
Twitter:https://twitter.com/taisei_maruta