社会保険は譲らない
2024年11月現在、可処分所得を増やすために所得控除の引き上げが議論されている。
所得控除の基本額(基礎控除・給与所得控除)が103万から178万へ。
これで学生バイト、主婦パートがもっと稼げる。
素晴らしい!
とは、ならない。
今回はこの辺りのことについて書き綴っていく。
社会保険の進撃
以前にこんな記事を書いた
半年前の段階で「2030年までに日本人は社会保険制度に制圧される」と書いた。
もっと、早まるかもしれない。
2024年11月現在、所得控除の引き上げが議論される中、社会保険の適用範囲が一気に拡大する予定となった。
なんと、年収に関係なく「週20時間以上の勤務」をしただけで、社会保険が加入義務(予定)になるようだ。
つまり、週に2万程度を稼ぐだけで社会保険の加入対象になる可能性もある。
――― もはや、年収の壁という言葉に意味がなくなる
所得控除の基本額は上がった一方、社会保険の適用範囲が拡大される。
所得税と住民税は(少しだけ)譲ってあげるから、社会保険は(しっかり)譲ってね、と。
学生こそ免除は続くが、主婦パート勢はどうなる?
「国民の手取りを増やす」と意気込む某政治家の想いは台無しだ。
これは、ギャグか?
それとも…
――― 社会保険は絶対に譲らない
という国の意思表明なのか?
倒産・廃業は確実に増える
社会保険の適用範囲を広げると、倒産や廃業は確実に増える。
社会保険は会社が半額負担するというルールがあるからだ。
それでなくとも、最低賃金が上がり、苦しんでいる事業所は多い。
特に、店舗型のビジネス。
店舗運営には人手が必要で、その規模に比例してアルバイトの数が多い。
週20時間以上勤務するアルバイトの数を数えて、その社会保険費用をシミュレートした結果に冷や汗をかいている経営者も多いはずだ。
もしくは「そんなのは嘘だ」と現実から目をそらす人もいるかもしれない。
さらに言えば「もう国の言うことは聞かない」と、今までホワイトに運営していた事業所がブラック化してしまうかもしれない。
あるいは「もう辞める」となるか。
1.最低賃金を上げ、全体の賃金を底上げる
2.社会保険の適用範囲を広げる
この2つは、会社経営をギリギリの線で成り立たせている事業所を追い込んでいく。
特に店舗商売は、新しくはじめる人も減るだろう。
さらに言えば、人工数3万に満たないような小さな街での新装開店など、絶望的になると思う。
――― ひとり、起業
新しく起業する人の多くは、間違いなく、この方向性へ向かう。
もしくは「ひとり」が集まったチームでビジネスをする。
実際、既にそんな感じになっている。
噛み合わない歯車
国や政治家が言うこんな言葉。
・手取りを増やす
・可処分所得を増やす
・実質賃金を増やす
私はこれが絶対的なものだとは思っていない。
「物価」の影響を受けるからだ。
手取りが増えても、物価が上がれば意味がない。
「物価増 < 手取り増」を実現しなければいけない。
しかし、現実は難しい。
一般経済は、そんなに甘くない。
事業所は、自分の商品やサービスを可能な限り高く売りたい。
世間の手取り額が増加傾向にあるなら、それに合わせて限界まで価格を上げたい。
減税で手取りが増えても、賃金上昇で手取りが増えても、同じことだ。
おそらく「待ってました」と言わんばかりに、値上げをしていく。
今までずっと「我慢」してきたのだから。
さらに言ってしまうと「自分の価値を高めて、より多くを稼ぐ」という状況をつくらないと、その時の物価なりの生活水準になる。
自分以外の外部要因で増えた分の収入は、それに合わせた物価上昇で相殺される。
それはおそらく、国や企業や個人の「無駄遣い」や「悪しき既得権益」を改修して、平等に分配した程度で解決できるレベルではない。
「富の再分配」という単語は、中学生で習う言葉だ。
しかし、私は仮に「富の再分配」がそこそこ上手く行ったとしても、やはり根本的に「富」が足りていないのが日本の現状だと思っている。
――― 国も、企業も、個人も、無い袖は振れない
私は、負担を押し付け合っている時間とエネルギーが惜しいと思う。
経営者という個人として、目の前にある「変えられること」を最優先したい。
この国を良い方向へ変えようと具体的な行動を起こしている人には、本当に頭が下がる。