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経営者の損益計算症候群
1年程前に「仕事がなくて困っている」と言っていた経営者がいる。
コロナ後も前のように仕事が戻って来ず、苦戦しているとのことだった。
その経営者(以下、K氏)が最近、車を買った。
しかも、ハリヤーと軽トラックの2台だ。
お互いの知人を通してだが「儲かったから買った」と言っていたらしい。
嫌な予感しかしない。
今回はこの辺りのことについて、書き綴っていく。
コロナ融資の恐ろしさ
K氏は、夫婦二人で旅行代理店を経営している。
旅行代理店のコロナ禍。
これは、もはや説明の必要はないだろう。
絶望的な経営状況の中、K氏は「特に何もしなかった」。
外から見ると、ただ黙って禍が過ぎるのを待っているように思えた。
K氏は、コロナ融資を受けたと言っていた。
そして、限界まで借りたと言っていた。
別に、コロナ融資が悪いというわけではない。
限界まで借りておくのも、良い経営判断だろう。
借りる必要がなくても、念のために借りておいたという経営者も多い。
問題はここからだ。
コロナ融資の恐ろしさは「無利子・無担保」という点にある。
乱雑なイメージだが、想像してみて欲しい。
利子は必要ない。
それでは、返済の猶予期間と返済期間を最大にしよう。
ゆっくり返していけばよい。
担保も必要ない。
万が一、返済ができなくても、何も奪われない。
最悪、返済しなくても、何とかなる。
――― こんな考えになる人がいる
しっかりと現金を持っている返済の猶予期間が考えを麻痺らせるのかもしれない。
もちろん、その後、返済は容赦なく始まる。
融資金の返済するということ
融資金は、売上として得た金の中から返済する。
当たり前のことだ。
しかし、純粋な運転資金や設備投資のために受けた融資と違い「金がないから借りた」という融資は、返済が難しい。
本来、右肩下がりの会社は融資が下りない。
――― そこに登場したのがコロナ融資
コロナ禍で絶望的な右肩下がりの会社でも、コロナ融資は下りてしまった。
お陰で生き残った会社も多い。
しかし、本来は下してはいけない会社にも、見事に下りてしまった。
元々、あまり利益が出ていなかった会社にとって、コロナ融資の返済は難しい。
返済金は「税引後の利益」から返さなければいけない。
返済金は借りた金を返しているだけなので、経費ではない。
結果、現金は増えていかないのに、殆ど利益は出ていない気がするのに、なぜか税金が掛かるということになる。
これを理解していない経営者が意外と多い。
元々が赤字、もしくは赤字寸前の会社の場合はどうなるか?
猶予期間を経て、返済がはじまった瞬間に、驚くべきスピードで現金が減っていく。
当たり前のことだ。
乱雑に言ってしまうと、日々の「利益」から返済をしなければいけないということ。
赤字の会社の場合は、ドラスティックな改革が成功でもしない限り、返済できるわけがない。
損益計算書しか見えていないということ
K氏は、おそらく「損益計算症候群」だ。
特定の期間で損益を計算し、その情報を元に「会社が儲かっているか?」を判断する。
まず、前提として「損益計算症候群」に陥る人は、純資産を意識しない現金主義の人だ。
この辺りは、過去の記事を読んで欲しい。
K氏の場合、コロナ禍を経て、少しずつ業績は回復しているのだと思う。
しかし、短期の損益だけを見て、累計の業績を見ていない可能性がある。
損益計算書だけ見て、貸借対対照表を見ていない。
貸借対照表を見れば、累積された会社の業績が分かる。
損益清算書を積み重ねた結果が貸借対照表だ。
設備投資の必要が殆ど無いはずのK氏の会社の場合、利益の多くは現金として積み上がるはずだ。
その会社が融資で現金が欲しいということは、それだけで十分な利益剰余金がないと想像できる。
一方、損益計算書には、毎月返済した金額や購入した車の金額は一部しか反映されない。
それらの金額は、利息と減価償却という2つの項目に姿を変えて、僅かのみの数値が経費として表示される。
そうなると、現実の経営成績と異なり「損益計算書上は黒字」ということが有りえる。
損益計算症候群の人は、短いスパンの損益しか見えておらず、現金があれば使ってしまう。
そんな傾向があると思う。
症候群からの脱却
貸借対照表を見ること。
そして、資産の内訳を見る。
さらに、資産の各項目の数値を疑う。
その数値と現実世界での価値は違うからだ。
私は、損益計算書よりも貸借対照表の方が重要だと思っている。
どちらか一つだけ見て、融資・投資をするか決めろと言われたら、即答で貸借対照表を採る。
例えば、貸借対照表にある利益剰余金。
これを営業年数で割れば、どのくらい利益を上げる能力があるかがすぐ分かる。
Amazonのような巨額な赤字を無視して莫大な投資を続けた会社は、殆どいない。
おそらく、銀行員も貸借対照表の方をよく見ていると思う。
そこの数値が悪ければ、損益計算書など見もせず融資を断るかもしれない。
私が思う、銀行員が見る損益計算書のポイントは以下の通り。
1.経営者が何に金を使っているか?
2.税引き後の利益がどれだけ残っているか?
3.2の数値から考えて融資できる限界の金額は?
と言った視点で見ているのではないかと思っている。
そして、それを無視したのがコロナ融資。
だから、危ない。
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