コラム「製造小売業か小売製造業か」

*2008年11月02日のコラムです。

 多くの食品関係企業が商品に薬物などが混入している事件が相次いでいますが、ファミリーレストランの大手であるサイゼリアでも有毒化学物質がピザから検出された、と報道されました。ちょうどその週は日経ビジネスでサイゼリアを優良企業として取り上げていましたので日経ビジネスとしてはそのタイミングにバツの悪さを覚えたのではないでしょうか。
 今から10年前くらいでしょうか、サイゼリアを特集した経済番組を見たことがあります。当時、破竹の勢いで成長していた外食産業としてサイゼリアを取り上げていました。僕の記憶では、その頃はサイゼリアはまだ2部上場の企業でしたが大手の「すかいらーく」や「ロイヤルホスト」など外食産業の先頭グループの成長が踊り場を迎えていた時期でしたのでサイゼリアの成長が際立って見えていました。その番組を見て、「いい会社だな」と思った記憶があります。
 その頃に、業界で言われていましたのが外食産業における店舗数の限界でした。理由は覚えていませんが、全国展開をしても800店舗くらいが限界でそれ以上店舗を増やしても利益は増えない、ということを「すかいらーく」を例にとって説明していた雑誌記事がありました。ちょうどその頃にサイゼリアの特集番組を見たのでした。それ以来、僕はサイゼリアに注意を払うようになっていました。
 僕の生活領域にサイゼリアは2店ほどあり、少し遠出をしてもよく見かけていましたので店舗数はかなりあると思っていました。しかし、今回の報道でまだ800店舗に達していないことを知りちょっと驚きました。しかも出店地域が関東に偏っていたのも驚きでした。
 それはともかくサイゼリアは有害物混入がありましても、その迅速な対応などを見ていますと、この危機も無難に乗り越えるのではないか、と期待しています。
 以前、このコラムでPB商品について書きましたが、ここ数週間で僕のコラムを検索結果から訪れてくれた人の「キーワード」トップ1が「PB」(プライベートブランド)でした。最近は「PB商品」に関心を持っている人が多いようです。
 PB商品に関連するのですが、先週の日経ビジネスは製造小売業(SPA)についても特集をしていました。記事には、大手スーパーや百貨店など一般的な小売業が低迷する中、製造小売業の健闘ぶりが書いてありました。製造工程を持たずメーカーから仕入れて販売するだけの小売業はどこも苦戦しているようです。日経ビジネスの記事を読んでいますと、今後は製造小売業でなければ立ち行かなるような気にさえなってきます。
 製造小売業は、その名の通り製造から販売までを行う企業のことですが、それにも二通りがあります。一つはPB商品のように小売業が製造業まで手がける形態と、あと一つは製造業が小売り業まで手がける形態です。
 今、「PB商品のように」と書きましたが、正確にはPB商品は製造小売業には該当しないと考えます。なぜなら、単に商品の企画だけを行い製造に関しては製造業に丸投げしているからです。以前見たテレビ番組でも大手スーパーの担当者は「我々は消費者の求めているものはわかるが、製造のノウハウは持っていない」と正直に語っていました。少なくとも「製造小売業」と名乗るからには「商品の素材の選定から製造に関わっている」必要があります。実際、製造小売業で最も有名なユニクロなどはそのようにやっています。いえ、正確にはユニクロは小売製造業です。
 製造から小売業までを手がけている企業には「小売業から展開」した形態と「製造業から展開」した形態がありますが、一般的なのは前者です。ユニクロなどもそうですが、売りたい商品を「自分で作る」という発想は不思議でもなんでもありません。しかし、製造業が負うリスクをも負うことになるのですから覚悟が必要であることは言うまでもありません。それでも販売ルートがあることはとても大きな財産です。
 それに対して後者の場合は、販売ルートの開拓が難問です。以前、このコラムで「豆腐の篠崎」という会社を書いたことがあります。大手スーパーに豆腐を卸してしたのですが、スーパーの担当者のあまりに理不尽な対応に憤慨しスーパーの販売チャンネルをやめてしまった企業です。それではどうしたかというと、フランチャイズシステムで販売ルートを作ったようです。製造業から展開する製造小売業が販売ルートを確保するとてもよい例だと思います。新たに自前で販売店を作るとなると膨大な資金と人員と時間が必要になりますが、フランチャイズシステムですとそうした問題点をクリアできます。
 このことはフランチャイズシステムの問題点の解決にもつながります。現在の大手のフランチャイズ本部はほとんどがメーカーと加盟店の中間に入って利益を取るシステムになっています。これではメーカー、小売店(加盟店)の両方から利益を搾取しているにすぎないように思います。それよりはメーカー(製造業)がフランチャイズの本部になるほうが小売店(加盟店)にとっても理に適っています。
 数週間前に経済誌でコンビニ加盟店店主の方々の覆面座談会が載っていました。その記事を読みますと、今から20年前僕がラーメン店の加盟店だったときに感じていた問題点が現在も改善されていないようでした。こうした問題点は、フランチャイズ本部がメーカーと小売店の中間に入るだけの今のフランチャイズシステムではなくなることはないように思います。フランチャイズシステムの問題点を改善するにはその根源である「製造業でもなく小売業でもないフランチャイズ本部がこの二つの間に位置する」という「あり方」そのものを変える以外になりのではないでしょうか。
 いろいろな経済誌の記事を読みますと、現在、コンビニなどでは「加盟店店主が確保できない」などフランチャイズシステムも曲がり角にきているようです。また、スーパーなどでは、今後はますますPB商品が増えるようです。こうしたことを考え合わせますと、製造小売業もしくは小売製造業がさらに発展することは間違いなさそうです。そのときに「製造業から発展」したのか、「小売業から発展」したのか確認してみるもの面白いかもしれません。

 ところで…。
 僕の妻は算数というか、数学というか、とにかく数学系が苦手です。例えば、
「1,000円の売上げがあって原材料費が300円のとき原価率は?」
 などという問題のとき「割り算をすればよい」ことはわかりますが、「どれをどれで割るか」に悩みます。
 このような妻ですので、スーパーなどでメーカーの違う同じ商品を買うときに困ります。だいたいにおいて、メーカーが違うと容量が違いますので、どちらが安く得なのか判断がつかないのです。例えば、A社の商品が「120gで380円」、B社の商品が「110gで370円」などと表示があるとどちらが安いのかわからないのです。
 そういうときは僕を呼びつけ僕に計算式を言わせます。その計算結果を見てどちらが安いかわかるわけです。
 そういうとき、僕は妻を見下しながら言います。
「ねぇ、そんな計算式がわかんないんじゃ、今までに外見が違う2つを比べられなくて損することあっただろ」
「うん、だから貧乏な結婚をしちゃった」
「……。」

 じゃ、また。

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