脱サラをしてラーメン店を始めたい人に役に立つ講座(1)の1・全14回

はじめに
 現在世の中は独立ブームといってもよいでしょう。独立を勧める雑誌などもたくさん発売されています。理由とし てはリストラや組織の歯車で終わりたくないと考える人が増えているといったことがあると思います。しかし、成功 している人はほんの一握りです。それが現実なのです。私は昭和61年にやはり歯車で終わりたくないと思い、脱 サラをしてラーメン店を始めました。そして13年後に廃業しました。その経験からしますとマスコミや雑誌などで 紹介されている内容はあまり実態を知らせていないように思います。
 私はこの講座でこれからラーメン店を始めようと考えている人たちに少しでも本当の、現実の実態を知っていた だきたいと思います。マスコミや書籍などでは分からない、又は教えていないことを伝えたいと思います。
 実際、書店には 「成功するラーメン店」、「儲かる店作り」 などといったいろいろな本が並んでいますが、皆がそ うしたからといって上手くいくはずもありません。ですから私はできるだけ具体的に伝えるために体験記としまし た。この中から 「机上の空論」 ではない現場の雰囲気を感じて欲しいと思います。 
《 挑戦するものだけにチャンスはあたえられる 》

第1回
開店するまでの悩みと不安です。

 先ず、私が脱サラにラーメン店を選んだのは資金面の理由です。その当時も脱サラする業種として現在と同じ ぐらいの種類があったと思います。その中で一番少ない資金で始められそうだったのがラーメン店でした。それと 前職はタクシーの運転手でしたので何となく身近に感じられたのもあると思います。

 具体的に言いますと、新聞の折り込みに “FCでラーメン店をやりませんか?” という広告を見つけ、その広告 に惹かれたのです(FCとはフランチャイズチェーンです)。それからはFCの広告を集めるようになりました。そうし て集めた広告の中からA社に電話をしたところ、「面接に来て欲しい」 とのことでしたので「後日、伺う約束」 をし てから電話を切りました。また、他のB社に資料の請求を申し込みました。
 数日後、B社より請求した資料が届き内容を見ますと、申し込みから開店するまでの流れが説明が図解入りで なされていて、「最低資金の金額」 や 「成功者の声」 などが書かれていました。しかし、全く経験がない私にとっ ては「良いのか悪いのか?」、書いてある内容が 「本当かどうか?」 判断することができません。それでも、なん となく夢は膨らんでくるものです。
 さて、「面接に来て欲しい」 というA社を訪問することにしました。この会社はB社よりも規模は小さいようです。 社長の説明を聞き、そのあと実際にオープンしたばかりの店を見学に行くことになりました。
 見学に行った先はオープンして数日しか経ってない店で、二十代後半と見える若夫婦が働いていました。店の 広さは、カウンターだけの座席数十人位です。立地はといいますと、店の前は余裕のある片道一車線の車道で 店と車道の間には1.5mほどの歩道がありました。ラーメン店で重要なのはこの立地であり、車道の幅が一番大 事です。
 何故かといいますと、道路端に車を駐車できるだけの道幅があるかどうか、で売上げに響くからです。又、座席 数というのも大事です。売上げはあくまで“客単価×客数”でありそれ以外はあり得ません。中には「配達をすれ ばいい」と考える方もいるでしょうが、思うほど簡単にはいかないものなのです。配達には人手がいります。この 人員の確保というのが、個人営業では最も困難なことなのです。確保という以外に、その人件費というのもバカに なりません。こういった理由で、配達は考えに入れない方が良いでしょう。

 さて、見学に行った店での若夫婦の働きぶりはといいますと、そのときの店の状況はお客様は座席が満杯にな る位入っており、必死に本当に“必死”という言葉が当てはまる程、動きまわっていました。しかも驚いたことに、 奥さんは赤ちゃんを背中に括りつけおんぶをしていたのです。このような態勢ではどんなに必死に働いていても 作業の能率が上がるはずもありません。イライラしているお客様がいるのを感じました。私は若夫婦の必死の仕 事振りを見て、「ウワーッ、すごいなー感動するなー」 と思ったのですが、お金を払って食べに来るお客様という のは、単純に 「不満や不安を感ずる」 ものだと勉強になりました。
 私にもまだ三才と四才の子供がいましたのでとても不安になり、社長には 「後日、また連絡する」 旨を告げ帰 途に着きました。
 家に帰り妻に見学に行った店の話をすると、やはり妻も不安を覚えたらしく「そんなんで大丈夫なの?」 と聞か れましたが、「わからない」 と答えるしかできませんでした。
 何日か過ぎたある日、以前資料を請求したB社の営業の方が訪ねてきました。先に会いましたA社の社長はど ちらかと言いますと、ノーネクタイでラフな出で立ちでしたが、B社の営業の方はきちんとスーツを着こなし、いか にもセールスマンといった感じの方でした。
 物腰丁寧に挨拶を終えたあと、営業の方は自社の概要を説明し、またラーメン店の成功例を幾つか話し、そし て最後に「当社の加盟店を見学して欲しい」と誘いました。私としてはA社だけの見学では物足りませんので、も ちろん了承しました。
 B社の見学した店は加盟店ではなく直営店でした。その店はA社で見学した店よりも広さは二倍ほどありました が、立地環境は似たような感じです。店舗の運営は、四十才位の男性とその男性より十才くらい若そうな男性と 二人で営業しているようでした。その店は営業して年数もある程度経っているようできれいな感じはありません。 A社の見学店との大きな違いは「出前をやっている」ことで、出前用の麺と店内用の麺を「使い分けている」と話し ていました。
 私が訪れたとき、店内にはお客様が一人もおらず暗い雰囲気でした。そのときの私の気持ちがわかったのでし ょうか、営業の方は「脱サラをしてラーメン店をやるメリット」を少々大げさに訴えていました。しかし、あまりメリッ トばかりを強調されても逆に不信感を持つものです。私は「考えてみます。」と返事をして店を後にしました。帰り ながら考えたことは、FCというのは加盟店を増やすのが仕事なのだぁ、と。らーめんを売ることではなく…。だか らこそ、「営業の社員までいるんだ」と思いました。

 脱サラに際して、「何故、ラーメン店か」 というと折り込みにラーメン店のFC加盟店募集の広告が載っていたか らですが、もっと根本的なことを言うならば 「飲食業だから」 ということもありました。これは十年以上経ってこそ 感じるのですが、やはり人間は食べていかなければ生きていけません。人間が必ずお金を使うのは飲食です。こ れは大きな要因です。「脱サラしたい」 と考え、何の知識も経験も無いならこれしかないと考えました。
 FCにも小から大までいろいろありシステムも様々です。
 大きいところは営業時間から取引き先、内装工事業者など箸の一本まできめ細かく指定されています。契約期 間も厳しく決まっており、それらに違反すると罰金まで取られてしまいます。しかしメリットもあります。サポートシス テムが完備されており、立地に関する市場調査などもしっかりしているので成功する条件が整っていることです。
 それに対して、小さいFCは「単にラーメンの作り方を教えるだけ」で、問屋と加盟店との間に入ってマージンを 取るというやり方が多いようです。この場合のメリットは契約が細かいところまで厳しくないということです。
 そうした中で、私が重要視したのは “FCに強く縛られたくない” ということでした。規律が厳しいFCに加盟してし まうと “自由が無く、脱サラした意味が無い” と考えました。という訳で、小規模のFCを選択することにしまし た。結局、A社に決めました。

つづく。

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