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バームクーヘン<140字小説まとめ8>


Piece 69
「雰囲気のあるテレビが要るの。友達になれるような。解像度とか最新機能とか、どうでもいいの。普通のよそよそしい黒い薄いのじゃなくて、個性のあるテレビが必要なの」
彼女の話はよくわからなかったが僕には拒否権もなく、僕たちはおんぼろの茶色のテレビを中古で買って、「ハッチ」と名付けた。
#3月の星々 「解」

Piece 70
雪解け水を飲める自然公園までドライブした。彼は離婚したばかりで世の中にふざけんなと思っていて、少しは遊んでもいいだろうと思って私とつきあっていた。でも私はそれでもよかった。その公園で魔法みたいな水を飲んでキスして、そうするうちに私が好きでたまらなくなりますようにと思っていた。
#3月の星々 「解」

Piece 71
君をよく見ていたので、恋をしているのが分かった。知っていたけど、誰が好きなのかと僕が聞くと少し話したそうだ。僕の好きな人も教えてと君は言った。数学の解答用紙の裏に好きな人の名前を書いて「せーの」で見せようと君は笑った。君の笑顔を守ろうか、全部ぶち壊そうか。僕はペンを走らせた。
#3月の星々 「解」

Piece 72
彼女は自分の髪があまり好きではないと言う。真っ直ぐに綺麗にならないのだと。ほらあの人みたいに、と道ゆく人を指す。その日は予定もなく彼女は本を読んでいた。彼女は解読できない暗号を読むように顔をしかめている。少しだけ癖のあるその髪が揺れて顔を隠す。その髪に本当はそっと触れたかった 。
#3月の星々 「解」

Piece 73
たまに無理しなくてもいいのにと言いたくなった。全部理解したふりをしなくてもいいのに。だから疲れて奥さんに逃げられるのだ。でも言いづらかった。だからなるべく外にいる時は、怖い顔をして自分から口づけた。そうすると子供みたいに笑ってくれるので。
「何怖い顔してんの」
「こういう顔なの」
#3月の星々 「解」

Piece 74
お前ん家に銀行強盗がが立て籠っているらしいぞ」
「え、家には、妻が」
俺はみんなが止めるのも振り解いて帰宅した。
「諒子、大丈夫か」
「だめ、来ないで、危ないわ」
「気をつけろ、死んじまうぞ」
「私の家で悪事を起こそうなんてこんなもんで許されるはずないじゃない」
ああ、遅かったか。
#第3回文タコン

PIece 75
同じ業界で働いているから別れてもいつかは会うことになると知っていた。でもそれまでに強くなっておくつもりだった。練習しておこう。「久しぶりだね」と囁かれても一切動揺せず、どうせ「変わらないね」とかなんとか言ってくるのだから聞いてはならない。「なんでそんなに警戒してるの?無駄なのに」
#第13回カクタノ140字小説コンテスト


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@hoshiboshi2020 様の140字小説コンテストに参加させていただきました。


@bungoutaco様の第3回文タコンに参加させていだきました。

@mimi_00_coco様の以下の企画に参加させていただきました。


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