「壊れる日本人」を読んで
福島県いわき市のTさんは、1999年3月大腸がんのため、余命3ヶ月と告知された。彼は延命治療を断り在宅ケアを選んだ。残り少ない期間を妻と4人の小さな子供たちと温泉に行ったりして楽しく過ごした。そして医師の予想を遥かに上回り、告知から2年余り生き抜き2001年6月に息を引き取った。
父親の死後2年程たったある日、中学生になった息子が、ふと母親にこんな事を言った。
「お父さんが教えてくれたの、ぼくたちみんなにね。お父さんがベッドで手を出して、両手は何のためにあると思うかって聞くの。ぼくたちはボールを受け止めるためとか、ご飯を食べるためとか言ったけど、お父さんは、みんな合ってるけど、みんな違うって。両手はね、好きな人を抱くためにあるんだ。だけど、からだだけを抱くんじゃない。心までしっかり抱くんだって。心を抱きしめたいくらい好きになれた人でなければ結婚なんかしちゃ駄目だって。お父さんはお母さんのこと、本当に好きだから、心まで抱くんだと言ってたよ」
柳田邦男 「壊れる日本人」から引用