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クラシコム(東証グロース/7110) 株主総会レポート 2023/10/27

 東証グロース市場に上場しているクラシコムさんの株主総会に出席しました。株主総会の様子について、当記事にてご紹介したいと思います。当記事は私の心証に基づき脚色しており、記載内容が意図せず事実と異なる可能性もあります。また、当記事は同銘柄の売買を推奨するものではありません
 記載内容に関するご指摘、ご意見、ご感想がございましたら、ぜひお気軽にX(旧ツイッター)にお寄せ頂ければ幸いです。


0.参考記事

 同社の株主総会は上場後、初めての開かれた開催となるため、過去の株主総会レポート記事は残念ながらストックがございません。同社に関連した記事としては、1年前に有報が出されたタイミングで一度記事にしたものがありました。その後はX(旧ツイッター)で、浅はかな言及ばかりしています(笑)。

1.基礎情報

 それでは株主総会の中身としてまずは基礎情報として当日のタイムテーブルと大まかな流れを共有いたします。

  10:30 開会にあたり一言挨拶 (青木社長)
  10:31 取締役の紹介(一人ずつ青木社長が呼名し一礼という儀式)
  10:32 開会宣言
  10:34 議決権充足確認(青木社長が一言充足とだけ宣告)
  10:34 監査報告(市川監査等委員長)
  10:35 報告事項(青木社長)
  10:52 対処すべき課題(青木社長)
  10:55 議案上程(青木社長)
  11:00 質疑応答
  12:05 議案採決
  12:10 閉会

 開催場所は立川の日航ホテル内の宴会場でした。30人程度の座席が用意されていましたが、ちょうど満員御礼という感じでした。参加者も平日の月末近くという中でしたが比較的若い方(といっても私も含めて中年メインですけどね)も多かったです。それから女性の比率が高いD2C事業がメインであるということからなのか、女性の出席比率が他社に比べて高いように感じました。もしかすると、ユーザーのファン株主もそれなりに足を運ばれているのではないですかね。ちなみに全席に机が置かれていたのでメモがしやすいのが本当にありがたいですね。会社さんによっては机がない場合も多く、役員席には用意があるのに株主側には用意がないという事で、そういう意図はないのでしょうが格差を付けつけられているようでちょっと残念に思う事があるんですよね。

 同社は社員数も100人にも満たない小さな組織(しかも更に育休中の社員さんも多くいらっしゃる)ということで、受付や当日の案内係の方も、よく「北欧、暮らしの道具店」でスタッフレビューなどでモデルと化している方がちらほらいらっしゃいました。先日の試着会の時にもご案内下さっていた方ももちろんいらっしゃいました。私の記憶には残っているのですが、「先日の試着会ではお世話になりました~」と試着もせず妻の引率だった私のようなおじさんが、気軽に声をかけてよいものかと悩み遠慮してあまり積極的にそういうコミュニケーションは遠慮しました(考えすぎかもしれませんが)。

 ホテルの宴会場ということもあり、館内の案内からファシリティ面は申し分なかったのですが、室内のスマホの電波が弱く、SB系とドコモ系共に苦戦していました。今後文書を電子提供する事を想定すると、ホテルのものでもよいので、なんらかのwi-fiを案内した方がいいのではないかと感じました。

 総会の流れとして、他社ではあまり見られない点としては、開会宣言の前に出席している取締役の方の紹介というものがあり、一人ひとりを呼名して一礼をするという儀式が執り行われました。これはこれから対話を重ねていくという意味合いからも、株主が各位に経営をお任せしているという関係性からもとてもよいことだと感じました。選任後にご紹介という会社はたまにありますが、開会前というのは珍しいですよね。
 というか開会前はもちろん、選任後にも一切紹介もない会社が多いのはなんとかしてもらいたいですよね。社長だけがひたすらに議事進行を行い、気が付くと、社長しかお話されない、なんなら他の役員はただ着席だけしているということですと、もうリモートでもいいということになります。せっかく年に一度役員各位に期待を寄せて集まっているのに、もったいないですからね。

 それから議決権の個数などの形式的な確認は、事務局の読み上げ等もなく詳細の数の紹介は割愛されていました。これはたまにある運営ですがこれでいいと思います。あとは行使率だったり、賛否の状況などはあとから文書でわかりますしね。

 また事業報告と対処すべき課題は全て青木社長がスライドを用いてご説明されていました。映像を作る事が得意な同社であれば、ナレーションによる動画での案内も容易に製作出来た事と思いますが、そうではなく、ご自身の言葉でお話される事を選ばれたのですね。まぁナレーション付き動画を作る稼働がもったいないという事だっただけかもしれませんけどね(笑)。詳細については、後述していきたいと思います。

 質疑については、概ね1時間の時間を確保頂き運営頂きました。1人1回につき2問というルールでした。この辺りはバランスがいいのではないでしょうか。1人1問までとか言われると萎えますからね。私は今回は事前に5問の質問を原稿にしてありました。他の方が概ね同趣旨の質問をして下さったので、私が投じたのは3問(2回目の指名を頂きました)でした。もう少し時間があればとも思いますが、まぁ時間も無限ではありませんからね。むしろ、もう少しざっくばらんとした対話の時間というものが総会と切り離してあっても面白いのではないかなと感じました。総会は議事に関わる事にある程度絞った上で総会としては一度しめた後に、会社説明会という体でもう少しフランクな声を交わすことは、会社側にとってもより具体的な提言などが出てきそうで、双方にメリットが増えそうな気もします。もちろん、そのためには、我々株主も短期的、利己的な主張ではなく、対話に資するような言葉を投じていく責任があるとも思いますけどね。

 この点からいえば、閉会後に、一言二言でもいいので、帰り際に言葉を交わせるひとときがあるとよかったです。エールを送ったり、感想を伝えたりする事が出来れば、気持ちが通じ、参加した側も運営された側も気持ちの充足という点でもメリットがあるように感じます。閉会後に、早々に控室にはけられ、完全に導線をわける、というようなオペレーションをするのはいかにも大企業や一部の高リスク事業を手掛けられているような会社さんのような雰囲気でもあり、同社のような規模感や事業内容、距離の在り方からすると、会とは違う場において何か言葉を交えてはならないような壁を感じてしまうのはやや残念でした。中には仰々しくお見送りをしてくれる会社さんもありますが、そこまではなくても、一言ありがとう、今後も期待している、という声を帰り際に一言伝えたいじゃないですか。それを受ける時間すらもったいない、と言われてしまえばそれまでなのですが・・・。

 なお、順番前後しますが、冒頭で開会前に一言挨拶ということがありました。ここでは、昨年上場した事で株主になって頂いた事への感謝と、今後も末永く応援頂きたいという趣旨のものでした。挨拶ですので、特段ここで何か印象に残るというような話ではなく、普通の感謝と今後もよろしく、という内容だったように受け止めました。ただ、我々個人株主は、昨年の上場を機に株主にならせて頂いたわけで、せいぜい1年余りのお付き合いということになります。しかし、青木社長と実妹でいらっしゃる佐藤店長が何もない所から立ち上げて来られて今の姿になるまでには長い年月があるわけで、このように外部の株主を初めて迎え入れるという今日という日もまた、どこかに感慨深いものがあったのではないかなとも思います。なかなか1年余りのお付き合いという我々個人株主との時間軸の違いから、この重みを真に受け止める事は難しく想像でしか計れないものではありますが、そういうプロセスに改めて目を向けてみたいなとも感じました。こういう記事(このシリーズは残念ながら途中で更新が止まっています)をみていると、その重みの一部分だけでも感じられるような気がしますね。

2.報告事項及び対処すべき事項

 さて、ここからは報告事項及び対処すべき事項についてそのエッセンスを簡単に共有していこうと思います。ここでの共有は、あくまで私が見聞きした印象や手元のメモなどを元に記載をしています。実際の説明内容と齟齬がある可能性を含みますので、あくまで個人的受け止めの内容としてご覧頂ければと思います。もしご参加されていた方で、ここは趣旨が違う等の部分があればぜひご指摘頂ければと思います。だいたい思い込みが激しいと自認しているので、悪意なく勝手に妄想を連ねてしまっている可能性もありますからね。

 まずは報告事項ということですが、会社の概要から始まり、決算報告まで俯瞰したものとなっており、その内容は概ね決算説明会のプレゼント同様の流れで進んでいきました。

 冒頭では同社のミッションについてですね。ミッションは、「フィットする暮らし、つくろう。」ですね。フィットする暮らしとはなんぞや、というのも、そろそろ空で言えるようになってきたような気がします(笑)。そして事業の概要を示したチャート図を用いた説明です。ここでの説明のポイントは、差別化要素の部分です。同社の特徴としては、外形上似通ったB2Cビジネスでありながら、顧客接点の持ち方が大きく違うという点ですね。魅力的なコンテンツを創る活動としてコンテンツパブリッシャーの事業があり、ここで顧客接点を深化させていく事でお買い物もして頂く事にも繋がっていくというわけです。販促ツールで顧客に来店頂くというのが一般的な流れの一方で、同社はコンテンツに魅力を感じて世界観の共感という部分を入口にしている点に大きな差異があるわけです。ここが同社の強みの肝の所だと思います。ですのでここは丁寧に説明をされますね。従ってエンゲージメントアカウントというKPIを大切にされているという説明も従来通りです。
 この他、配当や決算の概況等の説明も一通りなされていました。ただ決算の概況等は、決算説明会では山口CFOが説明なさっていますが、この場ではもう少しライトな内容に留まっています。あまり細かい内容をここでやっても、と思いますしそれでいいと思います。また将来の見通しについても、花束戦略などの説明はここではなされませんでした。ここまでは概ね決算説明会の動画と重なる内容(というか決算説明会の内容を一部サマライズした内容)かと思います。

 そして対処すべき課題の説明です。こちらは総論としてあまり目新しいことではありませんが、ただこの対処すべき課題、としてのお話は初めての事だったかと記憶しています。
 ひとつめは、コンテンツ力の向上への取り組みについてです。ここは顧客を創造し、長くお付き合いを頂くために必要となる根幹をなす部分でもありますし、同社の差別化要素を形成するコアな部分です。この取り組みの深化のために、時代毎に移ろうその時々のニーズに沿ったコンテンツを制作していくところへの対処ということですね。
 ふたつめとしてはコンテンツを正しく伝えていくための仕組み作りについてです。コンテンツを魅力的にした上で、それを様々なチャネルで顧客の下に届ける必要があります。場合によっては、新たなチャネルの開発も視野に入れた全方向での顧客リーチ力の醸成が重要になるということです。
 そして3点目としては人的資本の拡充です。1点目のコンテンツ制作や2点目のチャネル開拓という部分を強化していく中で、これらの活動はクリエイティブなものになるわけで、決して何かこういうやり方をすれば上手くいくという型があるわけではありません。従って多様性や可用性に富んだ人材が工夫と創造性によって対応していく必要があり、あらゆる分野で人的資本の拡充という事への課題感を持たれているわけですね。ですから、採用や育成という部分を強化していく方針を示されていました。
 最後に、ステークホルダーマネジメントに関わる部分への対応ですね。外部の株主を迎え入れる事になった事を契機として、株主というステークホルダーはもちろん、取引先、社員、顧客とあらゆるステークホルダーに対して、その期待に応えていく必要性を公開会社になったが故に、更に一段高めていく必要があるということですね。そのためには各方面に適切な対話や活動を通して、信頼を獲得していくこと、そのためのガバナンス構築を図っていきたいというお話だったかと思います。この活動を真摯に重ねていくことで適正な収益基盤の構築が実現できると捉えておられるように感じました。

 一連の説明を伺っていると、やはりとても基本に忠実でセオリー通りの経営をされているように感じました。これは単調とか平凡というようにも感じられるかもしれませんが、背伸びをせず、大風呂敷を拡げず、しかし本質的な部分、今の会社の状況を踏まえて何をなすべきかという事に真摯であるという印象という意味です。平凡な事の積み重ねをずっと継続していくという事は非凡なことなんですよね。
 どうしても株主を前に説明をすると、何年後にこういう姿になっていたい、とか、これだけの数値感を実現したい、だとか、夢とかワクワク感みたいな話がなされがちだと思います。もちろん、それはそれで楽しいお話なのですが、青木社長の話の中にはこういった類の話はほぼ出てきません。ただ、自分達が何物であって、今出来る事、やろうとしている事をリアリティをもって説明をされているのです。もちろん言葉にはならない様々な試行錯誤やちょっとした遊び心で試行しては練り直す的なPDCAはめまぐるしくやられている印象もありますが、あまりそういう部分を醸し出さず、自分達の向かう方向性を無理なく示している印象です。そしてこれはやはりミッションである、フィットするということを会社全体として体現している証左ではないかとも感じました。地に足をつけ、ゆっくり急ぐという事を体現しているようでもあります。
 会社の創業者、そして現代表者がこういう無理をせず自らミッションセンテンスを実践した発信をしている姿を他の役員はもちろん、社員さんもこの場で共有しているわけですよね。各ステークホルダーに向けて適切な対話を実践するという方針でも述べられていたように思いますが、早速どこかの立場の人にあまりに都合がよい言い回しをしている姿をみると、求心力を低下させてしまう恐れがあります。そういう点でフラットであるが故に、ビジョンの3つ目にある「希望」を抱けるのかもしれません。この「希望」はいきなり何年後とかにワープして遠いr将来に良きことが待っていると妄想することではなく、明日はもっとよくなるというひとつひとつの積み重ねの先にある将来を指しているものだと私は解釈しています。聞いていてもすんなりとはいってくるお話の連続でわかりやすく、安心も出来て、希望を感じられるような内容だと感じました。

3.質疑応答

 ここからは、質疑応答の内容を共有していきたいと思います。繰り返しになりますが、ここでのやり取りの共有についても私の主観に基づき脚色して表現しています。メモも正確に取れていない部分もあり、実際に行われたやり取りや会社側の回答の趣旨と違った解釈になっている可能性があります。あくまで参加者の一人である私の個人的な受け止めとしてご笑覧頂ければと思います。なお、ここでの記載についてもぜひ実際に参加されてた方で印象が違うとか、事実と異なる等の事があればご指摘下さればありがたいです。
 なお、私が投じた質問については、従来通り★印をつけています。また、回答者は明記していない箇所は、青木社長が答弁されています。

★Q 市場との対話姿勢について
 上場され1年が過ぎた。初めての開かれた株主総会の開催へ祝意を示したい。また株主としてクラシコム、ユーザーとして北欧暮らしの道具店という素敵なお店に出会たご縁を嬉しく思っている。
 質問としては、市場との対話の姿勢について伺いたい。当社は「自由」を得るために、選択の責任を重ねていく事による信頼蓄積を大切にされていると理解している。故に現状と将来への見通しを解像度高く市場と対話し、市場の期待値を上手にコントロールしていく事が肝要であると考える。何かに縛られることなく、アジャイルな経営を志向される中で、この市場との対話という点で、業績予想を含めた各種IRは保守的過ぎても、意欲的過ぎてもよくないと考えている。中長期株主の醸成を図り資本コストを抑制していく上で、上場してからの1年余りのIR活動にどのような想いを抱き、今後の市場との対話という点でどのようなことを考えられているか。またこのあたりに知見のある、社外取締役の市川さんからも今後の当社のIR活動への期待や思いをお聞かせ頂きたい。
A
 IR活動については、機関投資家や個人投資家に向けて各々時間を割いてきたつもり。その中で感じた事は、当然高い成長を期待されていることはあるかもしれないが、それ以上に、「信頼感」の醸成なのだと感じている。大きな成長を企図した中で期待感を持って頂くというより、創業から一貫して無理なく、しかし着実に成長してきたという軌跡を今後も継続していって欲しいという想いがより高いものと受け止めている。
 無理がない中で着実に信頼を重ねていくことで、株価が割安で放置されない(期待先行で飛んでいかない限りにおいて、追加で買いたいないなと思ってもらえる)ような状況をつくっていけることは当社として出来る事だと考えている。自社がやっている事への価値共感を図り、あるいはガイダンス提示を含めた市場からの信頼感を醸成していけば、株価が割安に放置される可能性を薄める努力となり、割安で放置されるというような事を回避できるものだと考えている。
 市場との対話を通して株価が騰がっていくということであればそれはありがたいことだと思うが、株価がただ騰がっていけばよいというより、割安で買って頂いた方が長きに渡り納得してもらえるようなしっかりした株価(ここではいたずらに高騰という事ではなく堅実な値動きという趣旨だったと思いますが)がついてくる事が大切でそのための対話をしていきたいと考えている。
 従って、今後もガイダンスを含めた自社の発信内容を信頼していけるように取り組むこと、そして自社の成している事業活動が価値のあるものだという事を認めてもらう発信を継続し、信頼感を高めていく中で、その信頼感が伴うのであれば、もう少し株を買いたいなと思ってもらえるような状況をつくっていけるような対話をしていきたい。(青木社長)
 上場会社で長きに渡りIR活動を行い、IRの支援等の役回りでお手伝いをしてきた経歴である。私たち3人は社外取締役として業務執行側の取締役が少数株主からみて価値ある判断をしているかを監督する立場である。その点からすると業務執行側の役員はそのことをきちんと心得ている。具体例を申し上げるならば、「自由」について取り上げて下さったが、上場時に様々な制約が課せられる中でも「自由」であることが少数株主にも資する事だという理解醸成を図る事が出来た。そしてその少数株主の方はトレーダーのような立場の方もおられ、それは(出来高醸成の観点から)大事な存在であるが、やはり中長期で応援下さるようなオーナーの方々からの声に耳を傾けるようなIR活動を今後も継続していこうという事は良く社内で会話している所。様々な方策はあるのだが、いきなり大企業のようなIR活動はリソース面からも難しいと思うのだが、出来る事をやっていこうということを提言している。(市川社外取締役)
■考察
 上場後のトップバッタの質問ということで、この質問で良かったかなとずっと悩んできました。もう少し投資材料として有用な事を聞けよ、という声も聞こえてきそうではありますが、「材料」を仕入れるような場ではないですからね。特に同社のような会社であれば、こういう場で耳より情報は得られないですからね。
 この回答で嬉しかったのは、株主の期待を「信頼の獲得」と表現されたことです。実は同社とのQAは3回目です。1回目はリンクスリサーチさん主催の個人投資家説明会、2回目はコモンズ投信主催の説明会です。1回目の際に、株主の期待は利益創出であり経済的メリットを享受する事だという趣旨(私の勘違いかもしれませんが)を示されていました。確かに利益成長と経済的にメリットを期待してるというのはその通りなのですが、率直に言えばとてもドライな印象にも感じました。投資家なのでリターン度外視ということは間違いなくないわけですが、しかしあまねくリターン至上主義というわけでもなく、その事業への寄り添い方だったりにエンゲージしたりという副次的な部分も含めてのシェアホルダ―でありたいという気持ちは2回目の時にもお伝えしていました(幸いにグループディスカッションの時間でざっくばらんに青木社長ともお話が出来たのは幸運でした)。
 そして今回、株主の期待の源泉には信頼してもらうことという表現だったわけです。これは単なる言い回しの違いなだけかもしれませんが、これまでの変遷をみると、私には少し印象を変えて頂けたのかなという感触を得た感じがしました。
 信頼はもちろん利益の成長、業績予想の達成、その暁に得られるリターンへの確度という定量的な部分ももちろん含みますが、事業の価値や言動などの定性的な部分も含めて、長期に渡って応援していたいというマインドを含んだものに感じたわけです。この点からすると、投資先の利益が成長し、リターンさえ得られればいいという立場だけではなく、もっと多面的にみている投資家もいるんだよ、というメッセージが私だけでなく、様々な個人投資家からの声として届き、こういう答弁になったのだとしたら、と嬉しく感じた次第です。以前にもお話されていたように、リソースの配分という観点、多様性を持ったニーズにこたえていくというプロセスによってIRの形も変化していくものと思いますが、私に出来ることは、自分が期待している事を声として届ける事ですので、押し付けにならないように配慮しながら、バランスを考慮しながら適切な関係性を築けるようにありたいなと思いました。
 株価への捉え方についても言及があったように思います。株価形成について質問をしたわけではありませんが、結果としてそういう言及になりましたね。印象的なのは株価が騰がっていくことはもちろんメリットもあるのだけど、それより割安で放置をされないように信頼をされているという状態を作り続けていく事への視点が同社の慎重姿勢を示しているように感じました。IR活動によって期待値を上げ過ぎず(つまり大風呂敷を拡げていたずらにボラを生じさせない)、一歩ずつ信頼を重ねていくという事が、長期株主からの期待に資するという発想は共感するものでありました。
 市川さんはこの辺りのプロでもありますから、敢えて強引に発言を促すような形を取りました(笑)。株主総会という場では社長以外のとりわけ社外取締役の方には発言をしてもらいたいのですよね。我々少数株主の立場で日々経営に参画されている方でもありますからね。多少強引にでも発言機会を得て欲しいという想いです。上場時の自由の捉え方や今後のあるべきIRについての意見交換等は様々な方策を挙げながら会話していることはわかりました。確かにリソースの問題もありますし、同社らしい発信方法やポリシーのようなものがありますから、よくよく整理をして進めて頂ければいいのかなと思います。
 ただ、リソースがないからと言って、消極的になるのはもったいないとも思います。信頼感を醸成していくためには、事業に置いてコンテンツ力を高めるだけでなく、チャネル戦略もセットで考え届くべき所へ波状的に届かせる必要があるのと同じだと思います。いくら信頼を高める活動実績を残していても、それを適切に浸透させる事が抜けるともったいないですからね。個人投資家に特化したIRをやるとなると難しさもあるかもしれませんが、例えばこの株主総会での対話についても、青木社長のスタンスが伝わる良い機会なので、こういうものを共有するだけでもいいと思います。事前に参加者に断っておけば、録画したデータを垂れ流す、もしくは最低限の編集(質問者の部分はカットしてテキストで入れるとか)だって問題ない気がします。それが難しければ、主なやり取りをテキスト化して開示するだけでも、同社の志向している事が伝わると思います。
 投資家からの各種QAについても、IRは記録を残しているはずですから、それも定期的に共有することだって差し支えないはずです。そしてそれは記録があるので、開示するにしてもそこまで稼働がかかるものではないかと思います。新しい事を始めずとも、日々あるデータを共有する事だけでもまだまだ活動に伸びしろがあるように思います。特に同社のような規模感だからこそ、大企業では実現しにくい身動きの軽い対応というものも逆に取りやすい、ということもあると思います。この辺りは今後の施策に期待したいと思います。

★Q 物流問題への対応について
 当社は固定額で配送料を顧客から徴収され、有報にも今後の物流コストへの対策を取っていくと記載がある。物流コストは売上比で10%程度で安定推移をしているものと理解しているが、収益面への影響だけではなく労働力不足による影響も想定される。当社が「自由」を標榜される中で外部依存を回避される意向を持たれている事もあるが、この物流2024問題に対して、コスト面の対応とサプライチェーンにおける外部依存への対応方針を伺いたい。また、関連で直近で戸田の物流センターへのソフト投資をされているかと思うが、今後の商材の拡大も企図されていく中で、中長期的な視点で御社にとってどのような物流におけるサプライチェーン増強方針持たれているか。
A
 2024年問題という問題が取り上げられる事も増えてきたが、そもそもこ戸数年で一貫して物流費というものは上昇し続けてきている。そんな中でも質問の中でもあった通り、売上比は10%前後を安定的に維持できているという状況。送料無料基準というものをいち早く撤廃し、あまねく送料をご負担いただくという事に方針転換もしてきた。今後も合理化等の取り組みは適宜進めていく中で、それにも限度があるのも事実。従って、必要に応じた価格転嫁を進めていくことで、オペレーションコストは一定水準内に収めていきたい。
 設備投資については、直近でもシステム刷新をしてきたが、先手を打って対応をしていきている。
■考察
 サプライチェーンにおける依存解消についてはコメントがありませんでしたので、まぁ現時点で受容するしかないということですよね。まぁそれはそうですよね。コアコンピタンス経営の観点からすれば、バリューチェーンの中でアウトソースするところはどうしても埋められないし、埋めるべきではないという判断になるでしょうしね。
 コスト面では価格転嫁で今後も凌いでいくということですね。前提として合理化等の取り組みは進めるものの、それにも限度があるんです、と率直に仰っていました。まぁそれはそうですよね。
 それから先手を打って対応というのはどの位までを見据えているのでしょうね。同社のSKU数は全体として大きく増えないようにバランスされています。ここが巧みの部分でもあるのですが、今後家具等の大型商材なども視野にいれてくると、センターの在り方にも変化が求められるかもしれません。回答にあった設備投資の状況としては戸田のセンターの事を指しているものと思われますが、これはソフト主体と聞いています。実際にはソフトも大事なのですが、商材の拡充や変容を視野にいれると、ハード面の対応という所も気になる所ではあります。やはりfoufou の成功事例を踏まえて、アライアンスという選択になるのかもしれませんけどね。

Q 株主還元(配当及び優待)の方針について
 株主ケアという書籍の中で、株主TAMというものが紹介されている。IR活動を通してボラを抑制させ株主TAM拡充を志向されているものと理解している。この書籍の中で提唱されているのは、①投資単元の調整、②配当政策、③株主優待という点を挙げられている。
 当社の配当政策については、きちんと調べている人からすると理解出来るものの、一般の個人投資家からみると理解が及ばないという懸念がある。同書では配当性向20%を超えるとボラ抑制にも優位な改善があるというデータも紹介されている。配当性向等を示しもう少しわかりやすいような形にされるお考えがないのかお伺いしたい。
 また株主優待についても同書ではグロース企業に閉じてみるとボラ抑制に優位な相関があるというデータもある。当社は株主優待には消極的という事は存じ上げているが、改めてその方針を見直される事はお考えにならないのか。
A
 まず還元政策(配当/自己株買い)をこのようなやや複雑な仕組みにしているかという背景には、当社の各ステークホルダーとの向き合い方をまずはご説明したい。当社は各ステークホルダ―の方と向き合うにあたり、3つの事を大切にしている。それは、「正直」、「公正」、「親切」であり、この順番を優先して考慮している。
 まずはこういった質問への回答としても正直に話をするという大前提の上で、では公正であるかという所で、そうならない可能性があるという点に配慮をして意思決定をする必要がある。この正直で公正であるという範疇の下では、可能な限り親切にステークホルダーの皆様と接していきたいという想いがある。
 この判断プロセスに、質問頂いた配当や優待について照らして考えてみた時、配当をよりわかりやすくする、優待というやっていなかったことをやるという中で、公正さという部分で会社の利益をフェアに分け合うロジックとして明瞭であるか、経営の恣意性が伴わないか、それが一時的な効果を企図したもののように映らないかという点で慎重であるべきだと考えている。
 配当については、原資はBS要素の中から生み出されるという中で、キャッシュフローとBSの両面からロジックに伴い算出を行い、株価動向や経営者の匙加減でいかようにもなってしまうという要素を排除したいという想いからこのような設計をあらかじめ公表してやっていくという事を決めているもの。
 また優待についても、株主となって頂いた方にも様々なスタンスの方がおられ、中にはユーザーとして愛して下さっている方もいれば、あくまで金融資産として当社の株を保有して下さっているという方もいらっしゃる。そのような中で、一部の株主の方が喜ばれる政策というのは公正さを欠いたものになるし、そもそも株主優待制度そのものがコストを要するものである以上、利益の分け前を優待という形で還元するのは適当ではないという判断をしている。
 但し、配当にしても、優待にしても、我々は頑固ではないため、ある時にやっぱり変えようという意志決定はこれまでもやってきたし、比較的しなやかにやれると自認しているため、どこかで思い直すという事を否定するものではない。
■考察
 「公正」という部分への拘りが色濃く出た回答でした。こういう志向は個人的にとても共感する所が多くて、ただ一方で表面的にみた時にわかりづらさや2Cビジネスをやられている中での優待への一方的な期待感みたいなものはずっと付きまとってくるものとも思います。ですからこういう根幹の部分については、IRページなどでしっかり明記して「公正」を大切にしているからこその現状の判断であるという事をもう少し前面に出していってもいいのかなと思います。以下の青木社長の投資家向けメッセージにもなんとなくこの趣旨に沿った事は書かれていますけどね。

 私も還元については質問を用意していました。ただ、あの複雑な配当ロジックそのものへの改善というより、投資フェーズにおいてキャッシュアウト優位な時に配当原資がなくなり無配に近しい状況にもなりうるという事になり、今期は本社移転等もあり余計にそういう状況になるわけですが、その際のコンセンサスの醸成について伺ってみたかったのです。
 つまり、今期でいえばfoufou 買収や本社移転といったキャッシュアウト先行になる中で、配当原資が極めて少額になる可能性があるわけです。ルール上は無配になることもやむなしというように読めるわけですし、それがルールであればそれでもいいと思っています。ただ、このルールは、事業の投資を積極化し利益成長を高く志向する際には配当を抑制し、逆に利益抑制の折には投資が抑制される事で配当還元が高まるという中で、利益の成長と配当還元のバランスでもってTSR的な観点でフェアに運用しようという事を企図したものでもあると認識しているわけです。ですから、投資先行になる際に、それが利益成長を高める(あるいはそれを大いに期待される)という状況がコンセンサスとして共有されていないと納得感が下がってしまうのではないかとも思います。
 foufouの買収については、定量面、定性面共にきちんとした説明がなされており、今後の中長期で同社のポテンシャルを更に高めるものという期待が醸成されている一方で、本社移転コストについては確かにクラシコムで働く方々の充足感やそこで発揮される創造性等の価値向上はあるのだと思いますが、本社移転するためのキャッシュアウトが先行するから配当原資が抑制される、というだけの説明だと、コンセンサスの醸成には至らないのではないかなとも思ったのです。もちろん企業にとってまずは従業員あってのものですから、その部分へ拠出する事を何ら否定するものではありませんが、もう少し丁寧な対応があってもいいのかなと感じている所です。
 事実、今期配当見込みは現時点で未定で、既に減配となる見通しは示されている一方で、配当原資が極少額となる場合には対応を検討し開示予定とありましたから、この辺りがこのルールの下でどういう判断可能性があるのかという点を聞いてみたかったのです。
 そういう意味では、来期ではもしかするとマス向けのCMを打つことになるかもしれませんし、その先には更なるMAの機会もあるかもしれません。それによって配当による内部留保を削るより遥かに高い成長性を示す事での価値向上が図れればそれが一番よいと思うのですが、これらの投資がショットで随時発生することで配当というものが実質的に拠出できないという事であれば、もう少しそういう部分が全面にあっても良い気がします。
 そもそも同社はグロース市場上場の会社ですし、株主還元をするより成長投資をした方が合理的だと思って私は投資をしています。ですからこのルールも寧ろ、基本は毎年投資を重ねていく中で配当原資を確保する事より成長投資を優先していきたいという前提の下で、仮にロジックに照らして余力がある時には還元もしていくという位置づけで捉えてもらうくらいがちょうどよいのではないかとも思えます。実際、市場のコンセンサスとして同社からの配当という点への期待ってどの程度あるんでしょうね。ここは結構投資家各位の中でも温度差がありそうな気がしています。
 私が大切にしてもらいたいなと思っているのは、今年はMAと本社移転で、来年はマス向けCMで、再来年は更なるMAで、というように毎年の投資先行となるような事で、配当が抑制されるという事そのこと自体はむしろ成長するなら大歓迎なのですが、それに資するチャレンジであるということを今回のfoufouのように本社移転にしろ、CMにしろ施策をやられる際に期待感を正直に公正に親切に示して頂けるといいなということです。
 株主優待についても、これまでの説明と変わらずですね。私はこういう判断で良いと思っています。もちろん個人的にはユーザーにもなったので、頂けるなら楽しみたいとは思っていますが、利用が難しい方にも一律にお配りをするという事、またその使われ方、あるいはお店のコンセプトに馴染むものではない気がしますからね。多くの利用者に心地よい空間を提供したいという中で、こういう制度が介在すると、空気が淀むような気がしますし(笑)。
 最後に自分達も頑固ではないから、今はこう掲げてても手の平返しは案外よくやるよ、というのは会場でも笑いが起きていましたが面白かったです。フットワークが軽いというか、身動きがしなやかというのは経営においては安心出来る事ですね。
 それにしても最近話題の「株主ケア」の書籍を引用されての質問だったので、これは相当な玄人の方だなとお見受けしました。私は積読に入ったままですしね(笑)。

Q 上場前後での経営判断プロセスの変化について
 先ほどの市川社外取締役のお話の中で、上場後においては様々な制約の下での自由ということになり、身内のみの時とは環境も大きく変わった事と思うが、経営判断における変化があれば教えて欲しい。
A
 上場したことで、経営判断を下す中での変化というのは全くない。元々上場前から当社では自由というものの定義をしっかり見定めていた。自由とは自分がやりたいようにやる、ということではなく、フェアにやる自由が欲しかったということ。その意味では上場を機に様々なステークホルダーに向けてよりフェアにやっていくというオペレーションがより前に進んだという意味ではよい効果を得ていると考えている。
 上場、非上場に捉われず、それぞれのステークホルダーに向き合いここまでやってきた中で、新たに投資家という立場の方にも当社を見て頂くことで、当然ながらコミュニケーションコストというものは増えてはいる。しかし、それに勝る形で資本主義社会の中で重要な役割を担う投資家の方々からの目線を得るということは、我々がよりフェアに公正に自由を得ていくという中では避けて通れない道だとも考えている。
 これはある意味で理想論なのかもしれないが、上場1年余りの現状ルーキーである我々が10年後の株主総会でもこういった理想を掲げていられるかをぜひ長期株主になって頂き、温かく見守って頂きたい
■考察
 この質問は私の観点としてはなかったですが、いい質問ですよね~。そして答弁もきちんとされていますしね。あ、こういう価値観であれば会社がおかしい方向にはいかないだろうなと、より信頼をしたいと思える内容だったようにも思います。最後に10年後の・・・という砕けた表現もなされてましたが、こういう理想論をそうと知りながらも語り続けていたいというのは、特に派手な事でもないのですが、応援したくなるなーと感じさせてくれました。いい意味で株主とか投資家サイドに忖度せず、正直であること、公正であることを実践されているが故の答弁だったと感じました。

Q 社員の採用について
 当社の社員の採用は元ユーザーの方が多いという状況であるが、この状況におけるメリットやデメリット(リスク)についてはどのようなお考えをお持ちか。特に熱烈なファンだった方が入社されたとなると、もしかすると実態と現実のギャップのようなもので双方でミスマッチのような事が生じないのかという点も気になるところ。
A
 当社では自社の持っている媒体を通して採用活動を行っている。従って、ほとんどの社員は元ユーザーという状況になっている。このような構造となっていることもあり、単に生活のために仕事を探しているという求職者とは違い、当社への理解やエンゲージメントを抱いているというスクリーニングのようなものが機能している状況である。
 一方で、過剰な期待を当社に寄せていた方が社員になる場合などでは、入社後にギャップを感じる、というようなことはかねてからそのようなリスクが存在していることを認識し、対策も行ってきている。その根幹としては、やはり正直、公正、親切という3つの要素を持って対応していくという事に尽きる。
 つまり、まず我々の現状を盛らないこと。特に新しい部署を立ち上げる等の際には、期待値をコントロールする事がとても重要であると考えている。そして公正という点でも誰かを特別扱いするということもせず、各社員と取り決めた内容に基づき、活躍してもらえる環境を作っている。
 結果として、毎年退職者もほとんど出さずに運営が出来ており、一定の働きやすい状況というものを創る事が出来ていると自負しているし、採用においても後悔のようなこともなく、上手くリスクが伴う採用活動を実践していけていると考えている。いずれにせよ、リスクが伴う活動ではあるが、IR等を含めて感じてもらっている通り、とても保守的な活動を展開しているつもり。
■考察
 はい、この質問も用意していました~。私は同社が変化への価値観を伺う文脈で、人材多様性の観点で元ユーザーに偏重したことによるリスクやギャップの在り方を聞こうと思っていました。回答の中で、お伺いしたいことも回答頂けて満足です。
 まず印象的なのは、改めてになりますが、当社の採用チャネルは自社の媒体のみで進めている点です。このご時世、採用関連のプラットフォームを使うのが常でありますが、こういうコストをかけずに、自社のチャネルで十分な採用応募を得られるということは、実はとても稀有なことですからね。
 そして、正直であるという文脈で期待値を敢えて上げてミスマッチのリスクを高めるのではなく、むしろ期待値は下げておくというマネジメントにも当社らしい保守性が滲みます。ここでも正直、公正、親切というキーワードが出てきて、首尾一貫しているなという印象でした。
 社員を前に満足度を一定程度高められているという趣旨の話をする際に、偉そうかもしれないけど、とちょっと笑いを取りつつ、嫌味なくお話をされる話術も光るものがありました。とても自然な形で、何かを押し付けるような言い回しでなく伝える能力も高いな、と感じました。私も見習いたいものです…(笑)。

Q [要望]招集通知に取締役のスキルマトリックスを明記して欲しい
 招集通知に取締役のスキルマトリックスを明記して欲しい。今後このような書類を見る人も増える中で、議案として取締役の選任について諮られる上で、それぞれの方がどういう知見をお持ちなのか、会社全体での強みや弱みという所を冷静に可視化する上で重要と思う。ご検討頂きたい。
A
 スキルマトリックスについては実は社内では策定しているが、これをどういう形で開示するかを含めて内部で検討をしている。次回の招集通知への掲載を今ここでお約束することはできないが、要望の趣旨は理解しているつもり。どういう形で皆様に俯瞰してご覧頂くのが良いか引き続き検討して参りたい。
■考察
 ここでも正直、公正、親切という判断基準の中で、これを阻害するものはなさそうという事も仰っていたので、恐らく前向きに検討されるのではないかと思われます。
 ただ、取締役6人(社外を含む)を形式的にマトリックスで可視化するのはあくまで俯瞰です。それは会計士である山口さんであれば財務とか経理に〇がつくでしょうし、企業経営には青木さんや佐藤さんに〇がつくでしょう。他社外の方もそれぞれの選任の士業なりの本業がある中で〇がつきます。わかりやすさという点で〇がどうマッピングされるかという事を俯瞰して可視化することは意義があるかもしれませんが、逆に趣旨を踏まえたとすると、その〇がどこにあるか、だけではなかなか明確に、意思をもって選任の際に賛否を付けづらいということも確かです。ある意味スキルマトリックというものが形式的なものでもあると個人的には考えているからです。
 むしろ、選任までの期間に、それぞれの取締役がどういう役割を果たしてきたのか、それが当社経営において重要で価値あるものであるかということを感じられるようなエビデンスのようなものがあるといいですよね。まさに正直、公正、親切だと思うのです。
 マトリックスに〇があるものだけだと、温度感をもって議決権を行使できませんが、そういった活動履歴のようなものを一端でも示して頂ければ、もっと熱をもって投じられるような気がしますし、それが趣旨に沿うものになるような気がします。

Q リアル店舗の可能性について
 リアル店舗の可能性についてどのようにお考えか。その形態や規模感としても様々なやり方もあると思うし、現状のアフターコロナ禍でみえるリアル回帰の流れが進んでいるという状況も踏まえてのお考えをお示し頂きたい。
A
 創業来ずっと検討をし続けている事項であるが、リアルと当社の手掛けるECというものは、売っているモノは同じであっても、その手法や文化、費用構造全てが異なるもの。EC主軸となればテック系だったりメディア戦略などに強みがある一方で、リアル小売となればオペレーションに強みを発揮する形態である。従って似て非なるものという中にあって、近年のインターネットの成熟ぶりからみると、リアルとの融合、その取り込み方というのはどこかで真剣に考えていかねばならないテーマである事も事実。様々な手法の中でも、フラグシップ的な位置づけで発信のスペースという意味合いでのあり方等は検討していけるのかもしれない。そこではリアル小売を事業とするというより、現状の顧客接点の拡充やロイヤリティを深化させていくというコンセプトでの在り方なのかもしれない。
 我々としてもこういう方面にも無策であるということではなく、常にアンテナを張り、候補になりうる立地の内覧等も継続しているということもあり、どういう企画が出来るかは引き続き検討して参りたい。
■考察
 かつて国立にも小さなアンテナショップを有していた事が確かあったはずです。今は一旦クローズしましたよね。お話の中でもあった通り、リアル小売を事業としてなすというのは、様々な事が違いすぎますし、今の陣容でやるべき事ではない気がしています。リソース分散はもちろん、文化の醸成などでもオペレーションで混乱する事になると思います。
 ただ、個人的にはfoufou の参画がひとつの変化のきっかけになるのではないかと思っています。foufou はリアルショップを目黒に持っていますね。そして全国にポップアップストアのようなものを出して顧客接点を上手く作っています。直近で北欧、暮らしの道具店でもfoufou の事例を取り入れて試着会を開催し、リアル接点を持つという試みもありました。当然ながら、ここでの顧客の反応も分析されていると思いますし、次の一手としても検討されている事はあると思います(我が家も試着会後に、相応にお買い物をさせて頂き破産しましたけどね(笑))。
 ですから「店舗」というより、「接点チャネル」のようなものなのかもしれません。特にサイズ感や触ってみてわかる商品の良さとか、場合によっては店のメンバーとの接点というものにエンゲージする事の効果とかもありそうです。ただそのためにどこまでリソースを割くのか、継続的にやっていくための方策とか、バランスも難しい気がしますね。でも試着会もなされましたし、foufou での事例を上手く取り入れた形での在り方は当然ながら検討されていると思いますので、続報を待ちたいですね。

Q 海外展開について
 現状では国内メインであり、海外展開は本格的になされていないものと承知している。リソース配分等も難しさがある中で、現状の海外比率や成長率見込み等の見通しをお示し頂きたい。またコンテンツパブリッシャーでみると海外からの視聴が2割程度あったとのリリースもあったが、成果や今後の見通しを合わせて教えて欲しい。
A
 リアル店舗の件と同様に、海外への可能性の模索という意味では2010年代から既に検討を重ねてきている。2019年には台湾にも視察にいき、当社のお客様先にもお邪魔し、インタビュー等を行って検討を進めてきている経緯がある。既に現状のプラットフォーム機能で海外販売の機能も実現出来ているわけだが、現状で海外への販売機会として強いシグナルが出ているわけではない。ただ、どこかで何かのタイミングでこういうシグナルが出てきた時に、そこに対して仮説を立てて取り組んでいくということが海外展開の一歩目になると考えている。
 また、もう一つ考えておかねばならないのは、地政学リスクである。サプライチェーンをこのような社会情勢下において、我々の今のリソース、体力、そして国内でまだまだポテンシャルがあるという状況下で取り組むタイミングなのかという問題がある。いずれにしても、株主の方もお気づきになられるかと思うが、想像以上に先手を打って様々な検討を進めている。
 youtubeアカウントをまだ黎明期の頃に作成し、試行錯誤してシグナルを求めては失敗し、というプロセスの中で今成功をしたというサイクルのように、海外展開を含めて様々な方面にアンテナを張り、シグナルを待つという事で各方面進めていきたい。
 海外については、このような状況でもあり、まだ現時点で期待をして下さりと株主の方に安易に言うべきタイミングではない事を容赦頂きたい。
 コンテンツについても同様に優位なシグナルがは出ていない。文脈の伝わり方などに難しさもあるが、最近では海外の言語や世界観がそのまま世界に波及するという事例も出てきていることもあり、ポテンシャルはあるのだと考えている。
■考察
 台湾にも視察に行ったというのは初めて聞いた気がしますが、印象的なのはやはり相当程度先回りして調査を行い、モニタリングを行っているということですね。そして環境分析等多面的に判断をして、経営としてやらない(今は)という事を明確にしている点で、流石、ポーター賞を受賞しているだけのことはないな、なんて感じました。戦略として重要なことは、何をするかを決める事というより、何をしないかを決めることでもあります。
 ただ、どういうきっかけかはわからないですが、シグナルとやらが出た時に、備えをしてあるというのはいいですね。シグナルが出た時に、いい意味で海外展開を主体的に進めていけるというのは魅力です。あるA国で越境を伸ばすんだ、という所がスタートになると、では販促をどうかけて…とコスト優位の判断になっていきます。しかし、シグナルを優位で進めると、仮説検証に基づいた効率的なリソース投下が図りやすくなります。当然、効率もよく、また引き方も行動しやすくなりますね。

Q 青木社長の投資家としての顔について
 青木社長は株式投資をされているか。また投資をされている場合、どういう点に着目して企業を見定められているか。
A
 個人的な事であるため詳細は控えるが、株式投資はしている。ただ、事業家でもあるため、投資家としての顔ということで、このような場で特段何か申し上げるような側面はない。
■考察
 回答に少し困惑していたでしょうかね(笑)。プライベートな部分の質問を受ける事は想定していなかったのでしょうね。質問者さんの意図としては、株式投資をしている側の投資家のマインドをどこまで理解されているかを推し量る、あるいは、客観的に自社を投資銘柄と見た時の評価の仕方などを質問したかったのではないかなと個人的には感じました。
 だとすると、自社を客観視して、とりわけ投資家目線でみた時にどのようにみえるか、的な問いをしてみるのは面白いかもしれませんね。まぁ創業者ですし、その自社の事を客観的にみるという事はあまりない事だと思いますからどちらにしても回答がしにくいかもしれませんけどね(笑)。 

Q 上場企業の中で意識している経営者/会社について
 上場をされている会社の中で、特に秀でているなと感じられている経営者や経営があれば教えて頂きたい。
A
 沢山の魅力的な経営者の方はいらっしゃるわけだが、このような公式の場で具体個別の方を申し上げるのは憚られる。当社の創業のきっかけになった方もおられる。(以下、個別名での回答されていますがここでは記載を見合わせます)
■考察
 経営者の個別具体的な方を挙げて、その方の影響を受けたことや、そこから自社の経営をしていくにあたり考えたことなどを述べられていました。が、ここでは個別名についてはあまり言及しない方が良いかと思いますので、回答については記載をいたしませんでした。ご了承下さい。
 ただ、回答の中で仰っていたのは、自社にないもの、手に入らないものを羨んでいるより、それがなくても自律出来る、それがないから、手に入らないからこそできたという実績を積み上げて来られたという趣旨のお話は面白いなと思いました。どうしても強力やカリスマだったりキラーコンテンツがあったりすると、そこに羨望してどこかで劣等感を感じてしまうのが常ですが、そういうものをフラットにみて自社のなすべき事を見定められるんだなーと勉強になりました。

Q 男性へのアプローチについて
 当社はかねてより主に女性に向けて事業を展開してきているものと認識している。しかしながら、私も妻と一緒にコンテンツを楽しんでいたり、この総会でも男性から質問が沢山寄せられている中で、男性へのアプローチについて伺いたい。男性のユーザー比率は少しずつは上がってきていると思うが、今後の展開方法について教えて頂きたい。
 予断だが、チャポンと行こう!のキャラクターTシャツも女性のワンサイズのみで求める事が出来ずに残念に思っていた。
A
 (回答がワンパターンになると笑いを誘ってからの)男性向けについてはかねてより意識している。男性へのアプローチを拡大していくということ願っているし、もっといえば、性別や年齢、収入などの属性でセグメンテーションを切るというより、そういう属性に捉われず、フィットする暮らしを願うユーザーに広く浸透して欲しいと思っている。
 そのために、試験的にユニセックス商品を展開している。但し、現状においてまだ男性からの強い需要というところで、本格的に男性向け開拓を進めていこうというまでのシグナルを得られていない、というのが実情でもある。コンテンツやメディアなどは実際には男性にも楽しんで頂けるものでもあるが、ブランドイメージなどが先行しており、この部分に課題があるのかもしれないが、真相はまだわからない状況。
 また、性別の他にも年齢という部分でも定点で認知度分析をしている。その中では30代の男性までは比較的に認知があるものの、40代以上の男性からの認知がほとんどないという状況。機関投資家を含む投資家層はこの40代以上の男性が多いということから、市場評価という点でも認知度を高めていく事の課題認識は持っている。そういう意味ではカンブリア宮殿で取り上げて頂いたことは大きな成果だったと思っている。
■考察
 回答がワンパターンになると冒頭笑いを取っていましたが、これは株主から、あれは、これはと問われるとあまねく先回りして検討を既にしているということであり、想像を超える程度にあらゆる可能性をきちんと精査され、モニタリングされ考えられているという事が伝わってきます。実際そうだから、何を聞いても、それめちゃくちゃ考えてます、って回答になるのだと思います。
 性別で何かを分けて議論するということは今のご時勢あまり馴染まないかもしれませんが、そうはいっても、顕著に女性に支持され、男性はごくニッチという状況ですから、可能性が拡がって欲しいなとは思いますよね。
 偏見かもしれませんが、女性の方がより感受性が高く、消費においてストーリーを大切にされる、あるいは同質化という部分への安心感のようなものが高いのだと思っています。なので、お店の顧客へのアプローチの温度感が女性には特に受けやすいですし、店長をはじめとしたスタッフの方々のレビュー等を自分に重ねてご覧になる、そうなりたいと思われるという流れが強いのかなと感じます。
 男性の場合、もちろん人それぞれですが、機能性やコスパへの意識が高く、合理性で判断する事が多いように感じます。ですから、あまりゆったりとストーリを読んで共感をしたりという感情面でのエンゲージメントが女性に比べると得にくいということなのかなと思っています。
 そういう意味ではアパレルでいえば、スタッフのモデルさんも少ないですし、自分を重ねる事がしにくいという事があるような気がします。むしろ雑貨類などは男性にももう少し訴求しやすいのかなと思います。キッチン雑貨や装飾品などで北欧風?のシンプルな世界観を共有したいといった中で、男性が意識されるシーンはなかなかないですからね。
 そして、同社の場合、シグナルを得られないとなかなかそこに踏み込めない(踏み込まない)ということなので、余計にそういう男性が想像されるシーンがつくられないという循環になっていると思います。
 その点ではいきなり男性でなくてもいいのかもしれませんね。例えば夫婦の生活とかであれば性別に限らずイメージがしやすいかもしれません。もちろん単身女性の方もいらしゃるでしょうから、現状の女性メインのシーンに、少し夫婦っぽいエッセンスとかがあってもいいのかもしれません。
 しかし、ここでもシグナルの話が出ていますが、普通はシグナルが出るまで待つのではなく、そこを掘ってみようということになれば、比較的見込み発車で矢継ぎ早に販促企画をしてみるというのが常だと思うのですが、同社では一歩踏み出して観測気球をあげてみて、そこでのシグナルが無ければ待つということで、極めて保守的な運営をされているなーという印象です。これまでもそういうイメージはあったのですが、よりそれが実感されました。

★Q メディア戦略について
 対処すべき課題のご説明の中でも「新たなチャネルの開拓」という言葉があった。既にインターネットサービスが成熟期を迎えつつある中で、ここから新たな開拓とはどういう+αを念頭に置いたものなのか方向性を教えて頂きたい。また、カンブリア宮殿やTHE TIMEのようにマス向けメディア露出をされて一定程度の手応えを感じられているかと思う。マス向けのメディア対応についても費用対効果を踏まえた今後の対応方針についても教えて頂きたい。
A
 インターネットにおける新たなサービス創出というのはだいぶ成熟してきている。後発ではTikTok等も出てきた際には当然ながら試行錯誤をしながら対応してきたがあまり馴染まなかったということもある。ただ既存のyoutubeなどのプラットフォームもコロナ禍で大きな利用状況の変化があったように、様々なきっかけでトレンドが変わるということはあると考えている。そういう流れに機敏に対応していけるという意味では今後も試行錯誤していきたい。
 マスメディアというレガシーのものに改めて可能性が無いかを考える上で先日のメディアに取り上げられたことは大きな出来事だったと捉えている。こういうマスに取り上げて頂けることは瞬間風速的にも作用するが、我々のエンゲージメントアカウントの獲得からそのメディアをお送りすることでの継続的なエンゲージメントを得られるという意味では継続性を有したものでもある。従って比較的マス向けの施策というものも当社においては費用対効果の可能性のある手段であると捉えている。
 一方で当社ではこれまで自社でコンテンツを制作し、お客様の反応を見定めて調整していけるという機敏さが強みでもあった。マス向け広告というものはある意味一発打ってみての博打的な要素も大いにある。そして比較的失敗する確率が高い手段でもあると認識しており、やるとしてもそのような前提をきちんとお示しした上で、一度は小さく試したいということで投資家各位の理解を得て進めたい。
 いずれにしても、マスマーケティングそのものはこれまでの手応えや自社のエンゲージメント獲得という観点からも興味関心が高い所にあるのは事実である。しかし現状のガイダンスでは今期には予定がないとしている。万が一、機がくるようなことがあれば、きちんと説明した上で業績予想の修正も含めての対応になるが、まずは来期以降に検討を具体化していくものだと今は考えている。
■考察
 対処すべき課題に、「新たなチャネルの開拓」というのは結局あまり回答内容には含まれておりませんでしたね。今のインターネット成熟期において何かを想定したものということではなかったのかもしれません。今のプラットフォームの中で、コンテンツ制作において、より多岐に渡る層へのアプローチとしての開拓という意味だったのかなと理解することにしました。
 マス向けには関心の高さを感じさせる熱のある回答を頂きましたね。元々CMを創るのは億オーダーのコストが必要な一方で、自社制作のコンテンツパブリッシャーの場合1桁小さくなるくらいに違ったものであるということでしたが、やはり番組への取り上げられ方で相応の手応えがあったということなのでしょうね。
 そしてこれは失敗確率が高い手法だという事を仰っていて、こういう部分をはっきり率直にお話されるのは逆に安心感があります。多くの上場企業の場合、CMを打てば認知があがりお花畑が待っている、という論調になりがちで良い部分しか表明されません。しかし、実際にはそんな単純な話ではありません。コストに見合う効果が得られるのは実態としてはごく僅かなのではないかと思います(収益以外の部分での企業ブランド等の非財務価値という側面は抜きにして)。
 今期は予算に入れていないが、機がくればチャレンジされることは否定はしませんでした(まぁそういう可能性は低そうではありましたけどね)。ですから仮に利益下方修正をしてまで取り組むとあれば、それは相当の「シグナル」があった上での判断ということになりますから、むしろポジティブなのではないかと思います。
 そして、来期以降には一度はチャレンジしたいということは想像できます。その場合はやはり配当原資も減るため、またごく僅か、という状況が作られるわけですね。この辺りは先の配当の説明の部分にもあるようにわかりづらさが残りますよね。いや、仕方ないのだと思うのですけどね。

★Q[要望]リアルでの株主対話機会について
 
定款変更により株主総会の運営方法の選択肢が増える事と思う。しかしながら、年に1-2回くらいは経営メンバーの方と直接対話を通して当社の温度を共有できる機会というものは大切にして頂きたいと考えている。ユーザー向けにも公開収録であったり試着会であったりという場でお店の温度を感じながらエンゲージメントを高められる機会があるように、株主に対してもそういう温度を感じられる機会は大切にして頂きたい。
A
 ご意見として承る。株主との対話という重要性については共有するところだが、それがリアルである必要性は議論が分かれる所でもある。リモートにすることで、参加しにくかった方が参加してもらいやすかったりもするものと考える、様々な多様な株主がおられる中で、正直、公正、親切という枠組みの中でどういう手法が良いのかを広く検討していく必要があるものと考える。
 定款変更による趣旨は、不確実な世界情勢の中で選択肢として取りうる可能性を拡げておくという事が趣旨。対話をシャットアウトするというような趣旨ではない事をご理解頂きたい。
■考察
 まず質問をしくじりました…。私がここで主張したかったことは、別に株主総会という場に拘らず、年に1-2回くらいは対面で対話をして温度を感じる機会があるといいな、という趣旨でした。株主総会はある意味回答にもあった通り、意思決定の最高機関でもあり多様な株主の方が参加しやすい形という意味合いでリモート開催とすることは異論ありません。まぁしかし実際にはリモートオンリーですと運営などにも様々な課題もあるようですから、ハイブリッド形式が一番理に適っているとは思いますけどね。直接対話をしたいという方も遠隔地等で参加しにくいという方も、まさに多様性に配慮されたやり方だと思いますからね。
 繰り返しになりますが、株主総会という場に拘っているわけではなく、個人投資家とリアルで接点を持つという事は年に1-2回は設けてもらえるといいなということでした。リアルで対面するという事への価値観の問題かもしれませんが、株主でありその会社の将来を期待し、一緒の船に乗って応援したいという立場からすると、社長の顔を見た事もないというのはちょっと残念なのです。そう、感情的な問題なんですよね。別に顔を合わせなくても対話は出来ますから、合理性だけ考えれば拘るポイントではないという事は百も承知なのです。ですが人間関係もそうですし、投資家としての会社との向き合い方という意味でも、感情的な気持ちというのは大切だと思います。もちろん、お互いに時間的なリソースにも限度があるわけなので、頻繁にという事を申し上げるつもりもありません。
 質問の中でユーザー目線でのエンゲージメントに言及したのもそれを伝えたかったからです。別にWeb上でストーリを示し、商品の良さを示せればリアル接点なんて不要です。合理的に考えればそうなんですよね。ただ、公開収録で接点をもったり、試着会でエンゲージメントされる事ってやはり対面の良さだと思うわけです。温度を感じることで人の行動は変わるものだと思います。少なくてもそういう想いを抱いているという存在を認識してもらいたく、最後にこの点を敢えて要望として投じました。

Q 中期的な目線での数値感について
 世界観等の話はとてもよく理解ができたが、3-5年後にどういう数値感の規模になっていたいのか、定量的な見通しをお示し頂きたい。
A
 中期的な数値的な見通しについては、これまでも開示していないので、この場だけで何かに言及する事は控えたい。我々が中長期で考えていることは、自分達が好きなように儲けてやっていければいいという立場ではなく、あらゆるステークホルダーの方々に向き合ってフェアにやっていく事を志向している。ステークホルダーの方々と共に育んでいくという中で、現状の売上規模では満足できる状況にはないわけで、一緒に成長に向けて取り組んでいきたいと考えている。
 また、現状の社会情勢等は不確実性が高い状況下にある。中長期的な数値目標を固めてそこに向かってやっていくということより、基本的な姿勢は前述のような考えに則りつつ、その時々の状況下で最良の判断を下していけるという方が結果的に成長が持続するではないかとも考えている。
 また利益率については、過去のトラックレコードをみてもらえばわかるが利益率15%を意識した経営をしている。マージンを今後も確保しながら成長をしていくということで、消費動向等で売上が前後することもあるかもしれないが、その下でもマージンをきちんと確保していける準備をしており、キャッシュフローをきちんと出していけるように努めていきたい。
■考察
 まぁ中長期的な数値目標は内部であっても、公表していない限りは表には出さないですよね。まして、公正というものを大切にしているから余計にそうですね。そして、比較的身軽な会社でもありますから、あまりFixした目標数値には意味がないかもしれません。
 成長への意欲を示しつつ、マージンを意識し、ステークホルダーへの全方位の配慮をしながら進めていくという中では急成長もないでしょうね。利益率をコントロールして安定推移させながら、年度単位では凹凸があればトレンドとしては売上が数%ずつ上がっていくようなモデルなのではないかと思います。その点からするとグロース市場に上場している割には2桁%の成長がずっとリニアに続いていくという程ではないのかなという点からすると、PER10倍台後半の今の値付けは妥当にも思えてきますね。
 そういえば、途中答弁されている青木社長に社外取締役の市川さんがメモを手渡していました。センシティブな内容だから言い過ぎないように、的な助言でしたかね。こういう時のメモってどういうやり取りするんでしょうね。

Q 佐藤店長の夢について
 当社の屋台骨を支えて頂いている佐藤取締役。今後のお店の在り方や未来像の夢を語って頂きたい。
A
 北欧、暮らしの道具店が多くの人にとって居心地の良い場所であると感じてもらえるために日々尽力をしている。思い返せば30代前半にこのお店を立ち上げて以降、自分を歳を重ねてきているし、新たな若いメンバーも迎え入れて運営する中で、多様なお客様にとって、私たち社員のメンバーにとってフィットする暮らしそのものの価値観も多様化する中でそれを居心地よいと皆に思ってもらえる環境作りというのはとても難しいものがある。
 今後も事業の成長、そして業容の拡大を進めていきながら、あらゆる世代の方に居心地よいと思ってもらえるお店作りを進めていく事が自分の夢である。究極はいつかは自分がいなくなった世界であっても、この北欧、暮らしの道具店があり続けるという事を目指していきたい
 時間を共有するという意味では、お約束はできないが、ゲストハウスのようなものをつくり、そこでこの居心地のよい世界観を共有できる仕組みなども進められるといいなと思っている。(佐藤取締役)
 夢を語ってもらった。あくまで夢。だが、創業時、ここまで大きなお店になるとは想像もしてなかった。まさか株主総会なんて開いてこんなことになるなんて夢のような話。そしてまだまだその夢は続いていくが、それを単なる夢とせず、ステークホルダーの方々に助けてもらいながら、向き合いながら今後も事業に邁進していきたい。今後も、その時々で心配をおかけしたりすることもあるかもしれないが、長い時間軸で捉えて頂き、磨かれた価値ある会社として認められる上場会社になりたいと思っている。(青木社長)
■考察
 まるで最後のトリとして温めておかれたような素敵なやり取りでした。仕込んだのかといわれる位ですが、質問された方もまた面識ある個人投資家の方でした。ナイスですね~。
 心地よいとあらゆる方に感じてもらう難しさという表現をされていました。それは難しいですよね。正解がない世界の中で、多様性に富んだ方々にとって最適な世界観ということですからね。
 そして印象的だったのは、私がいなくなった世界でも、このお店が変わらずにあり続ける事が夢だと仰っていた所です。素敵な表現だなと思いました。ただただ聞き込んでしまいました。こういう側面はあまり普段のメディア(チャポン等)の中で語られる事がないので余計に言葉に重みを感じました。
 後半ではゲストハウスの話をされていましたね。確か前はホテルと仰っていたかもしれませんが、時間を共有できる場所、という表現をされていましたね。いつになるかわかりませんが、ぜひ実現して欲しいですね。10年後、そこで株主総会を開いて欲しいですね。もちろんその時はリアルで(笑)。なんなら無駄に前泊とかしちゃうかもしれません。
 最後の青木社長の締めの言葉への繋がり等も含めて夢の話、とてもよかったですね。

 以上が質疑応答のメモでした。一部記載を自粛した部分や、脚色を多く入れている部分もあります。改めてになりますが、あくまで私の主観でのメモですので、事実と異なる点を多分に含む可能性があります。その点ご留意くださいませ。

4.全体を通しての所感

 今回、初めて株主総会がオープンに開かれたものとなりました。様々な事を感じましたが、いくつか所感をつらつら書いてみたいと思います。

・正直、公正、親切の3要素

 今回、何度も答弁の中で登場した「正直」、「公正」、「親切」という部分です。同社の意思決定の様々なシーンでこの3要素をとても大切にされている事が改めてよく理解出来ました。ステークホルダーマネジメントの一環でこの優先順位で判断をしていると捉えると、色々な事が解像度高く理解する事が出来ます。もちろん、個々にみるとわかりづらさがあったり、もっとこうあればいいのにと思うことはあります。ですが、これは私が投資家という立場から捉えているからであり、それはこの基準に照らした時に離反することがあるかもしれない、ということを想像した上で、それを認識した上で、無理のない提言を今後も重ねていきたいなと思いました。

・先回り文化

 様々な可能性や調査というものを想像を超えるくらいに先回りして考察し、検討されている事がよくわかりました。同社の行動指針(Value)の中にセンシティブというものがあります。様々な物事に対してセンシティブであるように努めており、相当な先回り文化があることがよくわかりました。気になる所としては、青木社長が間違いなくそういう能力に長けているということは容易に想像できるのですが、組織として自立してセンシティブである組織体としての力はどこまで醸成されているのでしょうね。全社員が100人に満たない中で、日々の店舗運営等に従事する方々は必ずしも視座を拡げて先回りを出来る方ばかりではないと思います。そのような中で、どういう体制でこの全方位にアンテナを張っているのか、この辺りは興味がありますね。

・シグナル

 今回シグナルという言葉が何度か登場しています。ある施策をやってみた所、まだそのシグナルが本格的ではないというような使われ方ですね。このシグナルを待つという姿勢が同社の保守的な姿勢をよく表しているなと思います。無茶をしない、ちょっとやってみてダメならすぐに元に戻るというような活動の連続であるような印象でしたが、日々シグナルをみて、大きく勝負をしないという事を実践しているようですね。

・女性の存在

 今回出席者には比較的女性もおられ、なんとなくユーザーの方でもあるのかなという感じもしました。しかし質疑には一切女性からの発言がありませんでした。これはちょっと意外でした。少なからずユーザーの方がユーザー目線で質問を投じられるような事もあるかなと想像していましたからね。
 よくB2Cの企業の場合、株主総会の場がお客様相談センター化する事はあるあるで辟易とするのですが、同社においてはそういうことはありませんでしたね。
 途中、業務面での回答は佐藤店長には答弁を振られず、全て社長が対応することにしている、的な趣旨の案内もありましたが、そういうお店への個別論のコメント等を抑制する目的もあったかもしれませんね。でも、やはりユーザーの方がファン株主として参加されることで、ちょっと違った側面でエンゲージメントが深まる、というか拡がるということはあるのかもしれませんね。

・参加株主

 質疑の投じられ方を見て感じたのは、温かさがあるなという感じがしました。今回の株主総会において、初値割れをしている状況で株価は冴えない値動きになっています。中には荒ぶったKYな株主さんもいらっしゃる事も多いのですが、そういう類の質問は一切ありませんでした。私はともかくとして株主の質が高いなという印象でした。

5.さいごに

 初めての公開会社としての同社の株主総会に参加出来てよかったです。同社がどういう株主総会をされるのかなとワクワクしていたのですが、実はオペレーション自体そのものは普通でした。ホテルでの開催でもありましたし、標準的な過ごし方をしました。ただ、青木社長の語り口や、限られた時間ではありましたが、市川さん、そして佐藤さんもお話になられた事はとても良かったと思います。こういう場ですから、多くの取締役の方がお話をされた方がいいと思うのです。
 株主総会ではたまにありますが、同社の商品とかをロビーに並べておくということもあってもいいかもしれませんね。もちろん、これも先回りをして検討された上で、やらないと、なったのかもしれませんけどね。でも例えばハンドクリームとかをちょっと置いておくとか、一部の商品でも触れられると、より親近感を得られる気がしました。
 暖冬影響等で直近でも色々な懸念も持たれがちかなと思います。そしてそれはある所で顕在化するかもしれませんし、そうでないかもしれません。更にこういう期待や不安というものは常に交錯するものではあります。そんな中でも長期で寄り添い、クラシコムの営みを応援していきたいなと思える株主総会でありました。
 頑張れ、クラシコム!

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