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クラシコム(東証グロース/7110) 株主総会レポート 2024/10/29

(2024/11/1追記)
会社より株主総会の動画アーカイブが公開されています。


 東証グロース市場に上場しているクラシコムさんの株主総会に出席しました。株主総会の様子について、当記事にてご紹介したいと思います。当記事は私の心証に基づき脚色しており、記載内容が意図せず事実と異なる可能性もあります。また、当記事は同銘柄の売買を推奨するものではありません
 記載内容に関するご指摘、ご意見、ご感想がございましたら、ぜひお気軽にX(旧ツイッター)にお寄せ頂ければ幸いです。
 なお、今年の株主総会より、会社公式のアーカイブが後日公開されるとのことです。従いまして、運営内容の詳細と正確性のある情報はそちらをご覧頂くことを推奨いたします。




0.参考記事

 まずは冒頭、同社の関連記事について再掲しておきます。ここでは、昨年の株主総会レポートと直近の決算の内容を踏まえた所感記事の2本を再掲しておきます。共に纏まりのない長文ですのでご注意ください(笑)。

1.基礎情報

 まずは株主総会の全体の流れとなります。大まかな時間を手元の時計で測定しております。

  10:30 開会挨拶 (青木社長)
   ※佐藤副社長が体調不良のため欠席の旨の説明あり
  10:31 開会宣言
  10:32 運営方法の説明
   ※アーカイブが残る点など留意事項の説明あり
  10:33 監査報告(市川監査等委員長)
  10:35 議決権充足確認(青木社長が一言充足とだけ宣告)
   ※監査報告の前に宣言すべき所、順番間違えた旨、謝罪あり
  10:36 事業報告(青木社長)
  10:54 対処すべき課題(青木社長)
  10:58 議案上程(青木社長)
  11:01 質疑応答
  12:05 議案採決
  12:06 閉会
  12:07 新任取締役の紹介(和田氏、倉貫氏)

 全体の流れとしては昨年と比べて2-3分事業報告の説明が長くなっています。体感としては、昨年よりずいぶん丁寧に説明されているな、という印象を持ちました。質疑の時間も含めて採決の時間は昨年とほぼ同じでしたから、おおむね正午頃に採決に移る、というシナリオなのだと思います。開会からの時間は90分ですので、まぁ妥当なところだと思います。もちろん、個人的には青木さんの話は聞き応えがありますし、この会に出席できること自体が株主優待みたいなものだと思ってますからね(笑)。

 会場は立川の日航ホテル内の宴会場ですが、昨年とは違う会場で、より広い場所になっていました。机も用意され、椅子にもクッションがあってなんだかゴージャスになりました。クッションとかはともかく、机があるのは大変助かるのですよね。昨年はちょうど満員となりましたが、今年は席数も倍くらいにはなっていることもあり、だいぶゆとりがありました。青木社長が冒頭、出席者数のヨミは業績予想より難しいとジョークを仰っておられましたが、まぁ今後増えることも期待し、机のファシリティなども含めてこのセットだと嬉しいですね。現地参加者は目算では30人程度だったかと思います。

 佐藤副社長(店長といった方が私には馴染みがあるのですが)は残念ながら欠席ということで、部屋に入った時に名前がなかったので、体調でも崩されたかなと心配しておりました。数日SNSの更新も止まっているようですので心配です。お会いできなかったのは残念ですが、また元気に戻ってきてくださるとうれしいですね。

 それからアーカイブを残すという点は画期的ですね。元々このような対応はしていなかったのですが、最近では決算説明会においても個人投資家も質問できるようになりましたし、試しながらではありますが前向きに色々なことを実行してくれるようになっています。今後は個人投資家IRもCFOの山口さんが出張っていくような姿勢も感じられましたし、少しずつでもユニークな同社の認知度があがっていくといいなと思いました。

 事業報告のパートはミッションの説明から始まって、戦略や決算の内容も含めてPPTで流されていました。特段これまでと違ったトーンはありませんでしたのでここでは詳細の共有は割愛します。(アーカイブを見ていただくと理解が深まると思われます。)

2.質疑応答

 質疑応答の内容を共有していきたいと思います。アーカイブが残るとのことですので、ここでは概略や所感などを中心に記載していきます。
 なお、繰り返しになりますが、ここでのやり取りの共有についても私の主観に基づき脚色して表現しています。あくまで参加者の一人である私の個人的な受け止めとしてご笑覧頂ければと思います。

Q 売上成長と利益成長のバランスについて
 今期マーケティング活動を強化して、トップラインを向上させていくということだが、利益とのバランスも大切と考える。売上と利益の成長におけるバランスをどのように考えられているか。
A
 基本的に10年以上マージンを15%程度維持して成長してきた。これまでは新規も含めて順調に積みあがってきた。一方で、課題として新規の伸長ペースが鈍化してきたのは事実でここ数年課題認識は持っていた。今後については、一定成長を鈍化させても着実に積み上げていくという選択肢もあったが、一時的に先行投資を施すことで規模拡大を更に実現したうえで、マージン水準を戻すことでより全体のグロースをみていくという選択することにした。売上至上主義に転化していくというより、まだエンゲージメント獲得予知が十分にあるという見立ての元で、まだ伸ばせるという手応えがあるのではという仮説の元で対応しようとしている。そのため、足元マージンは減るがその後戻ることを視野にしているし、仮にその先行投資がうまくいかなくても、どこかのタイミングで現状の水準に戻すことも当然視野に入れている。なお、利益率を落とすといっても10%程度のマージンは確保できる中で、 物販としては十分な水準は確保したうえでの対応であるということも理解頂きたい。
■所感
 さらりと答弁されていますが、ずっと連続増益を続けてこられた中で、それを明確に途絶えさせるという判断は、実は結構勇気の要ることだと思っています。グロース上場会社として、グリッチ的な光景はよくある光景ではありますが、同社の場合グロース市場といってもこれまで安定成長を志向して実際そのような軌跡を辿ってきた会社です。そこにあって、一転、このような意思決定をするということは、しかも相当にコンサバティブな会社がそう判断をするということは、相当、何か手応えやシグナルのようなものがあったのだろうと思料するところです。こういった判断をする際に、どのように取締役会で議論があったのか、私は意思決定プロセスが気になって質問を用意していました。後ほど投じます。
 ちなみに利益率を落とすといっても、10%程度は確保できているという点に言及がありました。落とすという表現によって、何か優位性が損なわれるというような文脈で伝わることへの懸念があるのだと思います。この辺りは確かに決算説明資料などでももう少し表現の仕方などを工夫してもいいのかなとは思いました。まぁ短期的にはどうせ投資家はショックだと株を売るので、あまり変化はないかもしれませんが、長期株主にとってはそういうメッセージは敏感に受け取り、より託せる気持ちを高めることもできますからね。
 少なくても、ありがちなマーケティングをどんどん突っ込んで、トップライン至上主義のような道を外れるようなことはするつもりはないということは、改めて確認できましたし、この経営陣でそんなことはないだろうという部分を改めて確認できたのはよかったかもしれませんね。

Q 役員の株式保有の状況
 役員の自社株保有が創業者の2人だけになっており、それ以外の役員は大きく自社株を保有していないようだが、何か取り決めなどがあるのか。
A
 特に契約のような制約はない。あくまで個人の判断。逆に取締役だから保有しないといけない、みたいなことも言っていない。個別の事情は個別の判断。
■所感
 まぁ一義的に役員だから株を持っていてくれればいいというのも確かにおかしい話ではあるのですが、とはいえ、同じ船に乗っているという実感を得られるためにも、多少なりとも保有してもらった方がいいのではないかなとは思いますね。少なくても創業者2人を除いて社内取締役も0株というのはちょっと寂しい気はしますよね。1000株とかでいいと思うので、個人の判断とはいえ、一緒の船に乗っているという実感が伴えるといいですよね。

Q 成長志向を高める経営判断のプロセスについて
 今期に大幅な減益見込みを示してまで、アクセルを踏んだチャレンジをするということで応援したい。当社の経営判断は小さく試行錯誤しながら社運はかけず慎重を期した繊細な判断の積み重ねで安定成長を志向してきたものと理解している。中長期的な価値最大化に向けた施策とはいえ、一時的に大きな減益を伴うという意思決定するうえで、様々な議論やプロセスを経ているものと推察する。投資家に向けたメッセージという点からもIRとして、取締役会においてどのような議論がなされてきたか、cfoの山口さんと、社外取締役で同領域に見識のある市川さんから各々ご自身のお言葉でお伺いしたい。
A
 新規ユーザー獲得への対応という課題はコロナ明けの頃から熟慮しながら今後の対応を検討してきた。同じことを続けていくことで楽観主義に染まることではまずいということで、元々対応を検討をしてきた。その方策として①マーケティング強化、②リアル店舗を持つ、③各種モールへの出店、④MAによる規模拡大という大きく4つの戦略をベースに検討をしてきた。
 ①はPLにヒットする影響があるものの、規模拡大をした後にも相変わらず自社で完結できる仕組みとなり費用構造を変えずに済むというメリットがあった。②や③については、必ずコスト先行を見ていく必要がある点が懸念材料であり今後の収益構造を変えるリスクを受容するものである。④はPLヒットさせずに対応できるというメリットがある一方で、今小さなMAで頑張っている中で、これを成長戦略の柱をするというのは馴染まないと判断している。このような選択肢でまず仮説として①は一定の蓋然性もみえていたし、ステークホルダーに対しても有益であるという判断をして、取締役会に付議したという経緯である。(青木社長)
 CFOの立場としてはマーケティング投資は先行投資と捉えて、それが回収できるのかというフィージビリティをマーケティングチームと何度もすり合わせながらシミュレーションを行ってきたうえでの意思決定となっている。またIRとしても中長期的な目線感をセットで出さないと、単なる減益だけでは説明がつかないだろうという議論も経て、IRの開示内容も工夫をしたつもりである。(山口CFO)
 株主への説明という点でIPO時点で自社チャネルでの集約などのユニークさをアピールしてきた中で、今回何を変えていくのかという点を十分説明を尽くすべきだと進言した。そのためには新たな課題をきちんと明示したうえで説明しないと伝わらないという点を大切にし、今回新規獲得へのストレッチという点への対応という点が伝わる表現となっている。そして課題から対策が繋がるような説明を尽くすように努めた。また意思決定プロセスとしてはマスマーケティングの可能性はずっと以前より議論はしてきていた。投資対効果についても平場で十分議論をしたうえでの意思決定であった(つまり一定の手応えやシグナルをきちんと確認したうえでDoneであるということですね)。そして、監査体制としても、足元でも各施策毎の効果測定は定点観測を続けており、常に状況を見ながら、今後への対応を検討できるような議論を継続している。(市川社外取締役) 
■所感
 この質問は1個目の質問と被るところもあるのでどうしようかなとも思ったのですが、この質問をしないと、山口さんや市川さんにマイクを回せないではないか、という思いもあり取り上げました。青木さんのお話は何時間でも聴いていたいくらいなのですが、せっかくの場なので、様々な役員の方がお話いただく方がいいですし、取締役会での雰囲気などもうかがい知りたいというところもあります。いわゆるIR説明会などではなかなか聴けない種類のテーマなので取り上げることにしました。
 青木社長のお話は当たり前のことをおっしゃられているように思いますが、私のような素人が聞いてもすんなり腑に落ちるということは、つまりそれだけ様々な思慮を重ねられた結果として現状があるからこそなのだと感じました。①~④の区分けの中で、何が合理的か、初手として何をするのが最もバランスがよいのか、リスク対応を含めた検討をしたということなのだと思います。誰が聞いても①を選択します。一時的な減益と見える中で、いつでも戻ってこられる要素も含み、いかにも同社らしい選択だと感じます。
 そしてこういった課題感をきちんと取締役会の平場でも議論があったうえで、議決されているプロセスも感じられ、いい意味でワンマンぶりではない様子もうかがえました。特に市川さんの存在感はやはり大きいなと感じました。元々山口さんも確か上場前は最初は社外取締役の立ち位置だったはずです。こうやってIRの側面からもどう映るのかということと、IPOからの発信の連続性という点からも付言されていることについては安心できる材料だったように思います。とりわけ社外取締役は我々少数株主の代弁者にもあると認識していますから、今後もモニタリングは発信方法についてはより進化を期待したいと思います。実際、これから進行期は減益決算が出てくることが想定されますが、その際にも費用対効果の発信方法、その先に見えている未来への確度・手応えといったところを、フェアに表現していただくことを期待しています。

Q 役員体制の狙いについて
 まず、和田氏を新任取締役候補とされているが、同氏のスクウェアエニックス時代からの経歴は稀有なものであり、当社経営に参画される議案であり大変嬉しく思っている。エンタメ業界の中で企業経営の経験が豊富である同氏を今回選任候補とするにあたり、どのようなきっかけで指名報酬委員会で扱われ、また今後当社のどういう領域での活躍を期待されているものか、書面だけでは伝わらない想いをお聞かせ頂きたい。また、倉貫氏は社外取締役から取締役CTOとして執行側として就任されることになるが、従来の立ち位置におけるどういう課題感からの対応なのか。社内の基幹システムとサービスプラットフォームとしてのシステムの両面があると思うがどういう部分で高度化を期待しているものか狙いを教えていただきたい。
A
 和田氏については、元々数年前に接点があった。年上の世代で、大きな会社を経営されてきた手腕もあり、今後壁にぶち当たるときに色々相談に乗っていただくことを期待したものである。経営者出身でかつ身の丈の大きい方に補完頂きたいという思い。
 倉貫氏は執行側に回っていただくという判断についてであるが、元々上場前からシステム回りを中心に助けてもらっていたし、foufouジョインによってより中身を見てもらうという機会も増えてきた。協力会社体制も複数社に助けてもらう機会も増えてきた中で、それを組織として纏める社内体制という必要性も高まってきた中で、執行側に入ってもらう方が合理的という実態に即したものになるという判断があった。たまたま倉貫氏の状況ともマッチして、今回このような選任をお願いするものである。
■所感
 株主総会だからこそ、議案についても質問した方がいいだろうという判断もあり、この質問を取り上げました。特に今回、和田氏の選任はびっくりしました。結構な経歴を持たれた方ですし、どういう経緯や想いがあったのかなと率直にうかがってみたかったのです。
 答弁の中で、青木社長が「今後自分が壁にぶち当たるときのよき相談相手になってもらえるのではないかという期待」と仰っていたかと記憶していますが、まさにこれが本音なのだろうと感じました。大きな会社を先頭で経営してきた中で、また年齢も上であるという中で、今後の様々な不安があろうかと思いますから、そういう中で補完してもらえそうという期待感なのだと思います。
 倉貫氏については、実は同氏がザッソウラジオでお話されていた内容も耳に入れていたのですが、実態に即した対応ということですね。foufouへの対応やより社内システムの高度化など様々な課題がまだある中で、より当事者として執行側として諸課題に取り組んでほしいという期待感のようなものだと理解しました。本当は本人にもマイクを持ってもらいたかったのですが、ひよりました・・・。

Q 広告費の投下について
 広告費に投下していくとのことだが、具体的にどのような媒体を通して実行していく考えなのか。過去にカンブリア宮殿への露出などの成果もあったと思うが、より詳細な内容を伺いたい。
A
 マーケティングで実現したいことはアプリのダウンロード数を伸ばすこと。アプリをどう普及させられるか、それを継続して利用してもらえるかという点に繋がる投資をしたい。アプリやWebを軸にしたものが中心、かつ商品軸でも普及していくということで、ROE水準で見たときに効率をみて判断していくことになる。TVCMも関西地域限定でまずはパイロットをしている状況。今後の検証状況によって、また強弱つけていくことになる。いずれにせよ今後の対応は下期以降の判断になる。
■所感
 様子をみながらということで、極めて流動的ということですね。引き続き、Webを中心としたアプリ広告は続けていきつつ、マス広告としてTVなどを使ったものがどこまで機能するかを検証し、その後どうするかみえてくるということでしょう。そういう意味では2Q決算あたりが注目ではないかなと思いますね。

Q 機関投資家の決算反応
 広告費を投下するという判断により減益決算になり時価総額も漸減している中で、ますます機関投資家が入りにくいという状況に陥っているようにもみえるが、彼らの声や課題認識をどのようにとらえているか。
A
 機関投資家は現状でも大量保有が出ている会社さんだけでも13%程度保有しているような状況。推測としては一定数ロングで保有頂いている中で、むしろチケットサイズが小さすぎて欲しくても入りにくいという課題がある。なので、持ちにくいということは声としては聞かないというのが現状。
 今回費用をかけて投資すること自体は総論として認めてもらえているという印象であり、やはり成長を期待されているという自覚を持っている。
■所感
 あくまで印象論としての支持を感じられているというお話でした。中長期ロングの機関投資家が多いとするとまぁそれはそうですよね、ってなりますね。一方で、この決算でも時価総額はさらに下がり、上場来安値水準であるという事実もあります。市場が決めるもの、なんなら我々投資家がつけている値段でもあるので会社に言うのは筋違いかもしれませんが、やはりTSRの観点を大事にされている中で、後にも質問で出てくる対話のやり方だったりを一段と工夫して理解が促せるようになるといいなと思います。

Q 情報セキュリティ対策について
 ビジネスが伸びている中で、情報セキュリティ体制はどのようになっているか教えてもらいたい。
A
 情報セキュリティについては、担当執行役員も置いて対策をしている。問題を起こせば一瞬で崩壊してしまうものであるという自覚の下で、Pマークを取得するなど様々な対策をしている。様々な対策をしていても完全には防げないものでもあるため、常に万全を期して生き残っていきたい。
■所感
 答えのない領域ですし、本当に悪意があるといかようにも被害を生みますからね。答弁では対外的な攻撃への対策という文脈も多かったですが、あとは社内教育体制という点でもより取り組みがあるといいなとは感じました。人が成すものなので、どうしても100点は取れない中でどうやって防ぐかという観点と、検知をするかという観点があるでしょうからね。

Q 長期目標について
 10年、20年あとに思い描いている姿をどう描いているか。そのために必要なことと障害になるものを教えてほしい。
A
 投資家インタビューで毎回聞かれる内容であり、もっとも苦手な内容であるがきちんと答弁したい。
 創業以来、長期的な目線を持たずに経営してきた。ビンテージを拾ってきては少しずつ売るという営みをしていた頃、まさか上場するなんて思ってなかった。ただ大切にしてきたのは関係するステークホルダーが健やかであることは大切にしてきた。健やかであるために少しでも成長をしよう、少しでもケーパビリティを拡げていこうと思っていた。
 10年前に数億円の売り上げ規模だったころ、10年あと10億いったらいいな、くらいしかいえなかったと思う。それが今となっては70億とかになっていて、全然違った景色になっている。結果論として健やかであろうという根幹部分をひたむきに追っていたらこうなっている。
 もちろん、体裁よく10年あと、20年あと、こうなりたいみたいなことを軽々に言おうと思えば言えるが、ただ、今考えうることは、少しでも健やかであること、少しでも幸せが拡げられることを継続していきたいという思いを大切にしたいというのが率直なところ。
 学ぶことが大切なこと。構想するためにはインプットしていくことがとても大事。経営者として学ぶ姿勢を続けていきたいし、社内もそういう学ぶことをつなげていける環境を作っていくことを大切にしたい。阻害要因についても学ぶこと、トライすることを妨げること。投資家の皆さんにも例えば減益になるということだけをみて、けしからんと言われてしまわないよう、一定の蓋然性や確度をお伝えしながらコミュニケーションをとって健やかに成長をしていきたいと考えている。
■所感
 青木社長の経営観のようなものに触れたことがない方だと、初見ではびっくりしてしまうかもしれませんね(笑)。私は十分理解しているつもりなので、腑に落ちますが、株主総会の場で株主から長期ビジョン示せと問われそれを持ち合わせていない(正確にいえば持ち合わせてるけどそれはとても概念的なものだということだと思います)というのは興味深いですよね。
 そしてそれらしく取り繕うこともできるのですが、本音で答弁するとこうなるとご自身も仰っていたように、素直な姿勢で答弁されている点は印象的でした。同社の姿勢そのものだとも思います。
 総じて言ってしまえば、成長がどこまで伸びるのか、とりわけ我々投資家は定量データを求めがちですが、そんなものはわからないというところなのでしょう。そしてそれは取り繕ってそれらしくいうこともできるけども、大事なのはそこではないという強いメッセージだと私は受け止めています。
 事実、健やかで幸せであることをコアに、学び拡げていくという姿勢の元で、健やかなる成長を続けてこられた、そしてこれからもそういう軌跡を辿っていきたいということなのだと思います。ここは伝わらない部分もあるし、賛否もありそうなので難しいところですが、こういうものが理解されるといいなと個人的には思っています。

Q 新規顧客への対応としてのドアノック商材の可能性
 インフレも進み、新規顧客の獲得が課題という元では価格の受け止められ方も一つ大事になってくると思われる。元々同社の価格帯はいいものではありつつ手が出しづらいという側面もある中で、例えばドアノック的な手ごろな価格のものも用意するなどの方策もあろうかと思うが、価格戦略についての考え方を教えてほしい。
A
 従来から利益率を維持するために一定の価格転嫁をしていくことを進めているが、これも随分長くなってきており、消費者の動向にも注視していることも事実。一方で値下げをするということは、どこかに歪みが生まれるものでもある。そのため、価格を抑えた企画をしていくというものもラインナップできるように進めている。全体として利益率のバランスをみながら、ある程度ラインナップを工夫するようにしている。
■所感
 ベーシックニットなどは確かに手ごろな価格設定にしているな、というものもありますね。消費者の動向も気になるところですしね。以前に私も質問の中で、「花束戦略」(つまり商材の幅を広げていく)について、あまり花束を大きくし過ぎても消費者がついてこられないという懸念はないのか、という質問もしたことがありました。
 いずれにしても顧客との対話が上手な会社ですし、データドリブン経営を進めているわけなので、この辺りはとても敏感に察知しているものと思います。
 価格を抑制させてじり貧になると健やかではなくなる人が出てくるという中で、全体としてどういう状況を作っていくのか、ということがとても大事になってくると思います。また、非アパレルの商材を拡げるという点でもまた違ったマージン構造が出てくるため、全体の運営が非常に難しくなっているというところもあると思います。雑貨なども最近もカップソーサーが瞬殺する売れ行きでしたが、こういうプロダクトミックス的な部分で強弱つけていく、ということも大事なのでしょうね。

Q IRの対話姿勢について
 IRの対話姿勢が十分かということに懸念を持っている。出来高も時価総額も低位であり、市場で認識されていないということによって企業価値が毀損している部分もあるという側面もあるのではないかと危惧している。顧客との接点をうまく作って成長を遂げた当社だからこそ、投資家に対しての対話姿勢というものもまだ改善余地があると思うのだが見解を教えてほしい。
A
 我々も足りているとは思っていないし、そもそもどこまでやればいいという答えがあるものでもないという認識である。我々としても株主総会をアーカイブ配信することやIRnoteの発信など新たな取り組みを始めている。
 また対話の中で、何か我々もよりよくなる変化を促せるようなものは積極的に取り入れられる契機になるような機会を得ていきたいと思っている。
 今後の個人投資家IRについてはCFOを中心に様々な機会を得ていく企画をしていく方針である。
■所感
 IR説明会は最近では様々な場で登壇機会が増えており、敷居も下がっていますからぜひリソース面を担保しつつ可能な範囲で露出をしてもらえるといいですね。そして単に出ればいいというものでもなく、参加する投資家側も、会社に有益な提言などができる、真の対話の機会になるといいなとは思います。どうしてもIR活動というと、投資家に対する営業活動的な側面がありますが、それにとどまらない双方にとって有益な機会になるといいなとは思います。今後個人投資家への露出を高めていくとのことなので、期待したいですね。

Q 株主優待について
 株主優待についてはフェアであることに照らして消極的な姿勢と認識しているが、完全にフェアであるということはなかなか難しいと思う。改めて見解を伺いたい。
A
 株主は機関投資家なども含まれ多様的である。業務面でもコストがかかるものでもあり、費用対効果という点で懸念もある。また株主がサービス利用者になりうるかというと必ずしもそういったセグメントの方ではないということもあり、現時点で慎重にならざるえないというのが実情。
■所感
 株主優待はずっと平行線ですね。
 確かに一部の方にしか刺さらないものではあるかもしれませんが、ただ、株主が知るきっかけになるという側面は一定あるのではないかと個人的には思っています。私がちょっと変態なだけかもしれませんが、株主になってお店のHPなどをみるようになって、ちょっと試しに妻にプレゼントしてみようと思ったら案外気に入っている、みたいなことになっているのですが、少なからず株主で買い物している方を見聞きしますしね。
 もちろん、それが全体としてみて効率的なのかどうかという側面はあると思います。少なくても割引券のような形態ではなく、送料無料キャンペーンを株主向けにやる、とかでもいいかもしれませんね。株主総会の招集通知にコードを入れておいて(まぁ流用リスクはあるので、それを黙認するのか株主名簿で突合するのかはありますけどね)やるとか。

Q 人材リソースの拡充への対応について
 当社の経営において、青木社長は人材への対応がプライオリティ高い活動であると述べられていたかと思う。当社において新卒採用の本格化や上場後の認知度向上など変化もあろうかと思うが、人材獲得・育成における現状の課題認識や成果をお伺いしたい。足元ではブランドソリューション事業の活動も活発になっているが一方で育児休職等も踏まえてリソース面での課題もあり、人材がボトルネックになっていくようなことへの対策をお伺いしたい。
A
 より良い体制作りのためには、採用を抑制することだと思っている(趣旨としては採用をしたくない、ということではなく、組織マネジメント的にも生産性という観点からもより組織力を高めるためにというものであると解釈)。組織をマネジメントする観点からも一気に変化を大きくしていくということではなく、うまくチューニングしながら進めていくことが肝要であると思っている。
 魅力的な職場作りができているということも大事。そして求職者向けのメルマガというものも用意しており、アンテナを拡げている状況。そのためにも発信とともに、我々が働きやすい環境を作れているということに注力している。
 休職者への対応という点も継続リスクのようにとらわれがちであるが、むしろそういう前提で作業の標準化や自動化が促進される企業文化に繋がり、むしろ「機会」になっているといえる。最初はどうしようと思ったが、今ではむしろ強みになっていると認識している。
■所感
 人材不足の最中、成長を志向する会社が人を増やし過ぎないこと、採用を抑制することが大事というのは極めてユニークですが、合理的に聞こえますね。背景には母数を意識したときに、目をかけて組織作りをしていく上での現実的な限度というものがきちんと目線にあること。それから生産性という側面で急な変化を忌避するような目線があること。この辺りは、投資家としては非常に安心感があります。急成長を期待しているわけでもないですし、むしろ健全に永く続けてほしい、という立場なので、こういった内容は納得感があります。
 休職者の部分は確かに標準化など工夫をすることをある意味強制的に求められる中でこういう機会があることはいいですね。一方でブランドソリューションでみられたように、企業側の需要は旺盛の一方で、手間暇かける必要がありかつ規模感でみるとどうしても劣後されがちなところでもある中で、人的リソースの数そのものがボトルネックになっているということもあると認識しています。特に最近、この事業において様々な動きがみられる、すなわち様々な企業が同じ悩みを持っているという中で、同社の訴求力も高まっているとも思うのです。長い目線でみると、コラボレーションなどによって、商材の幅、ユーザー層の幅、認知度の幅など様々な部分で非連続的な拡がりを期待できる副次的な要素もある気がするので、今後そういう目線で質問や提言もしていきたいなと思いました。

Q 気候変動リスクへの対応について
 今年の夏も酷暑となり気候変動の状況は益々憂慮すべき状況ともいえる。当社の経営においてもアパレル商材を多く扱う中で、様々な苦労をされてきていると思う。単に重衣料を含めた需要云々というだけでなく、生活形態の変化による構造的な消費行動の変容や、物流を含めたサプライチェーンに渡り前提が変わる可能性があるのではないかとも考えている。当社の商品開発、店舗運営、顧客接点に渡って、この気候変動のような大きな変化への対応という点で当社が今後永続的に成長する上での論点をお示しいただきたい。
A
 季節認識はもちろん温度にもよるが、文化に依存しているものでもある。なんとなく季節のイベントがあると移ろうものでもある。そういうところへ対応していくこと、それからそれに関連し、アパレル依存を下げ、雑貨やスキンケアなど商材の幅を広げていくことを進めている。
■所感
 最後時間も終わりそうだったこともあり、商材に閉じた答弁となりましたが、商材を分散させることでのリスクヘッジなどは当然あると思うのですが、何かもう少し長期的な目線で議論ができたらいいなと思っています。
 例えば、生産を依頼している海外の工場を含めた生産力の問題だったり、その素材の安定確保なども含めてですね。国内でのサプライチェーンの問題もあるでしょうし、気候変動を起因とした災害など、一見すると同社にはどうしょうもできないというときにも、商材軸だけではなく根本的に求められるものへの変化というものがないのか、私もよくわかっていないのですが、そういう目線で何か考えられていること(きっと読書家の青木さんなら色々考えられていると思うのですよね)を引き出してみたいなと思っています。あまり北欧らしさという部分関係ないかもしれませんが、あちらは環境意識などもより高いと思いますから、ライフスタイル、生活様式などの変化もある中で、何か取り入れられる知識のようなものがあるのかもしれないとか。

[コメント] 対話の在り方について
 先ほどの対話の在り方についてコメントしたい。
対話というと企業説明や決算説明といういわゆる「説明会」形式が想像されがちであるが、他にも様々な形態があると思う。
 例えば、株主総会の会場に、今年売られとされたスキンケア商材としてハンドクリームやオイルミストとかをサンプルでおいておいて、その場で手に取ってもらう、ということで、どういう商材を扱っているのか理解してもらう、みたいなものも一つのやり方ではないか(お土産を用意してほしいという趣旨ではありません)。
 試着会ではサンプルにハンドクリームが置かれていたから、同じように投資家にも最初から対象顧客にはなりえないと決めつけるのではなく、置いておけば案外興味を示してくれるものだと思います。

 Hameeという会社は株主総会の時に控室の中で自社商品を紹介するブースがあったりします。若い女性ターゲットのスマホケースとかでもおじさんでもみて、へぇーこういうのやってるのか、とか案外盛り上がるんですよ。以下の最初の方に写真付きで紹介しています。

 これは株主総会では発言しませんでしたが、例えば、北欧、暮らしの道具店でお買い物をするとメッセージが綴られた季節のイラスト入りのポストカードが同梱されてきます。これはとても心温まるものなのですが、株主総会の招集通知にも、またこういうメッセージカードを入れたらどうでしょうかね。コストもかかるかもしれませんが、そういうものを大切にしている世界観も伝わりますし、株主に伝えたいメッセージというものもまたあると思うのですよ。そんなの費用対効果が…というのもわかりますが、顧客のエンゲージメント創造はとても上手なのに、投資家とのエンゲージメントに多様性があるからと諦めるのではなく、無理なくできることをやってもらえるといいなと期待したいですね。

3.さいごに

 いつまでも青木社長の話を聞いていたくなるのですが、時間にも限りがありますからね。
 印象的だったのは自然体であること、正直であることですね。これは前回もそうでしたが、取り繕いがない、飾らない、率直に思っていることをお話されているということです。当然、裏からカンペが入ってそれを読み上げるみたいな答弁もありません。わからないものや見通せないものはそういうニュアンスできちんと向き合ってくれます。それが結果的に信を得るということなのだと自認されているということだと思います。

 投資家目線でいえば、今期はまだ流動的とはいえマーケティング予算を投下していくタイミングで費用先行でガイダンス通り、減益決算が当面出てくると思われます。そういう株は買われないのが常であり、当面は耐え忍ぶ展開が続きそうです。とりあえずあと2年くらい冬眠ですかね(笑)。

 それより、今回の株主総会の中で、取締役会の様子などでモニタリングの体制や状況もうかがい知れましたし、判断のポイント、あるいはあらゆる問題に対してのスタンス、向き合い方などに触れると、安心して託せる会社だなという思いはより強く抱くことができました。

 株価は当面冬眠状態かもしれず、その点は残念ではありますが、企業としての姿勢や期待感は変わらず持ち続けられるなということで、今後もまた接点を持てるような機会があるといいなと思いました。

 佐藤店長にも質問を用意していたのですが、今回は残念でした。またSNSで復活の報を待ちたいと思います。

 以上、株主総会はとても有益で温まる時間でした。
 頑張れ、クラシコム!

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