
【読書感想】大暴落の夜に長期投資家が考えていること(ろくすけさん著)
ろくすけさんの新刊を拝読させて頂きました。
この記事では私が感じた事を率直に連ねてみたいと思います。
以下、Amazonのリンクです(アフィリエイトではありませんのでご安心下さい)。
私は国語力がないこともあり、あまり本を読む習慣がありません。学生の頃は、文章題で、この時の主人公の気持ちを選べ的な問題も、自信をもって答えても、不正解みたいなことで、どうもこの頃から感性がバグっているようです。考えてみると、投資家としてもバグってて、ズレてるんですよね…。そしてズレた人の感想なので、まぁご笑覧頂ければと思います。
著者のろくすけさんは、以下のブログを運営されている長期投資家さんのおひとりです。私が株式投資を始めた頃、右も左もわからない中で(今も同じようなものですが)、何人かの先輩たちを勝手にロールモデルとしておりましたが、その中でも大変参考にさせてもらっている方の一人です。
というわけで、私の根源的な部分を養ってくれた方でもありそもそも思考内容が自然とコピペされているということもあり、今回の書籍の内容も自分にとっては納得感が高いものでした。
何より、最初にびっくりしたのは、タイトル、帯はもちろん中身において、「億への道」、「稼ぐノウハウやテクニック」、「ここだけの秘技」、「〇〇投資法」のような文脈が前面にありません。通常、特に個人投資家を著書とした投資本においては、心躍るようなキャッチーな言葉が躍るものです。書籍のセールスに直結しますからね。
私もSNSで発信していることもあって、何度かメディアの取材を受けたり、書籍化の営業を頂くこともありました(私のような末端にもそのような機会やお声がけを頂けるのは光栄なことです)。取材では真摯に対応をさせて頂いたこともありますが、その内容はもとより、映えないとだめなのですよ。数億円の利益を上げた実績は最低限必要で、その華々しい未来を感じさせるようなものでないと、読者を広く訴求ができない構造なのです。なので書籍やメディアの取材にもたいていは、「〇億円を稼いだ●●」が主人公なわけです。「〇百万円を運用する●●」では映えないですし、なんなら批判を受けるわけです。私もかつて某マネー誌に取り上げて頂いた際に、なんでこんな弱小投資家を取り上げてるんだ、と心ない声に接したこともあり、自分の世間知らずを恥じ、(先方からお声だけ頂いたこととはいえ)出版社には申し訳ないことをしたなと心を痛めておりました。
まぁこんなわけで、「〇億円を稼いだろくすけ」がタイトルとして踊っているのが普通だと思うのですが、その内容も軽く冒頭のプロフィールの所に言及がある通り全面には出ていません。これは出版社がよく企画を通したなとその勇気?にまず驚いたわけです。
一事が万事、本の中身も「稼ぐ」ことに主眼が置かれていないように私には感じました。どうしても、「稼ぐこと」に力点が割かれ、そこには目から鱗的なテクニックが記されているものだと思いますが、そういったものはこの本にはあまり書かれていないように思いました。「稼ぐこと」よりも「育むこと」についての目線で書かれているのです。育むために、株式投資を志向する中で、何をみて、何をみないのかということをきちんと見定めていく重要性を説かれています。
この本の中では、主に以下のようなことに言及されていました。
①狼狽売りをするべきではない。大暴落はPFを強靭化する機会。
②株価は影であるが、実体を観察できる少数派になろう。
③そのために心理を健全に保ち、思考をアウトプットする重要性。
④定性情報を肉付けし自分の投資ストーリーを複層的に育て目標株価設定。
⑤結果、のめり込めるものを見出し、結果として長期投資となる。
昨年8月5日の大暴落は記憶に新しいですが、実際には株式市場には相応の契機でもって暴落といえるようなショックに見舞われるわけです。ですので、こういった悲観一色の時に、どのように思考しているのかという事が丁寧に解説されていますが、その中で、著者は「狼狽売り」について忌避するように指摘しています。これは随所で繰り返し述べられており、「狼狽売り」に対する強い懸念を示されています。
実際に昨年8月5日の暴落時にも、株価の下落の恐怖で楽になりたいという気持ちからミスターマーケット氏の誘いのままに投げてしまってはもったいないということですね。そしてこれは普段株価という影ばかりに追われ、企業の実体をみていないと恐怖心に勝てないということでもあります。そして実体がみえていれば、その乖離を冷静に判断し、より自分のポートフォリオを強靭化できるチャンスであるというわけです。
私は暴落を絶好の機会と思えるまでにはまだ修行が不足しているのですが、ただ幸いにして冷静には振る舞えたと思います。粛々とその時の自分の尺度で買いを入れる事が出来ました。「こんなに絶好の良い買い物ができるとは」と喜び勇んでというより、泣きながらでしたけどね(笑)。
株価(影)より実体(企業価値)をみようというのは私もいつも心掛けているのですが、これがなかなか難しいとも痛感しています。というのも、株価というのはとてもわかりやすく定量化されています。もちろん、影なので、揺らぎますしミスターマーケット氏の誘い如何で光の当たり方が変わり結構大きくなったり小さくなったりしますけどね。それでも1,000円とか1,200円というように明確に数値となって可視化されます。
しかし、実体(企業価値)というのは主観でいかようにも変わってしまうものですし、どこかで可視化されているものではありません。もちろんネットキャッシュが〇億円でとか、保有資産を時価に換算すると〇億円の価値があって、とか定量化できる部分もありますが、特に事業価値については利益(キャッシュフロー)をどう捉えるか、割引率をどう設定するかなど算出方法もいくつもの専門的なモデルがありつつも恣意性を有するものです。実体という言葉でイメージできる本質的な価値的なものとしたときにも、それは主観によって1,000億かもしれないし2,000億円かもしれないということで影の揺らぎ以上に分散してしまうこともあるものです。そして本来、そういう不確実性をPERで考慮に入れて価値を見積もるのでしょうけど、これがまた不思議なことに見通しがわかりやすくこの揺らぎが小さいほどに本来PERが下がりそうなものですが、実際には逆のことの方が多い気もします。
著者は、「PERは事業の安定性と不安要素が反映されたもの」と評されています。もちろん私もそのように理解はしているのですが、実感としては必ずしもそうではないと感じることもあります。安定性が高く不安要素が乏しいと思える会社こそがPERが高くなるということになりますが、実際には岩盤な安定性と一定の成長力を有し、高い利益率とヒストリカルで実績を残している不安要素がない会社がPERが低いみたいなことは結構あるわけです。
例えば私の主要取引先のステップは学習塾を運営している会社ですが、圧倒的な安定性と不安要素がない会社の筆頭だと思っています。成長力こそ低いですが、同業他社を並べてみてもPER低いんですよね。もちろんPERとはもっと複雑な構造なのですけどね。

話が戻りますが、実体に目を向けようというのはとても本質ですし、私もそのように意識をしているものの、その実体は恣意的にもなりますしその拠り所をどう見出すべきかというのはもう少し深く著者の経験をもとに深堀した内容をお伺いしてみたいなと思いました。私は悲観、堅調、楽観の3シナリオを作りレンジで捉えるようにしていますが、おそらく何かしら実体を捉える工夫をなされているのではないかなと感じています。
心理を保つというのは大事だと思います。そのためにも自分の性格を正しく把握することが大事だと思います。著者は全国を旅されていますが、市場との距離感を持つことだったり、趣味嗜好を拡げる事は有益だと感じます。何より投資家という自分であると同時に人生を楽しむうえで必要なことですし、そういうことに充足していないとなかなか、投資判断も冷静に下せなくなってしまうと思います。そしてアウトプットの重要性は私も強く意識しています。
かつて、私は週次でアウトプットをしていましたが、その趣旨は、自分の成果を知らしめたいというより(知らしめるほどの優位かつ有益な内容ではないのですが)、自分自身との対話の色彩が強かったです。しかしながら、様々な事情でそれを取りやめブログも一時期やめてしまいました。これは別に後悔もしていないのですが、ただ、少しずつアウトプットをしてみようかなと思うこともあって、足元で少しずつ試してみています。またすぐにやめてしまうかもしれませんが。言葉にすることで著者も仰っていた通り、自律に繋がるのは間違いないなと感じています。
そして、投資ストーリーを肉付けしていく辺りは、私ものめり込めるような営みを普段しているのでとても共感をもって読みました。創業ストーリーに注目するなど、私もそうそう、と思いながら読み進めました。同時に目標株価設定についても言及されていました。こちらも前述の実体と同様に、その組み立て方はとても難易度が高いことだなと思いました。結局、これが恣意性に富んだものなので、数値のお遊びではないのか、ということと常に葛藤しながら私は対応しているのですが、ここをどう腑に落として扱えるかは気になるところです。そして著者も述べられていますが、結局その目標株価対比の定量乖離もさることながら、定性部分を評価に織り交ぜることになるので、その定量化にどこまで意味を見出すかということも悩ましいです。
もちろん、暴落時など、瞬時の判断をアウトルックする際にはとても有用ですから、そういうものを手元にリストで持っていく事は大事なのでしょうね。私もエクセルでリスト化しています。ただ、ここで大問題なのは現金比率が低いということです。大暴落に備えておくという中で、当然より期待値が高いものに入れ替えるということも選択肢ですが、やはり一定のキャッシュは残しておくべきなのでしょうね。そういえば、この辺りの考え方については言及がなされていませんでしたね。フルポジ派と現金維持派とでまた色々考え方も違いますし、何が正解というものはありませんが、悩ましい問題です。
著者は打診買いをした上で、時間をかけて観察して、のめり込めるかどうかを試していくという事を書かれています。その結果として選りすぐったものを主力投資先となり、長期投資に結果としてなる、という事を仰っています。私は打診買いをしてから観察する中で、どうしてもその企業の良い面を沢山拾おうとバイアスをかけてしまう癖があって、そこに非合理的ではあるのですが、サンクコストを意識してしまい中途半端なまま放置してしまう事が多いので、この辺りはもう少し冷徹に判断をしないとならないなと思っています。その上で、過度は分散は有害であると指摘されており、これは私のことだなと自覚しながら読みました(笑)。ですので、せめて分散してしまう病はすぐにはよくできないので、全体の比率を意識して、そうはいっても主力(著者の定義では全資産の2%以上の保有)陣によって一定の資産増減を反映できるポートフォリオにしておきたいなと思っています。ちなみに私は全資産の75%程度を10社程度内に収めるようにというのを意識しています。足元ではこの基準でみても若干溢れているので是正しないとなと思っています。
また、目標株価を設定しておき、これを拠り所にしようという提案もあります。著者は5年で2倍程度のリターンを想定していることから、5年後EPS*想定PERを前提としたモデルを採用されているようです。実際には簡略化しているとのことなので、もっと複雑なファクターでしょう。
私も基本的にEPS*PERで見定めてますが、まず5年後だと自分には敷居が高いので2-3年後くらいのイメージをもっています。結果的に5年を要したとしてもそのプラスαの期間を我慢すればよい、くらいに割り切っています。本当は要素分解して財務モデルを作ることで、EPS精度もあげられそうですが、そこまでしている会社はあまりありません。でも概ね同じようなアプローチをしていたのもなんだか嬉しくなりました。
それから、この本の中で、いくつか二分した議論があります。例えば「投資」と「投機」だったり、「インデックス」と「個別株投資」のようなものですね。
著者は影である株価をみた「投機」ではなく、実体をおさえた「投資」を志向しようという述べられています。ですが、私も最初の頃、自分が「投資」を志向したいがばかりに、自分は「投機」はしないんだ、みたいな事を考えていた時もありました。しかし、最近これを二分することには無理があるという考えももつようになりました。確かに投資を志向して、「価値」に重きを置いて評価して、そこにはいわゆる特需的なものだったり、テーマで増減するものをできるだけならしてみようと努力はします。しかし、実際には様々なファクターによって機会が得られたことが、非連続的なその企業のポテンシャルが開放されて、その価値自体を大きく見直すこともありえるわけです。もちろん、その多寡によってボラが生まれること自体は考え物なのですが、実際にはそういうものも考慮に置く必要があるシーンがあるのも事実です。そしてそれをメインシナリオではないとはいえ、一定考慮に入れざる得ないようなケースもあります。ですので、生粋の投資を志向していても、どこかで投機的要素が少なからず介在しているとみなした方が、自分がしっくりくることもあります。ですので、私はもちろん自分は投資を志向している中で、一定投機的な要素が介在するということも許容し、認識をコントロールしていたいなと思っています。
インデックスと個別株投資の2極対立についても融合があってもいいかなと思っています。私は日々の発信ではメインポートフォリオのことしか言及していませんが、実際には海外のインデックスや債券などにも資産配分しています。流石に国内株式にはインデックスはほぼ使っていませんけどね。この辺りの論調については、書籍の構成上の問題もあるかもしれませんが、インデックスや投機に対しての実際の著者の考え方というのも窺い知れるといいなと感じました。
そして、リスクをとったものに富が移転する資本市場という捉え方の中で、著者がそのリスクテイクを、価値に着目してコントロールしていくことを天動説が地動説に変わるくらいの大展開の時期があったと述べられています。これがどういうきっかけで腑に落ちらのか、単に紹介されている先人達の教えだけではなく何かしら主体的な部分でそれが腑に落ちるきっかけのようなものがあったのだと思います。この辺りについてはより深く伺ってみたいなと感じました。
総じてみると、自分の投資スタンスと近い(というより私が参考にさせてもらってるから当然そうなる)こともあり、サクッと通読することができました。特に私のような投資初心者の方が企業に寄り添い、地に足のついた投資を志向したいという方にはとてもよい本だと思います。
一方で冒頭に書いた通り、儲け方などを探している方にとっては、はなかなか気の遠い話に感じるかもしれません。
タイトルにある大暴落の時に考えていること、というのはキャッチーといえばキャッチーですが、むしろ平常時にこそ活きる内容だとも思います。
何より、こういうスタンスで成功された実績を残されているのは、希望と勇気をもらえますね。
ろくすけさんの新刊読了。
— まるのん (@marunon_invest) February 2, 2025
投資本にありがちな億への道、的な文脈がタイトルや中身にもなく稀有。出版編集を確認したし、懐が厚いなと思った。
深度は至らずとも、マイノリティと自認してた自らのスタンスに近しい手法で成功されてるのは希望であり勇気をもらえた。戦略論同様何を見て何を見ないか。 pic.twitter.com/aS9gQhmtG8