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幸せのカケラ⑫

≪国崎の章≫

『さっき、何を言いかけたの?』
と僕は奈津美さんの 帰天式の後、車で絵里奈を送りながらそう聞いた。
『さっきって?』
『ほら、陽向が来る前に、僕と別れてからよく考えるって。』
『あぁ、あれね。ねぇ、それより、陽向が言ってたことどう思う?』
『え?あぁ、友達が奈津美さんと一緒にいるってヤツ?』
『そう。ってゆうか・・私も一回奈津美に会ったのよ。新宿で。でもあの時、不思議な気がしたのよ。奈津美が・・こう、なんか光に包まれているっていうか・・。』
『キミも陽向の友達も、きっとなんか原因があって波長があったんだろう。奈津美さんの意識と。』
『そうなのね・・。そういうことってあるのね。』
『奈津美さんはどうして意識不明になっていたの?』
『あぁ・・。私も初めて今日聞いたんだけどね。奈津美の
旦那さんってまだ未会員だったの。ってゆうか、全然活動を理解してくれてない人で。ある日、奈津美が支部の活動から帰ってきたら、たまたま早く帰ってきた旦那さんが・・・たぶん何か理由があったんだろうけど・・奈津美をね、殴ったらしいの。それで頭を打って・・。でもすぐに意識がなく
なったわけじゃなくて。その夜に意識不明になって・・旦那さんが救急車を呼んでくれたからまだよかったっていうか。病院で頭にある傷に気がついて、旦那さんに聞いたんだけど、夕方転んで頭を打ったって答えたのね。 結局なんの証拠もなくて・・今までの病院の費用 とか は、旦那さんが ちゃんと出しているけど、お見舞いには来なかったみたいね。 』
『・・・それ、誰から聞いたの?』
『そうなのよ!!さすがアナタね。私もね、それ、誰から聞いたんですかって聞いたのよ!そしたら!そしたらね!奈津美から手紙が来たんですって。ってゆっか、正確に言うと、奈津美が身体に乗り移ったっていうか・・。』
『自動手記』
『そう!そうなのよ。旦那さんに殴られたことも書いてあったけどそれは全然責めている文章ではなく、むしろ私が悪いんだから責めないで欲しい、ってゆう内容だったらしいのよ。』
『そうなんだ・・。でも犯罪じゃないか、ホントなら。』
『そうなのよ。そうなんだけど・・・。でも・・・でも、
もう 奈津美、帰天しちゃったんだものね。』
『そうだね。』
奈津美さんの話も衝撃だけど、僕はその時、他のことを考えていた。絵里奈に“さすがアナタね”なんて言われたことがあっただろうか。結婚して 20 年、たぶん、おそらく一度もなかった。人は変わるんだな、と思った。それとも僕が変わったんだろうか。
『それで・・私ね、別れてからアナタのことを良く考えるって言ったでしょう?』
『うん。』
『アナタってね、一緒にいる時は空気みたいで存在感ないんだけど、いなくなるとものすごい存在感があったことがわかる人なのよ。』
『それ、 褒めてるのか?』
『褒めても、 けなしてもいないわ。事実よ。事実を言っているの。愛しているっていうのとも違うんだけど、陽向に言われてわかったわ。アナタと私は法友なのね。きっと過去世からそうなのよ。今回はたまたま夫婦としての役割を与えられたけど、 ずっと法友なのよ。だから私の人生にアナタは必要ないと思ったけど、そうでもなかったみたい。 』
『なるほど・・・。』
『ダメかしら、こんなんじゃ。』
『ダメ・・ではない、と思う。』
『これからも一緒にいてくれる?』
『え?』
『復縁とかじゃないわよ。もしかしたらこれから先、私だって恋に落ちるかもしれないし。もちろんアナタも。だから・・・なんてゆうか、法友として。これからも一緒にいて欲しいのよ。』
『そうだね。でも僕はこれからあっちに戻らなくちゃ いけないし・・。』
『私も行くわ。私もアナタの異動についていく。
陽向ももう寮に入ってるし 。』
『絵里奈・・』
『一緒には住まないわよ。もう夫婦じゃないんですからね。』
『う、うん。』
なんだろう、この展開。今日の絵里奈はやけに可愛く思える。すごいむちゃくちゃなこと言っているのに。これからの人生、一人ぼっちじゃないっていうのは素敵なことかもしれない。夫婦じゃないけど一緒にいられる人がいるというのは。

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