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マリーが生きた時代 1

 マリー。そう呼ばせていただくのはマリー・アントワネット。その名前を知ったのは、宝塚歌劇の演目として安奈淳さんや汀夏子さんが主役オスカルを演じた『ベルサイユのバラ』でのことだった。中学生だった私には、ヤケにオバちゃんたちが騒いでるなぁという感じでしかなかったが、宝塚歌劇はあくまで男装の麗人が主役であり、娘役はトップであろうと主役にはほぼなれない。宝塚歌劇団の娘役出身で、現在も第一線の女優として活躍されているのは檀れいさんや黒木瞳さんあたりだろうか。でも彼女たちとて団員だった頃は主役ではなかったはずだ。知らんけど。

 ところでこのお姫様がオーストリアからフランスに嫁いだ18世紀は、多くの人の命を奪ったペスト禍(黒死病)が 依然収束してはおらず、散発的に大小の流行がまだまだあった時代でもある。人々は自宅近くで流行があると恐怖におののいた。なんせ罹った人の半分が黒ブチになって死ぬ運命だったからだ(だから『黒死病』と呼ばれた)。

 原因がわからないから手の打ちようがない。誰も病原微生物のことなど知らないから、病気に罹って死ぬ恐怖は 様々な噂や迷信を生んだ。その中でも面白くも悲しいのが水に対する言いがかりである。水との接触は危険とみなされたのだ。水に浸かると毛穴が開き、そこから病の元が忍び込むと考えられていたから、風呂に入ることなど自殺行為とみなされた。体も洗わなければシャンプーなどとんでもない。よって老いも若きも貴賤を問わず、皆体臭プンプンでノミやシラミを飼っていたのである。悪臭をごまかすため髪に粉をふりかけたが、そのせいもあって若くして男は毛がジャンジャン抜けたせいでカツラが必要になったともいわれている。バッハやモーツァルトのアレだ。香水が文化として発達したのも体が臭かったからに他ならない。風呂好きでない文化の名残りだろうか、フランスには今でもほとんどのアパートに湯舟など付いていない。体を洗わないことで、ほんの数十年前まではフランス人の体臭がキツいことは、周知の事実だったことなど今の若い人たちには思いも及ばないだろう。

 面白いなぁと思ったのは、風呂に入らずシャンプーもしない貴族たちが自分の着衣の下に隠し持っていたある物のことだ。血とハチミツをしみ込ませた餌を仕込んだ小箱、ゴキブリホイホイならぬ『ノミホイホイ』を脇下に仕込んでいたという事実はあまり知られていない。とにかく臭いわ、汚いわ、洗わないわ・・・。花の都パリとは 誰がいつ言ったものだろう。

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