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海の中のイヤな奴ら

 夏も終わろうとしている今、普段生活の一部に海というものが入り込んでいない人にとっては、そこで戯れる季節はもう終わっているのかもしれない。しかし海系田舎モンを自負する私の感覚では、子供の頃から気温が30℃位もあれば条件はクリアしているものとして、獲物を求めて沖に出ていたから、9月初旬位ならば まだまだその大いなるフィールドで活動する時期は続いているままだ。

 ところで海には楽しい思いをする場面も多いが 逆のこともある。先日『都会の民よ、聞くがよい』と題する投稿の中で『波』の危険についても一部紹介したが、今日は一般の方々がレジャーや遊びで訪れた時にも被害に遭う可能性があるものに絞って例を挙げてみようと思う。

《触手で刺すヤツ編》
●アンドンクラゲ & カツオノエボシ
 クラゲは8月頃から急に多くなる。ウリクラゲという丸っこい小型のクラゲが大発生した磯場では海が白くなる。このクラゲは刺さないのだが、いかんせん大量に湧いて白くなった海に入ると、グニャグニャしたものに全身を覆われるので気持ちいいものではない。大量のゼリーのプールの中を泳ぐような感じといえばわかってもらえるだろうか。その経験はないが。
 さて同じクラゲでも今日は痛くて憎いヤツらの話である。磯でサザエやアワビなんかを獲っていて、予期せず彼らに遭遇してしまうと、世の中にこんな生物が存在していることを呪うことになる。

 アンドンクラゲの形を例えると、ちょうど分厚い将棋盤の4本の足から、それぞれ長い糸が垂れ下がったような姿である。近似種も多いが、全般的にこの形のクラゲ(ハコクラゲ類)の長い触手が皮膚に触れた時に感じる痛みはかなりのもので、小さな子供なら間違いなく大声で泣くレベルだ。私の経験ではヒクラゲ(形は同じく将棋盤型、触手だけが鈍い黄色のクラゲ)が、瞬間的な痛みのチャンピオン候補だ。
 また青い生き物というものはあまり目にすることはないが、カツオノエボシというクラゲは青い。ビニールの小さく青い半透明の袋が水面に浮いているように見えるが、その下には長い触手が水中に垂れているので、水面プカプカのビニール袋には最大限の注意が必要である(浜に打ち上がったものも毒は生きてる!)。
 これら2種以外にも刺すクラゲはあるが、最も遭遇する可能性が高く、刺されると激痛、かつ刺された跡が瞬時にミミズ腫れになる凶悪な生き物なので私の独断で双璧としてこの2種を挙げてみた。

アンドンクラゲ
カツオノエボシ
(浜に打ち上がった個体)

 潮流によって ある一ヶ所にクラゲが集まってしまう場合がある。中学生の私は ある日気づかずにそんな海に飛び込んだ。正確には船べりを蹴った瞬間には気づいてなかったのだが、水面に体が落ちる直前にクラゲたちが見えた訳だ。空中にいるわずかな時間に感じた私の絶望たるや・・・。なんと、私は海に体が入るのを避けるために特殊能力が発現し、海面を走った・・・もちろん嘘だ。それ位の気持ちだったという訳だが、現実は同時多発的に体に走る電気ショックのような痛みによってマジで溺れそうになった私が船に上がると、みるみる腹部と両足が真っ赤に晴れてきた。私は後悔と痛みに耐えながら、遠く水平線を見つめるしかなかったのである。


《針なんかで刺すヤツ編》
●ガンガゼ
 ウニは美味しい。寿司屋のウニは高くて手が出にくいが、針で全身を覆われているムラサキウニ系と、針が短くて坊主頭みたいなバフンウニの2系統があるのかな?と経験から勝手にそう思っている。そんなウニの中でも体は小さいのにやけに針の長い(20㎝以上は優にある)ヤツが磯にいる。ガンガゼである。注意していても『あっ』という感じでコイツに触れてしまい、その長い針が刺さる。獲物に夢中になっていると見逃しても仕方ないのかもしれないが、刺された瞬間全身がビクッとしてしまうくらい痛い。その痛みはクラゲみたいに電気が走るようなものではなく、また比較的短時間で消えるのだが、問題はコイツの針はすぐ折れることで 刺さった先端が皮膚内に残ることだ。家に帰ってそこをほじくって針を摘出しないといけないから、家でも痛い思いをしなきゃならない。1粒で2度美味しいならぬ 1回で2度痛い、みたいなもんだ。ちなみに痛いからといって皮膚内に残ったウニの針を放置すると、膿んできて痛み 結局ほじくり出す羽目になる。

●イラ
 標準語でなんと呼ぶのかは知らない。昔から私たちはこう呼んでいた。水中メガネで海の中を見ても何もいないから、謎のチクチク攻撃に見舞われる感じになる。子供の頃、五島で泳ぎ、走り、叫びまくってた時には知らなかったが、なんと犯人は動物プランクトン(エビ・カニなどの甲殻類の幼生)なのである。コイツの特徴は人間の露出部分だけが被害に遭うわけではないところだ。日焼けを避けるために着たシャツの中はもちろん、海パンの中にも入り込むからクラゲなんかとは犯行の手口が全く違う。そしてコイツのヤヤコシイところは海の中でのチクチク以後、痛痒さが以後数日残ることだ。

甲殻類のゾエア幼生
要するに卵から孵ったばかりの赤ちゃん。
数ミリしかないけど、集団になると・・
甲殻類の幼生に刺されたことで起きた皮膚炎
(BE-PALさんの発信をお借りしました)

『イラんおってん、入るごちなかねー』
  ➡イラがいるから
   (海には)入りたくないね
『およさよ。ザァマにおっとばってさ』
  ➡そうそう。ここにはたくさん
   (獲物が)いるんだけどね

 五島の人たちの会話を再現してみたが、刺されても(刺さっても)激痛ではないあたりが逆にイライラさせる。だから『イラ』なのかもしれない。・・・きっと違うけど。

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