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心にコタエた歌 6

《景子》伊藤敏博
 つくづく私が反応してしまうのは重苦しい歌なんだと思う。いや、決して楽しく明るい長調の曲が嫌いなわけではないのだが、標題の『心にコタエた』歌は、いつの時代も重く、暗く、やり場がないものだった。今回紹介するのは、現役の旧国鉄(現JR)の社員だった伊藤敏博さんの歌だ。彼はこの曲が発売された数年後には国鉄を退職するのだが、発表当時はまだ バリバリの北陸は富山車掌区の車掌さんだった。

 我が娘は売れないミュージシャンと付き合っている。そんな娘に願ってもない縁談があった。子供の幸せを心から願う景子の父は考えた。『今の男と別れさせて、この縁談をまとめたい・・・』。そこで男を家に呼び、娘と別れて欲しいと泣いて頼む・・・。

  〽・・・景子はもう 若くない 
   本当にこの娘が好きなら
   売れん唄あきらめて 
   まともな仕事をしたらどうや

   いやな、実は景子にな 
   いい縁談話が来てるんや
   すまんけど、すまんけど、
   この子と別れてほしいんや

   父さん両手 畳につけて 
   頭下げたまま泣きやった・・・

 しかしその時 既に娘のお腹には新しい命が宿っていた。そのことを誰にも言えず胸にしまって自分だけの一生の秘密にしようとした景子。まぁなんとも辛い話だが、娘はお腹の子供の命と共にとその父親である恋人と別れること、そして新しいお相手にはそれらのことを伏せて結婚することさえ 自分の運命だととらえている。親がした判断や親がとった行動さえ自分の運命の一部だとする、儒教の教えのような親絶対であるという考え方は、現代の価値観に当てはめればきっとあり得ないのだろうが、昔はそれだけ親の存在は絶大だったということだろうか。

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