美容室における攻防
美容師としてサロンで働いていた頃、ちょっと聞いただけでは何気ないお客様とのやり取り聞こえるのだが、その実 返答にかなり高度な対話技術を要する質問というものがあった。それはその質問の内部に 本当に知りたい、しかし見つけにくい地雷が仕込まれているからだ。そんなチビリそうな位に恐ろしい質問をいくつか紹介したい。
1.年齢関連
A.私 いくつ位に見える?
B.(姉妹,友人と並んで)どっちが上(年齢)
だと思う?
2.体型関連
A.私太ってるでしょ?
B.あの人(その場所から見える人、または
芸能人など)と私、どっちが太い(細い)?
3.美容関連
A.私の髪って薄いですか?(現実 薄い時)
B.私みたいに髪が多いって大変よぉ!
(実は多くない時)
4.その他
A.私 ◯◯◯に似てる?
B.私ね、昔からグリーンが似合うのよ!
わかる?(実はその色は似合わない時)
いや、思い出すだけでワキ汗が出そうだ(笑) ヘタしたら修羅場にもなりえるこの手の質問を返すには、知識と経験に裏打ちされた会話の技術が要求される。
美容室に来られるマダムたちは、そんな質問をしながら 正しい答えを知りたいというわけではないから、美容師が答えている時の顔を怖いくらい見ている。地雷を踏まないように答えるにはどうすればいいのか!? 私が経験から導き出した回答は次のようになる。
1.年齢関係
⇒何がなんでも正直には答えない。『さぁ、18歳位ですかぁ?』で笑いを取るくらいのバイタリティは欲しい。誰かとの比較を迫られた時には『お2人のタイプが違い過ぎて 比べられないですよ〜』で逃げる。経験から、年齢関連は逃げの一手である。
2.体型関連
⇒『私太ってる?』と聞いてくる方は、そもそも自分が太ってるとは完全に確信している訳ではないから、(もしかしたらまだ大丈夫な範囲とちゃうの?)と思っている。よって美容師の言葉でそれが正しいことだと言ってもらって安心したいのだ。
そう考えるとBMIやカロリーや運動のアドバイスなんかは聞きたい情報ではない。
どうしても答えを求める人には『全っっっ然そんなことないですよ。でもお客様の場合は着太りすることは確かですねー』位でご機嫌をうかがうのがいい。
3.美容関連
中には『髪が多いですねー』とお客様に平気で言う美容師もいるが、それは『薄いですねー』と言えないのと同様、髪が多いことがコンプレックスの人にとっては傷つく言葉だ。それをストレートに言ってどうする? そんなことに気付けない美容師は、接客をもう一度勉強したほうがいい。
毛量というのはある程度髪型や仕上げ方で印象を変えられる。毛量の質問が来た時は茶化せないので私は『そうですね、まぁ多くはないですね』と言ってから『でもだからといって特別に何らかの手立てがいるほどでもないですね。普通ですよ』で締めくくり、それ以上は金輪際触れない。
美容師は『似合う』ということに関して 普通勉強しているから、その人に何色が似合うのかは理論的にわかる。それとは真逆のことを言ってくるお客様には否定こそしないまでも『こんな色調も良いですよ』とパーソナルカラー上で本当に似合う色を教えるにとどめる。
4.その他
『誰かに似てる』。この返しには繊細な注意が必要だ。下手に『似てる』と答えて、また『似てない』と答えてお客様を怒らせたことは苦い思い出である。
友達や知り合いに『◯◯に似てる』と言われて嫌な思いをした人が、美容師にその確認をするために改めて聞くパターン、ふと写真で見た自分の顔が誰かの顔に似てるのでは? と気づいたってこともある。誰もが認めるような美しい方や美少女以外では『似てる?』の質問に対し、ハッキリとYES・NOでは答えない方がいい。ただ、YES(似てる)より、NO(似てない)の方が逃げ道が多いから、『見ようによってはそう言う人もいるかもしれないですけど・・・』位にしておいた方が身のためだと思う。