ある日のこと
5年生になって少し経った。ちょうどいい季節の昼下がり。学校から帰った僕は、家に着くとカバンを放り投げて、居間の畳にごろんと横になった。
言い争いしてしまった友達の顔が頭から離れない。お母さんの仕事のことを笑われて、あの時は腹が立ったけど言い過ぎた。怒ってるかな。
考えてるうちに自然に頬を涙がつたった。アイツも同じ気持ちだろうか。そうでなきゃハラが立つ。桟橋の方からわずかに聞こえる音は、船が着いたことを教えてくれている。
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いつの間にか寝ていたようだ。外は少しだけ暗くなっている。気が付くと僕の前に甲羅の赤いカニがカサカサと小さな乾いた音を立ててゆっくり歩いていた。畳の上まで上がって来るなんて図々しい奴だと思いながら、横向きに歩くそいつを僕は目で追いかけた。寝転んだままの僕と、赤いベンケイガニ。
明日が来なかったらいいのにと思ったけど、それは無理だなと思い直す。いっそ何もなかったようにいつも通り話しかけてみようかなとも考えてみる。いやいやそれはダメだ・・・。
どうしよう・・・。まだ誰も帰ってこない静かな静かな家の中、僕はなんとなくすがりたくなって、起き上がると神棚に手を合わせた。