『リスミー』 ∝ “神”が相談を持ちかけてきた。 「なあ、そろそろ人類を滅ぼしてしまおうと思うんだけど問題はないかな?」 ほう、と俺は思った。 今までにないパターンだ、と思った。 ∝ 家の裏手の湖畔。俺は煙草を吸っていた。八月。やすりでとがれたかのような鋭い三日月が空に浮かんでいた。時刻は深夜の二時ごろだったと思うが、正確なところは覚えていない。この後に起こる出来事があまりにも現実とかけ離れていたせいで、どうも俺がそのときに認識していたものさえも信用に足らないも
⇔ わたし達のジョークはかなり趣味が悪い。 なにかをひどく揶揄したり、だれかを悪意に満ちたネタの対象にしたりする。そして、それ以外の多くの場合には自分たち自身のことを徹底的に侮蔑し、卑下する。まさしく誰も喜ぶことのないジョークがここに完成する。 ジョークはわたし達ふたりのあいだだけでのみ交換される。とても閉鎖的で、かつ限定的なものであり、ほかの人たちにはけっして聞かせないものなのだ—聞かれたら、十中八九めんどうな展開に発展するだろうから。誰にも聞かせない。
♯ ダコタは父親と母親のあいだに生まれた一人目の子どもであったが、同時に二人目の子でもあった。 ダコタには兄がいた。兄は彼女が生まれる二十二年前に父のビジネスパートナーとして、無二の親友として、または大切な息子として、ロンドンの老人形師の手によって作りあげられた。まだ二十歳手前だった父は、その人形にピノッキオという名前をつけた。 ダコタが幼い頃に聞いたおとぎ話や子守唄は、たいていが父とピノッキオとの偉大なる冒険譚に依ったものだった。彼女はそれらの話を、何度も何度も、
⁂ 決定打になったのは義母のひとことだった。 「そんなにこの家が気に入らないというのならさっさと出ていきなさい!」 ネスはまだ薄紅色の気配が残る頬を大きくふくらませ、「そのつもりだよ!」と叫ぶように応答した。 義母は言った。「あなたの気持ちもわかるわ。じゅうぶんにわかる。だけど、もう一年も経つのよ? そろそろ心を開いてくれてもいいんじゃない」 「あんたたちが勝手に僕の生活に割り込んできたんだ!」とネスは言った。「僕は父さんと二人で幸せだったのに……。ずかずかと
⊿ オーケイ、ねえ、あなた聞いてる? 聞こえてる? ねえ、最初からぜんぶ計算ずくだったのよ。そう、全部ぜんぶね。 ……あなたはそれをわかってたの? ……ねえ、教えてよ。 わかっていたの? ねえ。 教えてほしいのよ。 ⊿ むかしむかしというほど昔のことじゃあないけれど、ともかくあなたとわたしはあの岩場でぐうぜんに出会った。 わたしたち、見つめ合って、その瞬間は世界のいろんな流れがいっせいに止まって、お互いの存在事態が大きく揺らぐ予感があった。それだけ大きなも