トルストイ 小説「クロイツェルソナタ」より
15章にトルストイが登場人物を使って医者について語らせたセリフを見つけました。現代の流行病対応と同じものを当時の医療の中にトルストイが見ていたようです!現代を見通していたかのようです。
私が医療に感じていることを見事に語ってくれています。特によく語ってくれたところは強調表示しました。
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(以下引用 青空文庫より)
『ですが、あなたは医者がお嫌いですね。』彼が医者の話をする度に、その声に特に毒々しそうな響を帯びるのに気がついて、わたしは言葉を挾んだ。
『それは好き嫌いの問題じゃありません。彼らはわたしの一生を亡ぼしたのです。そして、現に数千数万の人々の生涯を亡ぼしているのです。だから、わたしは原因と結果を結び付けずにいられません。そりゃわたしだって、彼らが弁護士や何かと同じように、金を儲けたいのは承知しています。だから、わたしは自分の収入の半分を悦んで彼らにやってしまいます。また誰だって、彼らが何をしているかが分ったら、自分の全収入の半分を悦んで、彼らにやってしまうでしょう。ただし、彼らがわれ/\の家庭生活に立ち入ったり、われ/\のそばへ余り近く寄って来ないという条件つきなのです。
『わたしは統計をとってみたことがありませんが、彼らが所詮無事に分娩は覚つかないといって、母親の腹の中で子供を殺したり(そのくせ、母親は後で楽々と産をするのです)、なんとかの手術という名前を借りて母親を殺したりした例は、幾十となく知っています。じっさいそういう例は数えきれないほどあるのです。ところが、こうした殺人行為は、宗教裁判の殺人と同じように、誰ひとり数えてみようとしません。なぜなら、それは人類の幸福のためだと信じられているからです。全く、彼らによって行われる犯罪は、到底数え上げることが出来ません。けれど、こうした犯罪も、彼らが婦人を通じて世界へ注入する物質主義の道徳的頽廃に比べたら、お話にならないほど些々たるものです。
『もし人間がただ/\医師の命令のみを守っていたら、到るところに伝染病の蔓延している世の中ですから、人類の融合どころか、離散に向って努力しなければなりません。すべての人は、彼らの忠告に従って、別々に離れ離れに坐っていて、口から石炭酸の撒布器を放さずにいなければなりません(もっとも、これも役に立たないことが分って来たのですが)。しかし、そんなことはいいますまい。これくらいのことはまだしもなんです。彼らのおもなる害毒は人間、殊に女を堕落さすということなんです。
『今の世の中では、「君はよくない生活をしている、もっといい生活をしなければならない」などという言葉は、自分に向っても、他人に向ってもいうことが出来なくなりました。もし悪い生活を送っているならば、それは神経系統とか何かの作用が、アブノーマルになったがためだ、従って、医者のところへ行かなければならぬ、ということになる。すると、医者は三十五コペイカの処方を書いてくれる。薬は薬屋にあるから、われ/\はそれを飲みさえすればいいのだ!
『ところが、生活はます/\悪くなる、その時はまた薬を飲んで、また医者に診察して貰う。なか/\巧い仕掛けですよ!
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