本業のためが、環境のため、人権のためになる時代に。『SDGsとチョコレート 〜持続可能な未来のためにできること〜』

私のソーシャルデザイン獣道への一歩を踏み出したのは、今からさかのぼること10年以上前、「チョコレボ」という、フェアトレードやオーガニックのチョコを広めるキャンペーンのお手伝いから。なので、社会的・経済的・環境的に持続可能なカカオ産業へのシフトをめざすという『サステイナブル・カカオ・プラットフォーム』なるものが立ち上がるとなると、その動きに注目せざるをえません。

このプラットフォームのローンチに先立ち、2月5日にJICA主催で『SDGsとチョコレート 〜持続可能な未来のためにできること〜』というシンポジウムが開かれたので、足を運んできました。そこで聞いた話をメモとして残しておきます。

まずはざっくり、 SDGsとコレクティブインパクトについて。

SDGsとコレクティブインパクト/小田理一郎(有限会社チェンジ・エージェント代表取締役社長)

資源は限られている。そして、その資源にアクセスできない人がいる。限られた資源の分配がうまくいっていない現状を変えるために、開発と持続可能性のバランスを見直さないといけなくなっています。しかし、グローバル化が進むことで、食の分野でも作る人や環境といった全体のつながりが見えにくくなっています。

今、世界でお腹を空かしている人の半分が、小自作農として働いています。農作物の生産高は上がっているのに、価格が下がっている。そのしわ寄せで生産地の人たちが苦しんでいるのです。

現状を変えるには、全体像、多面性を理解し、サプライチェーンを見直すこと、そして、ルールを変え、グリーン購入を促すことが必要です。私たちの購入、調達は、小自作農のコミュニティにどんな影響を与えているのだろうか、どうすれば貢献できるのだろうかを考えることが大切です。

大きなインパクトをもたらすポイントは、消費者を巻き込んだムーブメントにしていくこと。企業、NGO、生産者だけでは、できることに限界があります。たとえばイギリスでは、オフィスのお菓子やお茶をフェアトレードにする運動が、ポートランドではレストランのシェフたちが協働でメニューのサステイナブル化に取り組むなどのアクションが大きなインパクトをもたらしました。こうした様々なステイクホルダーによる協働のアクションが、カカオの分野でも求められています。

続いて、企業・NGOによる先進事例の紹介。

①ギニア「森林保全に配慮した高品質カカオの普及・実証・ビジネス化事業」/矢崎慎介(兼松株式会社 鉄鋼・素材・プラント統括室)、生田渉(株式会社立花商店 東京支店支店長 取締役)

ギニアでは、焼畑による移動耕作、森の無計画伐採による森林破壊が行われてきた。そんな状況を改善するため、持続的かつ収益性のあるカカオ生産ができるアグロフォレストリーによって、森林保全の実現を目指しています。

現状、ギニアのカカオの品質レベルは低いコモディティ豆ですが、高級品種に挑戦し、良質な発酵を導入。経済力を向上させることでアグロフォレストリーを増やし、森林伐採を減らしていく計画です。このノウハウを共有することで、サステイナブルなカカオ豆の輸出を現地政府や有力企業とともに大きなビジネスに育てていくチャレンジをしています。

②マダガスカル「高品質カカオのバリューチェーン構築のための普及・実証・ビジネス化事業」/宮部昌子(株式会社明治 商品開発研究所 カカオ開発研究部 カカオ開発3G)

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現状カカオ産業は、生産地とのアクセスがよくないことから、農業や発酵の指導が不十分となり、品質が低いままで、低価格で買い取る、その結果、カカオ農家の収入も向上せず、カカオ豆の品質も安定しないという悪循環となっています。

カカオ産業を持続可能にするために、明治はカカオ農家の調査をはじめ、発酵指導を行うことで品質安定を図っています。これまでは「BEAN TO BAR」ということで調達のみだったところを、農家の支援から手がける「FARM TO BAR」に転換するべく、「Meiji Cacao Support」という枠組みをスタート。農家が安定して高品質のカカオをつくり続けられる仕組みを整えていきます。

③エクアドルでのボランティア事業を通じたカカオ生産者団体の支援について/古谷欣弥(江崎グリコ株式会社 グループ調達部 原料グループ)

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エクアドルは、世界生産3位、日本輸出2位というカカオ生産地です。原料はあるので、付加価値をつけてチョレート商品をつくれるようにする、という課題があった。グリコは社員をボランティアではk年始、ラボでチョコレート商品の試作・改良ができるようにし、工場設立の準備段階までをサポートしました。

商品企画の基本となる「%」を使った計算から、応用ができるリーダーの育成まで、「人づくり」の面で苦労しながら成果を上げました。

④1チョコ for 1スマイル:企業とNGOの連携による地域開発/番上慎也(公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン 広報マーケティング部)、近藤光(認定NPO法人ACE ガーナプロジェクトマネージャー)

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森永90周年にあたり、「食べる人も、カカオの国の子どもたちも、みんな笑顔にしたい」ということでプロジェクトがスタート。チョコ1個につき1円をカカオ生産国の支援に回す、という仕組み。安全に、ジェンダーに関係なく学べる環境の整備を行い、これまでに12,000人の教育現場を改善。

やがて、カカオ生産地で児童労働をなくす「スマイル・ガーナ・プロジェクト」を発足。地域に学校運営委員会をつくる、農家のトレーニングを行う、貯蓄・融資といったしくみをつくるなどを行い、児童労働をなくすしくみをつくっています。

フェアトレードのカカオを使った商品を販売し、寄付による社会貢献から本業を通じた消費者参加の循環モデルを確立し、児童労働問題を解決していくことを目指しています。

⑤Child Labour Free Zone(CLFZ)とルール形成による経済合理性のRe-Design/羽生田慶介(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員)

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児童労働がない産地を「Child Labour Free Zone」とし、そこで作られたカカオ製品のWTO関税を撤廃し、「経済合理性」の変革により児童労働のない製品の方が「安く行き渡る」仕組みを作る。ACEがガーナ政府と連携を開始、デロイトが制度設計で協力し、2020年3月にガイドラインをローンチ。国際ルールを形成し、児童労働を2025年までになくすのが目標。

パネルディスカッションではまず、ACEの事務局長、白木朋子さんが、SDGsが策定されてからの変化について語られました。

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カカオ栽培における児童労働をなくす活動をはじめたのは2008年。当時は企業の人たちには全く話を聞いてもらえませんでした。それが今では、多くの企業と活動できるようになりました。地球規模の課題にインパクトをもたせるには、個別のパートナーシップでは限界がある。「サステイナブル・カカオ・プラットフォーム」には、官・企業・NGOを巻き込んだかたちでサステイナブルなカカオを実現していくことを期待している。

そして、企業からはサステイナブルなカカオを推進するモチーベションが。

まずは明治。

日本が扱うカカオは世界の1%、その中で明治は0.3%にすぎない。バイイングパワーが小さいので、質の高いカカオを持続的に調達するために、直接産地と関わる必要がある。質の高いカカオ作りを応援し、その利益を生産者のコミュニティに還元する。サステイナブルなカカオは、社会貢献ではない。本業のために行っている。

続いてグリコ。

安定的にチョコを作り続けるためには、自分たちだけのことを考えていてはいけない。生産地を含め、カカオ産業全体を魅力的んしていかないと、業界がもたないという危機感がある。

最後に立花商店。

今後、世界人口が増えて、チョコが買える人が増えると、需要が大きくなっていく。それに対応するため、新しい産地で、品質が安定したカカオを持続可能なかたちで供給できるようにしていかないといけない。

社会貢献ではなく、ビジネスとして、本業の持続可能性のために、カカオ産業をサステイナブルにしていく。そんな本気をひしひしと感じるシンポジウムでした。一方で、日本ではまだカカオをめぐる環境について知られていないように感じるので、「このチョコのカカオ、大丈夫?」と思う人が増えるようにするコミュニケーションが全く足りていないこととのギャップについて、考えさせられたのでした。


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