「紅葉鳥」伝説
※この話はフィクションです。事実ではありません。
紅葉鳥(もみじどり)。
「鳥」ではなく、「鹿」を意味する言葉。
なぜこんな名前で呼ぶのか。
それは中部地方の、ある山奥に伝わる伝説に由来する。
今から約330年前、江戸時代前期。
中部地方に空を突き刺すような形をした険しい山がある。
毎年秋になると紅葉が綺麗で、まるで山頂から赤の絵の具をぶっかけたかのように、山全体が真っ赤になる。
村人たちはこの山を「紅葉山」と呼んでいた。
ある年、秋になってもまったく赤くならず、夏の青々とした山から、そのまま葉っぱが落ちて、真っ茶色の山になるという現象が起きた。
村人たちは不思議がっていたが「来年は紅葉して赤くなるだろう」と楽観的に思っていた。
ところが翌年も、その翌年になっても紅葉はしなかった。以前の赤くて綺麗な山は見ることができなくなってしまった。
すると村人どうしの争い事が、頻繁に起こるようになっていた。
紅葉を見れないことによって、村人たちの心が荒んでいたのだった。
このままではいけないと考えた村長は、山登りが得意な若者に「山に入って紅葉しない原因を探してきてくれ」と頼んだ。
若者は「無茶振りだな」と思いつつ、食料と水を持って山に入った。
とりあえず山頂を目指した。
とても険しい山なので、なかなか登っていくのが難しく、山頂に辿り着くまでに丸2日もかかった。
当然だが山頂についても何もなかった。
「やっぱりね」と若者は思った。
だけど山頂から見える景色はとても綺麗で、下にある自分の村や、遠くに見える海を、しばらく眺めていた。
若者は「ここは別世界だなぁ」と思った。
若者がぼーっと景色を見ていると、何か動物みたいなものが近づいてきた。
それは背中の部分が赤く染まった「カモシカ」だった。
カモシカは足を怪我しており、上手く歩けないようだった。
そのせいでエサも食べれてないようで、元気がなく、体は痩せていた。
若者は持っていた食料をカモシカに食べさせた。
お腹が空いていたみたいで、喜んで食べた。
また、持っていた水で足の怪我の部分を洗い流し、着ていた服をやぶって巻いてあげた。
カモシカはみるみるうちに元気になった。
そして若者の周りをグルグルとまわり、身体をすりよせた。まるでお礼を言っているようだった。
若者はカモシカの背中の赤い部分をなでた。
「このカモシカがこの山を赤く染めてくれていたんだ」と直感的に分かった。
カモシカは若者をチラッと見た後、飛ぶように山の中に戻って行った。
まるで鳥のように羽があって、自由に空を飛ぶように。
すると、どんどん山が赤く染まっていった。
山の上の方から下の方へ、絵の具を流したみたいに。
以前に見ていた、綺麗な紅葉がよみがえった。
若者は山をおりて村に戻った。
そして山頂での出来事、カモシカが鳥のように山を赤く染めていく様子を村人たちに説明した。
村人たちはすんなりとその話を信じた。
それから鹿のことを「紅葉鳥」と呼び、崇めるようになったそうだ。
ただ、カモシカは「シカ科」ではなく「ウシ科」である。
この呼び方が間違っていることに気づいたのは後のことで、「今更変えるのは…」ということで、鹿と言う意味で使い続けている。
※この話はフィクションです。事実とは異なります。
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