「ジャパニーズカレー論争」とハラール
はじまりはカレー論争
夫とはどうも食べものの趣味が合わない。その最たるものが「カレー」である。
夫はジャワカレーの中辛を使った濃い「ザ・ジャパニーズカレー」のみをカレーと呼ぶ。
一方、私は「スパイスを使って煮込めば何だってカレーじゃないか」と広い意味でのカレーをカレーと呼ぶ。
夫は、普通の人がイメージするカレーは前者だ、会社の食堂のカレーもそんなやつだと主張する。
なるほど。私の周りには「スパイスを入れればカレー論者」が多いので、この主張はメインストリームとまではいかなくても、オルタナティブくらいに思っていたが、どうやら違うらしい。私もまたエコチェンバーの中にいるに過ぎないのかも。
ジャパニーズカレーのこれまで
カレーについて考えていたら、ふとある思い出が過った。
オランダの大学院時代。インドネシア、ブータン、バングラディッシュ出身の同級生たちから「ジャパニーズカレー」が食べたいと言われた。
そもそもジャパニーズカレーってなんだ?
インドで生まれたスパイスカレーは、イギリスで小麦粉が加えられた。日本へはイギリスを経由して洋食としてやってきた。当時のカレーにはニンジンやジャガイモは入っておらず、お米と分けてサーブされ、レストランでのコースメニューに組み込まれていたらしい。明治時代後期から大正時代にかけてニンジンやジャガイモが入り、現在の和風カレー(ジャパニーズカレー)として大衆化、定着化していく。
肉エキス入りジャパニーズカレーとハラール
そんな日本が誇るジャパニーズカレーが食べたいと言われたら「よしきた、任せて」と言うしかない。カレールウを調達した。
...が、どのルウにも肉のエキスが入っている。
豚肉エキスはなんとか避けられたとしても、牛肉のエキスが入っていないルウは当時のオランダでは見つからなかった。
これは困った。友人の多くがイスラム教を信仰している。彼/彼女らはお祈りもしっかりして(ほぼ一年間一緒にいたので、お祈りの手順はマスター済み)信仰心があつい。
お伺いを立てると、ある友人は
「以前日本に行ったときは牛丼を食べたよ。だって、ハラールのものよりおいしくて安いから。ってこと」
さらに信仰心のあつい友人は
「ん?牛肉エキスだよね?聞かなかったことにする」
こうして無事にジャパニーズカレーパーティーは開催された。
必要性と選択することのはざまで
もちろんハラール食材を要している人はたくさんいるし、認証だって必要。でもハラール食材は必要だと言う人たちが、必ずしも常にハラール食材を選ぶかというとまた別の話なのだろう。そういう人間っぽいところが好きだよ、友人たち。
そんなことを考えながら、夫に忖度してカレールーも多少入れ、謎のスパイスも入れた中途半端な薄いカレーを見つめている。