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#8 なぜ企業はジェンダーギャップ解消に取り組むのか③

季節の変わり目に体調を崩し、更新が10日ぶりとなってしまいました。
皆さま、お変わりなくお過ごしでしょうか。

さて、今日は、企業はなぜジェンダーギャップ解消に取り組むのか?の完結編です。もし、お時間のある方は、ぜひ前の記事から読んで頂けると嬉しいです。


これまでのおさらい

このシリーズでは、そもそもなぜ企業はジェンダーギャップ解消に取り組むのかについて、整理しています。

というのも、少し前に、皆さんもご存じのような大きな企業の経営企画部長の方から「時流に乗って当社でもダイバーシティ推進室を立ち上げようと思うんだよ。でも、なぜダイバーシティとか女性活躍とかが必要なのか、自分でも説明できないんだよね。」とご相談を頂いたことがありました。

「どういうことだ?笑」と思いましたが、同時に「何かその気持ち、分からなくもないな!」とも思いました。
個人的には、この手の分野において、少々言葉が独り歩きしている印象を受けることもあります。

これらの経験から、ダイバーシティとかジェンダーギャップの個別の事象について取り上げるまえに、そもそも企業はジェンダーギャップ解消に取り組むのか?について整理する必要があると考えたのが、このシリーズのはじまりです。

そして、企業がジェンダーギャップ解消に取り組む理由として以下の3つに整理をしました。(このブログにおけるジェンダーギャップの定義については#4で整理しています)

筆者作成

ここまでのブログ(#4, #7)では、「1, 認知多様性の獲得」「2, 人材(労働力)の獲得」について書きましたので、今日は「3, ESG経営の実現」について書きます。


ESG経営の実現

■ ESGとは何か?

近年、ダイバーシティやジェンダーといった言葉と同じくらい、「ESG」や「SDGs」「サステナビリティ(持続継続性)」といった言葉を耳にすることが多くなりました。

企業のホームページでも、関連するページを設けている企業も多いように感じます。

これには、近年、機関投資家による非財務指標に対する関心が高まっていること、具体的には、2006 年に国際連合による責任投資原則」(PRI: Principles for Responsible Investment)の中で、ESG が提唱されたことが背景にあります。

そもそもESG とは、環境(Environment)・社会(Society)・ ガバナンス(Governance)の 3 つの頭文字をとったものです。

具体的なESGの要素としては、以下のようなものが挙げられます。
環境(E)であれば、例えば気候変動や環境汚染、社会(S)でれば、ジェンダー平等や児童労働、ガバナンス(G)でれば、税務戦略や取締役会等の構成や機能等が挙げられるでしょう。

これらの要素が、企業の中長期的な発展、持続継続性に必要な要素として、その頭文字をとって「ESG」と呼ばれています。

PRI等を基に筆者作成


また、ESG 要素を考慮した投資 を「ESG 投資」と呼び、2006 年に国際連合の PRI の中で提唱された後、国際的に注目を集めてきました。

以下は、PRI において提唱されている 6 つの原則です。
PRI に署名した投資家は、投資における意思決定プロセスや所有方針等において ESG の視点を組み込み、また投資先企業に対して適切な開示を求めるとしています。

PRI等を基に筆者作成

ESGは世界的に注目されているものではありますが、日本でESGが普及した背景には、日本版スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードへのESGの明記や、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)への国家をあげての積極的な取り組み等があります。

さらには、世界最大規模のアセットオーナーであり、我が国の年金基金であるGPIFが2015年にPRIに署名し、それを契機に、多くの日本の機関投資家・運用会社が署名したことも、日本においてESG投資が加速した大きな要因であると考えられます。


■ そういえば機関投資家とは何か?

さて、ここまででも何度も「機関投資家」という言葉を使いましたが、そもそも「機関投資家」とは何か、ここで一度整理しておきたいと思います。

一般的には、個人を中心とする不特定多数から小口の資金を集め、大口化した資金を運用し、その結果として得られた利益を還元している機関をいいます。例えば、銀行や保険会社はイメージしやすいのではないでしょうか?

ちなみに、国によって、法律等により機関投資家の定義は異なるようです。
ただ日本では、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令(平成五年三月 三日号外大蔵省令第十四号)第10条「適格機関投資家の範囲」において規定されています。
今日のブログの最後に金融庁のリンクを貼っておくので、気になる方はご覧になってみてください。

筆者作成

ここで少し面白いデータを観てみましょう。
日本人の資産の内訳の推移を表したグラフで、青色が保険や年金、ピンクが株式です。
最も大きな比率を占めているのが現金です。1979 年から 2020 年まで一貫して50%程度の水準を占めています。
株式(ピンク)においては、1980 年代では17%程度を占めていたものの、1988年の23%をピークに減少傾向となり、2000 年以降には平均9%となっているようです。一方で、保険・年金(青)は、1989 年代には平均 16%であったが、以降は緩やかな増加傾向となり、2000 年以降は平均 30%を占めています。

日本銀行 資本循環統計(家計、1979 年から 2020 年)を基に筆者作成


ちょうど、バブル崩壊の少し前頃から、家計の金融資産が、リスクの高い株式から安全性の高い保険や年金に移行したようですね。

ここから分かるのは、日本では、機関投資家の機関化が進んでいるということです。つまり、株式市場/運用市場において、機関投資家の存在感が強まっているといえでしょう。

そして、存在感が強まっている機関投資家がPRIへの署名をおこない、上述の6つの原則に則って、企業の株等に投資をしているのです。


■ 消費者や従業員の意識の変化

ここで、興味深い調査を見つけたのでご紹介します。

PwCが2021に行った調査です。(こちらは複数の国で調査が行われたようですが、残念ながら日本はサンプルに入っていませんので、必ずしも日本においても同じ結果が得られるわけではないことを、書き加えておきます。)

この調査では、企業のESGへのコミットメントが、消費者の購買行動や、従業員のエンゲージメントを促すという結果を示しています。

ここまで、機関投資家を軸にESGについて話を進めてきましたが、消費者や従業員といったステークホルダーにおいても、その企業がESGにコミットしているか、ESG経営をおこなっているかについて注目していることが分かります。

確かに私も、感覚的に、すごく環境を汚染していたり、人権を蔑ろにしていたり、不正ばかりしているような企業から、商品を買いたいと思ったり、そんな企業で働きたいとは思わないです。

社会全体が、ESGやサステナビリティ(持続継続性)といったものに対して、感度が高くなっているのかもしれません。


■ ESGはブームで終わるのか

さてここで、この話題にも触れておく必要があると思います。

「ESG」そのものが一時的なブームのように終わるのではないかという意見や見方があります。ESGオワコン説です。

ESG投資のパフォーマンスが懐疑的であることや、アメリカのフロリダ州で反ESG法たるものが成立したこと、世界のESG投資に分類される投資額が減少したことなどなど、理由は多岐にわたります。

ここからは、個人的な見解になります。
私は、ESGという言葉が仮にブームで終わったとしても、本質的には残るのではないかと考えています。そもそも、「ESG」という言葉が、少々一人歩きしすぎました

一方で、ESGの本質をみていくと、やはり中長期的に持続継続性をもって企業価値を創造していくためには、不可欠な要素でしょう。

もちろん、ジェンダーに関してもそうです。
これまでの、#4#7の記事でも取り上げた通り、ジェンダーギャップが企業にあり続けた場合、企業の課題解決力が低下したり、労働力を確保できなくなったりします。

そのような企業に、機関投資家は投資したいと思うか?

答えは自ずと出てきそうです。
ですから、このESGオワコン説については、個人的には、言葉自体はブームで終わるかもしれないが、本質的な部分では必要とされ続けると考えています。


■ 結論:企業がジェンダーギャップ解消に取り組むのか?

さて、今回もここまでが長くなってしまいましたが、そろそろ結論に入りたいと思います。なぜ企業はジェンダーギャップ解消に取り組むのか?

ここまでご説明した通り、機関投資家の機関化が進み存在感が増している機関投資家、そんな機関投資家の多くが注目し行っているのが6つの原則に則ったESG投資でした。

また、社会全体の意識も変化していて、企業のESGへのコミットメントが、消費者の購買行動や、従業員のエンゲージメントを促すといった調査もありました。

ESGは、環境(Environment)・社会(Society)・ ガバナンス(Governance)の 3 つの頭文字とったもので、Sのなかには「ジェンダー平等」や、Gのなかには「取締役会の多様性」といった要素も含まれています。

つまり、今のまま企業のジェンダーギャップが解消されなければ、企業は機関投資家から資金調達ができなくなったり、消費者や従業員から選ばれなくなったりするかもしれません。

その様な状況は、企業にとって不都合です。

以上を踏まえ、企業は、機関投資家等から選ばれる企業であるために、ジェンダーギャップ解消に取り組んでいる結論付けることが出来るでしょう。

まとめ

💡 企業は機関投資家等から選ばれる企業であり続けるために、ジェンダーギャップ解消に取り組んでいる。

参考文献 / 関連文献

湯山智教(2019)「ESG 投資のパフォーマンス評価を巡る現状と課題」、『東京大学公共政策 大学院 ワーキング・ペーパーシリーズ』

澤田 茂雄(2018)「日本版スチュワードシップ・コード導入後の国内機関投資家行動の変 化」『明治大学経営論叢』、第 65 巻、第 1 号、229-240。


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