【イベントレポート】稲とアガベ若手チャレンジ枠 第0弾
4/1-2に、秋田の醸造所「稲とアガベ」にて、コース料理を提供しました。
実は、自分主体でコース料理を提供するのは初めての挑戦です。
このnoteでは、挑戦の経緯と、当日の内容をお伝えします。
そもそも「稲とアガベ」とは
秋田県男鹿市で2021年の秋に創業したクラフトサケ醸造所です。「クラフトサケ」とは、日本酒の製造技術をベースとしたお酒、または、そこに副原料を入れることで新しい味わいを目指した新ジャンルのお酒です。(Webページより抜粋)
現在日本では、日本酒を造るための免許の新規発行が原則認められていません。その規制のため、新規の日本酒蔵は作れないのが現状です。そんな中、日本酒の価値を創り継ごうと、副原料を加えたクラフト酒や、海外用清酒を活用し、これまで日本酒に馴染みのなかった世代や、海外の方にもその魅力を知ってもらうことを目指している醸造所です。
また同時に、「男鹿の風土を醸す」を理念にかかげ、お酒造りにとどまらず、男鹿の人々の交流を促し、地域が未来に向けて豊かになっていくことを目指し、多くの人々がワクワクするような事業を創出し続ける動きを進めています。
今回の挑戦の経緯
今回のイベントのきっかけになったのは、昨年11月の稲とアガベの蔵開き。
蔵開きに合わせて、4組の素晴らしいレストランチーム(Remède nikahoさん、kermisさん、ANTCICADAさん、TETOTETO)が日替わりで、コース料理を提供するイベントが行われました。
私も、メンバーとして働いているTETOTETOの豪希さんの調理補助として、2日間キッチンに立ちました。
その滞在の中で、男鹿の食材に触れ、出身の九州や、現在拠点にしている関東とも異なる食文化や調味料に感動し、スーツケースのギリギリまで食材を買い込む日々。
私も、男鹿で料理を作って提供してみたい、という憧れの気持ちが大きくなり、懇親会で、稲とアガベ代表の岡住さんに、いつか私もやらせてもらえるように成長します!と話しました。
するとあろうことか、その挑戦や成長の過程も合わせて、形にする場を作ろうよ、とその場で日程も決定…!
とはいえ、私は料理を本業にしてはいるものの、コースに関しては、組み立てたことも、自分で一貫して責任を持って提供したこともありません。
それからは、これでもかと試作や試食を繰り返す日々でしたが、それはまた他の記事で書こうと思います。
今回のイベントを経て、もっと出来るようになりたいことが増えたことは言うまでもありません。ですが、今持てる力は全てぶつけられた機会になったとも、心から思います。
自己紹介と、今回のテーマ
私は現在TETOTETOのメンバーとして、食周りのクリエイティブや商品開発を、個人としてレシピ開発やスタイリング、ケータリングを中心とした、料理に関わるハイブリッドな働き方をしています。
今こういう働き方になったのは、学生時代に週末の度に畑を訪れ、農家さんたちの姿に惚れ、農家さんたちと肩を並べておいしいものを追求し、作り継ぐ力を身につけたいと、料理人を目指したところから始まります。
大学卒業後は金銭的に自立するために一度、一般企業への就職を経て、調理経験のないところから飲食店のキッチンに飛び込みました。
その修行期間を経て現在の働き方に辿り着いている訳ですが、私にとって「料理人」という職業がやっぱり一番、憧れで、格好の良い職業です。
そんな私が今回ご提供した料理のテーマは、「おくどフレンチ」。
「おくどさん」とは、京都の言葉で「かまど」のことです。自身の食体験の原点となっている、母が台所に日々立って作ってくれた家庭料理や、素晴らしい旬の食材など、日本の食卓らしいエッセンスを大事にしたいという思いが込められています。
そこに、これまで学んできたフレンチの技法を掛け合わせて表現したい。
そんな思いを汲み取り、TETOTETOの豪希さんが名付けてくれました。
料理は、このテーマに基づき、秋田を中心とした日本ならではの食材と、出汁に焦点を当てて構築しました。また、魚を軸としたお店での修行経験から、どの料理にも魚介のエッセンスが組み合わせられていることも特徴です。
ここからは、今回提供した、男鹿の食材を織り交ぜた料理を紹介します。
コースの料理の紹介
前菜:マグロ、稲とアガベの酒粕、魚醤、ミント、三宝柑
男鹿は、実は本マグロが水揚げされる地域です。そのため、今回の一品目はマグロを中心に組立てました。
マグロは生のものと、塩と砂糖で脱水して生ハム状にしたものを2種類MIX。
下のクラッカーは、稲とアガベの酒粕を練り込み、発酵感を取り入れました。
上には水分を抜いた卵黄を、マルサラ酒と秋田の魚醤で漬け込んだソース。仕上げに、千葉県のnaemeさんのオレンジミント、和歌山県善兵衛農園さんの幻の柑橘「三宝柑」のピール、和歌山県のきとら農園さんの粗挽き山椒を振りかけ、柑橘の風味で爽やかにまとめました。
焼物:山内にんじん、ソデイカ、スーマック
秋田の山内にんじんを食べた時、その甘さと、味の濃さに衝撃を受けました。その山内にんじんを軸に構成した一皿です。
食材同士の組み合わせは、福島県の郷土料理、イカにんじんをヒントに。にんじんの甘さを極限まで引き出せるギリギリまで、オーブンで長時間加熱。
私の出身の沖永良部島の名産である、ソデイカの甘さと、ねっとりとした舌触りと合わせました。
それを引き締めるのが、トルコなどで使われる、スーマック。日本の食材に例えるなら、まさに「ゆかり」です。
さらに、山内にんじんとビネガーなどで作ったソースも添えて2種類のテクスチャーでにんじんを楽しめる一皿に仕上げました。
※写真の時点からブラッシュアップしたため、実際はオレンジ色のソースに変更してお出ししました。
煮物:牡蠣、ふきのとう、沼山大根
秋田の伝統野菜、沼山大根を中心に、苦味のある食材で構成した一皿。
沼山大根は、いぶりがっこに使われる品種。普通の大根に比べて硬質で苦味辛味が強い分、味も濃い特徴があります。
今回は牡蠣、ふきのとうや春菊と合わせました。下には、沼山大根のピュレにフェタチーズで変化をつけたソースを。
料理全体を通して、春の苦味とその中にある甘みを感じる一皿になりました。
揚物:蟹、カダイフ、牛肉
続いて、稲とアガベのある男鹿で獲れる蟹が主役の一皿。蟹クリームコロッケをベースにアレンジしました。
カダイフという麺状の衣をコロネ型で成形し、さくさく感をアップ。中には蟹の身と蟹味噌をふんだんに使ったクリームを。
添えたのは、蟹の殻からとった出汁と、牛肉、野菜などを合わせて作った自家製の濃厚なウスターソースです。
このソースと、稲とアガベの「DOBUROKU どぶろく 亀の尾 03」を合わせることで口により濃厚に蟹のうまみが広がります。
魚料理:カマス、ハバノリ、ササニシキ、ハーブ
カマスは皮目の水分量をピチッとシートで調整してパリッと焼き上げたのち、身はふわふわになるよう低温のスチームで火入れしました。
合わせたのは、リゾット。漁師さんたちを中心に知る人ぞ知る、ハバノリという海藻を、そのピリッとした風味を膨らませるよう柚子胡椒を合わせました。リゾットをソースのようにしてお魚と絡めながら楽しんでもらう料理です。
肉料理:鴨、ネギ、ごぼう
お肉料理は鴨。鴨鍋をイメージし、「鴨がネギを背負ってきた」という言葉にもあるほど相性のいいネギの香りをオイルに閉じ込めて、合わせました。
鴨肉は、お出汁に一晩つけたのち、高温で焼き上げ。
添えたのはごぼうのチップスと、自家製のドライトマト。すき焼きにトマトを合わせるのは、日本料理の青柳の主人、小山裕久氏が考案したと言われています。その組み合わせを参考に、凝縮したトマトの酸味と旨みで引き締めました。
味噌汁:クラシック節、昆布、YUKIDOKE
こちらは写真がありませんが、〆のお味噌汁をワイングラスに入れてその香から、舌触りまでじっくりと楽しんでいただきました。
お出汁は鹿児島のクラシック節と北海道の羅臼昆布。それぞれの材料の特性に合わせ、昆布は低温で長時間加熱。鰹節は高温でさっと出汁を取りました。
お味噌は秋田のヤマモ味噌さんのYUKIDOKE。
お味噌は、通常大豆と同量の糀を使って仕込みますが、このYUKIDOKEはなんと、大豆の3倍量の糀を使用。加えて、塩分を8%まで下げています。糀の比率を上げ、低温熟成をさせることで、日本酒のような吟醸香とクリーミーな味わいが醸成されているのが特徴です。
葛で少しとろみをつけ、お味噌の香りを感じやすい低温でお出ししました。
やっぱり味噌汁って、おいしいしほっとするよね、という体験をどうしても組み込みたい、という気持ちで取り入れました。
食後:フロマージュブラン、伊根満開、苺、トンカ豆
開催が4月の始めだったこともあり、雪解けと、そこから桜が満開になる様子をイメージしたデザートを。
クレームダンジュに苺を飾り、苺と赤米を用いた日本酒「伊根満開」を合わせました。甘酸っぱさと、きれいなピンク色をした日本酒が、ソースを引き立てます。
そこに桜塩でアクセントをつけ、桜餅の香りのクマリンをもつトンカ豆をふりかけて桜を感じる仕立てにしました。
次に取り組みたいこと
今回のイベントを経て、もっと調理技術を上げたい、知識を増やしたいと思ったことは言わずもがなですが、それに加えて、具体的に取り組みたいと思ったことを宣言しておきます。
今回のコース料理をブラッシュアップして、東京で、稲とアガベを中心とした秋田のお酒と合わせて提供する機会をもつ
今回、秋田で農家さんのところを訪れさせてもらったり、道の駅の代表の方とお話させてもらったりする中で、さらに秋田の食材の力を感じました。
男鹿の、心洗われる風景も教えてもらったし、男鹿で頑張る同世代の素敵な方々との出会いもありました。これは、今回の滞在と挑戦なくしては得られなかった体験です。
秋田の食材を秋田で提供することは、秋田にいる料理人さんの方々にはどうやったって敵いません。せっかく東京にいるのだから、こちらで、秋田の魅力に触れる機会を作りたいです。そしてそれをきっかけに、男鹿に訪れる人が増えたらうれしいです。
「その土地の食材を使う」ということを深化させる
今回、男鹿の食材を使ってコース料理を組み立てましたが、終えて、実は少し違和感を持って帰ってきました。
というのも今回、仕込みのために秋田から食材を必要な分取り寄せ、それを関東から配送し、秋田でさらに加工して提供したのです。時間(収穫されてから口に運ばれるまで)も、輸送コストもかけて、「その土地の食材を使った」と語ることにどんな意味があるのかという違和感を、今の私はまだ消化できずにいます。
一方滞在中、稲とアガベの料理人のサトウショウタさんは、翌月のコースに向けて、男鹿の山に山菜を採りにいき、一度にたくさんとれるものたちを発酵させたり、オイル漬けにしたりしていました。
それを近くで見ていて、料理ありきで材料を集めるのではなく、日々の自然の変化を観察し、そこにあるものを最大限に生かすことこそが「その土地の食材を使う」ということだなと感じました。
私が、田舎の出だったり、学生時代に産地に近い地域で活動していたりということも、そういった考えの背景にあるかもしれません。
これは少し時間がかかることだと思いますが、自分の中でも、「その土地の食材を使う」ということをもっと違和感のない、気持ちいいやり方で形にできるようになりたいです。
若手料理人の皆、要注目です
今回の取り組みは、稲とアガベでこれから企画される「若手チャレンジ枠」 の第0弾です。
以下、今回の案内文より抜粋。
レストラン土と風では、夏〜秋頃の加工場オープンを目処に新しい試みを始めます。
全国の若手料理人が自身の腕を試せる場、チャレンジできる場として毎月3日間程度、当店を提供し、間貸し営業を考えています。
頑張る若者をここ秋田・男鹿の地から、バックアップしていきたいという想いがあり、弊社のレストランメンバーとも連携をとることで、あまり気負わずにチャレンジができる場に出来ると思っています。
上記のような取り組みが今後、稲とアガベのWebページやSNSを通して、募集される予定です。
まだ時期は未定ですが、今後の発信に注目です。
(私も2回目の実施を目指して応募します!!)
■稲とアガベ Webページ
■稲とアガベ インスタグラム
最後にお礼
今回、貴重な機会を作ってくださった稲とアガベ代表の岡住さん、奥さんのいくみさん。
買い出しから当日の提供まで、笑いいっぱいで全面的にサポートしてくれた稲とアガベ レストランメンバーのショウタさん、遼さん、あおいさん、君夏くん。
代わる代わる声をかけてくださった稲とアガベの蔵人の皆さん。
形になっていないところから試食とアドバイスを繰り返してくれたTETOTETOの豪希さん、桃子さん。
お越しくださった16名の方々。本当にありがとうございました。
またパワーアップして、男鹿にうかがわせてください!
いただいたサポートは、コース料理の試作に活用します💐